この季節だけのエモーションを。エディター 古泉洋子が語る「夏の黒」にまつわる大人哲学

大人の定番カラー、黒は、夏に選ぶからこその美しさ、特別なニュアンスがある。心に響くラグジュアリーを追求してきたファッションエディター 古泉洋子が、夏にまとう黒の極意を紐解く。
●ファッションエディター 古泉洋子
大人の女性誌からモード誌まで幅広いメディアで長くラグジュアリーなファッションを伝える。「着られるモード」を軸にスタイリング、執筆も行うことで、説得力をもたせることを心がけている。

Black in the summer

Black in the summer
Black in the summer
Black in the summer

黒だけの着こなしはレーススカートとフラットなサンダルといった意外性のある組み合わせで、動きをもたせて。

トップス¥86,900/トーテム クライアントサービス(トーテム) スカート¥42,900/リトルリーグ インク(ユニオン ランチ) ネックレス¥218,900/エスケーパーズ アナザーワールド(ソフィー ブハイ) リング¥26,400/マリア ブラック 表参道店(マリアブラック) 靴¥113,300/トッズ・ジャパン(トッズ)

夏の黒に宿る日本人の品性と美意識

 黒は優しい。急いでいる朝も、着こなしを考えるのが面倒なときも、“とりあえず黒を着ておけば大丈夫”と安心感を与え、私たちに寄り添ってくれる。

 黒は手ごわい。扱い方を一歩間違えれば、野暮(ぼ)ったく地味になってしまったり、ハードな強さや望まない貫禄を漂わせてしまうこともある。

 そもそも黒という色を、女性のファッションに取り入れたのはガブリエル・シャネル。喪服の色とタブー視されていた黒一色のリトルブラックドレスを1926年に発表した。以来シャネルを象徴するコードのひとつとなり、現代まで継承されている。そこには当時のきらびやかで装飾的なファッションや男性に依存する女性の生き方に対する反骨の証しもこめられていた。

 そのように黒は表裏一体でもあり、色としての意味をもつ色だから、はっきりとしたイメージをもって選んでほしい。成熟した大人におすすめしたいのは夏の黒。あえて季節をはずして、暑い夏にまとうからこそ魅力を放つ。夏の太陽がもらたす強い光の中、自然の情熱に張り合うかのごとく色や柄で饒舌に対峙するのではなく、黒がもつ静かな緊張感が一服の清凉をもたらす。それは絽や紗、紬といった夏のきもので、透け感や微光沢がきわだつ黒が粋で涼しげに見えることに通じるように思う。

 このところ銀座や表参道などでも見かける海外のマダムの多くは、どちらかといえばカラフルな服を好む傾向にある。一方、日本人は年を重ねるごとに目立つことから距離をおき、控えめな色使いへと削ぎ落とす。そして抑制の効いた色の中で、繊細に華を表現する。

 多彩な色を重ね合わせていくと、いつしか黒になるという。だから黒は表情豊か。夏の光を受けて赤みを帯び、深い影の中では溶け込んでいく。単調と思われがちだが、この豊かな色調の見極めが黒の醍醐味だ。

 ファッションは服という物質を介在した表現ではあるけれど、私たちがまといたいのはその選択が伝える美意識や価値観。そこにラグジュアリーの意味がある。四季の移ろいに心を寄せてきた、日本人ならではの品性や情緒を夏の黒に託したい。

1.首もとの美フォルムが、あいまいな輪郭をクリアに

丸みを帯び、あいまいになってくる大人の体を黒は巧みに引き締めてくれる。特に夏の黒はどのように肌見せして、抜け感をもたせるかが印象を左右する。ボートネックの首もとから後ろ身頃へのクチュール感のあるフォルムが美しい輪郭をきわだたせて。

首もとの美フォルムが、 あいまいな輪郭をクリアに

フォルムを表現する、やや張りをもたせた素材のエレガントなロング丈トップス。ボトムにはカジュアルなブラックデニムを合わせて、新鮮なコントラストに。

トップス¥639,100・パンツ¥171,600/ザ・ロウ・ジャパン(ザ・ロウ) シングルピアス¥425,700・ブレスレット¥441,100/レポシ日本橋三越本店(レポシ)

2.定番配色の黒×白を新しく見せるのは立体感

夏の黒の色合わせ、王道といえば白。失敗のない色合わせだからこそアップデートが必要。黒×白、色のコントラストを強めた従来のフラットでシャープな着こなしではなく、立体感のあるデザインで奥行きをもたせて。コンテンポラリーな造形が大人美を新しく見せる。

定番配色の黒×白を 新しく見せるのは立体感

アシンメトリーに片脚のみパンツ仕立てにした、黒のレイヤード風プリーツスカート。ジェンダーレスで斬新なデザインに合わせたのは、ニュアンスのあるチョークホワイトのリネン混プルオーバーブラウス。黒と白というシンプルな色合わせを、直線と曲線が表情豊かに。ボルドーのミュールがさりげないアクセント。

ブラウス¥300,300・スカート¥500,500・ピアス¥119,900・バングル¥167,200(参考商品)・バッグ¥506,000・靴¥231,000/ボッテガ・ヴェネタ ジャパン(ボッテガ・ヴェネタ)

3.透けと艶(つや)。黒にドラマをもたらす素材選びの妙

夏の黒に重さは禁物。いかに軽やかに見せるかがカギになる。そのためにこだわるべきは素材の質感。シフォンやシアーニットで透け感をつくったり、リネンやサテンの艶もエレガントな表情をもたらす。どちらも繊細で高級感のある素材を吟味して、トゥーマッチにならない上品なさじかげんを。

