【山本容子×小林恭二】心の景色を詠む楽しみ【新年1月号特別対談《後編》】
2023年のエクラカレンダーは、山本容子さんの俳句と銅版画のコラボレーション。俳句の先生(宗匠)である小説家・俳人の小林恭二さんをお招きして、俳句の楽しみを語り合っていただいた。容子さんを虜(とりこ)にした、俳句のおもしろさとは? 前後編の後編。

銅版画家 山本容子さん
’52年埼玉県生まれ。’78年京都市立芸術大学西洋画専攻科修了。都会的で洒脱な線描と色彩で、独自の版画の世界を確立。本の装丁からパブリック・アートまで幅広く手がける。俳名は「山猫」。近著に『山猫画句帖』など。

小説家・俳人 小林恭二さん
’57年、兵庫県生まれ。’81年東京大学文学部卒業。在学中は東大学生俳句会に在籍。’84年『電話男』が第3回海燕新人文学賞、’98年『カブキの日』で三島由紀夫賞受賞。小説、評論、エッセー等著書多数。専修大学文学部教授。
自分にしか書けないもの。うっかり書けてしまうもの
山本 2023年のエクラカレンダーを見て、自分も俳句を詠んでみたいと思う人がいるかもしれない。なにかアドバイスはありますか?
小林 そうですね。要するに、うまくなろうなんて思うなよ、と(笑)。40代50代になってから俳句なんて始めても、うまくならんし。
山本 初めにおっしゃいましたよね、俳人と呼ばれる人たちは10代からやっているって。
小林 俳句の技術だけでいえば、基本的に簡単なものであって、5年もすれば習得できる。で、そうするうちにだんだん、自分にしかできないものが作れるようになるんです。
山本 わかります、くるのよ。

小林 つまり、自分が書きたいものを書くんじゃないんです。書けるものを書くんです。自分が書きたいものっていうのは、自分の頭の中にあるイメージであって、実はつまんない代物で。本当によいものというのは、自分の手が勝手に動いちゃう。
山本 超常現象じゃないんだから、それじゃわかりにくいわよ(笑)。
小林 つまり、うっかり知らないうちに書けてしまう、としか、いいようがない(笑)。ただそのときに、何が書きたいものだったのか、何か書けるものなのかって、自分ではわからない。そこで大事になるのが「連衆」。要するに仲間がジャッジしてくれるんです。
山本 他人の目、ということね。

「リンゴ自身には自分が甘いか酸っぱいかわからない。食ってもらってやっとわかるんです。」(小林さん)
小林 自分ではすごい名句を書いた、と思っても、その仲間たちに見せると“なに格好つけているの?”“こういうの、よくあるよね”みたいな反応なんです。でも本人が無意識に、うっかり作ったものに対してみんなが拍手喝采、高い評価をしてくれることがある。自分じゃ、わけわかんないです。でもしばらくして時間がたつと、自分もわかってくるんですね、ああ自分は、これが見えていたんだって。
山本 そうそうそう。
小林 だからこそ、仲間が必要なんです。自分で作るだけじゃ自己満足にすぎないし、すぐに自家中毒を起こす。もともと俳句というのは、人からの視線があって初めて存在するもので。
山本 絵も同じ。客観性をもって自分の絵を見る目をもっていないと、ね。
小林 ここにリンゴがある。リンゴ自身には自分が甘いか酸っぱいか、わからない。人に食ってもらってやっとわかるんです。
山本 私も最初のころは小説とか映画とか音楽とか、自分の好きなジャンルを背景に詠んでいたけど、あまり受けないのよ、みんな私の頭の中なんて知らないから。
小林 そういうの、大脳皮質の上のほう、上っ面の知識ですからね(笑)。
山本 もっと頭とか心の奥の部分で、自分がなぜ感動したのか、それを入れ込まないとみんなに伝わらない。五七五の17文字って、短いようで長いの。
小林 進歩しましたね(笑)。だから自分というものをどこで考えるかが大切なんです。もうちょっと生活の実感の中で揺さぶられたことを詠むと、みんな心惹かれる。その人の心がぱーっと開いたときの句は、うまくても下手でも、感動してもらえるんです。

知らなかったことを知ると自由になれる!
山本 私が作句を始めたころ、歳時記を手に入れて、それを読むだけで楽しかった。俳句で使う季語とか、それを使った句が載っていて。ですから俳句を作りはじめてから、季節の移り変わりに敏感になったと思います。
小林 それが基本です。これから句を作ろうというかたは月を見て山を見て、じーっと見て、今のこの季節を感じ取るところから始めてください。そして何度もいいますが、うまくなろうなんて思わないこと。自転車に乗るのと同じです。最初は補助輪つけて、だんだんにスピードが出せるようになる。プロのロードレーサーにならなくても、どこへでも行けるようになるし、隣町まで行けるし、坂を下れる、上れる。
山本 自由になれるわね、本当に。それが習い事の醍醐味だと私は思っているんです。知らないことを知るって、自由になることだから。そうやって得た教養って、人にひけらかすためのものじゃなくて、生きるうえで役に立つの。
「自由になれるわね、本当に。それが習い事の醍醐味だと私は思っているんです」(山本さん)
小林 そうですね。もっと簡単に、俳句を作る御利益があるとすれば、3つ。まず、本当の自分を発見することができる。そして友だち、仲間ができる。そして作品が残る。容子さんは日記のようにして書いて、ずうっと残してらっしゃるから、自分が変化している、その変化の過程も見えるでしょう?
山本 ええもう (笑)。那須に住むようになって、さらに変わりました。
小林 自然を満喫しているし、それが作る句にも反映されています。もともと画家の視点という武器があるし、そこに自然が加わって、最近の容子さんは俳人として無敵状態ですよ(笑)。
山本 エクラでも春の誌上句会を催すそうですから、皆さんも一句作ってみたらいかがですか? 入口はそこにありますから、どうぞ、俳句の世界へ! お待ちしてます(笑)。
2023年カレンダー『山猫ごよみ』

山本容子さんがこの10年に作った句と四季を描いた銅版画をコラボレーション。繊細な絵と独特の視点が、一年を彩ってくれる。
カレンダー掲載の銅版画をエクラプレミアム通販で購入できます!
山本容子さんが「山猫」の名で詠んだ四季折々の句とそれに合わせた軽やかな銅版画で構成した今回のカレンダー。掲載した表紙と12カ月の銅版画・計13点をエクラプレミアム通販で数量限定で販売します。お気に入りの季節の作品をぜひお手元に! 詳細はこちら

表紙となった『初晴』は、新年にふさわしいにぎやかさ。¥88,000/エクラプレミアム通販 イメージサイズ15×10㎝ ソフトグランド・エッチング、手彩色 制作年/2014年
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