50代女性にこそ、読んでほしい!「第8回文芸エクラ大賞」候補作品を発表!

大人の女性にこそ読んでほしい文芸作品を選ぶ「文芸エクラ大賞」。今年の大賞候補の5作品をご紹介。人間の機微を描いた静かな物語から、ページをめくる手が止まらなくなる展開のものまで、どれも読みごたえのある作品ばかり。大賞の発表は本誌エクラ9月号誌上にて。どうぞご期待ください。
「第8回文芸エクラ大賞」候補作品

「文芸エクラ大賞」とは?

 私たちは人生のさまざまなことを本から学び、読書離れが叫ばれて久しいとはいえ、本への信頼度が高いという実感がある世代。エクラではそんな皆さんにふさわしい本を選んで、改めて読書の喜びと力を感じていただきたいという思いから、18年にこの賞を創設。

 選考基準は、246255間に刊行された文芸作品であり、エクラ読者に切実に響き、ぜひ今読んでほしいと本音でおすすめできる本。エクラ書評班が厳選した、絶対に読んでほしい「大賞」をはじめ、ほかにも注目したいエクラ世代の必読書や、書店員がおすすめのイチ押し本を選定。結果は、本誌エクラ9月号誌上で発表。

『熊はどこにいるの』木村紅美

『熊はどこにいるの』木村紅美

暴力から逃れた女性をかくまう山奥の家に暮らす、54歳のリツと50歳のアイ、そしてフミ先生。3人はぬいぐるみ作りでささやかな収入を得ながら、身元不明の男児ユキを育てていたが、ある日彼が突然姿を消してしまう。もう一方で描かれるのは、震災での津波で全てを失い、その後産んだ子を捨てたサキと、その行為に関わった移住者ヒロの物語。命を守ることと失うこと、産むことと捨てること。交錯するふたつの線がやがて重なり──。「熊」という象徴を通して、さまざまな意味を問いかける。神話的な雰囲気を漂わせる静かな物語だが、インパクトのある小説。

河出書房新社 ¥1,980

『たぶん私たち一生最強』 小林早代子 

『たぶん私たち一生最強』 小林早代子 

高校時代からの親友である花乃子、百合子、澪、亜希の4人は、26歳となり結婚や出産への圧力を感じながら、花乃子の失恋を機に「一生一緒にいよう」とルームシェアを始める。ハイテンポな女子トークを通して、仕事・結婚・出産などのライフイベントに向き合いながら、“自分らしい選択”とは何かを模索していく。ある者は子宮頸がんの診断に揺れ、ある者は10年付き合った恋人との別れに直面し、さらには精子提供による“共同出産”や子どもを迎える決断まで。物語は章ごとに語り手が代わり、最終章では4人の子として育った高校生・恵麻の視点で描かれる。旧来の正しさに軽やかに異議を唱え、自分たちのルールで生き抜こうとする彼女たちの姿は、読む者に新たな家族のかたちと、人生の選択肢の広がりを提示する。痛快で挑発的な、現代女性による連帯と抵抗の物語。

新潮社 ¥1,760

『恋とか愛とかやさしさなら』 一穂ミチ 

『恋とか愛とかやさしさなら』 一穂ミチ 

30歳のカメラマン・新夏は、恋人の啓久にプロポーズされた翌朝、彼が通勤電車で盗撮により逮捕されたと知らされる。初犯で示談が成立し不起訴となったものの、信じたい気持ちと裏切られた痛みの間で、新夏の心は揺れ動く。かつて自分が痴漢に遭ったときの記憶も呼び起こされ、愛しているからこそ嫌悪感も同情も沸き上がる。表題作では、そんなふたりのすれ違いと心の複雑さが丁寧に描かれ、誰もが内に抱えるブラックボックスをあぶりだす。併録の「恋とか愛とかやさしさより」では、加害者となった啓久の視点で、盗撮後に、被害者の女子高生と関わることになった彼が、周囲の視線や社会の烙印と向き合いながら生きる姿を追う。性犯罪をめぐる「加害と被害」「許すとは何か」といった重いテーマに正面から挑みながらも、物語は人の弱さと回復の可能性をそっと示す。読後に深い問いが残る、静かな衝撃作。

小学館 ¥1,760

『YABUNONAKA―ヤブノナカ―』 金原ひとみ

『YABUNONAKA―ヤブノナカ―』 金原ひとみ

文芸誌元編集長の木戸悠介が、かつて交際していた作家志望の女性・橋山美津から「性的搾取されていた」と、SNS上で告発される。それを機に、部下の編集者・五松もマッチングアプリでの軽率な行動を暴露され、編集部は混乱の渦中に。一方、作家の長岡友梨奈は、娘・伽耶が大学での性加害問題で休学したことに心を痛めつつ、若い恋人との同居により母娘関係はぎくしゃくしている。SNS時代の加速する告発やモラルの変化、ジェンダーと権力、過去と責任──木戸、美津、友梨奈、伽耶ら複数の視点から、時代のうねりに晒された人々の葛藤を描き出す。それぞれの正義や言い分が露わになり、誰が加害者で誰が被害者か明確にならないまま、“真実とは何か”の問いは渦のように心に残り続ける。

文藝春秋 ¥2,420

『逃亡者は北へ向かう』 柚月裕子

『逃亡者は北へ向かう』 柚月裕子

震災直後、思いがけず二人の男を殺してしまった真柴亮は、被災地から北へと逃亡を始める。一方、津波で娘を亡くした刑事・陣内は、亮の行方を追い続ける。もうひとり、被災地で行方不明になった幼い息子を探す圭祐もまた、混乱の中をさまよっていた。物語はこの三人の視点を通して進み、震災によって日常が一変した土地と、人々の複雑な心情が描かれる。悲しみ、怒り、善意、冷淡さが交錯する避難所では、価値観の衝突も起こる。亮の過去が徐々に明らかになるにつれ、彼の境遇に同情しつつも、重い罪の現実から目をそらすことはできない。「自分で泣き止むしかない」――陣内の一言が、どうにもならない現実の中で、それでも生きようとする人間たちの姿を静かに照らす。震災を経験した著者が描く、深い余韻を残すサスペンス。

新潮社 ¥2,090

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