【夏の文芸エクラ大賞まとめ】「本」のおもしろさ再認識!アラフィーが読みたくなる本がずらり

夏の読書ガイドとして恒例となり、今年で7回目を迎えた文芸エクラ大賞。インターネット上では常に膨大な量の情報が行き交う“今”だが、手にとってじっくり活字を追う本は伝わってくるものの深みがやはり格別。あなたにふさわしい一冊がきっと見つかる、大人の読書案内。

文芸エクラ大賞とは?

私たちは人生のさまざまなことを本から学び、読書離れが叫ばれて久しいとはいえ、本への信頼度が高いという実感がある世代。エクラではそんな皆さんにふさわしい本を選んで、改めて読書の喜びと力を感じていただきたいという思いから、’18年にこの賞を創設。


選考基準は、’23年6月~’24年5月の1年間に刊行された文芸作品であり、エクラ読者に切実に響き、ぜひ今読んでほしいと本音でおすすめできる本。エクラ書評班が厳選した、絶対に読んでほしい「大賞」をはじめ、ほかにも注目したいエクラ世代の必読書や、書店員がおすすめのイチ押し本を選定。きっと、あなたの明日のヒントになる本が見つかるはず!

▼4人の選者
文芸評論家 斎藤美奈子
本や新聞、雑誌など多くの媒体で活躍。文学や社会への的確で切れ味鋭い批評が熱い支持を集めている。

書評ライター 山本圭子

出版社勤務を経てライターに。女性誌ほかで、新刊書評や著者インタビュー、対談などを手がける。

書評ライター 細貝さやか

本誌書評欄をはじめ、文芸誌の著者インタビューなどを執筆。特に海外文学やノンフィクションに精通。

書評担当編集 K野

女性誌で書評&作家インタビュー担当歴20年以上。女性誌ならではの本の企画を常に思案中。

第7回大賞作品発表!

雑誌エクラで書評を担当している文芸評論家とライター、担当編集者がこの1年間に出版された本で最もおすすめしたい本を、忖度なしで厳選!

『黄金比の縁(えん)』

『黄金比の縁(えん)』

石田夏穂 集英社 ¥1,650

10年前、小野は株式会社Kエンジニアリングの人事部新卒採用チームの一員に。それまで花形部署の「尿素・アンモニアチーム」にいたが、「ある誠にしょうもない出来事」のためにプロセス・エンジニアとしての未来に終止符を打たれたのだ。納得できない彼女は会社へのひそかな復讐を始めるが……。就活の裏側を理系出身らしい観察眼とクールな笑いで描いた小説。

“リケジョの憂鬱”をセンスよく描いて見事。お仕事小説も相対化の時代に入った!

━━文芸評論家 斎藤美奈子

みんなが知っていた就活のうさんくささを逆手にとる発想が痛快。

━━書評ライター 山本圭子

奇抜だがリアルな話。デビュー2年目の作品とは思えない筆力に圧倒された。

━━書評ライター 細貝さやか

想像の斜め上をいく主人公にびっくり。“どうする、どうなる!?”と一気読み!

━━編集 K野

受賞コメントをいただきました! 作家・石田夏穂さん

【夏の文芸エクラ大賞まとめ】「本」のおもしろさ再認識!アラフィーが読みたくなる本がずらり_1_2
撮影/大槻志穂

就活はなかなかに不思議な体験でした。自分がなぜいまの会社に採用されたのか、逆に何であの会社には採用されなかったのか、その理由は永遠に謎に包まれています。しかし、いまになって想像するのは、きっと、大した理由はなかっただろうということ笑。人間の判断には、いい意味でも悪い意味でも、必ず血が通っていると思います。その残酷さと、ままならなさと、そして、そこに実は見え隠れする救いのようなものを、本作で表現したいなあと思いました。でもやっぱり自分が採用されたりされなかったりするのは「縁」の一言なのかもしれません!笑

今年も盛り上がった選考会。 本音を語ったその内容は?

今年目立ったのは “女性の怒りが伝わる本” ! ?