黒にドラマをもたらす 素材選びの妙

ポロ襟のリブニットとワークスカートというカジュアルなスタイルを、透け感のある素材でセンシュアルに表現。ゴールドのフープピアスとバングルがリュクスなアクセント。バッグも大きめを選んで、抜け感のある無造作なムードを。

トップス¥36,300・スカート¥75,900/コロネット(ミラ ショーン バイ チカ キサダ) ピアス¥82,500/ショールーム セッション(コールムーン) バングル¥111,100/マリア ブラック 表参道店(マリア ブラック) バッグ¥235,400/トーテム クライアントサービス(トーテム) インナー/エディター私物

黒にドラマをもたらす 素材選びの妙

首もとにドレープを施したプルオーバーブラウスは、リネン混の微光沢素材をバイアス使いにしてしなやかさを表現。サテンのカマーベルトで異なる光沢感を重ねて。ボトムをハーフパンツにすることで、この夏らしい軽やかなハズしを演出。ブラックパールのピアスやシルバーのバングルが涼しげな華やかさを添えて。

ブラウス(ベルトつき)¥112,200・パンツ¥209,000/ザ・ウォール ショールーム(ジア スタジオ) シングルピアス¥159,500(マリコ ツチヤマ)・バングル¥304,700(ソフィーブハイ)/以上エスケーパーズ アナザーワールド

4.黒はシルエットの遊びを許容してくれる

黒は端正な色だから、あまりにも正統的なデザインは地味に見えかねない。裏を返せば新しいシルエットも黒なら受け止めてくれるということ。セーラーカラーをアレンジした襟とマーメイドラインといった脱・無難なデザインなど、おしゃれの冒険を夏の黒がかなえてくれる。

黒はシルエットの遊びを 許容してくれる

オリジナリティあふれるパターンが光るワンピースは、シルクとナイロンを織り上げたシャリ感のあるタフタ素材。シルバーのネックレスやバッグ、ジッパーアクセントの白いシューズなど、カジュアルシックなワンピースの魅力を小物使いでも盛り上げて。

ワンピース¥105,600/エンダレンス ネックレス¥211,750/ジョージ ジェンセン ジャパン(ジョージ ジェンセン) バッグ¥220,000/ピエール アルディ 東京(ピエール アルディ) 靴¥148,500/アマン(ポール アンドリュー)

5.甘めの色を洗練に導く黒の引き上げ力

春から継続して人気の高いペールトーン。甘めのカラーパレットを夏に楽しむなら、黒と合わせると、ぐっと引き締まりモダンに。黒一色での端正な表現とはひと味違う広がりのある表情が生まれる。黒という色の補い高める力を活用したい。

甘めの色を洗練に導く 黒の引き上げ力

繊細なミントグリーンのワイドパンツに、襟に控えめな装飾を加えた黒のポロニットをコーディネート。色合わせを生かす夏のシンプルな着こなしには、サングラスがモダンな印象づくりに効果を発揮する。クリアなフレームを選ぶと涼しげに。

プルオーバー¥130,900・パンツ¥242,000(ともに店舗限定)/アオイ(ファビアナフィリッピ) サングラス¥111,100/ケリング アイウエア ジャパン カスタマーサービス(カルティエ) ピアス¥561,000・バングル¥704,000/ジョージ ジェンセン ジャパン(ジョージ ジェンセン) 靴¥132,000/クリスチャン ルブタン ジャパン(クリスチャン ルブタン)

6.日本古来の炭染め。黒のグラデーションに豊かな感性を託して

漆黒、炭黒……日本の黒には多彩なトーンがある。古くから伝わる木炭による染めを手作業で施し、一点一点異なるグラデーションに仕上げた一着。そういった継承されてきた手仕事へのリスペクトや微差を見極める目をもっていたいし、そこにこだわる豊かさを大切にしたい。

日本古来の炭染め。 黒のグラデーションに 豊かな感性を託して
日本古来の炭染め。 黒のグラデーションに 豊かな感性を託して
日本古来の炭染め。 黒のグラデーションに 豊かな感性を託して

すそに向け濃淡を描く紀州備長炭による炭黒が、人の手のぬくもりとモダンさを伝えるスタンドカラーのシャツワンピース。素材もオーガニックコットンとシルクを混紡するなど、日本の技を結集したこだわりの一着。黒のパンツをレイヤードすると、さらに洗練された着こなしに。小物にも手仕事感をリンクさせて。

ワンピース¥99,000・パンツ¥63,800/オンワード樫山 お客様相談室(セアン) イヤカフ¥198,000・ネックレス(長)¥451,000・(短)¥374,000・ブレスレット¥231,000・リング¥759,000/ベルシオラ バッグ¥82,500・靴¥73,700/へリュージャパン オフィシャルオンラインストア(へリュー)

7.時に強すぎてしまう黒をドレープでまろやかに

ダークな一面をもつ黒を夏にまとうなら、素材やディテールで柔らかさをもたせて軽やかに。夏らしい凹凸(おうとつ)のあるシボが涼しげなクレープ素材、ウエスト部をツイストしたドレープのディテール……エフォートレスかつ凛としたたたずまいの中に、大人の余裕が香りたつ。

時に強すぎてしまう黒を ドレープでまろやかに

黒のブラウスはこれからの季節にぴったりな、さらりとした肌ざわりのコットンシルクのクレープ素材。ボリューム感のある袖にはタブがついており、ロールアップするとラフなムードに。ドローストリングのワイドなパンツ、ラフィアのバッグと合わせて、ドライな質感が生む夏限定のリラックス&モダンなスタイルに。

ブラウス¥275,000・パンツ¥257,400・バッグ¥324,500・靴¥146,300/ロエベ ジャパンクライアントサービス(ロエベ)

合わせて読みたい
Follow Us

What's New

Feature
Ranking
Follow Us