【藤を訪ねて、古都の旅へ<まとめ>】藤原氏ゆかりの地「奈良・春日」と「京都・宇治」へ

初夏、風に吹かれると揺れ、小さな花が外向きにたわわに連なる姿が可憐な藤。『源氏物語』の物語にもたびたび登場し、『枕草子』にも「藤の花は、しなひ長く、色濃く咲きたる、いとめでたし」と古くから愛されている。藤原氏とも深いつながりをもち、古いにしえからの物語をもつ藤を求めて奈良、京都へ。きっと私たちの心を平安にしてくれる旅になるはず。

春日大社

山藤の名所 自然と共生する 奈良・春日大社へ

藤と鹿、そして人。古より自然と共生する希有な地

藤と鹿、そして人。古より自然と共生する希有な地

至るところに咲き誇る藤。藤棚の名所は多くあれど、山藤の名所は春日大社をおいてほかにはない。


なぜこんなにも野生の藤が咲き誇っているのか? その理由は西暦841年、神の山・春日山の狩猟伐木を禁じた太政官符の勅令にある。木一本切らなかったことから古代からの原生林が守られ、現在では先進国で唯一の都市に寄り添う原生林として世界遺産に指定されている。木に寄生する藤は、里山では伐採されることが多いが、春日大社では現代にいたるまでのびのびと咲いている。


春日大社は約1300年前から、天皇家をはじめ、藤原摂関家や将軍家などに広く信仰される日本屈指の神社。社紋は“下り藤”で、大河ドラマで今年注目の藤原氏の氏神でもある。銘木中の銘木といわれる「砂ずりの藤」も、その子孫である近衛家から贈られたものと現在にいたるまで縁が深い。

かの有名な鹿は、回廊内もナチュラルに闊歩し、ここでは人間も動物もボーダレス。そんな中で眺める藤は、自然と一体化したような穏やかで、静かな喜びに導いてくれる。

藤の銘木中の銘木といわれる「砂ずりの藤」

藤の銘木中の銘木といわれる「砂ずりの藤」。長いときには1m以上にもなり、砂に擦れることから名づけられた。樹齢700年以上で、藤原氏直系・五摂関筆頭の近衛家から奉納されたもの

早朝の飛火野(とびひの)

早朝の飛火とびひの)。山藤の横で神鹿がゆったりと草を食はむ。「年によって藤の咲き方が違い、いつも新たな発見があります。雨の日の藤も素敵ですよ」とは春日大社・広報の秋田真吾さん。飛火野は春日大社参道に面した広大な芝生の原。御蓋かさやま)の絶好のビューポイントでもある

境内の大木にからまる藤

境内の大木にからまる藤。蛇のような力強い幹はひとつとして同じものはなく、印象深い

地面を削らず、自然の地形を生かして建てられた。

地面を削らず、自然の地形を生かして建てられた。回廊も斜めで、連子窓の傾斜も微妙に違う

巫女の簪(かんざし)やお守りなど随所に藤のモチーフが!

巫女の簪(かんざし)やお守りなど随所に藤のモチーフが! 1000年前の雅なお祭りが途切れることなく続く。写真は春日若宮おん祭にて

藤の紫と朱色。自然と人が織りなす唯一無二の景色がここに

藤の紫と朱色。自然と人が織りなす唯一無二の景色がここに

まるで境内、中門や回廊を覆うように山藤が咲き誇る。約3000基もある灯籠は、平安時代から現代にいたるまで、貴族、武士、商人や一般人などから広く奉納されたもの。そのデザインの中にも多く藤が登場する。近代では中門にかかる近衛篤麿が奉納した金の釣灯籠が見事!

春日大社
春日大社

春日大社

8世紀初め、鹿島(常陸国・現在の茨城)から武甕槌命タケミカヅチノミコト)が鹿に乗ってきて御蓋山に降臨し、経津主命(ツヌシノミコト)、天児命(アメノコネノミコト)、比神(ヒメガミ)をあわせてお祀り。その後、768年称徳天皇の命により現在への社殿が創建されたのがはじまり。今も宮中から勅使が参向する春日祭はじめ、春日若宮おん祭など、応仁の乱など戦乱がない奈良にそのまま残っている祭りや芸能も多い。

Data

奈良県奈良市春日野町160
☎0742・22・7788 御本社参拝自由
6:30~17:30(3~10月)、7:00~ 17:00(11~2月)

御本殿特別参拝料/¥500(中門および回廊) 9:00~16:00

JR・近鉄奈良駅から奈良交通バスで約15分 ※藤の見ごろは4月中旬から5月下旬まで

春日大社 国宝殿

“平安の正倉院”と称される
宝物(ほうもつ)にも藤モチーフが満載!

