2/2~25、歌舞伎座 問☎0570・000・489(チケットホン松竹)
【中村勘九郎×中村七之助スペシャル対談】「こんちくしょう、負けてたまるか」。 辛くて楽しい生みの苦しみ
中村屋に深いゆかりがある「猿若」の名を冠した猿若祭二月大歌舞伎が、2月2日に開幕。昼の部の『きらら浮世伝』では、大河ドラマでおなじみ江戸時代のメディア王・蔦屋重三郎に中村勘九郎さんが、そして夜の部の『人情噺文七元結』では、喧嘩っぱやくて情け深い左官屋に勘九郎さん、その女房に中村七之助さんが挑む。お二人の話題は、月岡芳年の錦絵からご家族、便利な新商品(?)にまで広がり……

――『きらら浮世伝』というお芝居は、蔦重の他にも歌麿や北斎、馬琴ら当時の若き芸術家たちが登場する青春群像劇です。’88年の初演では、(十八世中村)勘三郎(当時勘九郎)さんや(中村)扇雀さん(当時浩太郎)、小劇場演劇やアングラ演劇の役者などジャンルを越えた顔ぶれで話題になりました。
中村勘九郎(以下、勘九郎) 今回は歌舞伎座なので、初演のように小劇場のパワーだけではなく大人の落ち着いた雰囲気は大事にしたいですね。と同時に、このお芝居の根底には、当時の芸術家たちの熱い炎がめらめら燃えていなきゃいけないと思っています。
中村七之助(以下、七之助) 初演当時のことは僕らまだ小さくてよく覚えていませんが、食事に行ったときなど父がとにかくこのときの話をよくしてくれたものです。観た方も皆さん「衝撃を受けた」と口を揃えておっしゃっていましたね。
勘九郎 父は祖父(十七世中村勘三郎)の遅い子供でしたから、同じ代の役者は皆一回り上。だから父には若いころあまり役が付かなかった。悔しい思いをしていたんでしょう。子供心になぜこんなにいつも闘っているんだろうと思うほど、彼らに負けてたまるかという一心で突き進んでいました。

――蔦重はまさに江戸歌舞伎が大輪の花を咲かせた時代に、めきめきとその才能を発揮していきますね。
七之助 役者、絵師や戯作者、周りの表現者たちも、常に生みの苦しみを感じていたでしょうね。その根本には、台詞にもあるけど「人を楽しませよう、慰めよう」その一心だったと思うんです。それこそ(初代中村)仲蔵さんなんて『仮名手本忠臣蔵』の斧定九郎の演出をガラリと変えてしまったわけじゃないですか。そんなことしたら「この後出演できなくなるんじゃないか」などと誰もが思う中で、どんなモチベーションでやり遂げたのか。聞いてみたいですね。
――勘九郎さんも、ドラマ『忠臣蔵狂詩曲No.5 中村仲蔵 出世階段』で仲蔵を演じてらっしゃいますね。それまで端役だった斧定九郎を、衣裳から台詞まで鮮やかに変えて、今や人気の役どころにしてしまいました。
勘九郎 あの時代、江戸三座がそれぞれ近い場所にあって、みんながとにかく「自分の一座がお客を入れなきゃいけない」「負けてたまるか」と切磋琢磨していて、その精神で面白い芝居が生まれてきた。そしてその後の寛政の改革で質素倹約しろと言われ、戯作、錦絵、芝居は不要だと言われるわけです。みんな相当に「こんちくしょう」と思っていたでしょうね。それ、僕らもコロナの時に経験しましたから。芝居なんて「不要不急」って言われて「なんだこのやろう!」って。あの時の僕らの悔しい気持ち、この芝居で生かされるんじゃないかな。
七之助 僕が勤めるお篠は吉原の遊女なんですが、お金のために売られてきて若き日の蔦重に出会うんです。彼女は廓からは一歩も出られませんから芝居には行けないけれど、廓勤めの苦しさ、哀しさを蔦重がくれた本で慰め、それを通して世の中を感じ命の支えとして生きている。蔦重に恋心を抱きつつ……。とにかく一途な人ですね。

――そして夜の部の『人情噺文七元結』。博打好きの左官の長兵衛と女房のお兼は金の工面のことで喧嘩が絶えなくて、娘のお久は身を売ろうと自ら吉原へ。その娘の思いのこもったお金を長兵衛は、身投げしようとしていた丁稚の文七にあげてしまいます。勘三郎さんの長兵衛で、お二人とも文七や娘のお久を勤められていますね。
勘九郎 こちらの芝居が良いときは、父の長兵衛はボロボロ泣いてくれるんですよ。お久のときもギューッと手を握ってくれて。ホントに目の前に長兵衛さんがいるみたいでした。おかしみのある場面もあるけれど喜劇ではなく、あくまで人情噺というところを大事にしたいです。
七之助 目の前にいるのはもはや父というより長兵衛でしたし、左官の恰好も似合っていました。舞台ということを忘れてあの空間に連れて行ってもらえる長兵衛でしたね。
勘九郎 しかし長兵衛ってとんでもない男ですよ。人がいいとは言ってもね。結果オーライだけど、一歩間違えたらお久は吉原から一歩も出られなくなっていたし、かといって金をあげていなければ文七がどうなっていたか。

