ピーターさんは、デザイン学校に入学する前は、車の整備士や大工をしていたそうで、その経験を生かし、古民家を工房に改装する際のディレクションや家具や什器の製作なども自ら行っている。アトリエには溶接場を備え、なんと溶解炉もお手製だという
工房のほど近くにある家も、5年かけて改装され、作品を展示できるギャラリー的なスペースもあり。「今、作っている庭が完成したら、アポイント制でオープンしたい」と、ピーターさん。その日が今から楽しみだ。
126型吹き技法で作る和ガラス。泡がない透明度の高い仕上がりは、高い技術があるからこそなせる業。光を通すと美しい影が現れ、優しい揺らぎに魅せられる。陶器にはない楽しみ
祖父・鈴木表朔さん、父・睦美さんはそろって京都を代表する漆作家であり、幼少より器作りを見て育った玄太さん。自身は家にあった北欧のガラスに心惹かれ、大学卒業後はスウェーデンのコスタグラススクールに入学。吹きガラスの基本を学び、その後も、スイスやドイツ、イタリア・ベニスなどで修業を行い、腕と感性を磨いた。
帰国後、スタジオを構えるために、さまざまな土地を見て回ったが、現在スタジオを構える南砺のこの地を見た際、直感的に“ここだ”と思ったそう。目の前には田園が広がり、遠景には立山が連なるのどかな景色。自然が豊かで、修業したスウェーデンの風土にどこか似ていたという。
工房では、常に緑と光を感じながらガラス作りが行われている。「光がないと影も楽しめませんし、ガラスと光は仲よしなんです」と、鈴木さん。鈴木さんのガラスは高い技術で作られるため、気泡がなく、みずみずしい透明感が特徴だが、光を通すと、より透明度の高さを感じ、テーブルや壁に落ちる影までも息をのむほどに美しい。
ガラス製作は奥さまの智奈美さんと二人三脚で。工房の扉を開け放ち、芝生やたんぼの緑、山から吹く風、降り注ぐ光を感じながら行われる
三角屋根の水色の一軒家が鈴木さんが暮らし、ガラス制作を行うスタジオ。南側には芝生の庭が設けられ、その向こうには散居村の風景が広がる。「トスカーナのよう」とたとえる訪問者も
’03年のスタジオ開設時から作り続けられている透明コップ。透明感や使いやすさ、温かみを大切にした作品作りの原点に立ち帰れるそう。まさにエクラ世代にとっても「新名品コップ」
糸巻き長コップの製作風景。グラスを形作ったあと、奥さまの智奈美さんと連携作業で、細くのばした繊細なガラスの糸が中央に巻きつけられる
南砺のスタジオでは、さまざまな作品が生み出される。なかでもメインとなるのが、ひとつひとつ手で形を作る宙(ちゅう)吹きガラスだ。型に吹き込まないため、独自の温かみや柔らかさがあり、日常使いできる丈夫さも魅力だ。
さらに宙吹きガラスの表面に装飾を施したカットガラスも鈴木さんの得意とするところ。全体のバランスを見ながらオリーブの実のような模様を削っていくオリーブカットは穏やかな光をまとい、その優美さに魅了される。
10年前からは和ガラスにも力を入れ、料理人から人気を得ている。和ガラスとは江戸時代から明治初期まで日本で製造されていた型吹きガラスで、薄さや均一さ、透明感、和の色を再現するのがむずかしいとされているが、試行錯誤を重ね、見事、完成させた。
「いろいろな作品を手がけていても、自分の原点は無色透明の宙吹きガラスです。シンプルな透明コップを作ると、基本に立ち帰れ、新しい作品のアイデアがまた生み出されます」
漆作家である父・睦美さんが得意とした優美な曲線をガラスで表現した大鉢にリンゴのオブジェを飾って
オレンジ色の熱々のガラス種が、飴細工のように形作られていく。溶解炉はなんと1150℃。溶解炉から出したガラスは昔ながらの道具のほか、水にぬれた新聞紙を使って形が整えられる。「京都新聞がちょうどいい固さなんです」と、こだわって実家から取り寄せた京都新聞を使用