春日大社は平安時代に制作された神宝類が数多く残っていることから「平安の正倉院」とも称されている。国宝殿はそれら神宝類をはじめとする国宝354点及び重要文化財1482点やその他多数の文化財を収蔵しており、年3回の特別展のテーマにあわせて随時展示公開している。1階展示室のインスタレーション空間や日本最大級の鼉太だいこ)も必見。

春日本(かすがぼん)『春日権現験記』 第二巻

春日かすがぼん)『春日権現験記』 第二巻

平安から鎌倉時代にいたる春日明神の数々の霊験譚が収録された絵巻物。第二巻には白河上皇が春日御幸されたときの様子が描かれている。場面は藤原氏をはじめとする公卿が東(あずまあそび)の舞を奉納するところ。松の樹の枝葉には藤原氏の繁栄を象徴する藤の花が咲いている

重要文化財 『藤花松喰鶴円鏡(とうかまつくいづるえんきょう)』

重要文化財 『藤花とうかまつくいづるえんきょう)』

平安時代から日本人に好まれた松喰鶴文様が施された鏡。松喰鶴に藤の花を合わせた意匠は珍しく、春日社と藤原氏の所縁を感じさせる

藤の開花時季限定(4月初旬から授与予定・初穂料¥1,000)の「藤まもり」

藤の開花時季限定(4月初旬から授与予定・初穂料¥1,000)の「藤まもり」が、近年大人気。数量限定で、即在庫切れになるとか。※授与は春日大社本社のみ(国宝殿での授与はない)

国宝 『赤糸威(あかいとおどし)大鎧(竹虎雀飾)』

国宝 『赤糸あかいとおどし)大鎧(竹虎雀飾)』

春日明神へ寄進するために制作・奉納されたと考えられる、きらびやかな飾金物が随所に施された非常に豪華な大鎧。兜の吹(ふきかえし)部分に藤の花が見られる。日本を代表する鎧の名作で、端午の節句の鎧飾りのモデルともなっている

春日大社 国宝殿

春日大社内

10:00~17:00(入館は16:30まで)

拝観料/一般¥500

春日大社 萬葉植物園

萬葉集に詠まれた草木が歌とともに展示された日本で最も古い萬葉植物園。なかでも必見は「藤の園」。20品種、約200本の藤が植えられ、風光優美な庭園になっている。早咲きの開花から遅咲きが咲き終わるまで約2週間。期間中は混雑するため平日の来園がおすすめ。

むせ返るような花の香りが漂う優雅な“藤の園”でうっとり

むせ返るような花の香りが漂う優雅な“藤の園”でうっとり

一般的な棚造りではなく「立ち木造」というこだわりの形式をとり、藤棚のように見上げずに、目線の位置で花を観賞できる。自然なつくりで、どこか心安らぐ雰囲気に

麝香藤

麝香藤

本紅藤

本紅藤

九尺藤

九尺藤

早咲きのころには、園内に香りを広げる中国の「麝香藤(じゃこうふじ)」や濃いピンク色の「昭和紅藤(しょうわべにふじ)」など、珍しい藤が多く咲く。期間の中旬から長い房の藤や「八重黒龍藤やえのこくりゅうふじ)」などが咲きはじめる

春日大社 萬葉植物園

春日大社内

9:00~16:30(入園は16:00まで)

拝観料/一般¥500

※開花時期は例年4月中旬から5月初旬まで

平等院

『源氏物語』の香りを感じる 京都・宇治の藤めぐり

心安らかな時を求め 宇治に過ごした平安貴族たち

琵琶湖を源とし、深い山の狭間を流れる宇治川。その変化に富んだ景色に魅了された平安貴族たちにとって、宇治は都の喧騒を逃れる山荘を構える地。

かつて紫式部も訪れ、『源氏物語』の「宇治十帖」の舞台に選んだ宇治。平安の麗しい公きんち)の薫(かおるのきみ)と匂におうみや)が、愛しい姉妹や可憐な浮舟のいる宇治へ通う姿とその悲恋の結末が、今もこの地をいっそう風雅な地にしているよう。

現在、その地の中心である平等院は、紫式部に深くかかわった関白・藤原道長の山荘を、のちに息子・頼通が寺院に改建したもの。創建当時、都では疫病や災害が続き、人々は不安な時を過ごした。それを救っていたのが阿弥陀仏を崇敬する「浄土信仰」で、「平等院」は、まさに地上に極楽浄土を具現した世界。頼通は、ここで自らの心の平安を得るとともに、人々の平穏な暮らしを祈願したとも。浄土があるとされる西を背に鎮座する金色に輝く『阿弥陀如来坐像』。夕方、西を染める赤い陽光を背景に見る鳳凰堂の姿は、思わず手を合わせずにはいられない景色だ。

また新緑が山を包み、薄紫の藤が咲く季節、宇治はいっそう艶(あで)やかに。川沿いの散策はすがすがしく、しばし歩みを止め、木々が映る川面を眺めるひと時を。町には宇治茶を楽しめる店も多く、さらにこの地を古くから守護する宇治上神社などの史跡をめぐる散策路を歩けば、宇治の魅力をさらに実感。平安貴族たちが、心の平安を求め訪れた地は、今も変わらず訪れる人を癒すはず。

