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【エクラ1月号特別付録】山本容子さん2025年カレンダー「A Christmas Memory」
2025年1月号付録は、創刊以来、毎年人気を博している山本容子さんの銅版画作品カレンダー。トルーマン・カポーティ著/村上春樹訳『クリスマスの思い出』(’90年)を彩った小さな銅板画14点をピックアップ。エクラ1月号は2024年11月29日発売、どうぞお買い逃しなく!
【2025年カレンダー特別インタビュー 山本容子と世界文学】カポーティに導かれて。30年以上の時を経て村上春樹とコラボ!〈前編〉
村上春樹さんの新訳と銅版画でコラボレーション
山本容子さんはこの1年、大仕事に取り組んでいた。手がけていたのは『哀しいカフェのバラード』。作家、カーソン・マッカラーズが70年ほど前に書いた、アメリカ文学を代表する作品で、村上春樹さんが新たに翻訳し、山本さんが銅版画を描いた。「これは、挿絵ではないんです。村上さんの翻訳は本当に美しい文章で、物語がすっと心に入ってくるのだけれど。私は私で、銅版画で物語を描きたいと思った。だから翻訳と銅版画のコラボレーション、とでもいうのかしら。時間軸に素直に、絵巻物みたいな感覚で描きました」
確かに、今までとは絵の雰囲気が、どこか違って見える。
「十余年前に始めた俳句の影響もあるのかな、描写されている雪とか感情とか環境とか空気をそのまま写し取るように描きましたね。それでいて文章のじゃまにならず、読者が文章を読みながら同時に絵を見て、何かを感じてくれるように。これは今まで私がやったことのないアプローチで、ある種の挑戦だったんです」
使っているのは、ローズ・サンギーヌという深みのある色。
「血の色です。肌に透けて見える、生命の色。すごく複雑な世界をこのローズ色だけで表現できたらおもしろいと思ったのね。物語の後半、孤独の気配が濃くなるとブルーが加わって、紫になるの」
山本さん、この作品群についての説明には、いつもより熱がこもる。’25年にはデビュー50周年となる彼女だけれど、今も挑戦と進化が続いているのだ。そのキャリアは初期から深く、文学と結びついていた。
人間を描きたくてカポーティにアクセス
芸術大学に在学中、バンドエイドを並べて描いた作品群が展覧会で注目を集めたのが、銅版画家・山本容子の、そもそもの始まり。バンドエイドの次はカミソリ、果物、ロンドンの街の風景。そして、「さて次は人間を描こうと思ったら、情けないことに、描けないの!」。
もちろん人間の、形だけの絵は描ける。けれどもの足りないのは、そこに物語が存在しないから。そう感じた山本さんは、本を手にとった。文学との、長い付き合いの始まりだ。「当時、27歳。自分に足りないものは何かと自問自答して、わかったら、そこから次が始まるんです。トルーマン・カポーティを選んだのは、殺人者から無垢な少年まで、多種多彩な人物の物語を書いているから」
カポーティの本にインスパイアされて生まれた作品をまとめたのが、『カポーティ・スイート』と銘打った個展だった。
「その10年後です。村上春樹さんがカポーティの作品を翻訳して本を出すにあたり、ぴったりの絵を描く人を探していて。たまたま私の『カポーティ・スイート』を見ていた人が、私のことを思い出してくれたのね」
村上春樹さんとコラボした本は大好評で、カポーティのクリスマス3部作が次々に発刊された。2025年版エクラのカレンダーは、その中の一冊『クリスマスの思い出』から作られている。
「その後、集英社の『世界の文学』全20巻をはじめ、文学との付き合いが本格的になりました。読むだけじゃなく実際に行きたくなって、ヨーロッパもメキシコもルーマニアもロシアも、おもしろそうだと感じたら、囓りたいのが私なの(笑)。そうやって世界各地のリアルな現実と文学を、タテ糸とヨコ糸のようにして、作品を織り上げてきたような気がします」
さらにシェイクスピアの『ソネット』、ジェイムズ・ジョイスの『フィネガンズ・ウェイク』『ユリシーズ』、ゲーテの『ファウスト』、プレヴェールやアポリネールの詩集などなど、次々と文学を咀嚼し、のみ込みながら、山本さんは創作を続けてきた。
そしてカポーティの本から36年後の’24年、村上春樹さんから再びオファーを受けて、『哀しいカフェのバラード』でのコラボが実現したのだ。
約1年後、完成した作品を見るために、村上春樹さんは山本さんのアトリエに足を運んだ。
「ああ、この人はこういう顔をしていたんですね」
納得のできばえだったようだ。
“30年以上の時を経て村上春樹さんとタッグを組みました”
