ロマンス系で人気を博していた男の俳優さんが、突然、荒んだようなダークなキャラクターに挑戦し、それまでのイメージを払拭するってケース、よく見かけないですか。あるベテランの韓流ライターさんによると、かつて青春スターとして人気を博していたチョ・インソンが映画『卑劣な街』で、野心に燃える三流ヤクザというキャラクターを演じ、大人のスターにステップアップしたということから、そういう系譜がずっと続いていたらしい。
チ・チャンウク、新境地へ！魅力全開のノワールアクション【見ればキレイになる⁉韓流ドラマナビvol.53】
エクラの美容記事でもおなじみのライター・山崎敦子がお届けする韓流ドラマナビ。今回は、'24年9月号で男性としてはエクラ初の表紙（増刊号）を飾ってくださった、そう、我らがチ・チャンウク！の新作ドラマ『捏造された都市』をご紹介。
殺人犯に仕立てられた主人公の壮絶な復讐物語『捏造された都市』
確かにノワール系などの汚れ役は演技の幅を広げるし、俳優としての成長につながるし、見る側にとってもその俳優さんの新たな魅力に出会えるのは嬉しいし、とは思うのですが、ちょっと残念に思ったり、心配しちゃったりすることもなきにしもあらずでして。下世話な私としては、その美しいお顔とお姿は今回は封印なのね、なんて思ったり、ダークなキャラとのギャップについていけず、少しだけ引いてしまったりするといいましょうか。特に、端正に整った甘いお顔立ちのかたにそう感じることが多いようで……。
善良な青年がどん底へ。後を引きずる展開に目が離せない！
ということで、今回の作品『捏造された都市』です。ある日突然、全く身に覚えのない殺人犯に仕立てられた主人公の壮絶な復讐物語を描くノワールアクションなのですが、そう、主演はチ・チャンウク。
シャープな輪郭に整った鼻筋、優しげな深い眼差しに、口角引き締まったバランスのいい唇。整いすぎやろ！と思わずツッコミ入れちゃいたくなるような端正なお顔立ちには、シュガーパウダーをほんのりまぶしたような甘さが入っているというか（個人的感想です）。
『最悪の悪』（‘23年）とか、『江南Bサイド』（’24年）とか、ダークな作品のタフでハードな役を演じることも最近は多くなってきた彼。それもそれでナップジアナ（悪くない）というか、結構、楽しみながらのめり込んだりもするのですが、それでも私的にはやっぱり『アンナラスマナラ』（’22年）や『サムダルリへようこそ』（‘23年）のこよなく優しいチ・チャンウクのほうが好き。無理してダークにならなくてもよ〜し、なんて思っちゃうわけなのです。
なのですが、今回のチ・チャンウクです。ばんばん殴られるわ、それ以上に殴り返すわ、全身傷だらけになりながら、汗と泥と血しぶきでどろどろになったお顔からは復讐に燃える眼差しなんぞ覗かせちゃうわ、しかも、前半はほとんど囚人服！ なのに、そんなボロボロのチ・チャンウクにもかかわらず、ぎゅーんと引きずり込まれるような没入感がハンパないわけなのですよ、これが。もちろん、次から次へとハラハラさせる物語のスピーディな展開によるところも大きいのでしょうが、多分、それだけではないというか。
チ・チャンウクが演じる主人公のテジュンは、枯れている植物なんか見ちゃうとほっとけずに、人のものでもつい手当てしちゃう根っから心優しい人物。母を亡くしてからは、一人で受験生の弟を養いながら、自分の店を持つために、毎日、いくつもの仕事を掛けもちしながら朝から晩まで少しも休むことなく働き続けている真面目な青年なのです。そう、素直でいい子のほうのチ・チャンウク。心地よく癒される系です。
ところがです。そんなある日、デリバリーの仕事の最中に、チャンウク演じるテジュンが、とある携帯電話を拾ってしまうんですね。でもって、持ち主だという女性に頼まれるまま、テジュンは携帯を届けにいくわけです。絶対、怪しいんですけど……、という展開ではありますが、案の定、ここが運命の分かれ目。それからまもなく、テジュンは強姦殺人の容疑者として逮捕されてしまうという。
