画面は”暗黒の時代”を象徴するようなモノトーンで、議会や作戦指令室のシーンが多く、華やかさはいっさいなし。だが、観ているうちにぐいぐい引き込まれてしまうのだ。伝説の宰相の勇敢さだけでなく、人としての弱さ、可愛らしさ、なにより、全国民の命を背負って苦悩する姿がていねいに描かれ、人間ドラマとして感動してしまう。
『ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男』×「キュヴェ サー・ウィンストン・チャーチル」/背負ったのは”全国民の命”。暗黒の時代、名宰相を支えた「ポル・ロジェ」【シネマに乾杯!vol.8】
ワインを知ると映画はもっと楽しい!エクラでもおなじみのワイン&フードジャーナリストの安齋喜美子が、映画の中に登場するワインやシャンパーニュを楽しく解説!第8回目は、映画『ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男』をご紹介!
原題は「Darkest Hour(暗黒の時)」。今もイギリス国民から”名宰相”として愛されるサー・ウィンストン・チャーチルを主人公に、第二次世界大戦下、イギリス軍全滅の危機を迎えた頃のイギリス議会の様相や戦争の状況、それに伴うチャーチルの葛藤が、史実に基づいてリアルに描かれている。
画面は”暗黒の時代”を象徴するようなモノトーンで、議会や作戦指令室のシーンが多く、華やかさはいっさいなし。だが、観ているうちにぐいぐい引き込まれてしまうのだ。伝説の宰相の勇敢さだけでなく、人としての弱さ、可愛らしさ、なにより、全国民の命を背負って苦悩する姿がていねいに描かれ、人間ドラマとして感動してしまう。
画面は”暗黒の時代”を象徴するようなモノトーンで、議会や作戦指令室のシーンが多く、華やかさはいっさいなし。だが、観ているうちにぐいぐい引き込まれてしまうのだ。伝説の宰相の勇敢さだけでなく、人としての弱さ、可愛らしさ、なにより、全国民の命を背負って苦悩する姿がていねいに描かれ、人間ドラマとして感動してしまう。
時は1940年。ドイツのヒトラーによって東欧と北欧諸国は占領され、ベルギーはドイツ軍による侵攻の危機にさらされていた。この時、首相の座にいたのはネヴィル・チェンバレン。ドイツ・イタリアに対して宥和政策を取ったことで「失策」と議会から糾弾され、失脚した。
そして、新たに成立した保守党と労働党による”挙国一致内閣”の首相として任命されたのがチャーチルだった。手腕を買われたわけではない。理由は「野党の協力を得られる唯一の人物だったから」。かつてはインド政策、ソ連への干渉と失策を重ね、議会から信頼はなかったのだ。だから、これは栄誉というより”貧乏くじ”だった。国王のジョージ6世さえ、彼に内閣総理大臣任命の勅旨を伝える際の態度は、温かなものではなかった。
そして、新たに成立した保守党と労働党による”挙国一致内閣”の首相として任命されたのがチャーチルだった。手腕を買われたわけではない。理由は「野党の協力を得られる唯一の人物だったから」。かつてはインド政策、ソ連への干渉と失策を重ね、議会から信頼はなかったのだ。だから、これは栄誉というより”貧乏くじ”だった。国王のジョージ6世さえ、彼に内閣総理大臣任命の勅旨を伝える際の態度は、温かなものではなかった。
チャーチルは、その後ダウニング街10番地首相(首相官邸)へと足を運ぶが、ここには、大勢の記者たちが待ち構えていた。記者のひとりに「今後の予定は?」と訊ねられ、彼はこう答えるのだ。「とりあえずシャンパンだ」――。字幕ではそうなっているが、実は原語では「a glass of “Pol Roger” 」(ポル・ロジェを1杯)といっているのだ。
「ポル・ロジェ」は1849年創設のシャンパーニュ・メゾンで、チャーチルが愛飲した銘柄として知られる。映画の中では、このあと首相官邸に入り、家族とシャンパーニュで乾杯するシーンがあるのだが、おそらくは、この時開けられたのも「ポル・ロジェ」だろう。チャーチルはグラスを掲げてこういう。「ヘマをやらんように!」
