古きよきものとモダンな美 エリック・ショーバンさんの人生最高に「好き」な家

「自分のテーマ」があれば、心地いいインテリアはかなう。eclat8月号では、エリック・ショーバンさんの古きよきものとモダンな美を組み合わせた空間作りをご紹介。
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土地の風景と一体に。大農家を改装した週末の家

 ここはパリジャン、エリック・ショーバンさんの週末の家。歴史ある素朴な古い家屋、その内部はスタイリッシュでモダン。そこにたくさんの花をあしらって暮らすのが彼のテーマだ。エリックさんは、現在大人気のフローリスト。3店舗の花店を構え、そのセンスのよさに国内だけでなく世界中からラブコールが絶えない。こうして都会で仕事をしつつ、地方に週末の家をもつというのは、多くのフランス人が憧れる夢。多忙な毎日の中、エリックさんも週末の家をもつ夢を、長いこと温め続けていた。この家は、パリから車で2時間ほどの美しい場所、ペルシュにある。高速道路や鉄道網からは隔たっており、騒がしさを嫌うパリのおしゃれな人たちが今、注目しているという。実家のあるアンジェまでの中間にあることも、家族思いのエリックさんにとっては選択の大事なポイントだった。購入したのはなんと、11haにおよぶ昔の大農家の地所で、風に溶け込んだ石造りの母屋、納屋、厩舎のほか、釣りもできる小川や水車小屋もある。
「もとは廃屋状態だった建物だけれど、外観は本来のものを大切にして、中は予想を裏切るような、でも調和しているモダンな空間にしたかった」とエリックさん。いっときは全部で30人の大工さんが働くほどの大改造の指揮をとったのはアーティスト同士、旧知の仲の女性建築家、ジュスティヌ・フーリエさん。古い部分は16世紀のものという石壁や、時を経てやや傾いだ屋根のラインなどはそのまま。一歩中に入るとガラッと趣が異なり、広々としたウルトラモダンなリビング・ダイニングには、アンティークやコンテンポラリーのアート作品がたくさん飾られている。外との調和がとれているのは、主役がゆったりと円形に置かれたグリーンのソファだから。静けさの中にテーブルのオレンジが効き色となり、たっぷりと飾られた花が、空間に華やかな活気と贅沢さをさらに添えている。
 このリビングがある建物は、かつては納屋だったので、積みわら用に非常に高い天井になっている。それを最大限に活用し、高さ5mもある大きな開口部を新たに4つ設けた。室内には十分に光が満ち、まさに「風景が家の中に入ってくるような住まい」というのがエリックさんのイメージだ。

内部にも、美しいものだけ。たくさんの芸術品と新鮮なバラ

 居住スペースは全部で300㎡以上と広広。天井には無垢な肌を見せる歳月を経た樫の梁が歴史を感じさせ、窓枠の直線的なグレーのスチールはいかにもモダンな雰囲気。そこにパリのオークション「ドゥルオー」やペルシュの街の有名な骨董商など、エリックさんが懇意にしているプロを通して収集してきた家具やオブジェ、絵画彫刻の数々が置かれ、個性が響きあうことで上質な雰囲気を醸し出している。
 右の大きい写真は、落ち着いた気分で過ごしたい書斎サロン。こちらはぐっとシンプルな雰囲気で、温かみのある優しい色調でまとめられている。少量のオレンジが効果的。打ち合わせなどに使ったりもするが、穏やかな気分で過ごせるそう。ここでも敷地内にある温室で摘みとられたばかりのバラが、存在感満点のアーティスティックな花器と相まって輝きを放っている。
「花を自分で育てたい」というのもエリックさんのこの家にこめていた夢のひとつだった。というと優雅な趣味のように聞こえるが、エリックさんの場合は規模が大きい。専属の庭師が丹精するハイクオリティのバラは春だけでも1万本。もちろん、受注した仕事に使うので、ここでもまたパリ同様、注意を払い、常に動きまわって、休めていないような……。
「確かに、結局ここでも仕事をしてしまうのだけれど、時間の流れがパリとはまったく違う。気取らない地元の人たちと話をしたりすることでも癒されているよ」
 一方、上階の寝室は、まったく違った雰囲気なのも印象的だ。
「ここにはあえて最低限の家具しか置いていない。視界に何も入れず、静けさ、穏やかさ、心からのくつろぎを感じる場所にしたかったからね」
 エリックさんの言葉どおり、そこはまるで修道僧の部屋を思わせるようなミニマルですっきりしたたたずまい。目に入る外の世界も、小さな窓から見える森と丘だけ。これもまたパリの第一線で日々奮闘し、世界を股にかける人ならではの選択といえるのかもしれない。
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16世紀から20世紀にかけて建てられたかつての大農家を、たたずまいはそのまま買い取って、内部を大改装。
別棟1階にある書斎サロン。テーブルに見立てた昔の体操の器具の上には、19世紀の貴重な植物標本が載っている。窓辺のサボテンのオブジェともども、地元のアンティーク専門店から入手
母屋の上階に設けられた主寝室。家具は最小限で、テレビが内蔵されたグレーの間仕切りの反対側のコーナーがゆったりとしたクロゼットになっている
母屋の1階部分を【一番上の写真】と反対の角度から見たところ。アールヌーボー期、ロイエール様式の鉄柵を波状にたわめてリビング(奥)とダイニング(手前)の仕切りにしている。
ムラノガラスに生けた香り高いイブピアッチェ。華麗なピンクのバラと日本のカエデを取り合わせるあたりに、トップフローリストのセンスが見てとれる

教えてくれたのは

フランス フローリスト  エリック・ショーバンさん
’71年フランス、ロワール地方生まれ。’00年パリ7区に『UnJour de Fleurs(アン ジュール ド フルール)』を開店以来、スターフローリストとしてグランメゾンや世界の富豪から信頼を得ている

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