【藤を訪ねて、古都の旅へ<まとめ>】藤原氏ゆかりの地「奈良・春日」と「京都・宇治」へ_1_18
©平等院

鳳凰堂そばの藤は、樹齢280年といわれ、花房は地面に触れるほどの1m以上になるため「砂ずりの藤」の呼称も。極楽浄土から降り注ぐかのような花越しに望む優美な建物の姿は、まさに平安時代へタイムトリップしたよう。藤の花の見ごろ/4月中下旬~5月初旬。同時期ツツジも開花

華やかなりし、藤原氏の栄華の時代。平安貴族たちが愛めでた藤に思いを馳せて

華やかなりし、藤原氏の栄華の時代。平安貴族たちが愛めでた藤に思いを馳せて
Ⓒ平等院

平等院

永承7(1052)年に関白・藤原頼通によって、父・道長の別荘の地に創建された寺院。極楽浄土の宮殿をイメージし、池に姿を映す鳳凰堂には、『阿弥陀如来坐像』(国宝)や壁扉画など、平安期の浄土教美術の頂点を集約。

京都府宇治市宇治蓮華116

☎0774・21・2861
拝観受付時間8:30~17:15

拝観料/¥700(ミュージアム鳳翔館を含む)

「鳳凰堂」内部拝観受付9:00~16:10 先着順各回定員50名

志納料/300
JR奈良線・京阪宇治線宇治駅徒歩10分

ミュージアム鳳翔館

2001年に開館した登録博物館。国宝を含め重要文化財の『十一面観音菩薩立像』など、平等院に伝わるさまざまな宝物を所蔵展示。平等院創建以前の平安美術品・彫刻も見応え十分。鑑賞しやすい照明の工夫など最先端の展示方法により感動もひとしお。

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「鳳凰堂」の壁面にかけられた『雲中供養菩薩像』(国宝)。衣を翻し天空を飛ぶ天女や童子の姿が極楽浄土へと誘う。全52躯のうち26躯を「鳳翔館」に展示。最新の展示方法により、平安時代の仏師の卓越した技術を間近で見られ、そのすばらしさには目を見張るばかり

Data

入口は、「鳳凰堂」南側に
入館受付時間9:00~16:45
平安美術をモチーフにしたオリジナルグッズが豊富なミュージアムショップ(9:00~17:00)も必見

茶房 藤花

「ミュージアム鳳翔館」に隣接する日本茶の専門店。すがすがしい緑の木々を眺めながら本場宇治茶を一服。日本茶インストラクターによる厳選された京都産の茶葉ブレンドは、緑茶のおいしさを改めて実感させる芳醇な味わい。

【藤を訪ねて、古都の旅へ<まとめ>】藤原氏ゆかりの地「奈良・春日」と「京都・宇治」へ_1_23
Ⓒ平等院
【藤を訪ねて、古都の旅へ<まとめ>】藤原氏ゆかりの地「奈良・春日」と「京都・宇治」へ_1_24
Ⓒ平等院

玉露、煎茶、抹茶、冷茶など、好みの味わいとともに世界遺産でのんびり過ごす贅沢なひと時を。屋外にいるような開放的なスペースは、冬には、目の前にサザンカの艶(あで)やかな色彩が広がり、その美しさにも心奪われる

Data

10:00~16:00LO
㊡月・火・水曜(祝日の場合は営業)

「平等院」南門そば、「ミュージアム鳳翔館」に隣接

宇治川下り

平安貴族たちが好んだ風雅な船遊び。その趣(おもむき)を体験するのも宇治ならではの楽しみ。春、中州をめぐる観光遊覧船から眺める川沿いのさまざまな桜は、陸とは異なるいっそう美麗な景色を見せてくれる。

宇治川下り
宇治川下り

琵琶湖から流れ出る唯一の河川、宇治川。その流れはやがて淀川となり、大阪湾へ。山間を縫うように流れる宇治地域は、野生の藤の花が木々に咲く景色も美しい

Data

宇治川観光遊覧船

京都府宇治市宇治塔川3
☎0774・21・2328(宇治川観光通船)

10:00~15:00
運行期間/3月中旬~6月下旬 ※不定期運航のため事前に要確認 

乗合遊覧船 乗船代/¥600(所要時間15~20分)
要予約(10人からの予約のみ可能)

宇治市 源氏物語ミュージアム

『源氏物語』をテーマに1998年に開館。実物大の牛車や調度品などをはじめ、ハイビジョン映像や六条院の模型などで、物語の世界をわかりやすく紹介。映像展示室での「宇治十帖」をテーマにしたオリジナル映画は必見。

【藤を訪ねて、古都の旅へ<まとめ>】藤原氏ゆかりの地「奈良・春日」と「京都・宇治」へ_1_27
宇治市 源氏物語ミュージアム

五十四帖の『源氏物語』の最後の十帖の舞台である宇治では、「宇治十帖モニュメント」が物語へと誘(いざな)う。宇治川右岸(東岸)・朝霧橋のたもとには、浮舟と匂宮の悲恋を表す姿が……。宇治橋西詰には、「紫式部像」も

Data

京都府宇治市宇治東内45の26

☎0774・39・9300

9:00~17:00(受付は16:30まで)

㊡月曜(祝日の場合は翌日)、年末年始
入館料/¥600
京阪宇治線宇治駅徒歩8分

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