K野 7回目になった文芸エクラ大賞ですが、今年も多彩で読み応えのある本がそろいましたね。

山本 衝撃的だったのが『いい子のあくび』。職場でも私生活でも“いい子”を続けてきた女性が、ながらスマホの人をよけず、わざとぶつかっていく話。気持ちはわかるけど……。

細貝 彼女は何事も先に気がつくタイプで“いつも自分がみんなに何かしてあげている”と不公平を感じる。若い女性の中に澱(おり)のようにたまっていくむかつきがリアルでした。

K野 その『いい子のあくび』より主人公の怒りが強かったのが『黄金比の縁』。工場設計請負会社の花形部署から新卒採用チームに配属された女性が、不当な辞令に怒り会社に復讐するのだからびっくり。

山本 彼女は「顔のパーツが縦も横も黄金比を満たす者=顔の整った者は退職率が高い」と気づき、会社に不利益なそういう人物を採用しつづける。でも採用の評価軸って意外と定まっていなかったりするからバレない(笑)。

斎藤 女性のお仕事小説はここ30年ほどの間に増え、上司との軋轢なども普通に書かれるようになりましたが、作者の石田さんはちょっと引いた目で“会社”を見ている。ウジウジ悩んでいないで次の行動を起こす主人公がある意味爽快でした。

細貝 私が衝撃を受けたのはトルコからイギリスに亡命した作家が自身の体験をもとに書いた『イスタンブル、イスタンブル』。「ひとたび戦争が起こればこんな悲惨なことが起こりえる」と思えてならなくて。

山本 河﨑秋子さんの直木賞受賞作『ともぐい』は明治の北海道を舞台に熊と人間の戦いが描かれていた。震えがくるような迫力でした。

斎藤 「人間と獣の境目とは」と価値観を揺さぶられますよね。

女子会ノリの楽しさは今や小説の世界にも

K野 タイプは違いますが『照子と瑠衣』も価値観を揺さぶられた小説。暴走する70歳の女性ふたりが痛快で、「年をとったら周囲に迷惑かけちゃダメ」と思えなくなった(笑)。

斎藤 ここ数年、年齢を重ねてからの女性の友情をテーマにした小説が多いですね。もはやジャンル化しているし、作家も女子会ノリを気持ちよく書いている気がします。

細貝 “奥さまと女中もの”ですが、『襷(たすき)がけの二人』もそういう一冊。年齢も性格も立場も違う千代とお初の関係性が新鮮でした。


斎藤 デリケートな問題で悩んでいた千代がそれをお初に打ち明けるとお初も自分の秘密を……という場面がふたりの友情のターニングポイント。女性が口にしにくい体の問題を、元芸者のお初を通してうまく描いていました。

K野 そういえば大ヒット作『成瀬は天下を取りにいく』とその続編もベースにあるのは主人公と幼なじみ・島崎の友情や信頼関係でした。

斎藤 ふたりでM-1に出るなんて大人が読むと驚くかもしれませんが、今どきの若者感覚ですね。

山本 青春小説って読むと素直な気持ちになれていい。『リラの花咲くけものみち』もそうで、獣医を目ざす主人公の苦労が報われるようにと祈りながら読んで号泣でした。

斎藤 作者の藤岡さんはデビュー作も看護学校の話で医療もの。彼女の進化を感じましたね。

細貝 私が勇気をもらったのはアメリカ発のベストセラー『化学の授業をはじめます。』。虐げられてきたシングルマザーから“私には価値がある”と思うことの大切さを教えられました。

“あるある”だけで終わらない。だから小説はおもしろい!

K野 『シェニール織とか黄肉(く)のメロンとか』は50代の女性3人の話ですが、彼女たちの家族の話でもある。軽妙さの中に真実味があって、友人の話を聞いているようでした。

細貝 エクラ世代に“どストライク”と思ったのが『墓じまいラプソディ』。お墓について話し合ううちに、登場人物の本音や家族制度の問題点が明らかになっていく。「お墓問題は知識と覚悟が大事」と痛感しましたね。

山本 『娘が巣立つ朝』には子供の結婚資金、夫の不機嫌、妻の体調不良など、50代夫婦に次々に起きる問題が描かれていた。ドキュメンタリーを見ているみたいでした。

K野 「正しさとは?」と考えさせられたのが『方舟を燃やす』。主人公のひとりは“自然食主義”で、子供へのワクチン接種を拒むんです。

斎藤 “リアルに身近にいそう”と思わせる人が登場し、みんなが直面している問題が文学に出てきていると感じます。こうやって見ていくと、今年も女性作家がさまざまなジャンルの小説を書き、収穫が多かったですね。

