ベストセラー&話題の本から今の時代をズバッと読み解く! 五選

2018年8月17日
売れた本には、時代の気分が反映されているもの。本誌書評連載でも鋭い視点でおなじみの文芸評論家・斎藤美奈子さんが、この一年の本の傾向に切り込む!
さいとう みなこ●’56年、新潟県生まれ。本誌連載「オトナの文藝部」でも人気の文芸評論家。’94年に『妊娠小説』でデビュー。『文章読本さん江』『名作うしろ読み』『ニッポン沈没』『文庫解説ワンダーランド』など著書多数。

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1.まさかの!? 『君たちはどう生きるか』ブーム到来
「今年上半期に一番売れたのが、『君たちはどう生きるか』の漫画版。文字版も売れましたが、“昔読んだ!”というエクラ読者も多いのでは」と斎藤さん。「少年コペル君が、友だちを裏切るなどの失敗をしながら自分の道を探していく話ですが、刊行時(昭和12年)はものすごく新しかった。というのも、当時の少年小説の主人公は絶対に正義。悪いヤツがいばりくさっていて、主人公は虐げられても立身出世をめざす話ばかりだった。でもこれはそうじゃないし、正義とは、社会の中で生きるとは?と問うています。つまり教育的な内容で、今も昔も親や教師が子供に読ませたい本なのかも。忘れてならないのは時代背景で、刊行されたのは日中開戦の年。ファシズムの波がきつつある時期で、よく読むと戦争への抵抗が感じられます。憲法改正の動きがある今もきなくさい時代だし、あのころ同様貧困も現実的。そういう共通点があるから、多くの人がこの本に反応したのかもしれませんね」

1937年に出版された名著を復刻。母親と暮らす中学生・コペル君が叔父との対話や同級生とのかかわりを通して自分でものを考え、成長していく物語。羽賀翔一による漫画版も。『君たちはどう生きるか』吉野源三郎 マガジンハウス 各¥1,300
2.〝おばあさま本〟が女性の心をつかむ!?
“売れた”といえば、下重暁子さんや曽野綾子さんといった“おばあさまたち”のエッセイがここ数年好調だ。「シスター・渡辺和子さんの『置かれた場所で咲きなさい』のような例外もありますが、“おばあさま本”は基本的に不機嫌モードなんです。下重さんも曽野さんもそうだし、去年大ヒットした『九十歳。何がめでたい』の佐藤愛子さんも。“この年になったら怖いものはない。いいたいことをいう!”という姿勢が受けているのでしょうね」

(右)NHKアナウンサーとして活躍後、文筆活動に入った著者が説くのは、孤独や老いとの付き合い方。「淋しさと孤独は別」「スマホが淋しさを助長する」などの言葉は耳が痛い!?『極上の孤独』 下重暁子  幻冬舎新書 ¥780
(左)夫で作家の三浦朱門が検査入院中に急速に衰えたことをきっかけに、自宅での介護を決意した妻で作家の著者。その最後の日々を冷静な筆致でつづった、リアルな手記。『夫の後始末』 曽野綾子 講談社 ¥926
3.芥川賞受賞作が火つけ役、〝玄冬小説〟
そういえば、今年1月に芥川賞を受賞した若竹千佐子さんの『おらおらでひとりいぐも』も、孤独だけど自由なおばあさんが主人公。この本をきっかけに、玄冬小説(青春小説とは対照的に老いを描いた小説)というジャンルが認識されるようになった。
 「日本の文学であまり描かれなかったのが老い。でも長生きの時代になり、自分はもちろん親の老いに向き合う話が増えてきた。例えば落合恵子さんが介護の経験を、瀬戸内寂聴さんが90歳過ぎの心境を小説にしています」
 また老いを描く場合、女性作家と男性作家では違いを感じる、と斎藤さん。
「『おらおらでひとりいぐも』の主人公は夫を亡くしてショックを受けているけれど、ゆるい抑圧状態からの解放感もある。著者の若竹さんも同様の体験をされていますが、立ち直るために書かなければならなかったことが伝わってきます。落合さんの『泣きかたをわすれていた』も、母親を見送るというつらい経験を書かずにはいられなかったことがわかる。つまり彼女たちは、老いていく人の生活や気持ちの変化を“当然”と認めて、文章化しているんです。一方男性作家は、老いを否定したい、現実を認めたくないという気持ちが強いよう。妻に先立たれた男性はガタガタになってしまうとよくいわれますが、作家にもその傾向があるのかも」

