親の変化に「あれ?」と胸がざわついたら、どう対応すればいいのだろう。令和の今、介護を取り巻く状況は大きく変わっている。従来の価値観を更新することが、親を見守るうえでも欠かせない。
教えてくれたかた
かわうち じゅん●社会福祉士、介護支援専門員、介護福祉士。家族と最期まで自然に過ごせる社会を目ざし、NPO法人を設立。企業や個人に向け、介護の相談支援を行う。最新刊『介護前夜の教科書』(講談社)では、介護前に知っておきたい心得や制度などを紹介。
介護への恐れを払拭して今こそ親と向き合うとき
「親の変化に直面したときこそ、親と向き合うチャンスです」と語るのは、介護相談を通じて数多くの親子関係を見つめてきた川内潤さん。
「親の老いが誰しも受け入れがたいのは、介護が近づいてきたことへの恐れがあるからです。超高齢化が進む今、高齢者を支える現役世代の比率は’80年代の“7.4人にひとり”から“2人にひとり”にまでなり、介護は家族だけで抱えられるものでは到底ありません。公的支援を最大限に活用し、遠距離介護をする人も増えています。『介護は家族が担うべき』という従来の価値観を、親が元気なうちにゆるめておく。それが親を適切に見守る大切な一歩になります」
川内さんが考える「適切な見守り」とは、子供が自分らしい生活を続けながら、親にとって穏やかで継続性のある環境を整えることを指す。
「親子はどうしても感情をぶつけやすい。冷静な判断をするためにも、適度な距離を保つことが非常に重要です」
“ちょうどいい距離感”のための心得3
親も子も自分らしく生きるために。ほどよい距離で見守ることの本質を、川内さんが伝授!
心得1:親の暮らしに対して解像度を上げすぎない
介護未満の親を見守ろうとすると、よかれと思って生活にあれこれ口を出す人は少なくありません。しかし、これは見守りではなく、“よけいな介入”。例えば、多少ものが多くても親にとって使い慣れた部屋を、「転んだら危ない」「散らかっていて恥ずかしい」などと子供の価値観で片づけてしまうのは、その典型です。こうした介入は親のためのように見えて、実際は自分の安心や満足のために行っていることが多く、親の反発を招いて親子関係をぎくしゃくさせ、親が自分でできていることを奪う原因にもなります。
離れて暮らしている親の衰えや暮らしぶりをつぶさに見れば、どうしても課題が目につき、解決しようとしがちです。親の見守りや介護と相性の悪い、この”課題解決思考”は、仕事ができる人ほど暴走しやすい。まずは適度な距離を保ち、親の生活に対して解像度を上げすぎないこと。そばにいることが親孝行の必須条件ではないのです。
心得2:自分優先。心に余裕があってこそ“親のため”が見えてくる
見守りとは本来、手を出さずに本人の自立を支えることであり、実は高度な技術を要します。完璧にやりとげる必要はありませんが、基本として覚えておいてほしいのは「本当に親のためになることは何か」を考え続ける姿勢です。親のためになることとは、言い換えれば、その人らしさを支えること。長年の生活リズム、好みや価値観、望み、友人関係など、親自身を形づくる要素に目を向け、ひとりの個人として尊重するのです。親子とはいえ、意外と知らないことが多いもの。折に触れて対話から推し量ることも必要でしょう。そして親を尊重するためには、子供自身が生活や仕事を手放さず、心に余裕をもって接することが欠かせません。子供が安定して自分らしく生きている姿は、親にとってなによりの安心材料にもなります。こうした勘どころを押さえていれば、親に干渉したり、振り回されたりせず、自分にできる無理のないかかわり方が見えてくるはずです。
心得3:親孝行のかたちは さまざま。他人のやり方にとらわれない
急なけがや病の影響などで、介護は往往にして突然始まります。マインドセットが不十分だと、とまどい、追い詰められ、介護のために仕事を辞めるなど一時の感情に任せた選択をしてしまいかねません。多くの介護相談を受けてきてはっきりいえるのは、子供が本意ではなく、生活をなげうって自力で親を介護する状況は、親にとっても幸せとは言いがたいということです。親子関係も親孝行のかたちも、一律ではありません。昔の常識やほかの人のやり方にとらわれて思考停止せず、自分と親にとっての最善を探り続けることが、家族にしかできない見守りであり、介護なのだと思います。
衰えゆく親と向き合うことを、タスクや義務ととらえるのは、とてももったいない。ひとりの人が人生を閉じていくまでの時間には、そばにいる人を成長させる気づきが凝縮されています。私が介護の仕事を続けているのは、そこにほかの仕事では得られない深い価値を感じているからです。この先、親がさらに年を重ね、できることが少しずつ減っていくなかで、「親は今、何を望んでいるだろう」「何に幸せを感じるだろう」と思いをめぐらせるうちに、やがて「自分はどう生きれば幸せか」という問いにも行きつくはずです。見守りや介護は一見、親に向けた行為のようで、最も身近な人の終盤にどう寄り添うか、実は自分に矢印が向いていて、人生の後半の生き方を見つめ直すきっかけにもなる。そんなふうにとらえてみてほしいです。
取材・原文/熊坂麻美 イラスト/わじまやさほ ※エクラ2026年11月号掲載