細貝 ノンフィクションでは川内有緒さんの『自由の丘に、小屋をつくる』と佐々涼子さんの『夜明けを待つ』をぜひ。川内さんの本は、モノを「買う」から「作る」へと発想を大転換した彼女の試行錯誤ぶりからたくさんの気づきを得られるはず。『夜明けを待つ』は『エンジェルフライト 国際霊柩送還士』などを書いたノンフィクション作家の本。悪性脳腫瘍と告知されたあと彼女がつづったあとがきを読んで、しなやかな強さに胸を打たれました。

山本 詩人の伊藤比呂美さんと作家の辻村深月さんのエッセーもすごくよかった。伊藤さんの『野犬の仔犬チトー』は、おびえる野犬を見捨てられない心境がわかる気がして。辻村深月さんの『あなたの言葉を』は、彼女が幼いころの感性を失っていないことに驚かされた。大人の心にも響きます。

K野 さてこのあたりで大賞の選考に移ろうと思いますが……。

細貝 衝撃度でも新鮮さでも一番だったのは『黄金比の縁(えん)』。人が人を選ぶという行為のいいかげんさがシニカルな笑いとともに描かれ、ヒヤリとさせられました。

山本 人が“縁”という言葉を使うときの心理に納得、共感でしたね。


斎藤 「よく考えるな、こんなこと」とびっくりしました。“会社あるある”を分析的に見ていて、表現のセンスもいい。こういう“理系の会社を描ける作家”は貴重な存在です。

K野 私も賛成です。それでは大賞は『黄金比の縁』に。今年も充実した話し合いができたと思います!

「未知の世界に震撼賞」

“新しさ”が脳を揺さぶる衝撃作・痛快作

『イスタンブル、イスタンブル』

『イスタンブル、イスタンブル

地下牢獄の一室で語り合い、空想する世界
ブルハン・ソンメズ 最所篤子/訳

小学館 ¥2,750

「牢獄に閉じ込められた政治犯たちが拷問に耐えていたわり合い、時に笑いあう姿は胸に迫るものが」(細貝)。学生、ドクター、床屋、老人。4人の政治犯が語り合った互いの過去、そして愛するイスタンブールの魅力とは。

『照子と瑠衣』

『照子と瑠衣』

70歳の女性ふたりの行動力に唖然呆然!

井上荒野 祥伝社 ¥1,760

「70歳になったら好きなことをしてもいいでしょ!という感じ。振り切れ感に脱帽です」(斎藤)。傲慢な夫に愛想をつかした照子と、老人マンションの陰湿な人間関係にいや気がさした瑠衣。元同級生ふたりが無謀な逃避行を決行する。

『いい子のあくび』

『いい子のあくび』

むかつきや息苦しさ、もう我慢できない!

高瀬隼子 集英社 ¥1,760

会社員の直子は自転車に乗りながらスマホを見る中学生をよけずにぶつかっていくことにするが、その理由は。「彼女の行動は危険だが、そのイライラは理解できる。小さなむかつきをみんなが抱えているのがリアルです」(斎藤)。

『ともぐい』

『ともぐい』

熊出没が問題視される今読みたい究極の“熊小説”

河﨑秋子 新潮社 ¥1,925

熊爪は独特な嗅覚で熊を仕留める猟師。獣のような彼にも時代の変化が忍び寄ってくる。「北海道の大自然と混然一体となっている熊爪。そんな彼をおびやかす盲目の女性の存在感にもひきつけられた」(山本)。

「前向きパワー賞」

明日への希望や元気をもらえる感動作

『化学の授業をはじめます。』

『化学の授業をはじめます。』

世界で600万部以上売れた痛快な話題作

ボニー・ガルマス 鈴木美朋/訳

文藝春秋 ¥2,750

「“料理は化学”をうたったテレビ番組で人気者になった化学者のエリザベス。彼女が視聴者に送る言葉に励まされた」(細貝)。’50~’60年代のアメリカを舞台に女性だからと職場で冷遇されても自分を貫いた主人公をいきいきと描く。

『リラの花咲くけものみち』

『リラの花咲くけものみち』

獣医を目ざす若者たちを応援したくなる

藤岡陽子 光文社 ¥1,870

継母とうまくいかず不登校になった聡里は愛犬が心の支え。獣医師を目ざし北海道の大学に進むが、そこにはさまざまな喜びと困難が。「孤独な主人公を引き取る祖母も魅力的。ハードな現場感覚でぐいぐい読ませる青春小説」(斎藤)。

『成瀬は信じた道をいく』

『成瀬は信じた道をいく』

ストレートな地元愛が好感度大!

