ここ数年では、バンクシーの絵が落札直後に彼自身の遠隔操作によって裁断された衝撃のシーンが記憶に新しいですよね。私にとって、オークションのイメージが刷り込まれたのが、エイドリアン・ライン監督の『幸福の条件』でのワンシーン。白のシックなドレスに身を包んだ主演のデミ・ムーアのさす白の和日傘が、屋外でのオークション会場に映えていたのがとても印象的で、オークションとは現実離れした雰囲気の中、富裕層だけが参加できる、ハードルの高い場所なのだと長い間思っていました。
でも、ここ、パリの「ドルウォー競売所」は、赤や青の壁紙や照明がドラマティックで、会場の雰囲気こそ重厚だけれど、参加者はいたってラフなんです。とはいえ、私も15年前に雑誌の取材で初めて敷居を跨いだ時は、競りの仕組みもよくわからず、プロのバイヤーたちの場慣れた感じに気圧されて、自分のお目当ての商品を競り落とす時は心臓がバクバクでした。ですがその時、ふつうなら自分にはまだ相応じゃないなと思うものや購入には躊躇してしまうものが、ヴィンテージの持つ、時を経た自然な風合いによって自分のスタイルに無理なく馴染んでくれることに気がつきました。また、そうしたものが時には運よく落札できてしまうという、ドルウォーの魔力に惹かれ、それ以降、プライベートでも気が向いた時に訪れるうちに、気軽に構えていられるようになりました。