「ポル・ロジェ」は1849年創設のシャンパーニュ・メゾンで、チャーチルが愛飲した銘柄として知られる。映画の中では、このあと首相官邸に入り、家族とシャンパーニュで乾杯するシーンがあるのだが、おそらくは、この時開けられたのも「ポル・ロジェ」だろう。チャーチルはグラスを掲げてこういう。「ヘマをやらんように!」
映画にはジョージ6世とチャーチルがともにランチを取る場面があるが、ここでもチャーチルはシャンパーニュを開ける。国王に「昼からよく飲めるな」といわれ、チャーチルはこう答えるのだ。「鍛錬です」。人を喰った言葉を発することで知られたチャーチルらしい返答だ。このシーンに登場するのも「ポル・ロジェ」。なぜなら、英国王室御用達の証である”ロイヤルワラント”を1877年から1959年まで保持しているからだ。国王の公式なテーブルに登場するのはごく自然なことだろう。実際、ポル・ロジェ社からの情報によれば、メゾンでは当時のボトルの復刻版を作り、小道具として映画に協力したという。
その後、戦況はイギリス劣勢の一途をたどり、陸軍は壊滅の危機を迎える。イギリスの海辺の町カレーでは守備隊が敵を引き付け、ダンケルクへの侵攻を遅らせていたが、両地点とも完全包囲。同盟国フランスは瀕死の状態で、前首相のチェンバレンと外相のハリファックスはドイツとの講和をチャーチルに促す。だが、彼は「勇気をもて!」と彼らの意見をはねのけ、「我らは海洋国家だ。ドーバー海峡は我らの防衛ラインだ。ドイツ軍は海を知らん」と、戦い続けることを強く主張する。
だが、戦況はますます悪化、チャーチルは講和に応じるべきか四面楚歌に追い込まれるが、そんなチャーチルの救いとなったのがジョージ6世の言葉だった。「私は君を支持する。初めは君に対して疑問があった。だが、君の首相就任を誰よりも恐れたのはアドルフ・ヒトラーだ」。いつしか、ふたりの間には信頼関係が生まれていたのだ。国王は、チャーチルに民の声を聞くよう助言した。
だが、戦況はますます悪化、チャーチルは講和に応じるべきか四面楚歌に追い込まれるが、そんなチャーチルの救いとなったのがジョージ6世の言葉だった。「私は君を支持する。初めは君に対して疑問があった。だが、君の首相就任を誰よりも恐れたのはアドルフ・ヒトラーだ」。いつしか、ふたりの間には信頼関係が生まれていたのだ。国王は、チャーチルに民の声を聞くよう助言した。
後日、国会に向かう途中でチャーチルは地下鉄に乗り込み、市井の人々にドイツの属国になるか、最後まで戦うか、単刀直入に尋ねた。人々の答えは「最後まで戦う」だった。属国になるのは「Never!」。小さな女の子まで叫ぶのだ。「Never!」と。チャーチルはその足で国会へと急ぎ、「断じて降伏はしない」と議員たちに宣言、イギリスは確固たる決意をもって、戦いに挑んだのだった。その後、ダンケルクに残された30万人の兵士のほとんどが、チャーチルの艦隊によって故郷へ帰還した。
映画は、”圧巻”のひと言。歴史に詳しくなくても、ゲーリー・オールドマン演じるチャーチルから目が離せなくなる。特殊メイクの効果もさながら、もはやチャーチルにしか見えない。魅力的なのが女優陣で、妻のクレメンティーンがチャーチルを勇気づけるシーンには心が温かくなるし、タイピストのミス・レイトンがチャーチルに兄がダンケルクで命を落としたことを静かに語るシーンでは、この時代に生きた女性の覚悟と哀しみが伝わってきて、胸を打たれる。誰もが死への恐怖と一筋の希望を胸に生きた時代。この映画は、大人だからこそ深く理解できるといっても過言ではないだろう。
ここで、史実に基づいた後日譚を記しておこう。チャーチルは1944年11月、パリの在仏英国大使館で開かれたノルマンディー上陸作戦の成功を祝う席で、ポル・ロジェ社のオーナー夫妻と出会い、意気投合する。この時ふるまわれたのが「ポル・ロジェ ヴィンテージ1928」だった。だが、この日、夫妻はシャンパーニュの造り手として招かれていたのではない。戦いの功労者として招かれていたのだ。メゾンが位置するランス市はドイツとの国境にあり、レジスタンスの活動拠点となっていた。シャンパーニュ・メゾンの多くがその秘密活動に協力しており、ことに妻であるオデットの活躍は目覚ましいものだった。その美貌を武器にドイツ将校に近づき、諜報活動に貢献した。