鈴木さんが原点とする無色透明な宙吹きガラス。酒器の飲み口は三角だったり四角だったり、自由に形作られていて温かみを感じる。花器にもオブジェにもなる“かばん”も好評。
オリーブカットの皿。バランスを見ながら削るため、ひとつひとつの模様は不規則ながら、全体的に見ると整った印象に。
和ガラスの小鉢。金型に吹き込む際に、ガラスがギュッと縮むため、影に水面のような揺らぎが映し出される。
表面に細く繊細なカットを施した涼しげなさざなみカット酒器。
「白marunouchi」で個展を開催(8/6まで)。その後は、9/7~12「一畑百貨店」、10/4~10「新潟伊勢丹」、11/1~6「大阪髙島屋」、12/1~6「銀座 日々」で個展を開催予定
鈴木玄太さんのスタジオ内にはギャラリーも併設されている。酒器やグラスなど、日常使いしやすい器からオブジェの大作まで、作品は多岐にわたって展示されている。ギャラリーに展示されている作品は一部なので、ねらっていた作品がない場合は、鈴木さん夫婦にたずねてみるのもおすすめ。ゆるやかな丘の上に立つ淡いブルーの一軒家の前では玄太さんの愛犬、オッタローが出迎えてくれたり、工房ながら家を訪れた気分に。芝生が生い茂る庭からたんぼや山々を眺めると、透明感に満ちたGenta Glassが生まれるインスピレーションの源を感じることができる。
玄太さんと、裏山散歩を終えてご機嫌の愛犬、オッタロー。芝生のテーブル席は、日々の朝食に使用するそう。庭の隣には自家菜園もあり、食事やお茶に使うハーブや野菜をその場でとったり、自然とともにある暮らしをかいま見ることができる
氷のブロックのように清涼感あふれる「湖」。上部の浅いくぼみに水を張ると、空に湖が浮いているように見え、オブジェとしても、草花を飾り花器としても使うことができる。
鈴木さんがガラス作家を目ざす原点となったアン・ヴォルフさんのコップをオマージュした「アンコップ」。
Data
富山県南砺市福光川西297
☎0763・52・5560
11:00 ~ 18:00 不定休
個展などのため長期休暇もあり。事前に連絡を
江戸・文政年間より「こうじ蓋製法」で、熟練の職人が米麹を作り続ける老舗。明治28年からは種麹屋となり、麹だけでなく、麹を作る際に必要不可欠な麹菌の胞子も販売している。店では、塩麹や味噌のほか、砂糖を使わず、米麹と富山県産のもち米、能登の海水塩で作る甘酒も人気。甘酒は冬の飲み物と思われがちだが、俳句の夏の季語であり、飲む点滴と称されるほど、栄養満点。店主・石黒八郎さんは、ふだんから、鈴木玄太さんのエミリ三角コップで甘酒を飲んでいるそう。「三角形がほかにはなく、手にもしっくりなじみます」
江戸時代に建てられた趣のある店構え。店内には明治時代の照明が吊られているが、実はシェードは鈴木玄太さん作。お気に入りだったライトが割れてしまった際、残った金枠にぴたっとはまるガラスシェードの製作を鈴木さんに依頼したそう
Data
富山県南砺市福光新町54
☎0763・52・0128
9:00~18:00(土・日曜、祝日10:00 ~17:00)
定休日:第1・3・5日曜
昔ながらの麹あま酒500g¥790、麹職人のこだわり甘露味噌650g ¥1,290、料理研究家御用達の生塩こうじ250g ¥790
25軒からなる野口集落に立つ一日3組限定のオーベルジュ。この地は、もともとオーナー家族が暮らしていた場所で、「里山の景色を心ゆくまで楽しんでほしい」と’05年に開業。レストランでは、地元でとれた野菜をはじめ、富山の食材を使い、和のエッセンスを織り交ぜたフレンチを味わえる。毎夏登場する「夏野菜のテリーヌと鮎の塩焼きガスパチョのソース」は鈴木玄太さんの宙吹きガラスのボウルと皿を重ねて提供される。透明度が高く、まるで"水の器"のように美しく、ゲストを魅了。帰りにギャラリーを訪れる人も多いそう。