宮島未奈 新潮社 ¥1,760

あの成瀬が京大を受験!? そしてびわ湖大津観光大使に!? 一方、幼なじみの島崎にも変化があって……。ベストセラー小説の気になる続編。「他人を気にせず、自分の関心事に飄飄と突き進む成瀬。彼女のぶれない強さに魅了された」(K野)。

『襷(たすき)がけの二人』

『襷(たすき)がけの二人』

信頼し合う女たちの絆に力がわく

嶋津 輝 文藝春秋 ¥1,980

「時代もののような雰囲気だが女性の自立がきっちり書かれている。手練れのようなうまさにも感嘆」(細貝)。奥さまと女中として出会った千代とお初(初衣)の、弟子と師匠のような妹と姉のような関係を描く。最後にタイトルの意味がわかり納得。

「共感度MAX!賞」

アラフィーだからこそ納得の人間ドラマ

『娘が巣立つ朝』

『娘が巣立つ朝』

娘の婚約者家族にとまどう夫婦の危機

伊吹有喜 文藝春秋 ¥1,980

「娘・父親・母親それぞれの気持ちがわかり感情移入。彼らとともに解決策を考えてしまう」(K野)。高梨家のひとり娘の婚約者は“セレブ”。結婚話が進むうち両家の違いが明らかになるが、高梨夫婦の問題も浮上してくる。

『シェニール織とか黄肉(きにく)のメロンとか』

『シェニール織とか黄肉(きにく)のメロンとか』

女3人、楽しく食べれば昔に戻る!

江國香織 角川春樹事務所 ¥1,870

作家の民子、退職してイギリスから帰国した理枝、主婦の早希。親友3人が再会し、食べて語らうが、個々の日常には悩ましいことも。「気遣いを素直に受け止めない高齢の母にモヤる民子の気持ち、よくわかる!」(山本)。

『方舟(はこぶね)を燃やす』

『方舟(はこぶね)を燃やす』

口コミ、SNSの情報……どこまで信じる?

角田光代 新潮社 ¥1,980

「何かを信じたり伝えたりすることのむずかしさを痛感」(山本)。’67年生まれの飛馬と’50年ごろ生まれた不三子。終末論やカルト宗教がそばにあった時代のふたりの歩みを描きつつ、人を翻弄しがちな噂や情報について鋭く問う長編。

『墓じまいラプソディ』

『墓じまいラプソディ』

墓への意見の違いが家族の火種になる!?

垣谷美雨 朝日新聞出版 ¥1,760

61歳の五月は義母の死を機に夫の兄姉と先祖代々の墓について話し合うが、無頓着な発言で周囲を凍りつかせる。「夫婦別姓カップルの場合など、今どきの墓問題も。笑いながら自分のこととして読んでしまう」(細貝)。

「生き方ヒント賞」

学び多きエッセー・ノンフィクション

『あなたの言葉を』

『あなたの言葉を』

寄り添うような言葉がぐっとくる

辻村深月 毎日新聞出版 ¥1,540

「幼いころの自分の本音に気づかされた本」(K野)。気持ちを素直に話すと「笑われる」と思ったこと。「努力家」といわれてもやもやしたこと。作者が自分を振り返って書いた小学生向けの助言は、大人が生きる指針とも重なる。

『野犬の仔犬チトー』

『野犬の仔犬チトー』

60代半ばの人生の空洞を埋めてくれたもの

伊藤比呂美 光文社 ¥1,760

「どんなに家の中を荒らされても野犬との暮らしを続ける伊藤さん。彼女が求めているものは何?と考えさせられた」(山本)。子育ても両親と夫の看取りも終えて野犬を飼いはじめた作者が、軽妙につづる日記風エッセー。

『夜明けを待つ』

『夜明けを待つ』

生と死を見つめ続ける作家の“今の気持ち”

佐々涼子 集英社インターナショナル ¥1,980

平均余命14カ月の悪性脳腫瘍と診断された作者が長年書きためたエッセーとルポを病床でまとめた一冊。「あとがきに『ああ、楽しかった』と書いた作者。“生を楽しむための贈り物”をもらった気がした」(細貝)。

『自由の丘に、小屋をつくる』

『自由の丘に、小屋をつくる』

DIYで得た“やればなんでもできる精神”

川内有緒 新潮社 ¥2,420

超不器用な作者が“暮らしの基盤を手作りすることで生活の知恵と技術を学べれば”と考え、小屋作りを始めると……。「川内さんが小屋作りを通して人生に抱いた疑問と答えはエクラ世代に響くと思う」(細貝)。

「書店員賞」本の現場から。まだまだあります、見逃せない作品!

