売れた本には、時代の気分が反映されているもの。本誌書評連載でも鋭い視点でおなじみの文芸評論家・斎藤美奈子さんが、この一年の本の傾向に切り込む!
1937年に出版された名著を復刻。母親と暮らす中学生・コペル君が叔父との対話や同級生とのかかわりを通して自分でものを考え、成長していく物語。羽賀翔一による漫画版も。『君たちはどう生きるか』吉野源三郎 マガジンハウス 各¥1,300
(右)NHKアナウンサーとして活躍後、文筆活動に入った著者が説くのは、孤独や老いとの付き合い方。「淋しさと孤独は別」「スマホが淋しさを助長する」などの言葉は耳が痛い!?『極上の孤独』 下重暁子 幻冬舎新書 ¥780 (左)夫で作家の三浦朱門が検査入院中に急速に衰えたことをきっかけに、自宅での介護を決意した妻で作家の著者。その最後の日々を冷静な筆致でつづった、リアルな手記。『夫の後始末』 曽野綾子 講談社 ¥926
(右)未婚で「わたし」を産んだ認知症の母を、自宅で介護し見送ってから10年。72歳になった今考えるのは、自分と仕事のこれからだった。著者の人生が重なって見えてくる小説。『泣きかたをわすれていた』 落合恵子 河出書房新社 ¥1,500 (中)結婚式直前に故郷を飛び出した桃子さんが東京に来て50年。愛する夫を亡くし、息子とも娘とも疎遠になったが、胸中にあるのは悲しみだけではなかった。新鮮な老いの境地。『おらおらでひとりいぐも』 若竹千佐子 河出書房新社 ¥1,200 (左)大病を経て退院した「私」は、若い秘書たちに支えられながら痛みや老いと直面する日日。その中で蘇る、親しかった作家たちとの思い出をつづった"最後の"長編小説。『いのち』 瀬戸内寂聴 講談社 ¥1,400
(右)太平洋戦争末期の悲惨な沖縄戦をくぐり抜けた少年たちは、その後も生き延びるために必死。刺激的な日々の中で、友情を育んでいくが……。キジムナーとは沖縄の有名な精霊。『キジムナーkids』 上原正三 現代書館 ¥1,700 (中)詩人として童話作家として天賦の才能を見せながら、37歳で亡くなった宮沢賢治の悩み多き人生を、父の視点で描く。素朴で深い父性愛が、方言の味わいとともに伝わってくる。『銀河鉄道の父』 門井慶喜 講談社 ¥1,600 (左)稔は島の漁村にある亡き祖母の家を片づけにいき、彼女の日記を発見。最後のページに自分の名前を見つけて、不思議に思う。生き迷う青年の心情を描いた第157回芥川賞候補作。『四時過ぎの船』 古川真人 新潮社 ¥1,500
(右)信頼していた人物からレイプ被害を受けた女性ジャーナリストが警察に訴え出るも、最後の最後で逮捕状を差し止められたのはなぜ? 現代の闇を告発するノンフィクション。『Black Box』 伊藤詩織 文藝春秋 ¥1,400 (中)著者はナイジェリアと米国を行き来する作家。みんなでジェンダー問題を改善しようという発言をまとめた本書は、しなやかな姿勢が特徴。ビヨンセなどにも支持されている。『男も女もみんなフェミニストでなきゃ』 チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ くぼたのぞみ/訳 河出書房新社 ¥1,200 (左)憲法学者、劇作家など30人以上の男性が特集テーマに寄せた言葉は多種多彩。フェミニストを宣言する人、自らの職業や家庭をからめて語る人…あなたならどう答える?雑誌『すばる』5月号 特集・ぼくとフェミニズム 集英社 ¥880
eclat9月号掲載 撮影/神林 環 スタイリスト/洲脇佑美 取材・文/山本圭子