「夢を叶えるために踏み出す…いつだって、その時が"今"だった」『レ・ミゼラブル』新ジャン・バルジャン役 飯田洋輔さんスペシャルインタビュー【前編】

現・帝国劇場の最終演目となるミュージカル『レ・ミゼラブル』がいよいよ開幕。劇団四季で数々のプリンシパルを務めてきた飯田洋輔さんは、記念すべき公演でデビューを飾る。40歳にして新天地を求め、第一歩を踏み出した大型“新人”の語るこれまで、そしてこれからを、前後編で届ける。
『レ・ミゼラブル』新ジャン・バルジャン役 飯田洋輔さん

「案外、前にしゃしゃり出ないタイプなんです」

――劇団四季で長くプリンシパルとして活躍してきた飯田さん。「俳優は作品を輝かせるために存在する」という主義が貫かれていたこともあり、これまでステージ以外での姿を拝見する機会がなかなかありませんでした。
劇団にいるときは年間200ほどのステージに立っていたので、きっと何かの演目でお目にかかったことがあるのではないかと思います。劇団に入ったのは大学生だった2004年で、初舞台は『ジーザス・クライスト=スーパースター』ジャポネスクバージョンのアンサンブル。その後、『美女と野獣』のビースト、『オペラ座の怪人』のタイトルロールなどを演じました。
――少年時代から劇団四季に入ることを目指して、東京藝術大学で声楽を学ばれたとのこと。初舞台は感激だったでしょうね。
そうですね。初舞台の稽古前にマイクをつけた状態で何気なく歌ったら、周りの先輩たちが「えっ」という表情になったのを覚えています。19歳の大学生が来ると聞かされていたのに、いったいどんな声してるんだ?と、驚かれたみたいで(笑)。中学2年生のときに初めて『キャッツ』を観て、劇団四季のCDを聴いているうちに、こういう歌を歌いたい、ミュージカルを仕事にしたいと思うようになりました。でも、どうやったらそうなれるのか、地方の中高生には想像がつかないですよね。そんな中で、ある指導者の方から「四季に入りたいなら藝大に行け」と助言されて。基礎をちゃんとやっておいたほうがいいという教えだったのですが、今思うと、とてもよいアドバイスだったと思います。『キャッツ』にもその後、アスパラガス=グロールタイガーとバストファージョーンズ役で出演させてもらいましたが、やはり初日は「ああ、今、あそこに立っているんだ」と、感慨深いものがありました。
『レ・ミゼラブル』新ジャン・バルジャン役 飯田洋輔さん
――俳優として舞台に出る以上、観客に自分を見てもらいたいという思いが湧くのは自然なことのはず。劇団にいた時代、「もっと自分を」と思ったことはありますか?
それが意外にのんびりしているというか、前にしゃしゃり出たいタイプでもないようで。見てほしいと思い始めると、どうしても余計なことをしてしまいますからね。物語と台本のキャラクターの言葉を尊重して、その場でちゃんと生きていれば……肉体は個々の俳優本人ですから、どうやっても個性は滲み出るものだし、そのくらいでいいんじゃないのかなと思っていました。作品主義という劇団四季の理念はそんな僕の性格にも合っていたし、これからも、その考えに変わりはないんじゃないかと思います。
――そうして20年のキャリアを積み、向き合うことになったのが『レ・ミゼラブル』。作品にどんな印象を持っていましたか?
最初に観たのは大学生のときだったので、やはり当時は物語というよりも音楽の壮大さに衝撃を受けました。音で完璧に物語の世界観を表せている、それが30年、40年上演され続けている理由なんだろうなと。自分が勉強していたクラシックの手法がミュージカルの楽曲にも随所に取り入れられていることに気づけたのも、興味深かったですね。難しい曲が多いけれども、いつか舞台で歌ってみたい……そんなふうに考え始めたんじゃないかと思います。
――難関のオーディションを受け、見事に合格。劇団を退団されるには、相当な決意が必要だったかと思うのですが。
そうですね。年齢的に自分のこれまで、これからの俳優人生などを考え始めていたこともあって……。でも、やはり「今だ」という思いがあったんでしょうね。数年前でも数年後でもなくて、今、このときだと。
――ちなみに、オーディションのことはどこで知ったのですか?
たしかSNSで。主催のXのポストだったと思います。
――あ、意外と普通……。
ええ、普通に(笑)。でも、思い返せば、劇団に入ることも劇団の中でさまざまな役をやっていくことも、僕にとってはすべてが挑戦だったし、これからもっとチャレンジングに生きて、いい俳優になっていきたい……それを叶えるために踏み出すのが、僕にとってはこのタイミングだったんだと思います。
(後編に続く)
飯田洋輔