日ごろから本に触れている書店員のかたがたが、アラフィーにぜひとも読んでほしい本はこちら!(氏名50音順)

【紀伊國屋書店梅田本店 小泉真規子さん おすすめの3冊】

紀伊國屋書店 梅田本店 小泉真規子さん

紀伊國屋書店 梅田本店 小泉真規子さん

『カフネ』

『カフネ』

阿部暁子

講談社 ¥1,870

「食べることを通じてふたりの女性が距離を縮めていく物語。大切なものが失われていく人生で新たな“大切”ができるのは奇跡的だが、それを信じたくなった」

『なんどでも生まれる』

『なんどでも生まれる』

彩瀬まる

ポプラ社 ¥1,760

「生きるのが少し不器用な茂さんとそんな彼に寄り添うチャボ(鳥)の桜さん。立ち止まって動けなくなったとき、そばにいる存在の大切さをしみじみ感じた」

『スピノザの診察室』

『スピノザの診察室』

夏川草介

水鈴社 ¥1,870

「京都の町中の地域病院で働く内科医をめぐる物語。年齢を重ねると、自分も家族も病院に行く機会が増えるが、最後はこんな医師に出会いたい」

【有隣堂 アトレ恵比寿店 酒井ふゆきさん おすすめの本3冊】

有隣堂 アトレ恵比寿店 酒井ふゆきさん

有隣堂 アトレ恵比寿店 酒井ふゆきさん

『柚木沙弥郎 美しい本の仕事』

『柚木沙弥郎 美しい本の仕事』

ゆのろう) 小林真理/編著

パイ インターナショナル ¥3,080

「今年101歳で亡くなった染色家の柚木さん。彼の仕事の中でも70歳を過ぎてから制作に励んだという絵本は、遊び心や優しさにあふれ、人柄を感じます」

『心も体ももっと、ととのう 薬膳の食卓365日』

『心も体ももっと、ととのう 薬膳の食卓365日』

川手鮎子

自由国民社 ¥1,980

「むずかしそうな印象の薬膳ですが、ふだんの食材の使い方を知るだけでもOK。この食材にこんな効能が、と意外な発見があるかも。手元に置いておきたい一冊」

『休むヒント。』

『休むヒント。』

群像編集部/編

講談社 ¥1,430

「いろいろな人の“休み方”がつまった本。好きな作家の休み方を知ったり、好きな文章を見つけられたりして楽しかった。日ごろ働きすぎではと思っている人に」

【大垣書店 京都本店 中澤めぐみさんおすすめの3冊】

大垣書店 京都本店 中澤めぐみさん

大垣書店 京都本店 中澤めぐみさん

『板上に咲く MUNAKATA: Beyond Van Gogh』

『板上に咲く MUNAKATA: Beyond Van Gogh』

原田マハ

幻冬舎 ¥1,870

「ゴッホに憧れて青森から上京し、木版画で新境地を切り開いた棟方志功。そのいきいきした生きざまを、彼の妻の視点から描いたアート小説は読後感爽快!」

『こまどりたちが歌うなら』

『こまどりたちが歌うなら』

寺地はるな

集英社 ¥1,870

「製菓会社の立場の違う人々が、お互いを少しずつ知り、成長していく物語。歩み寄りの大切さを痛感し、すべての働く人に読んでもらいたいと思った」

『パンが焦げてもふたりなら』

『パンが焦げてもふたりなら』

たな

オレンジページ ¥1,320

「気遣い屋のはーさんと楽天家のひーさん夫婦が食卓を囲む日々を描いたコミックエッセー。おいしそうなごはんはもちろん、お互いを思いやる会話に癒される」

【ジュンク堂書店 西山有紀さん おすすめの3冊】

ジュンク堂書店 池袋本店 西山有紀さん

ジュンク堂書店 池袋本店 西山有紀さん

『カモナマイハウス』

『カモナマイハウス』

重松 清

中央公論新社 ¥1,980

「エクラ世代にもきっとのしかかってくる実家の空き家問題。“笑いあり涙あり”の小説だが、テーマが身近すぎて感情移入。小説のように解決できるだろうか」

『今日の花を摘む』

