ドレスに、音楽、文学……さすが華やか! 2024パリ五輪、開会式を見ましたか?【ウェブエクラ編集長シオヤの「あら、素敵☆ 手帖」#74】

連日、にぎわっているパリでのオリンピック。初日の開会式は、スポーツとはまたちょっと離れたところでも、とてもフランスらしく、また今っぽさを感じさせるものでした。
ウェブエクラ編集長 シオヤ

ウェブエクラ編集長 シオヤ

50代女性のための雑誌&ウェブメディア「エクラ」のウェブ担当編集長。155cmのアラフィー。ビューティ・小柄担当多め。鈍感肌。盛ってます。
パリ五輪、ご覧になっていますか? スポーツが苦手で、そこまで関心が高くないシオヤも、このパリでのオリンピックだけは楽しみにしておりました。何しろ「開会式はセーヌ川!」「フェンシングはグランパレで」「馬術の会場は、ヴェルサイユ宮殿!」……そう聞いたら、いくらスポーツ音痴なシオヤでも「……見たい!!」となるに決まっています。そして案外、このような方は多くいらっしゃるのではないでしょうか。
パリオリンピック開会式に登場したレディガガ
©Getty Images
そして7月26日に始まった開会式。この時期のパリには珍しく雨模様でしたが、次から次へと、華やかな演出で、本当に圧巻でしたね! 楽しい夏のfete(フランス語のパーティ)に参加しているような気分で拝見していました。

完全文化系のシオヤは、目まぐるしく登場する、ダンスや音楽の華やかさにもう、わくわく。雨でもまけじと、ピアノで大好きなラヴェルの「水の戯れ」やサティの「ジムノペディ」が演奏されれば「わ~フランス~♡」とアガりましたし、セーヌ河畔でのレディー・ガガのパフォーマンスにも、釘付けに! そしてこのガガ様のドレスはディオールのマリア・グラッィア・キウリが手掛けたもの、と知って納得。そしてこの開会式に登場する多くのミューズたちのドレスは、ディオールのものだったのだとか。

ガガ様が歌ったのは”Mon Truc en Plumes(私の羽飾りのトリック)”。元はパリ・オペラ座出身のダンサーであるジジ・ジャンメールの歌で、当時クリスチャン・ディオールがバレエの衣装をデザインをしていた、という縁もあるのだそう。すべてフランス語で歌っていて、さすがでしたね!
レディガガがパリオリンピック開会式で着たディオールの衣装
© Sophie Carre
レディガガがパリオリンピック開会式で着たディオールの衣装イメージイラスト
© Sophie Carre
ディオールのマリア・グラッィア・キウリが手掛けた衣装
© Sophie Carre
見ているときは気づきませんでしたが、美しい上に、とても長くボリュームのある衣装です。ヘッドドレスは、スティーブン・ジョーンズ。一つ一つ、黒とピンクのフェザーが手縫いで仕上げられているんですね……。ちなみにフェザーはパリで収集されたものだそう。
AXELLE SAINT-CIREL ©AFP
©AFP
グランパレの屋上での国歌「ラ マルセイエーズ」斉唱も素敵でした。アクセル・サン=シレルさんのドレープがため息が出るほど美しいドレスも、ディオール。「トリコロール、なの……?」と不思議に思いながら見ておりましたが、旗とドレスが連なり、総じて8メートルを超えるドレス、なんだそうです。まるで自由の女神のようですね……そういえば、ニューヨークの自由の女神は、フランスの人々から贈られたものでした。
パリオリンピックで愛の讃歌を歌ったセリーヌ・ディオン
©Getty Images
そしてなんといっても、セリーヌ・ディオンの「愛の讃歌」には涙してしまいました! この心が震えるほど美しいドレスも、ディオール。
パリオリンピックでセリーヌ・ディオンが着たディオールの衣装イラスト
© Sophie Carre
長く闘病していたと伝えられていたセリーヌ・ディオンの素晴らしいカムバック。そのドレスは、マリア・グラツィア・キウリが特別にデザインしたディオールのオートクチュールであり、何千何万ものビーズと、500メートルを超えるフリンジ、ディオールメゾンの誇る刺繍技術により飾られているのだそう。
パリオリンピックでセリーヌ・ディオンが着たディオールの衣装
© Sophie Carre
パリオリンピックでセリーヌ・ディオンが着たディオールの衣装
© Sophie Carre
フランスの誇るサヴォアフェールが見事にオリンピックという祭典で花開いているのを見ると、さすが文化大国! と羨ましさすら感じます。
ちなみにセリーヌ・ディオンの横でピアノを弾いていた作曲家で指揮者のスコット・プライスが着ていた黒いタキシードは、キム・ジョーンズがデザインしたディオール オムだそうです。

ところで、シオヤがどうにも気になって、何度も見返してしまったシーンが一つあります。それは開会式の中で流れた映像で、3人の若者による「パリの愛」がテーマというショート・ムービー。「図書館のシーン」といえば、ああ、と思い出される方もいらっしゃるでしょうか。

