「皆さん小学校で木版画を習いますよね。あれは彫り残した部分を刷る凸版。銅版画は凹版。線を刻んだ部分にインクを詰めて、それを刷るのがまず大きな違いですね」と山本容子さん。
そもそも、なぜ“銅”なのだろう?
「軟らかすぎず硬すぎず、彫りやすくて刷りにも耐える適度な素材なんです。ドイツのデューラーのような銅版画草創期の作家は、じかに彫っていくエングレービングも行っていました。これには金工職人のような彫金技術が必要です。私の技法は、17世紀以降にさかんになった、腐蝕によって版をつくるエッチング。銅は腐蝕しやすいので、エッチングにも向いているんですよ」
なぜ、酸を使って腐食させる必要が?
「エッチングでは、金属板にグランドと呼ばれる防蝕剤を塗り、それを掻き落とした部分の銅が腐蝕を経て線刻となります。直刻ではタッチに変化をつけるのがむずかしいのですが、この腐蝕をはさむエッチング、特に私が大学以来続けているソフトグランド・エッチングは防蝕剤が樹脂状で軟らかいので、多彩なタッチを使うことができます」