以来、チャーチルは愛馬に「ポル・ロジェ号」とつけるほど、熱狂的ファンとなった。チャーチルは1965年に90歳でこの世を去ったが、のちにポル・ロジェ社はこの名宰相へのオマージュとして「キュヴェ・サー・ウィンストン・チャーチル 1975」を1984年にリリースした。その味わいは優雅で芳醇、どこか骨太で”高貴なる無頼”を感じさせる。
以来、チャーチルは愛馬に「ポル・ロジェ号」とつけるほど、熱狂的ファンとなった。チャーチルは1965年に90歳でこの世を去ったが、のちにポル・ロジェ社はこの名宰相へのオマージュとして「キュヴェ・サー・ウィンストン・チャーチル 1975」を1984年にリリースした。その味わいは優雅で芳醇、どこか骨太で”高貴なる無頼”を感じさせる。
また、映画の中でカナダへの亡命を強く勧められていたジョージ6世は、戦争が激化してもバッキンガム宮殿を去ることはなかった。宮殿はドイツ軍の爆撃を受け、国王自身も命を落としかけたが、拳銃を片手になおもとどまったのだ。終戦後の1952年、国王は薨去したが、チャーチルはウエストミンスター寺院に向かう国王の棺に「勇者へ」と言葉を添えた花輪を手向けたという。
チャーチルはシャンパーニュに関するこんな言葉を残している。「勝利の時には飲むに値し、敗北の時にはそれが必要だ」――。名宰相にとっての「ポル・ロジェ」は、勝利の美酒だった。そして、飲めば勇気を与えてくれる心強い相棒でもあったのだ。
チャーチルはシャンパーニュに関するこんな言葉を残している。「勝利の時には飲むに値し、敗北の時にはそれが必要だ」――。名宰相にとっての「ポル・ロジェ」は、勝利の美酒だった。そして、飲めば勇気を与えてくれる心強い相棒でもあったのだ。
「ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男」
■U-NEXTにて配信中
¥199(税込み)/視聴期間2日間
¥199(税込み)/視聴期間2日間
「キュヴェ・サー・ウィンストン・チャーチル」
フランス・シャンパーニュ。グラン・クリュ(特級畑)のピノ・ノワールとシャルドネをブレンド。アカシアの花や柑橘、ブリオッシュ、スパイスなどの香り。厚みのあるミネラルと生き生きとした酸味。芳醇でコクがあり、飲み口はクリーミー。現行ヴィンテージは2009年。映画に登場するのは、チャーチルが愛飲した「ポル・ロジェ ブリュット・ヴィンテージ」。
750ml \35,200(税込み)
750ml \35,200(税込み)
サー・ウィンストン・チャーチルとオデット・ポル・ロジェ。名宰相はポル・ロジェ夫妻の人柄をいたく気に入り、長く親交を結んだ。ちなみに、「ポル・ロジェ」は2004年に再び王室御用達となっている。
■「キュヴェ・サー・ウィンストン・チャーチル」のお問い合わせ先/ジェロボーム ☏03-5786-3280
取材・文/安齋喜美子
ワイン&フードジャーナリスト。女性誌を中心に多くの媒体で執筆。ふだんごはんからスイーツ、星つきレストランまで幅広くカバーする。映画が大好きで、登場するワインは必ずチェック。最近は海外の醸造家とオンラインでワインテイスティングの日々を過ごす。シャンパーニュ騎士団シュヴァリエ。
ワイン&フードジャーナリスト。女性誌を中心に多くの媒体で執筆。ふだんごはんからスイーツ、星つきレストランまで幅広くカバーする。映画が大好きで、登場するワインは必ずチェック。最近は海外の醸造家とオンラインでワインテイスティングの日々を過ごす。シャンパーニュ騎士団シュヴァリエ。
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