村上春樹さんが訳した文章にインスパイアされつつ山本さんは「絵巻物のように」描いた。生命感を表現するためにローズ・サンギーヌという色を選択。愛と孤独を描いた世界が、よりなまなましく立ちのぼってくる
物語全体を見渡して、「ここにこの画が欲しい!」と設計図を作り、行数を計算しながら32点の画を組み込んだ。村上さんは「安堵の息をつくというか、深く感心した」と賞賛
村上春樹さんとタッグを組んだクリスマス3部作『おじいさんの思い出』『あるクリスマス』『クリスマスの思い出』(文藝春秋)。3冊そろって収納できる特装版カバーには『カポーティ・スイート』の作品が
“世界の文学を通じて人の心や人生を学び、それが創作につながりました”
『カポーティ・スイート』の代表作を手にする山本さん。まだ新人画家だった彼女が、自主制作で創作したシリーズだった。「27歳の私に“よくやった”とほめてあげたいわ(笑)」
’90年『クリスマスの思い出』のために山本さんが描いた原画の数々。挿絵として依頼されたのではなく、村上さんが訳したカポーティの世界にインスパイアされて創作したもの。作者が愛した懐かしい思い出の数々が、夢のように優しい色調で描かれている
『哀しいカフェのバラード』
カーソン・マッカラーズ著/村上春樹訳/山本容子銅版画(新潮社)
村上春樹さんがいつか訳したいと願っていた愛と孤独の物語。アミーリアは突然現れた小男が気に入り同居するが、そこに元夫が刑務所から戻ってきて……。
『クリスマスの思い出』
トルーマン・カポーティ著/村上春樹訳/山本容子銅版画(文藝春秋)
カポーティの作品の中でも〈イノセント・ストーリー〉と呼ばれる、善意に満ちた作品群の代表作。作者自身の少年時代を反映している。
エクラ2025年カレンダー「A Christmas Memory」
トルーマン・カポーティ著/村上春樹訳『クリスマスの思い出』(’90年)を彩った小さな銅板画14点(表紙を含む)を原寸大のサイズでカレンダーに。描かれているのは少年がアラバマの農場で過ごした春夏秋冬の日々の暮らし。ユーモラスで優しい世界がそこにある。
Information
『山本容子版画展世界の文学と出会う~カポーティから村上春樹まで』
早稲田大学国際文学館(村上春樹ライブラリー)
世界文学を糧に成長してきた軌跡をたどる
2025年にデビュー50周年を迎える銅版画家・山本容子さんの膨大な作品の中から「世界の文学」をテーマに構成する版画展。8カ月にわたって展示される。ブックデザイン、広告、パブリックアートなど多彩な活動を続ける彼女は、人生を通じて常に文学と真摯に向き合い、創作の糧としてきた。期間中に展示替えあり。
Ⅰ期:〜’25年1月31日(金)
Ⅱ期:’25年3月3日(月)〜5月27日(火)10:00〜17:00
定休日 水曜、2月1日〜3月2日ほか(開館日はwebサイトでご確認ください)
入場無料
https://www.waseda.jp/culture/wihl/
カレンダー掲載の銅版画をエクラプレミアム通販で購入できます!
エクラ2025年カレンダーに掲載した『クリスマスの思い出』の14点の銅版画を、エクラプレミアム通販にて数量限定で販売します。今年はぬくもりあるナラ材の額(右)とクリスマスらしい華やかさのある銀箔の額(左)の2種類の額から選択可能に。10×8㎝(イメージサイズ)の小さな絵が暮らしを彩ります。
クリスマスツリーとそれを見つめる犬が愛らしい『waiting』¥71,500(ナラ材の額・商品コード430999)
今年は銀箔の額縁も選べます!
少年と老婆、犬の幸せそうな家族の肖像。今回のカレンダーの表紙にもなった『family』¥80,300(ポプラ材に銀箔張りの額・商品コード431001)/エクラプレミアム通販 すべてソフトグランド・エッチング、手彩色
山本 容子
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【2025年カレンダー特別インタビュー 山本容子と世界文学】最新作『哀しいカフェのバラード』の原画たちの魅力を語る〈後編〉
エクラ1月号特別付録の2025年カレンダーを彩るのは、山本容子さんの『クリスマスの思い出』。長いキャリアの入口で、カポーティとの出会いが、その後の創作活動の羅針盤となった。世界の文学は彼女に何を与え、何をかたちづくったのか。’24年10月1日から、50年にわたる創作活動が展示された『山本容子版画展』が早稲田の図書館にて開催。山本さんに最新作の見どころを聞いた。
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