――長兵衛は職人気質というかお金にはあまり執着がない人のようですが。
勘九郎 違う違う、あの人はね、ただ酒と博打が好きなだけ(笑)。吉原の角海老という大きな店の左官仕事を任されるくらいだから腕はピカイチなんだけど。今ならゲームが好きでゲームばっかりしているとかかな。
七之助 現代の人からすれば、長兵衛ってただの酷い人に見える可能性もあるんです。「なんで娘を売った金で他人を助けるの?」と。かといって、文七に五十両をあげてしまうことに理屈が付いてしまうとこの芝居は面白くなくなっちゃう。長兵衛からにじみ出るものがあって、「この人ならあげちゃうね、どうにかするんだろうね」って思わせないといけない。
――お久を今回は(中村)勘太郎さんが勤めます。錦絵がお好きだそうですね。特に芳年の。
勘九郎 そもそも僕が錦絵が好きで、うちに本や画集があったんです。でも今は勘太郎が僕以上に大好きで、本を買いあさったり、美術館に行ったり。芳年は僕らの高祖父の五代目(尾上)菊五郎とのつきあいのあった方だし、ますます興味が湧きますね。僕も昨年『籠釣瓶花街酔醒』で佐野次郎左衛門を勤めたとき、最後に八ツ橋を斬るときは、芳年の絵のように、その瞬間を切り抜いた感じになればいいなと思ってやりました。

――お二人はおたがいの役者としての魅力、強みをどこに感じていらっしゃいますか。
七之助 例えば『髪結新三』の新三なら、父とも違う武骨でキリッとしたカッコよさが兄の新三の魅力だなと思いましたね。次郎左衛門も父のは情が深いのが素敵で、兄のはまっすぐな優しさを感じます。そして昨年6月、新宿梁山泊のテント芝居『おちょこの傘持つメリー・ポピンズ』。あれは父にもできなかったんじゃないかな。って言うと空の上で父が怒ってるかもしれないけど(笑)。
勘九郎 あれはほんとに楽しかったなあ。唐十郎さんの台詞を口にすることができて嬉しかったし。僕も武道館とか国技館とかいろいろなところで宙乗りしてきましたが、『おちょこ』ではクレーンで吊られまして。あれに勝るものはないですね。一番気持ちよかった。絶対に父を悔しがらせたと思います(笑)。
七之助 ちょっと弟分的な役どころというか、舞台全体を見てグッと堪えて、ここぞというときにバーンと出ていく。こういう役どころ、兄の得意中の得意だと思っています。めちゃくちゃカッコいい。
勘九郎 七之助は僕なんかより、台本を読む力、表現するアイデア、それを的確に伝えたり実際にやってみせたりする。その能力、すごいです。演出ができる人だなと思ってる。

――おしまいに、『文七元結』では最後に文七が新しいタイプの元結を創案するくだりがあります。「今こういう新商品が出たら絶対に買う!」というものがあれば教えてください。
七之助 うーん、そうだなあ、最近買って便利だったものならあるんだけどな。旅行先の洗濯で使う小さい10本吊りとか、手動で絞って脱水できるやつ。エジプトにちょっと長く行ってきたんですが、あれは便利だったな。
勘九郎 ずっとほしいと思っているのが一瞬で顔(歌舞伎の化粧)ができるパックのようなもの。初日に顔して、その上にパーンと貼って写しておいて、翌日もそれを顔に貼ると一瞬で顔ができるやつ(笑)。「押し隈」の逆をいくような。顔するのって結構くたびれるんですよ。例えば20分の幕間で全身真っ白に塗ったものを落として、また砥の粉(肌色の化粧)の顔にする……なんてざらにあるので。その時間を短くして、その分ちょっと長めにリラックスしていたいかな(笑)。

中村勘九郎
なかむら・かんくろう●’81年生まれ。十八世中村勘三郎の長男。’87年1月歌舞伎座『門出二人桃太郎』の兄の桃太郎で二代目中村勘太郎を名乗り、初舞台。’12年2月新橋演舞場『土蜘』の僧智籌実は土蜘の精、『春興鏡獅子』の小姓弥生後に獅子の精などで六代目中村勘九郎を襲名。大河ドラマ『新選組!』『いだてん 東京オリムピック噺』にも出演。

中村七之助
なかむら・しちのすけ●’83年生まれ。十八世中村勘三郎の次男。’87年1月歌舞伎座『門出二人桃太郎』で二代目中村七之助を名乗り、初舞台。映画『ラスト サムライ』『真夜中の弥次さん喜多さん』、ドラマ『ライジング若冲 天才かく覚醒せり』にも出演。
歌舞伎座 松竹創業百三十周年「猿若祭二月大歌舞伎」

初代中村(猿若)勘三郎が江戸で歌舞伎興行を創始したことを記念し、'76年にスタートした「猿若祭」。6度目となる今回は、中村勘九郎・七之助兄弟が中村屋ゆかりの作品に臨む。今回インタビューで紹介した「きらら浮世伝」「人情噺文七元結」のほか、昼の部では「鞘當」「醍醐の花見」を、夜の部では「壇浦兜軍記 阿古屋」「江島生島」を充実の配役で上演。
2/2~25、歌舞伎座 問☎0570・000・489(チケットホン松竹)
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