『今日の花を摘む』

田中兆子

双葉社 ¥2,090

「主人公は自由奔放な出版社勤務の女性(51歳)。私にはできない生き方だけど、彼女の心身の悩みには同世代として共感。彼女のその後の人生も気になった」

『シャーロック・ホームズの凱旋』

『シャーロック・ホームズの凱旋』

森見登美彦

中央公論新社 ¥1,980

「物語の舞台は“ヴィクトリア朝京都”。地名は京都なのにホームズ、ワトソンなどおなじみの登場人物の名前はそのまま。パラレルワールドで夢見ている気分に」

【代官山 蔦屋書店 間室道子さん おすすめの3冊】

代官山 蔦屋書店 間室道子さん

代官山 蔦屋書店 間室道子さん

『川のある街』

『川のある街』

江國香織

朝日新聞出版 ¥1,870

「流れる川、時間、人生がテーマで圧巻は3編目。高齢の女性主人公がわが身の異変の中、変わらず毅然としておおらかに生き続ける。今年一番胸が震えた」

『spring』

『spring』

恩田 陸

筑摩書房 ¥1,980

「圧巻のバレエ小説で、主人公は両性具有的な魅力をもつ美しい青年。天才は、拍手で迎えられる前に周囲を震え慄かせる。その数々の展開がたまりません!」

『うらはぐさ風土記』

『うらはぐさ風土記』

中島京子

集英社 ¥1,870

「米国帰りの大学教師・沙希は若き日を過ごした地区に戻り住み、一風変わった人々と交流を深める。街と家と人生の未来に向けた新陳代謝が読みどころ!」

文芸評論家・ 斎藤美奈子さんが解説!本の最前線から世の中を考える!

この1年間の売れた本&話題の本をプレイバック

斎藤美奈子

斎藤美奈子

さいとう みなこ●’56年生まれ。’94年『妊娠小説』でデビュー。’02年『文章読本さん江』で小林秀雄賞を受賞。ほかの著書に『挑発する少女小説』『出世と恋愛』など。最新刊は『あなたの代わりに読みました』(朝日新聞出版)。

この1年を振り返ると世の中はほぼコロナ禍前の様相に。そんな中、’23年の年間ベストセラーランキングで1位、2位を占めたのは児童書だった。「休校が何度もあったコロナ禍に児童書が売れたのは納得でしたが、今回は意外でしたね」


毎回ニュースになるのが本屋大賞や芥川賞、直木賞だが、’23年~’24年の受賞作や候補作にはいくつかの特徴が。「本屋大賞10位以内に“少女小説”が3冊。3冊とも“現代の家族”を映し出していました。芥川賞受賞作や候補作には重度障がい者などマイノリティからの問いを描くものが。社会的な話題になりました」


能登半島地震や大ヒット映画『ゴールデンカムイ』も、関連本を読めばもっと見えてくるものがあると斎藤さん。「真偽がわからないままネットに情報が流れ続ける今、きちんと取材した本や時間をかけて書いた本が果たす役割は、ますます大きくなると思います」

“成瀬ブーム”が席巻。23年本屋大賞の上位は“少女小説”

書店員さんが選ぶ本屋大賞は、考えてみれば、従来、少年少女の話が多い。それにしても今回は大賞が『成瀬は天下を取りにいく』で2位が『水車小屋のネネ』。6位も川上未映子さんの『黄色い家』と、少女が主人公だったのは印象的でした」と斎藤さんは語る。

「“成瀬”の主人公は舞台である大津という地方都市へのネガティブな感情が皆無で、地元愛がぶれない。日本中の地方都市在住者に自己肯定感を与えたのでは。家族と仲がいいけれど自立度が高い成瀬とは対照的に、“ネネ”と“黄色”の主人公たちはそれぞれ最低な親を見限って新しい暮らしを始める。しかも2作とも新聞連載小説です。子供が自分から親を捨てるという選択は今まで文学にあまり書かれませんでしたが、そういう小説が新聞に載り、文学賞で評価されたのは、多くの人が少女たちに共感したから。3冊の少女小説は“親ガチャの時代”を反映しているともいえそうです」