もちろんテジュンは、強姦はおろか、人殺しなんて絶対にしないしできない善良青年なわけでして、当然ながら無実を訴えるわけです。善き人の周りには善き人が集まるということで、友人や恋人、弟も、彼を信じて疑わず、彼の配達記録や監視カメラを徹底的に調べ尽くして、アリバイを証明しようとするのですね。なのに、なのにです。そんな彼らの努力を嘲笑うかのように、完璧と思えたアリバイさえも覆すような証拠が次から次へと。え、え〜〜、なぜだ、なぜなんだ〜〜。
ということで、テジュンには、終身刑が言い渡され、無実でありながら収監されてしまうわけです。しかも、刑務所のラスボスみたいな受刑者とその仲間からは、毎日毎日集団リンチにあって、ボコボコにされるんですね。でも、まだ、望みは全て断たれたわけではありません。真面目そうな国選弁護士が現れて、無実の証拠を見つけてあげるといい出すのです。藁をもすがるテジュンですが、これがやっぱりというか案の定というか、その証拠を持っていた最愛の弟が、どういうわけか自殺してしまうのです。え〜〜〜〜。
すべての望みを絶たれたテジュンは、生きる術をなくし、自殺を図るのですが、すんでのところで助けられてしまうのですね。そして、サンドバック状態で毎日ボコボコにされる囚人生活へ舞い戻る……。ここらへんのくだりは、そりゃあもう痛々しいというか、悲惨極まるというか。
一人の善良な青年が、あれよあれよとどん底へと引きずり下ろされていく様子は、ご本人からも善良さがあふれ出ているチ・チャンウクが演じているからこそ、よりリアルな厚みが感じられて、絶望の淵で荒んでいった彼が、今後どうなっていくのか、もう、オンマ（母）としては（オンマではありませんが）、最後まで見届けずにはいられない。
チ・チャンウクとド・ギョンスの対照的な存在感にも注目を！
そんな中、彼を気にかける囚人仲間との出会いがあったりして、少しずつ生きる力を取り戻してきたテジュンは、真面目な模範囚となり、執拗なリンチに対抗しうるべき体を鍛え始めるのです。そうして、5年。集団で襲ってきても、びくともしないめちゃくちゃタフな男になったテジュンの前に、テジュンと同じく携帯電話を届けたことから無実の強姦殺人犯にされてしまったという受刑者が収監されます。そして、ようやくテジュンは気づくわけです。自分が何者かにはめられてしまったことを。
そこで、登場するのが、そう、この事件を仕組んだ黒幕アン・ヨハン。彫刻家にして財産家、めちゃくちゃ冷徹で、１ミリの善も持ち合わせていない猟奇的なサイコパス。演じるのはEXOのD.O.こと、ド・ギョンス。初めてのメイン悪役ということなのですが、知ってますよ〜、ドラマ『君を憶えてる』での見事なまでに残虐なサイコパス演技を。アイドルを超えた演技派・実力派と誰もが認めるギョンスなだけに、今回の作品でも笑いながら嬉々として人を傷つけていく姿がめちゃ生々しく。狂気のギョンスと善良だけどどん底チ・チャンウクという対比が、その正反対な性格＆状況を鮮明に浮かび上がらせて、さらにドラマにのめり込ませていくという。
ここから、テジュンの巻き返しが始まっていくわけですが、さらに、とことんクズ野郎な真犯人役のイ・グァンスまで加わって、もうオンマとしては（オンマではありませんが←しつこい）、手に汗握りながら血みどろのどん底チ・チャンウクを応援せずにはいられないのです。ということで、前言撤回。シュガーまぶした甘めのお顔立ちのノワールアクションは、見始めたら最後、もうやめられない止まらない（←古）、いや、本当に。
■ディズニープラスのスターで全話独占配信中
山崎敦子
旅行記事に人物インタビュー、ドラマ紹介、実用記事から、着物ライターとさまざまな分野を渡り歩き、今では美容の記事を書くことも多くなったさすらいのライター。襲いかかるエイジングと闘いながら、ウキウキすること、楽しいことを追い求め続ける日々を送る。今年に入って、インスタ（＠harurikuumi）も始動。ドラマシーンのイラスト＆勝手な解説を挙げてます。
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