(右)未婚で「わたし」を産んだ認知症の母を、自宅で介護し見送ってから10年。72歳になった今考えるのは、自分と仕事のこれからだった。著者の人生が重なって見えてくる小説。『泣きかたをわすれていた』 落合恵子 河出書房新社 ¥1,500
(中)結婚式直前に故郷を飛び出した桃子さんが東京に来て50年。愛する夫を亡くし、息子とも娘とも疎遠になったが、胸中にあるのは悲しみだけではなかった。新鮮な老いの境地。『おらおらでひとりいぐも』 若竹千佐子 河出書房新社 ¥1,200
(左)大病を経て退院した「私」は、若い秘書たちに支えられながら痛みや老いと直面する日日。その中で蘇る、親しかった作家たちとの思い出をつづった"最後の"長編小説。『いのち』 瀬戸内寂聴 講談社 ¥1,400
4.方言が魅力。文学に地方の時代がきた!
『おらおらでひとりいぐも』は主人公の語りが東北弁ということでも話題になったが、同時期に直木賞を受賞した『銀河鉄道の父』もそう。斎藤さんによると、方言を使ってリアリティを感じさせる小説が増えているのだとか。「今まで伝統的に多かったのが、地方から東京に来る若者が主人公の“上京小説”。古くは漱石の『三四郎』、林真理子さんの初期の小説もそうでした。でも最近は若い人たちにもリタイア組にも地方回帰の思いがあるようで、それが小説に表れています。若手作家・古川真人さんの『四時過ぎの船』は、福岡の漁村が舞台で方言が上手に使われている。沖縄の言葉が駆使されているのが上原正三さんの『キジムナーkids』。「ウルトラマン」などのシナリオライター(80歳!)のデビュー作で、やんちゃな少年たちの激烈な過去を描くには方言が醸し出す空気感が必要だとわかる。こういう小説を読んでいると、標準語はリアリティに欠けると感じるくらいです」

(右)太平洋戦争末期の悲惨な沖縄戦をくぐり抜けた少年たちは、その後も生き延びるために必死。刺激的な日々の中で、友情を育んでいくが……。キジムナーとは沖縄の有名な精霊。『キジムナーkids』 上原正三 現代書館 ¥1,700
(中)詩人として童話作家として天賦の才能を見せながら、37歳で亡くなった宮沢賢治の悩み多き人生を、父の視点で描く。素朴で深い父性愛が、方言の味わいとともに伝わってくる。『銀河鉄道の父』 門井慶喜 講談社 ¥1,600
(左)稔は島の漁村にある亡き祖母の家を片づけにいき、彼女の日記を発見。最後のページに自分の名前を見つけて、不思議に思う。生き迷う青年の心情を描いた第157回芥川賞候補作。『四時過ぎの船』 古川真人 新潮社 ¥1,500
5.新しいフェミニズムの動きは日本でも!
世間の話題を振り返ってみると、官僚や政治家のセクハラ問題がたびたび起きたことは記憶に新しい。「ハリウッド発のMeToo運動も起きていたことで、フェミニズムがちょっとブームになったんです。本の世界でも、おしゃれ好きな今どきのフェミニストの本やレイプ被害者の告発本、男性たちがフェミニズムを語った雑誌の特集が話題になりましたが、改めて感じたのは活字の力。本はネットより責任が伴う媒体だから、本が出るとセクハラにつきまとうタブーを越えて議論しようという動きが生まれる。そういう意味でも、本をつくるって大事なことだと気づかせてくれましたね」

(右)信頼していた人物からレイプ被害を受けた女性ジャーナリストが警察に訴え出るも、最後の最後で逮捕状を差し止められたのはなぜ? 現代の闇を告発するノンフィクション。『Black Box』 伊藤詩織 文藝春秋 ¥1,400
(中)著者はナイジェリアと米国を行き来する作家。みんなでジェンダー問題を改善しようという発言をまとめた本書は、しなやかな姿勢が特徴。ビヨンセなどにも支持されている。『男も女もみんなフェミニストでなきゃ』 チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ くぼたのぞみ/訳 河出書房新社 ¥1,200
(左)憲法学者、劇作家など30人以上の男性が特集テーマに寄せた言葉は多種多彩。フェミニストを宣言する人、自らの職業や家庭をからめて語る人…あなたならどう答える?雑誌『すばる』5月号 特集・ぼくとフェミニズム 集英社 ¥880

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