【2025年カレンダー特別インタビュー 山本容子と世界文学】最新作『哀しいカフェのバラード』の原画たちの魅力を語る〈後編〉

エクラ1月号特別付録の2025年カレンダーを彩るのは、山本容子さんの『クリスマスの思い出』。長いキャリアの入口で、カポーティとの出会いが、その後の創作活動の羅針盤となった。世界の文学は彼女に何を与え、何をかたちづくったのか。’24年10月1日から、50年にわたる創作活動が展示された『山本容子版画展』が早稲田の図書館にて開催。山本さんに最新作の見どころを聞いた。
村上春樹ライブラリーの2階で展示中。

村上春樹ライブラリーの2階で展示中。年代やジャンル、作品ごとに画家・山本容子の成長と変遷を目の当たりにできる

50年にわたる創作活動が早稲田の図書館に大集結

’24年10月1日から、『山本容子版画展』が開かれている。なかでも目をひくのが、最新作『哀しいカフェのバラード』の原画たち。作品は一枚一枚板に貼られ、壁に立てかけられて並んでいる。

「ほかの作品もそうですけど、皆さんが見るのはたいてい本のプリントなので、原画の空気感や色彩が、伝わりにくいんです。ぜひ生で、原画を体感していただきたいです」

銅版画家としての進化も、一望に見渡せる。シリーズごとに画材が違うし、作風も世界観も変わる。洒脱で都会的、だけじゃない作品が、ブースそれぞれに息づいている。

「作家である私も年齢を重ねて、描く内容が変わっていく。だから若いころの作品をまねするのは、嘘なの。いかに違うか、見てほしいです」

そうやって進化するため、変化するために、世界文学は必要不可欠な栄養素だった。

「それはきっと、誰にとってもそうだと思うんです。私は文学からいろいろ吸収したけれど、なかでも一番重要なのは、自由であること。例えば『ユリシーズ』の第12章、難解な物語とされているけれど、語り手が犬だという解釈があってね(笑)。そう思って読むとすごく腑に落ちる。何にもとらわれる必要はない、ということですね。それに世界文学って、とっつきにくい印象があるけれど、最近は個性的で才能豊かな翻訳家のかたも多いし。現代の文学にもおもしろいものがいっぱいあるし、ね」

次は何を読もうか。その本はどこに連れていってくれるのか。私たちも手をのばせばそこに、新しい世界が待っている。

『哀しいカフェのバラード』の銅版画をアトリエと同じように板に貼りつけた状態で展示。

『哀しいカフェのバラード』の銅版画をアトリエと同じように板に貼りつけた状態で展示。「制作のリアルな過程を皆さんにもお見せしたくて」と、山本さん。創作への情熱が繊細な線の運びとなって、じかに伝わってくる

山本容子と世界文学との最初の接点となった『カポーティ・スイート』。

山本容子と世界文学との最初の接点となった『カポーティ・スイート』。人間を知り、物語の深さを知るために、彼女が最初に選んだ文学者がカポーティだった

村上春樹さんとタッグを組んだクリスマス3部作の作品群。

村上春樹さんとタッグを組んだクリスマス3部作の作品群。’88年から’90年、バリバリと描き進めていた

会場の早稲田大学国際文学館『村上春樹ライブラリー』は文学資料館であり、交流の場。

会場の早稲田大学国際文学館『村上春樹ライブラリー』は文学資料館であり、交流の場。カフェも併設されており、村上さんが収集したレコードやCDも収蔵

キャンパスそのものをミュージアムに、という早稲田大学の目論見に、山本容子版画展はぴったり。

キャンパスそのものをミュージアムに、という早稲田大学の目論見に、山本容子版画展はぴったり。緑豊かな環境で、ゆったりと楽しめる。展覧会は’25年5月末まで開催され、3月3日から第Ⅱ期の展示が始まる

『哀しいカフェのバラード』

『哀しいカフェのバラード』
カーソン・マッカラーズ著/村上春樹訳/山本容子銅版画(新潮社)
村上春樹さんがいつか訳したいと願っていた愛と孤独の物語。アミーリアは突然現れた小男が気に入り同居するが、そこに元夫が刑務所から戻ってきて……。

『クリスマスの思い出』

『クリスマスの思い出』
トルーマン・カポーティ著/村上春樹訳/山本容子銅版画(文藝春秋)
カポーティの作品の中でも〈イノセント・ストーリー〉と呼ばれる、善意に満ちた作品群の代表作。作者自身の少年時代を反映している。

Information

『山本容子版画展世界の文学と出会う~カポーティから村上春樹まで』
早稲田大学国際文学館(村上春樹ライブラリー)

世界文学を糧に成長してきた軌跡をたどる
2025年にデビュー50周年を迎える銅版画家・山本容子さんの膨大な作品の中から「世界の文学」をテーマに構成する版画展。8カ月にわたって展示される。ブックデザイン、広告、パブリックアートなど多彩な活動を続ける彼女は、人生を通じて常に文学と真摯に向き合い、創作の糧としてきた。期間中に展示替えあり。

Ⅰ期:〜’25年1月31日(金)
Ⅱ期:’25年3月3日(月)〜5月27日(火)10:00〜17:00
定休日 水曜、2月1日〜3月2日ほか(開館日はwebサイトでご確認ください)
入場無料
https://www.waseda.jp/culture/wihl/

エクラ2025年カレンダー「A Christmas Memory」

エクラ2025年カレンダー「A Christmas Memory」

トルーマン・カポーティ著/村上春樹訳『クリスマスの思い出』(’90年)を彩った小さな銅板画14点(表紙を含む)を原寸大のサイズでカレンダーに。描かれているのは少年がアラバマの農場で過ごした春夏秋冬の日々の暮らし。ユーモラスで優しい世界がそこにある。

カレンダー掲載の銅版画をエクラプレミアム通販で購入できます!

エクラ2025年カレンダーに掲載した『クリスマスの思い出』の14点の銅版画を、エクラプレミアム通販にて数量限定で販売します。今年はぬくもりあるナラ材の額(右)とクリスマスらしい華やかさのある銀箔の額(左)の2種類の額から選択可能に。10×8㎝(イメージサイズ)の小さな絵が暮らしを彩ります。

『waiting』¥71,5 00(ナラ材の額・商品コード430999)

クリスマスツリーとそれを見つめる犬が愛らしい『waiting』¥71,500(ナラ材の額・商品コード430999)

今年は銀箔の額縁も選べます!

『family』¥80,300(ポプラ材に銀箔張りの額・商品コード431001)

少年と老婆、犬の幸せそうな家族の肖像。今回のカレンダーの表紙にもなった『family』¥80,300(ポプラ材に銀箔張りの額・商品コード431001)/エクラプレミアム通販 すべてソフトグランド・エッチング、手彩色

Profile
山本 容子

山本 容子

やまもと ようこ●’52年生まれ。京都市立芸術大学卒。銅版画家。都会的かつ軽快洒脱な色彩で独自の銅版画の世界を確立。2025年に画業50周年を迎える。ジュンク堂書店福岡店で12月3日まで、丸善岡山シンフォニービル店で12月11日から23日まで個展を開催。
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