「もし歌舞伎俳優だったらつとめてみたい役柄は……」人気落語家・春風亭一之輔さんが語る、歌舞伎愛

歌舞伎と落語といえば江戸時代から互いに縁の深~い芸能。役者の芸道を描いた芝居噺があるかと思えば、落語をそのまま歌舞伎作品に仕上げた演目も多数ある。大の歌舞伎ファンで知られる人気落語家の春風亭一之輔さんが、シネマ歌舞伎『鰯賣戀曳網(いわしうりこいのひきあみ)』公開を機にますますヒートアップする歌舞伎愛を語ってくれた。
落語家・春風亭一之輔師匠
Q.初めて歌舞伎をご覧になったのは?

高校2年生の芸術鑑賞教室でした。国立劇場で『新版歌祭文 野崎村』を見たんです。台詞の細かいところはわからなかったけど、ストーリーは筋書きなんかを見て大体わかって、面白いと思ったな。僕は大学で落研に入ったけど、歌舞伎舞踊研究会だったかみさんと付き合い始めたのがきっかけで観るようになったんです。今はたいてい月1で観ています。

Q.落語ではすべての人物を一人で演じ分けます。例えば女性でやりやすい役、やりにくい役はありますか。

僕の場合、町人の女房はやりやすいですね。逆に『紺屋高尾』の花魁のように本当に色気のある役はちょっと苦手かな。見た目がまず坊主のおじさんですしね(笑)。歌舞伎は勉強になりますよ。細かい手の動き、指先、目の色気、相手との呼吸とか、息の合い方とか、楽しみながらもついつい目が行きます。

Q.歌舞伎には、その役者の持ち味や柄がその役に合っているかどうかについて、「ニン(仁)がいい」とか「ニンじゃない」と言いますね。落語にもそういう感覚はありますか。

ありますね。「この噺はお前のニンに合っている」とか「合っていない」と先輩から言われることありますよ。自分では合っていないと思っていても、お客さんからは良いんじゃないかと言われたり。僕はがらっぱちな人間の方がやっていて楽しいんだけど、間口を広げるようにと師匠や先輩には言われます。

Q.落語には芝居噺というジャンルがありますね。役者の芸の修行の凄まじさや、芝居オタクたちの可笑しさが描かれます。

うちの師匠(春風亭一朝)も歌舞伎が大好きでね。師匠が言うには、芝居噺は歌舞伎を見て好きになって、その上で『七段目』をやろう、『中村仲蔵』をやろうというものじゃないかと。芝居の一つも観たことない奴が芝居のネタを習いに来るんだよなあとも言っていますね。

Q.逆に落語を基にした歌舞伎の演目もいろいろあります。『人情噺文七元結』や『怪談牡丹燈籠』などなど。

怪談噺の『豊志賀の死』も歌舞伎になっていますが、顔がただれていく様子は落語の方が怖いんじゃないかな。聞いて想像してもらう方がね。歌舞伎だとちょっとお化け屋敷的になることもあるので。もちろん落語家の腕によりますよ。逆に役者が舞台に現れたときのインパクト、見た目の華、大道具や衣裳、それはもう落語は歌舞伎に全くかないません。

落語家・春風亭一之輔師匠
Q.もし師匠が歌舞伎俳優だったら、つとめてみたい演目、役柄はなんでしょう。

僕は悪い奴がいいですね。舞台の中央で一番奥に座っている、ちょっと青い顔してガーッと舌出す奴、ああいうのがいいな。『妹背山婦女庭訓』の蘇我入鹿とかね。かみさん相手にときどき遊んでいます(笑)。『伽羅先代萩』の仁木弾正もいいな。何しろカッコイイ。出ている時間が短くてすぐ終わるのもいいよね(笑)。

Q.仲の良い歌舞伎俳優さんといえばどなたですか。

片岡亀蔵さんがうちの師匠のおかみさんの弟さんで、よくメールしあってます。また、今年の1月から「春風亭一之輔のカブメン。」を始めまして、松本幸四郎さんや中村米吉さんとのトークライブを配信しました。もうね、一人の歌舞伎ファンとしてドキドキしっぱなし(笑)。特に若手女方の米吉さんのときはテンション上がりましたね。単なるミーハー目線でした。

女方さんで言えば(二代目)片岡秀太郎さん、中村東蔵さんのように見ていて顔がほころんでしまうようなかわいいお婆さんも好きです。シネマ歌舞伎『人情噺 文七元結』では先代の(七代目)中村芝翫さんがおかみさん役なんですね。あれは落語では難しい役なんですよ。観てみたいなぁ。

素敵な役者さん、大好きな役者さんは他にもたくさんいますが、出てきた途端に、お客さんをウキウキ気分にしてしまうという点で、(十八代目)中村勘三郎さんや坂東玉三郎さんはもう別格じゃないでしょうか。

Q.そのお二人が主演のシネマ歌舞伎『鰯賣戀曳網』が、6月から公開されています。ご覧になっていかがでしたか。

この演目は舞台でも観ましたが、シネマ歌舞伎の方が台詞もスッと頭に入ってくるし、わかりやすく感じました。アングルも、アップあり引きあり。舞台の上のこんな角度からお芝居が観られるのかと驚きますよ。シネマ歌舞伎は今回初めて観ましたが、他ももっと観てみたいですね。『籠釣瓶花街酔醒』は豪華なキャスティングだし、『大江戸りびんぐでっど』は公演を観に行けなかったので観たい。あと、落語家としては『人情噺 文七元結』や『らくだ』も気になります。

初めて歌舞伎を観るという方には、もちろん劇場で舞台全体を観る良さを味わってほしい! でもわかりやすさという点でシネマ歌舞伎、これはおすすめできますね。

「もし歌舞伎俳優だったらつとめてみたい役柄は……」人気落語家・春風亭一之輔さんが語る、歌舞伎愛_1_3

【月イチ歌舞伎とは】
毎月1週間ずつ(新作は 3 週間)シネマ歌舞伎を上映する「月イチ歌舞伎」。2021 年は、名台詞・みどころ満載の『籠釣瓶花街酔醒(かごつるべさとのえいざめ)』(7月公開)、歌舞伎座に“ぞんび”が登場した宮藤官九郎 作・演出『大江戸りびんぐでっど』(8月公開)、串田和美による野心的な演出の NEW シネマ歌舞伎『四谷怪談』(9月公開)、有吉佐和子原作『ふるあめりかに袖はぬらさじ』(10月)、中村吉右衛門出演の名作『熊谷陣屋』(11月)、勘三郎・玉三郎・仁左衛門豪華共演の『刺青奇偶(いれずみちょうはん)』と多彩なラインアップ。

6月4日(金)~6月24日(木)公開 『鰯賣戀曳網(いわしうりこいのひきあみ)』

6月4日(金)~6月24日(木)公開 『鰯賣戀曳網(いわしうりこいのひきあみ)』

作:三島由紀夫
出演:中村勘三郎、坂東玉三郎、松本幸四郎、片岡亀蔵、坂東彌十郎、中村東蔵ほか

平成21年1月歌舞伎座さよなら公演にて上演された舞台を撮影した本作は、中村勘三郎の愛嬌溢れる鰯賣猿源氏と坂東玉三郎演じる謎めいた気品を漂わせる傾城蛍火が織りなす恋模様を描いた古風でおおらかな味わいのある作品。勘三郎、玉三郎の息の合った掛け合いも見どころの「三島歌舞伎」の名作が、シネマ歌舞伎に初登場。

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