鮎は和の技法を用い、遠火の強火で外は香ばしく、中はふっくら焼き上げた「夏野菜のテリーヌと鮎の塩焼きガスパチョのソース」。
食後のアイスコーヒーも鈴木さんの「ペコペココップ」で出される。表面のでこぼこが手に絶妙にフィット。
3部屋ある客室は、どの部屋からも里山の景色を楽しむことができる。
季節の花が咲き誇る手入れの行き届いた庭の向こうにたんぼ、さらに借景には高清水山が広がるおおらかな眺め。
Data
富山県南砺市野口140
☎0763・62・3255
1泊2食つき¥30,000 ~
チェックイン15:00、チェックアウト11:00
レストラン12:00 ~ 12:30入店、18:00 ~ 19:00入店 昼のコース¥5,000、夜のコース¥8,000 ~ 要予約
「後ろからの優しい光こそがガラスをきわだたせます」と、棚の後ろに和紙を貼って。室内に入り込んできたつる草も可憐さを添えている
ピーター・アイビーさんの創作意欲は「使いたいものを作る」からきている。生まれ育ったアメリカでは主にオブジェを制作していたピーターさんだが、’02年に来日してからは用途のあるものづくりへの興味がわいてきたそう。さらに’07年、富山の農村部に転居した当初、古民家の納屋を工房にするため自ら改装をしつつ、主夫をしていた時期があり、その経験が現在の機能美に満ちた作品に行きつくきっかけになったという。
代表作であるジャーもこのときに誕生したもので、コーヒーや米を収納しておくシンプルで使いやすいガラスのジャーが見つからず、自分で作ったことが始まりに。それがたまたま青山のギャラリストの目にとまり、ギャラリーで展示販売されるようになった。その当時はまだまだ西洋的な装飾や民芸テイストなガラスが主流であり、対照的なミニマリスト的なアプローチが注目され、ガラス工芸の新潮流の先駆けとして国内外で評価されることになった。
自宅の台所の棚にはピーターさんの作品がズラリ。ピーターさんは、ふだんから料理や家事を行い、アイデアが浮かぶとすぐにプロトタイプを製作。自宅で使ってみて、何度も修正を重ね、使いやすさを追求し、製品化される
縁側でくつろぐパートナーのいつかさんと息子さん。自宅と工房、アトリエが隣接して立ち、暮らしと仕事が一体になっている。自宅は古民家の柱や梁を生かしつつ、大胆にリノベーションされている
ガラス作品は、成型されたあと、じっくり時間をかけて冷まされる。1枚で見るとほんのり淡い色だが、重なり合うとグリーンが色濃くなり、違った表情を楽しめる
縁が少しだけ立ち上がった高い技術で作られるプレート
パスタ入れをはじめ、さまざまなサイズがそろう「Jar」シリーズ
スタイリスト・高橋みどりさんとのコラボによる「KOBO」は、ピーターさんを中心に、工房のスタッフみんなで手がけるシリーズになっている。「kaku」は、木製プレートつきで、保存容器として使う際はプレートを蓋にしたり、食卓に出す際はコースターや小皿にしたり、マルチに使える
グレーを帯びたガラス越しにフィラメントの温かな光が広がる「ライトカプセル」。自宅にある吹き抜けホールには、作品を展示。ゆくゆくは一般向けにオープンされる予定だ。奥に見える建具にはめられた板ガラスもピーターさん作
ピーターさんのかけ声で、パートナーのいつかさんが吹き竿に息を吹き入れ、ピーターさんが成型を行う。型吹きの際に使用する金型は、通常、鋳物職人に発注されることが多いが、こちらもお手製
PETER IVY FLOW LAB
Data
富山県富山市婦中町富崎4717の1
要予約で工房での販売もあり(見学のみは受けつけていない)。
東京「OVER THE COUNTER」「岡の」「08BOOK」、栃木「TAMISER TABLE」、京都「HIN」、兵庫「MORIS」などで取り扱いあり
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