想像の先の幸せな光を感じて。現代アートはお好きですか?【ウェブエクラ編集長シオヤの「あら、素敵☆ 手帖」#26】

新進気鋭の現代美術のアーティストの展覧会へ伺いました。……そう書くと、みなさんどのように感じられます? 難しそう?分からなさそう?はたまた、怖そう? ……いえいえ、目にも心にも、とてもフレッシュな展覧会が、天王洲で開催中です。
ウェブエクラ編集長 シオヤ

ウェブエクラ編集長 シオヤ

50代女性のための雑誌&ウェブメディア「エクラ」のウェブ担当編集長。155cmのアラフィー。ビューティ・小柄担当多め。鈍感肌。盛ってます。
東京・天王洲のMAKI Galleryで8月まで開催中のユージーン・スタジオ/寒川裕人 想像の力 Part1/3」
「現代アートはお好きですか?」……そう聞かれて「はい!大好きです!」と即答できる方は、案外少ないかもしれません。むしろ「ほぼ、未体験」という方も多いのではないでしょうか。シオヤは「アート好き」というよりも、どちらかというと「美術館好き」に近い方なのかも、という自覚があり、大好きな「東京都現代美術館」や、かつて品川にあった「原美術館」などで、折々に現代アートに触れてまいりましたが、まったく詳しくはありません。エクラ本誌では、アートの特集を組むことも多いというのに。毎度、ピュアな読者目線でページを眺めております。
さて、そんな中ある展覧会へのお招きをいただきました。タイトルは「ユージーン・スタジオ/寒川裕人 想像の力 Part1/3」。東京・天王洲のMAKI Galleryで8月まで開催中です。
ユージーン・スタジオ/寒川裕人さん
ユージーン・スタジオ/寒川裕人さんは、1989年アメリカ生まれ。2021年には東京都現代美術館にて史上最年少で個展を行い、長蛇の列ができたという注目のアーティストです。

シオヤが伺った日には会場にいらっしゃったので、少しお話させていただきましたが、とても穏やかで、聡明な空気をまとった素敵な方でした。
ユージーン・スタジオ/寒川裕人さんの作品
会場には、5つの作品シリーズが展示されています。こちらは印画紙を使った作品。光が当たると感光して黒くなる印画紙。それを折り方や光の当て方の加減により、柔らかなグラデーションを作り出した美しい作品が展示されています。シリーズは複数展示されており、かなり大型サイズのもの、ほぼ黒に近いもの、白い部分が本当に一筋の光のように浮かび上がっているもの……。それがどれも、柔らかく温かみのある空気を感じるのは、印画紙という有機的な素材によるものだからでしょうか。「黒い現代アート」って、字面だけだと何だか重苦しくて、怖そうなイメージもありませんか(笑)? でも感じたのは、ひたすらその真逆な印象でした。 
ユージーン・スタジオ/寒川裕人EUGENE STUDIO Atelier iii , 《Yellow flower field drawing》, 2021 Oil, gouache, grease pencil on brass, 305 × 600 cm © 2023 Eugene Kangawa
ユージーン・スタジオ / 寒川裕人《Rainbow Painting series “Group portrait”》 , 2021
Oil painting with brush,Museum Of Contemporary Art Tokyo,Private collection
Photo:Keizo Kioku Courtesy of the artist ©2021 Eugene Kangawa