飯田洋輔

いいだ ようすけ●1984年福井県生まれ。東京藝術大学音楽学部声楽科在学中の2004年に劇団四季に入団。『ジーザス・クライスト=スーパースター』ジャポネスクバージョンで初舞台ののち、『キャッツ』『オペラ座の怪人』『美女と野獣』『壁抜け男』ほか数多くの作品に出演。2023年末の退団以降はソロライブやディナーショーの開催、朗読劇『ラヴ・レターズ』への出演など活動の幅を広げている。Instagram @yosuke.iida

ミュージカル『レ・ミゼラブル』

パンひとつを盗んだ罪で19年間投獄された男が、神の教えと慈悲に触れ人としての尊厳を取り戻していく半生をドラマティックに描いたミュージカルの金字塔。吉原光夫、佐藤隆紀、飯田洋輔のトリプルキャストによるジャン・バルジャンをはじめ、総勢80名を超えるカンパニーによる圧倒的な歌唱と群像劇は「ぜひ組み合わせを変えて楽しんでいただけたら」と飯田さん。

【公演日程】

2024/12/20〜2025/2/7、東京・帝国劇場

(12/16〜19 プレビュー公演)

2025年3月〜6月、大阪、福岡、長野、北海道、群馬に巡演

Follow Us

What's New

  • 【市川團十郎インタビュー】市川團十郎47歳。今、絶対見ておくべき理由

    團十郎の舞台が今、すごいことになっている。「5月の弁慶を見て自然に涙が出た」「今このときに向かってすべてを調整してきたと思わせる素晴らしい完成度」。歌舞伎座の内外ではもちろん、SNSでも最近こんな感想によく出会う。市川團十郎、47歳。キレッキレの鋭い印象はいつのまにか「頼もしさ」に、そして見たものを燃やし尽くすかのような勢いある目力にはいつしか温かさが宿っている。今や目じりのしわまでが優しげだ。かと思えば舞台から放たれるオーラは常に別格。にらまれたらそれだけでもうエネルギーがわいてくる。私たちにはマチュアな進化を遂げつつある團十郎さんの歌舞伎が必要だ!歌舞伎界の真ん中を生きる團十郎さんが、歌舞伎への思いを真摯に語ってくれた。

    カルチャー

    2025年7月1日

  • 【雨宮塔子 大人を刺激するパリの今】洗練された甘さを味わえるアフタヌーンティーへ

    雨宮塔子さんによる連載「大人を刺激するパリの今」。14回目のテーマは「洗練された甘さ」。仕事仲間に推薦されたアフタヌーンティーのお店をご紹介!

    カルチャー

    2025年6月30日

  • おいしく食べて飲んで元気に!健康や食がテーマのおすすめ本4選

    何をするにも元気な体があってこそ。そのためには体づくりやきちんとした食生活が大事。そこで今回は、「食や健康」がテーマのおすすめ本をご紹介。毎月お届けしている連載「今月のおすすめ本」でこれまで紹介してきた本の中から、4冊をお届けします。

    カルチャー

    2025年6月30日

  • 雨と晴天の話をするーParler de la pluie et du beau temps.【フランスの美しい言葉 vol.22】

    読むだけで心が軽くなったり、気分がアガったり、ハッとさせられたり。そんな美しいフランスの言葉を毎週月曜日にお届けします。ページ下の音声ボタンをクリックして、ぜひ一緒にフランス語を声に出してみて。

    カルチャー

    2025年6月30日

  • 【吉沢亮インタビュー】芝居が好きです。役づくりが大変なほど逆に燃えるんです

    女形という難役を、見事に演じきった。話題の映画『国宝』で吉沢亮さんが演じるのは、極道の一門に生まれながら、ゆえあって歌舞伎の世界に飛び込み、女形役者として波乱の生涯を生きぬく男・喜久雄だ。

    カルチャー

    2025年6月29日

Feature
Ranking
Follow Us