「今、親の認知症に私が思うこと」コラムニスト・吉田 潮さん【親が“認知症”になってしまったら⑬】

昨夏、認知症の父の介護をテーマにしたエッセーを発表した吉田潮さん。「うちの家族にとって、認知症は“悲喜劇”。それも、悲劇4割、喜劇6割ですね」と語る吉田さんの体験と、介護に対する考えを伺いました。
コラムニスト 吉田 潮さん

コラムニスト 吉田 潮さん

よしだ うしお●’72年、千葉県生まれ。大学卒業後、編集プロダクションを経て、’01年からフリーのコラムニストとして活躍。著書に、『幸せな離婚』(生活文化出版)、『産まないことは「逃げ」ですか?』(KKベストセラーズ)など。
『親の介護をしないとダメですか?』

『親の介護をしないとダメですか?』

吉田 潮 KKベストセラーズ ¥1,400

「親の介護では無理をしない、罪悪感をもたない、『自分が主語』の生活を維持する」と決意した著者が、父の認知症と家族の対応をユーモラスに描写。著者と母による介護日記も読み応え大。

髪は美容師にお願いするのと同様、介護もプロに任せるのが一番

老老介護の限界を目にし、父の施設入居を決意

吉田潮さんのお父さまは、現在78歳。元新聞記者で、定年後も嘱託として働き続け、65歳で完全リタイヤしたあとも、趣味の講座などに自発的に通う、闊達な人だったが……。

「私が、最初に『あれ?』と思ったのは、父が73歳くらいのとき。送られてくるメールが変になってきたんですよ。濁音や破裂音の打ち間違いに始まって、漢字が減り、最終的にはひらがなだけの文面に。今思えば、やり方がわからなくなっていたんでしょうね。とはいえ、私は、『けんきかちゃんとたへてれか(元気か ちゃんと食べてるか)』というメールに、『かわいいなぁ』と思ったりして、まだまだのんきでした。私より頻繁に父母に会っていた姉は、その数年前から、『絶対ボケている!』と、いっていたんですけど。
今だからいえますが、『アナログ世代だからメールが苦手なのも当然』なんて思ってはダメですね。できていたことができなくなるというのは、認知症の症状のひとつ。闊達だった親が、無気力になってきたら、それも危険信号のひとつです」
 
’14~’15年にかけ、お父さまは、転倒することが増え、排泄でたびたび失敗するように。’16年になると、家の場所がわからなくなり、知らない人に保護されるといった事件も起こった。医療機関での検査はしなかったものの、吉田さん姉妹は、認知症と確信。’16年1月には要支援1と認定されていたお父さまを、新たにデイサービスに通わせるなど、介護に本格的に介入するようになる。

「父を施設に入れる決心をしたのは、’18年の1月。両親ともにインフルエンザで倒れ、老老介護の限界を目(ま)の当たりにしたときです。その数年前から、母は父の介護にひとりで奮闘し、心身ともに崩壊寸前でしたし、十分な介護をしてもらえない父もかわいそう。自分で介護? 考えませんでしたね。父のことは大好きだけど、私は面倒見が悪い人間なので、絶対ムリだと。それに、車いすから立ち上がらせることひとつとっても、やはりプロは違う。髪は美容師に任せるのと同様、介護もプロに任せるのが一番だと思います」
「夫に尽くすべき」という母の呪縛を払拭するのも、子供の大切な役目

「夫に尽くすべき」という母の呪縛を払拭するのも、子供の大切な役目

最も手を焼いたのは、お母さまの説得。何度も修羅場を経験しているにもかかわらず、「施設に入れるのは、まだ早い」「お父さんがかわいそう」と、なかなか受け入れなかったとか。

「父の世話を先まわりしてやってしまうような人ですからね。母の世代には多いと思いますが、『夫に尽くさねば』という呪縛があるのでしょう。それを払拭するのも、我々子の役目かもしれません。そうそう、エッセーの巻末に母の介護日記を掲載しているんですが、この日記が役立ちました。母は、今でも時々、『お父さんを連れて帰る』ということがありますが、日記を読み返すと、壮絶だった日々が蘇るのか、思い直してくれるんです(笑)」

施設入居にあたり、金銭的な援助をすることも考えたが、「それは、母に猛反対されました。『子供に金銭的負担はかけたくない』って」。

「冷静に考えると、そのとおり。介護はこの先何年続くかわからないし、親世代のほうが年金は多いわけです。むしろ、私たち世代のほうが将来不安なのだから、親のお金の範囲内で、できる介護をすればいいのではと」
「忘れる」のは、本人にとってある意味幸せなことかもしれません

「忘れる」のは、本人にとってある意味幸せなことかもしれません

制限された生活だからこその幸せもある

’18年3月、すでに「要介護4」と認定されたお父さまは、自宅の比較的近くに新設された特別養護老人ホームに入居。吉田さん家族は分担し、週1~2日は、誰かしらが面会に訪れているという。お父さまが寂しくないようにとの思いからだが、吉田さんは、「家族が頻繁に出入りしていると、スタッフの対応に多少なりとも影響がある気がして」とも。実際、今のところ施設の対応にも満足し、「入居させてよかった」という気持ちが強いそうだ。

「もっとも父は、今でも『いつまでもこんな所にいられない』なんていいますし、排泄の失敗や過食、入浴日と勘違いして真っ裸で廊下をウロウロするなど、問題行動も増えています。私だって、父の自由と人間らしさを奪っちゃったかなと、罪悪感を抱くことがないわけではありません。でも、おみやげに持っていったあんパンをニコニコしながら口にしている父を見ると、制限があるからこそ待ち遠しくて、うれしさ倍増なのかなと思うことも。それに、“忘れる”って、悪いことばかりじゃないですよ。父は、都合の悪いことはみーんな忘れていますからね、ある意味、幸せですよね。それと、羞恥心が欠落したのも救い! 私も時々、排泄の手伝いをしますが、父に抵抗感がまるでないから、私も、『ハイハイ、おしりふくよ~』って(笑)。幸いにも、父は暴力などの症状が出ていないからかもしれないけれど、私たち家族にとって、認知症は悲劇というより悲喜劇。それも、悲劇4割、喜劇6割ですね。
父を施設に入れた私が、エラソーにいえることではないけれど……。もしも今、介護で苦しんでいる人がいるなら、周囲に助けを求めていいと思う。親の介護で子がすべきは、『介護は家族がするもの』という親の意識を変えることと、役所や施設との交渉や事務的な手続き。親の介護で子供が担うべきは、それだけだと、私は思います」
  • 介護にかかる費用の相場は?【親が“認知症”になってしまったら⑩】

    介護にかかる費用の相場は?【親が“認知症”になってしまったら⑩】

    エクラの読者アンケートでも、特に関心が高かったのが「介護にかかるお金」。親が要介護状態になった場合、大半は介護費用以外に医療費用も考えなければなりません。それらが高額になった場合に活用したい制度の詳細や大体の費用相場を、在宅介護エキスパートの渋澤さんがご紹介。

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