 一方で、白が印象的な作品にも心が奪われました。《Rainbow Painting》と名付けられたシリーズは、近くに寄って見ると、細かく筆先の跡が点描のように残された作品。とても美しい微妙な色のグラデーションが感じられ、白い空間に作品が大きく展示された場に身を置くだけで、優しい光の中に包まれるような感覚に陥ります。視覚の効果は、大きいです。とてもポジティブで、幸せな気持ちになりました。
ユージーン・スタジオ/寒川裕人 想像の力 Part1/3のインスタレーション
ユージーン・スタジオ/寒川裕人《ゴールドレイン》2019 年
Installation view: Museum Of Contemporary Art Tokyo 2022
Photo: Keizo Kioku Courtesy of the artist
© 2019 Eugene Kangawa
もう一つ、幸せなインスタレーションを。
こちらは≪ゴールドレイン≫という名の作品で、過去の展覧会でも大人気だったそうなので、ご存知の方もいらっしゃるかもしれません。細かい金色の粒子が、天からさらさらと降ってくる。そして地面には、金色の泉ができている。ただそれだけ、といえばそれだけ、のシンプルな作品ですが、キラキラと舞い降りてくる金色の光をただ眺めているだけで、包まれるこの多幸感は、なんでしょう! できれば時間を忘れて、ずっと眺めていたい……そんな作品です。
ユージーン・スタジオ/寒川裕人 想像の力 Part1/3で展示されている作品「「想像#1 man」」
この日、寒川さんに「……アレはもう、体験されましたか?」と聞かれた作品があります。そのアレ、が、この扉の先にある「想像#1 man」です。
説明を読むと「最初からすべての工程を、完全な暗闇の状態のなか、手で制作された”人”の彫像作品」とあります。どういうことでしょう? アーティスト自身も真っ暗闇の中で制作し、だれもその目で完成した姿を確かめたことがない。という作品なのだそうですが、こちらだけ予約制で、ひとりずつ時間入れ替え制で入室する、とのことで、シオヤも説明を伺ってから、扉を開け、靴を脱いで扉の先へと進みました。軽くネタばれ?になりますが……これは、一人真っ暗闇の中を手探りで進み、その先にある彫刻作品に触れ、また戻ってくる、というもの。……これは……怖かったです(笑)! 今までのハッピー感は何だったの!? と若干恨めしくもなりましたが、ここまでの真の闇を体験したことのなかった自分にとって、光のある世で生きる安心感と、自分の五感の頼りなさを再確認できたのは得難い経験でした。闇の中を壁伝いに進み、「この壁から一瞬でも手を離したら、もう戻れないかも」……と感じながら歩いた怖さと、手で触れた作品のわけの分からなさ(失礼!でも目で確認できないと、こんなにも自分の理解に不安が残るものなんですね……)。狭い空間なのに、時間は永遠にも感じられました。
TERADA ART COMPLEX Iの外観
よく言われることですが、アートって、作品に向き合いながら、自分に向き合う時間を生み出すものでもあると思います。作品を見て、触れて、何を感じるかはその人次第ですが……コンセプチュアルなことをはっきりと感じたり、考えたりしなくても、その空間に身を置き、ぼんやりと視覚から情報を入れる(見る)だけでも、自分の何かが変わるような気がするのが、美術展に足を運ぶ理由かもしれません。

ユージーン・スタジオ/寒川裕人さんの作品を拝見したのは初めて。しかも平日の忙しい時間帯に伺ってしまったのですが、見始めてすぐに引き込まれ「……これは、時間を気にせずゆっくり見たい」と、後の仕事のアポイントを遅らせてしまったことを告白します。とても新鮮で、洗練されていて品がよく、ポジティブで美しく温かみもある作品。それは30代の若いアーティストならではなのかもしれませんし、さらには若く「希望」を信じている人がもつ明るさゆえなのかもしれません。「想像の力」と題された展示ですが、想像の先に「希望」を感じたときのうれしさと安心感といったら! ぜひ会期中にまた見に行きたいと思っています。 


ユージーン・スタジオ/寒川裕人 想像の力 Part1/3 > 

MAKI Gallery( 東京・天王洲)

会期:2023 年6月2日(金)~ 2023 年8月5日(土)

会場:MAKI Gallery( 東京・天王洲)

〒140-0002 東京都品川区東品川1 丁目33-10 TERADA ART COMPLEX I

開館日:火曜~土曜(休館日: 毎週日曜・月曜、7/4(火曜日))

開館時間:11:30 ~ 18:00

料金:無料/予約不要

※入場制限が行われることがあります。予めご了承ください。最新の情報はwebサイトをご覧ください。

▶︎展覧会の詳細はこちら

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