名画と巡る絶景【日本画聖地巡礼】展で心の旅へ。

恵比寿の山種美術館で開催中の特別展【日本画聖地巡礼2025∼速水御舟、東山魁夷から山口晃まで∼】の内覧会へ。日本各地の景色を息を飲むような美しさで表現した巨匠たちの世界に心ゆくまで浸ってきました。
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展覧会会期 2025年10月4日〜11月30日
会場 山種美術館
主催 山種美術館、日本経済新聞社
協賛 SMBC 日興証券株式会社

※写真撮影と Web 掲載については内覧会に限り特別に許可されています。
聖地巡礼とは本来、宗教上の聖地を訪ねることですが、現在では、映画、小説、アニメなどの舞台になった場所を訪れることも含めて広く「聖地巡礼」と呼ばれ、世界的にも流行している活動となっています。

今回の展覧会は、日本画の聖地巡礼。
東山魁夷、奥村土牛、速水御舟、竹内栖鳳、奥田元宋などの錚々たる面々から現代作家の山口晃までの傑作の数々が展示されると知り、内覧会の日を心待ちにして伺いました。
東山魁夷 《春静》 1968年 山種美術館
東山魁夷 《春静》 1968年 山種美術館
展示室では美術館の所蔵作品を中心に、その土地を訪れた画家の言葉や現地の写真がともに展示されていましたので、 私たちも画家の視線、構図の取り方、そして彼らが惹かれた風景の美しさなどを追体験をしながら鑑賞でき、まるで作品の中に入り込んだような気持ちでその世界に浸ることができました。
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私が特に期待していた作品は、
東山魁夷の代表作《京洛四季》の連作と
速水御舟の重要文化財《名樹散椿》、
奥田元宋の《奥入瀬(秋)》

日本各地の息を飲むような美しい風景、静謐な世界を前に、時間を忘れてたずんでしまうほどでした。
東山魁夷《緑潤う》 1976年 山種美術館
東山魁夷《緑潤う》 1976年 山種美術館
東山魁夷の絵画は、風景描写を超えた深い精神性を宿しています。

東山ブルーと呼ばれる青や緑の色調は、
人々の心を捉えて離さない神聖さを帯びていて、
彼の絵の前に立つたびに吸い込まれそうになるのは私だけではないでしょう。
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東山魁夷《秋彩》1986年 山種美術館
東山魁夷《秋彩》1986年 山種美術館
東山魁夷《年暮る》1968年 山種美術館
東山魁夷《年暮る》1968年 山種美術館
東山の繊細な筆運びとマチエールによって、澄み切った空気や光の散乱が見事に表現された4枚の連作のいづれからも崇高な雰囲気が漂っていて、向き合うたびに畏敬の念が生まれました。
奥田元宋《奥入瀬(秋)》1983年 山種美術館
奥田元宋《奥入瀬(秋)》1983年 山種美術館
奥田元宋の大作《奥入瀬(秋)》も見事でした。
これこそ、勢いよく流れる渓流と真っ赤な紅葉の景色の中に入ったような感覚に包まれます。
自然への感謝と祈り、そして自分自身とも向き合う時間に…。
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こんなに鮮やかな赤い紅葉の表現に感銘を受けながら鑑賞していたのですが、奥入瀬の紅葉、実際には赤ではなく黄色にしかならないそう。
写真と比べてみましたが、構図はほぼ同じでも色が全く違いました。

東山魁夷もそうですが、やはり芸術作品というのは、画家のフィルターを通した心象風景の秀逸な表現の賜物であることを再認識。

それは当然のことではありますが、聖地巡礼として実際の写真と比較展示されることで、更によくわかりました。
何の変哲もない風景が、画家の目を通すことでこんなにも心に響く一枚に変貌を遂げていく。
今更ながら芸術家の感性と洞察力、物事を捉える眼差しなどの全てに天賦の才が宿っていることを見せつけられる体験でした。
一足先に、美術館で紅葉狩り
一足先に、美術館で紅葉狩り
次は速水御舟の《名樹散椿》

二曲一双の金地屏風に、精巧な椿の描写と力強く伸びる幹の表現。迫力ある構成と圧巻の美しさを讃えた作品は重要文化財として名高いものです。

初めは花の色彩や形の美しさに目を奪われますが、鑑賞しているうちに、平面的な幹の描写と繊細な花や葉の表現の対比、江戸時代の琳派の構図を意識した枝のフォルム、そして地面に落ちた花びらによるデザイン性など様々な要素が見て取れて、どこかモダンな香りもする奥深い魅力を持った日本画でした。

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ひとつの木から五つの違う色と模様の椿の花を咲かせる種類の「五色八重散椿」

この木は、私の祖父母の家の庭にも咲いていて、
祖母と母が愛でていた様子を思い出しました。
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山口晃 《東京圖1・0・4輪之段》2018〜25年 山種美術館
山口晃 《東京圖1・0・4輪之段》2018〜25年 山種美術館
現代作家の作品で印象深いのは山口晃のこちらの絵。
大河ドラマのオープニング映像用に制作されたもの。

皇居を中心に東京を俯瞰する視点で描き出したこの作品は、山種美術館の所蔵品となって以来初めての展示だそう。

気が遠くなりそうなほど細かい描写の作風で知られる彼。今では成田国際空港を始めとしたパブリックアートを多数手がけ、ニューヨークのメトロポリタン美術館にも作品が収蔵されている日本を代表する現代芸術家の1人です。

今から約20年以上前、 私がキュレーターとして現代芸術大賞の展覧会を担当していた頃、美術館で彼と仕事をしたことを、絵を目の前にしてつい最近のことのように思い出しました。

あの頃はこれほどの活躍をし始める少し前。
みんな必死で活動していて、若かったな…。(笑)
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竹内栖鳳《潮来小暑》1930年山種美術館
竹内栖鳳《潮来小暑》1930年山種美術館
展示室の様子 山口華楊の木精もあります。
展示室の様子 山口華楊の木精もあります。
今回の聖地巡礼展、深い静寂とやすらぎに包まれ、
絶景に癒される旅のようなひとときでした。

すっかり潤った心で向かうのは、カフェ椿。

こちらのミュージアムカフェでは、いつも展覧会の出品作品に因んだ特注の和菓子を頂きながら感動の余韻に浸れます。
  • 青山の菓匠菊屋さんのお上品な和菓子。私と友人は「遠山」をいただきました。

    青山の菓匠菊屋さんのお上品な和菓子。私と友人は「遠山」をいただきました。

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  • 右の奥村土牛の《鳴門》を表現した和菓子『うず潮』

    右の奥村土牛の《鳴門》を表現した和菓子『うず潮』

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秋の夜に開催された内覧会。
満たされた気持ちで美術館を出ると外は真っ暗でしたが、友人と感動を分かち合いながら恵比寿駅まで歩く道のりも含め、とても素敵な時間でした。


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翌日は家で、お土産の「うず潮」と「秋の渓流」を楽しむティータイム。
図録を開きながら、家で再び聖地巡礼の心の旅へ。

大人の秋の心情にそっと寄り添う展覧会。
心の奥底にある静寂と清澄にまで導いてくれる作品たちとゆっくり向き合い、心が洗われるような上質な時間を過ごせました。
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Akiko

Akiko

東京都在住。自宅でフランス式フラワーアレンジメントを教えています。美術館キュレーターとしての経験や視点も活かしながら、暮らしに彩りを加え、人生を豊かにする様々な事を綴っていけたらと思っています。

Instagram:akikuey

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