『成瀬は天下を取りにいく』

『成瀬は天下を取りにいく』

宮島未奈

新潮社 ¥1,705

『水車小屋のネネ』

『水車小屋のネネ』

津村記久子

毎日新聞出版 ¥1,980

『ゴールデンカムイ』のヒットから、“アイヌ文化”を知るための本、続々。

明治末期の北海道を舞台にした人気漫画『ゴールデンカムイ』が’24年1月に映画化され、大ヒット。

「作品に色濃く反映されているのがアイヌ文化。それについての本もいろいろと出ています。『ゴールデンカムイ 絵から学ぶアイヌ文化』を書いたのは一連の“ゴールデンカムイもの”のアイヌ語とアイヌ文化の監修者。映画がちゃんとした取材のうえで成り立っていることがよくわかります。『アイヌもやもや』は私たちがわかっていなかったアイヌ問題を、漫画をからめて優しく解説した本。実はこれらの本の背景にあるのが’07年に国連で宣言された先住民の権利保障。日本でもアイヌへの理解を深めるべきという方針がとられたことで少しずつ社会が変わり、『ゴールデンカムイ』の誕生やアイヌ関連本の出版につながった気がします。まさに文化のうねりを感じますね」(斎藤さん)

『ゴールデンカムイ 絵から学ぶアイヌ文化』

『ゴールデンカムイ 絵から学ぶアイヌ文化』

中川 裕

集英社新書 ¥1,650

『アイヌもやもや』

『アイヌもやもや』

北原モコットゥナシ

田房永子/漫画

303BOOKS ¥1,760

芥川賞&芥川賞候補作は、新人作家による“当事者からの問い”

市川沙央(おう)さんが’23年7月に芥川賞を受賞した作品が『ハンチバック』。グループホームで暮らす裕福な重度障がい者の女性が主人公だった。

「これは衝撃作でしたね。市川さん自身も重い障がいがあり、読書するにも紙の本だとそれを憎むほど背骨に負担がかかるなど、健常者がわかろうとしなかった現実が描かれていた。この本は出版界にもショックを与え、"障がい者のニーズに応えなければ"という声が広がりました」(斎藤さん)


一方’24年1月に芥川賞候補作になったのが安堂ホセさんの『迷彩色の男』。「安堂さんも小説の主人公と同じブラックミックス。主人公はゲイでもあり、多様性の時代ならではの小説です。市川さんや安堂さんの本を読むと、障がいや人種、セクシュアリティについての認識不足を思い知らされますが、文学に“力”があるからそう感じたともいえる。社会の理解が進めば、差別を超えた小説がさらに出てくる気がします」

『ハンチバック』

『ハンチバック』

市川沙央

文藝春秋 ¥1,430

『迷彩色の男』

『迷彩色の男』

安堂ホセ

河出書房新社 ¥1,760

なんと“子供向け本”が、’23年の年間ベストセラーに。

’23年の年間ベストセラー総合1位、2位が児童書。斎藤さんによると「理由ははっきりしませんが、それぞれの本に特徴がありました」とのこと。

「1位の『大ピンチずかん』は絵本。細かな“日常のピンチあるある”をちょっと笑わせながら教えていきます。大人はこういう本に“ピンチのあとの対処法”を期待しますが、ここではナシ。笑って終わりで、“ピンチになっても気にするな、笑い飛ばそう”という作者の主張を感じます。瞬間を切り取るという点では、インスタグラム感覚といえるかもしれませんね」

2位は『小学生がたった1日で19×19までかんぺきに暗算できる本』。

「これは“算数ドリル”。数字を記入しながら暗算法を覚えていく本です。大人が読むと“なるほど”と思い、自慢したくなる。子供だけでなくそういうシニア層にも受けたのかもしれません(笑)」

『大ピンチずかん 2』

『大ピンチずかん 2』

鈴木のりたけ

小学館 ¥1,650

『小学生がたった1日で19×19までかんぺきに暗算できる本』

『小学生がたった1日で19×19までかんぺきに暗算できる本』

小杉拓也

ダイヤモンド社 ¥1,100

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