美しい国立図書館の中で、肌の色の違う3人の若者(男性×2,女性×1)が、図書館の本の表紙を見せながら、恋愛ゲーム? が始まっていくようなストーリー。おそらく、この次から次へと登場する本のタイトルが意味をなすのであろう、と推察したのですが、シオヤが分かった本は「Passion Simple(シンプルな情熱)」のみ。フランス文学への教養が問われます。
そこでパリ在住のコーディネーター・ジャーナリストである、森田浩之さんに助けを請い、登場する本のタイトルを解説してもらいました。以下、本の登場順に並べていきます。
1.Romances sans Parole『言葉なき恋歌』 ポール・ヴェルレーヌ(1874)
2. On ne badine pas avec l'amour『戯れに恋はすまじ』ミュッセ(1834)
まず登場するのが、この2冊。最初に登場する女の子が読んでいるのが『言葉なき恋歌』。このシーン、バックにビゼーのカルメン「ハバネラ」がかかっているのですが、終始セリフがなく進みます。その女の子を熱く見つめる男子Aが手にしている本は『戯れに恋はすまじ』、という流れ。
3.Bel-Ami『ベラミ』 モーパッサン(1885)
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3人目、「ベラミ」を手にした男子Bがふりむきます。「ベラミ、直訳すると”良い友達”ですね」と森田さん。「戯れに恋はすまじ」→「良い友達」と流れるオープニング。
4.Passion simple 『シンプルな情熱』 アニー・エルノー(1991)
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そして女の子が『シンプルな情熱』を手にしながら、上目づかいの視線をなげかけます。こちらは最近ノーベル文学賞を受賞した、アニー・エルノーのベストセラーなので、読んだことがある、という方も多いのではないでしょうか。

男子Bが男子Aに「ベラミ」を投げかけ、さらに男子Aが男子Bに投げかけたのが……。
5.Sexs et mensonges 『セックスと嘘』レイラ・スリマニ(2017)
比較的新しい作品なので、この本だけ日本語訳が無いようですが、ほかはすべて日本語訳で読めるよう。このタイトルの後、3人は目配せをして立ち上がり、図書館の中を走り始めます。そして3人がそれぞれ、新たな本を本棚から選び始めるのですが、それは……
6.Le diable au corps 『肉体の悪魔』ラディゲ(1923)
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『肉体の悪魔』です。わお! プラトニック感満載だった最初のタイトルから、フィジカルになってまいりました。1923年刊の『肉体の悪魔』も、新刊で文庫で読める幸せをありがたく思います。
7. Les Liaisons dangereuses『危険な関係』 ラクロ(1782)
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『危険な関係』も、過去様々に映像化されている有名作。森田さんから「シオヤさん、肉体の悪魔と危険な関係は、ロココの時代から変わらぬフランスの恋愛の真髄を学べるので、絶対読んでください!」と念押しがあったうえ、こちらも文庫が出ているので早速購入してみました。タイトルを並べていくと、3人の盛り上がりムードと、重なっていくわけですね。
8.Les Amants magnifiques『豪勢な恋人たち』モリエール(1670)
9.Le Triomphe de l'amour『愛の勝利』マリヴォー(1732)
そして最後の2作が『豪勢な恋人たち』『愛の勝利』。このムービーのラスト、意気投合?した3人は図書館を抜け出し、パリの街を走り抜け、アパルトマンの一室に入り込むと、思わせぶりに扉を閉めて、終わる……んですよね。その3人が走り抜ける絵面に、トリュフォーの映画『突然炎のごとく』を彷彿とさせる……と感じた方は多いようです。
これが、スポーツの祭典・オリンピックの開会式で流されたことに、文化系のシオヤはいたく感動してしまいました。「オリンピックに国立図書館!ラディゲにミュッセにヴェルレーヌ!!」と、スタジアムより図書館にいるのを好む身としては「……あ、私もオリンピックを楽しんでいいんですね……」という気にさせられたのです。

森田さんによると「古典から現代文学まで、そして作家の代表作から、そこまでメジャーでないものまで、バランスよくチョイスされている上、フランス人ならみな学校で学ぶ作品ばかり」というこの文学のリスト。「ミュッセが選ばれているあたりが、フランスっぽいですね。今でも若者に広く読まれていますから。そして、このリストに共通しているのは”愛”! それぞれの文学が、違った愛について書かれていてますが、9冊のタイトルを通して見ても、愛ってそうだよね、とうなづけるラインナップ。愛って簡単じゃないけど、大切なもの。さらに開会式全体を通して「将来の夢を捨てず」(イマジン)、「愛を大切に」(レディー・ガガ)、「すべては愛があってこそ」(愛の讃歌)というメッセージを感じました」(森田さん)
ちなみにこの3人の若者の衣装は、シャルル・ド・ヴィルモランという若手のデザイナーが手掛けたそう。彼はロシャスのデザインを担当していたこともあり、自分の名を冠するブランドをもっていますが、有名な女性詩人・文学者であるルイーズ・ド・ヴィルモランの親戚でもあるとのこと。

多様性、という言葉で簡単にしめたくはないのですが、性別も肌の色も異なる3人の恋愛ゲームと、文学も音楽もバレエもすべて巻き込んだ素晴らしき開会式の演出に、文化大国・フランスの偉大さと、今っぽさと、未来に続く明るさを感じずにはいられませんでした。
というわけで、俄然オリンピックに興味を持ち始めたシオヤ、あとしばらくこの大会を楽しみたいと思います!
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