『ロイヤル・ナイト 英国王女の秘密の外出』×「ボランジェ スペシャル キュヴェ」プリンセスの一夜の青春を見守ったのは、戦時中、命がけで造られたシャンパーニュ【シネマに乾杯!vol.10】

ワインを知ると映画はもっと楽しい!エクラでもおなじみのワイン&フードジャーナリストの安齋喜美子が、映画の中に登場するワインやシャンパーニュを楽しく解説!第10回目は、映画『ロイヤル・ナイト 英国王女の秘密の外出』をご紹介!
『ロイヤル・ナイト 英国王女の秘密の外出』×「ボランジェ スペシャル キュヴェ」プリンセスの一夜の青春を見守ったのは、戦時中、命がけで造られたシャンパーニュ【シネマに乾杯!vol.10】 _1_1
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 若かりし日のエリザベス女王に、『ローマの休日』さながらの秘められた恋があったら――? 

『ロイヤル・ナイト 英国王女の秘密の外出』は、1945年5月8日、第二次世界大戦で連合軍がドイツに勝利した戦勝記念日に、のちの英国女王・エリザベス王女と妹のマーガレット王女が外出を許可され、国民とともに戦勝を祝ったという史実に基づいてアレンジしたロマンティック・ラブストーリーだ。
 その日、ロンドンは国民の歓喜の声に包まれていた。長い戦争が終わり、ついに勝利を手にしたのだ。バッキンガム宮殿では、リリベット(エリザベス王女の愛称)とマグス(マーガレット王女の愛称)が両親の国王夫妻に「外で勝利を祝いたいのです」と外出の願いを申し出るが、母である王妃は受け容れない。

 だが、父の国王は、将来女王になる彼女にとっては、これが自由に外出できる最後の機会と考え、護衛をつけることと1時の門限を守ることを条件に外出を許可するのだ。姉妹は可愛らしいドレスに着替え、歓びに満ちた表情で宮殿からお祭り騒ぎの夜のロンドンへ。
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 最初に訪れたのはホテル・リッツ。シャンパン・タワーがきらびやかに夜を彩り、人々は賑やかな夜を楽しんでいた。だが、ここには王妃の差し金と思しき貴族が待っており、その接見は退屈この上なし。護衛の近衛兵のひとりは、パーティー会場のシャンパーニュを飲み、はめをはずして女性と浮かれる始末。すると、マグスはその隙を狙い、偶然彼女に声をかけてきた海軍士官とともに逃げ出してしまったのだ。
 妹が姿を消したことに気づき、リリベットは急いで追いかけることに。バスに乗るマグスを見つけ、自分も乗るが、それは反対方向行きのバスだった。車掌に切符の購入を求められるが、彼女には持ち合わせがない。その時、料金を支払ってくれたのが空軍兵のジャックだった。リリベットは急いでバスを降りようとし、この時、彼女の忘れ物を持って追いかけてきたジャックもろともバスから転げ落ちてしまう。これが、ふたりの出会いだった。
 その後、ふたりで入ったパブで偶然聞いたのが、国王のラジオ演説だった。皆が「国王万歳」と叫ぶ中、なぜかジャックだけは「今さらかよ」と露骨な不快感を示す。すると、国王を支持する客と喧嘩になり、店を追い出されてしまったのだ。ジャックを頼りにするリリベットは彼を追いかけるが、国王と上流階級を否定する彼と言い争いになってしまう。「パブでは皆、王と祖国を支持していたわ」とリリベット。「終戦でこの国へ戻ってみたら何もしてない奴が上品な声で話している」とジャック。彼は、戦争の悲惨な現実を目の当たりにしていたのだ。
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 ふたりは反発しあいながらも”妹探し”を続けるのだが、いつもマグスとはすれ違い。ようやくチェルシー兵舎でのパーティーにマグスがいると知り、急ぐのだが、ジャックはここで初めてリリベットに自分について話し始めるのだ。今夜の外出許可証を持っておらず、朝8時の点呼にいなければ脱走兵となり、処罰されること。爆撃で友人を失ったこと、その痛みを上官に理解されず、「意力低下」のレッテルを貼られ、極東の最前線に送られたこと……。彼の話を静かに聞き、彼の痛みと戦争の傷跡を実感するリリベット。ふたりの心の距離は、少しずつ近づいていく。
 チェルシー兵舎に到着したふたりは、ようやくマグスと再会、念願のダンスを踊ることに。ジャックをパートナーに、一瞬の”青春”を謳歌するのだ。だが、楽しい時間も束の間、無断で兵舎に入ったジャックは兵士たちに捕らえられてしまう。見かねたリリベットは、ついに自分の身分を明かすのだ。「やめなさい! 彼を離しなさい!」と。「あんたは?」と兵士に聞かれ、彼女は答える。「エリザベス王女よ」。誰より驚いたのはジャックだ。まさか彼女が王女だとは……。敬礼に見送られ、彼らは兵舎を後にするが、ジャックは騙されたと思い、怒りが隠せない。その場を立ち去ろうとするが、その背中にリリベットはこう語るのだ。
 「想像してみて。紅茶一杯いれたことも、一度だって一人で外出したことのない人生。(中略)でも、今夜は普通の娘。妹が逃げなければ、こんなふうに街を歩くこともできなかった。人生で一番ステキな夜だった」――。

 一夜のうちに多くの経験をしたリリベット。国民の素直な感情や思いに触れることで、彼女の中に少しずつ王位継承への覚悟が強くなっていった。
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 この映画で、ホテル・リッツのシャンパン・タワーなど、行く先々の華やかなシーンに登場するシャンパーニュが「ボランジェ スペシャル・キュヴェ」だ。実は「ボランジェ」は英国王室御用達の証”ロイヤルワラント”を持つメゾンで、実際にバッキンガム宮殿でも使われている。芳醇ながらもエレガントなスタイルで多くの固定ファンが多い。その筆頭が”女王陛下の007”ジェームズ・ボンドであるのは、あまりにも有名な話だ。
 「ボランジェ」を語る際、はずせないのが4代目ジャック・ボランジェの妻であったマダム・リリー・ボランジェだろう。第二次大戦下、遠くにドイツ軍の爆撃の音を聞きながらシャンパーニュを造り続け、また、ドイツの”ワイン総統”がシャンパーニュの供出をさせるためにメゾンを訪れた時には、ひとりで対応して追い返したという武勇伝を持つ。この時代、シャンパーニュ地方を守った人物として、今も尊敬を受ける存在だ。時代背景を考えれば、映画に登場する「ボランジェ スペシャル・キュヴェ」は、マダム・ボランジェが命がけで造ったシャンパーニュである確率が高いのだ。
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 ちなみに、ジャックがリリベットを車に乗せ、バッキンガム宮殿へと向かうシーンがあるが、彼女がふと車窓を見上げると、そこにはヴィクトリア女王の銅像が。「高祖母さま、そんな目で見ないで」とリリベットが銅像に向かってつぶやくのだが、実は、このヴィクトリア女王こそ、「ボランジェ」に最初のロイヤルワラントを与えた人物なのだ。
 国家を背負ったお姫様の、たった一日だけの外出と淡い恋。だが、これは単なる甘いラブ・ストーリーではない。戦争直後の国の現実を直視し、女王となる自覚を強くしたリリベットの成長譚でもある。映画の中で、終戦の喜びでお祭り騒ぎの民衆を見ながら、ジョージ6世がこう語る。「戦後という厳しい現実に彼らは目覚めるだろう。リリベットの時代に」。
 リリベットのその後は、現実のエリザベス女王の人生が語っている。国内に多くの問題が起こっても、英国という国の品位が守られたのは、やはり女王の存在が大きい。映画がフィクションであることは重々承知。でも、「エリザベス女王に、こんな秘められたラブ・ストーリーがあったら素敵」とついつい思ってしまうのだ。

『ロイヤル・ナイト 英国王女の秘密の外出』

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ボランジェ スペシャル・キュヴェ

ボランジェ スペシャル・キュヴェ

フランス、シャンパーニュ地方。ピノ・ノワールを主体に、シャルドネ、ムニエをブレンド。白い花、ハチミツ、ブリオッシュの香り。美しい泡立ちとフレッシュな酸味。芳醇で力強い味わい。メゾンは1829年、ピノ・ノワールの名産地であるアイ村に創設。750ml \9,360
■「ボランジェ スペシャル・キュヴェ」のお問い合わせ先/アルカン 03(3664)6591
取材・文/安齋喜美子
ワイン&フードジャーナリスト。女性誌を中心に多くの媒体で執筆。ふだんごはんからスイーツ、星つきレストランまで幅広くカバーする。映画が大好きで、登場するワインは必ずチェック。最近は海外の醸造家とオンラインでワインテイスティングの日々を過ごす。シャンパーニュ騎士団シュヴァリエ。
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