血糖値スパイクとは、食後血糖値が急上昇・急降下を繰り返す現象。どうして食後血糖値の乱高下が起こるのか、また、どのようにしたら血糖値スパイクを予防・改善できるのか。ミスター血糖値と呼ばれる矢野宏行先生に解説していただきました。
そもそも血糖値スパイクを起こしやすいのは、どんな人?
矢野先生によれば、血糖値スパイクを起こしやすい人は食事時間が不規則だったり、就寝前にお菓子を食べる習慣があったり、炭水化物やフルーツ、清涼飲料水などの糖質を取り過ぎている傾向があるそうです。
タンパク質(肉や魚介類)と食物繊維(野菜、海藻、きのこ類)をとらずに、糖質に傾いた食事をすると、血糖値スパイクを起こしやすくなります。特にパン+フルーツ、ピザかパスタ+パンなどの‟糖質の重ね食い”はNG。
「朝食や昼食を抜いて、次の食事で炭水化物や果糖を豊富に含む食品をドカッと食べると、血糖値スパイクを起こしやすくなります。実は日本人に多いのが、‟糖質の重ね食い”で食事をすませるケース。パンとフルーツ、パスタとパン、そばとかつ丼などの組み合わせは、糖質のとりすぎを招きやすく、食後血糖値が急上昇した後で、反動でガクンと急降下してしまうんですよ。これが‟血糖値スパイク”と呼ばれる現象です。特に早食いの人は食後血糖値が急上昇しやすいですね」(矢野先生)
また、寝る前にお菓子を食べる習慣も血糖値を上昇させる原因のひとつ。夕食後21時以降にお菓子やフルーツを食べる習慣は要注意です。近年、夜間に血糖値スパイクを引き起こすことが睡眠障害やメンタルにも影響を及ぼすことがわかってきたからです。
しかも、血糖値スパイクの状態が続くと、将来的に糖尿病に移行するリスクも高くなるのです。
まずは日ごろの食習慣を振り返ってみませんか。下記の一覧の中から3つ以上当てはまったら、気づかないうちに‟血糖値スパイク”を引き起こしている可能性があります。
血糖値スパイクを起こしやすいのは、こんな人
□食事時間が不規則で、早食いの傾向がある
□朝食または昼食を抜いて、次の食事を食べすぎてしまいがち
□昼食は手軽に食べられる麺類が多い
□フルーツ+パン、パスタ+パン、かつ丼+そばなどのセットメニューが好き
□白いご飯が好きなので、夕食時におかわりすることが多い
□スポーツドリンクや清涼飲料水を毎日水の代わりに飲んでいる
□くだものは美容にいいのでたくさん食べている
□21時以降についついお菓子を食べてしまう
□野菜と海藻は苦手なので、あまり食べない
□昼食後に眠くなることが多い
□座りっぱなしで、運動をほとんどしていない
□寝つきが悪く、慢性的な睡眠不足
□最近イライラする。倦怠感もある
□20代の頃よりも体重が5㎏以上増えた
そもそも血糖値スパイクはどうして起こるの?
私たちの体内では、食後血糖値が上昇すると、膵臓から分泌されるインスリンというホルモンの働きで血糖値を下げる仕組みがあります。ところが、インスリンが分泌されているにもかかわらず、血糖値を下げる働きが弱まってしまうケースがあるのです。それは‟インスリン抵抗性”と呼ばれる状態。
‟インスリン抵抗性”の状態に陥ると、私たちの体は血糖値を下げようとして、さらにインスリンが分泌されるようになっていきます。実はインスリンの分泌が増えれば増えるほど、体脂肪がつきやすくなるという側面があり、近年では、「太りやすくなることと血糖値の乱高下はリンクしている」ことがわかってきました。そのため内臓脂肪が多い人は、膵臓からインスリンがしっかりと分泌されているにもかかわらず、インスリンの働きが悪くなってしまうのだそうです。
「実は、食後血糖値の急上昇には、食事によって体内に取り込まれた糖質だけでなく、‟糖新生”といって、私たちの肝臓の中で糖が作られるメカニズムも影響しています。しかも、‟インスリン抵抗性”の状態になると、‟糖新生”が過剰に亢進してしまうんです。本来は食事によって体内に取り込まれる糖だけで十分なのに、体内でも糖が作られるため、血糖値がますます上昇してしまうというわけです」
とはいえ、‟糖新生”は人体にとって、とても重要な働き。食事をとらない間も、‟糖新生”の働きによって血糖値を保つことができるからです。
「かつて物資や食べ物が不足した時代、人々は‟糖新生”のおかげで肉体を維持することができました。でも、飽食の時代といわれる現代では、内臓脂肪が多い人たちが増えています。そのため‟糖新生”が過剰になって、食後血糖値が上昇しやすい人が増えているのではないでしょうか」
‟糖新生”が過剰になるのは、「ホルモンの暴走」が原因だった!
血糖値のコントロールに関わるホルモンとして知られるのはインスリンですが、実は膵臓から分泌されるホルモンがもう一つあるのをご存知ですか?それはグルカゴンというホルモンです。
本来、インスリンとグルカゴンはシーソーのような関係。でも、内臓脂肪が多い人はインスリンの働きが悪くなる‟インスリン抵抗性”の状態に陥りやすく、グルカゴンの分泌が優位になってしまいがちです。
インスリンは血糖値を下げる働きで知られていますが、もう一つのグルカゴンには血糖値を上げる働きがあります。本来、この2つのホルモンは「シーソーの関係」にあり、血糖値が上昇するとインスリンが分泌されて、グルカゴンの分泌が低下してきます。一方、食事をしない時間が続いたときには、グルカゴンが分泌されて‟糖新生”が発動し、インスリンの数値が低下していく仕組みがあるのです。
ところが近年、‟ホルモンの暴走”によって、インスリンとグルカゴンのシーソーのバランスが乱れしまった人たちが増加傾向にあります。本来、インスリンが分泌されているときにはグルカゴンの分泌が低下するはずなのに、グルカゴンがイケイケ状態になって、過剰に分泌されてしまう人が増えているのです。特に内臓脂肪がついている人は、グルカゴンが暴走するスイッチが入りやすいのだそうです。
「日ごろ、糖質を摂りすぎる食習慣を続けていると、血糖値が急上昇しやすくなり、インスリンの分泌量が増えてしまいます。そもそもインスリンには全身の臓器に糖を届け、細胞や脂肪にエネルギーを蓄える作用がありますから、インスリンの分泌量が増えると、脂肪が組織が分厚くなってしまうんですよ。ただ、脂肪組織にも限界があり、「これ以上、糖はいらない」という段階になると、全身の組織に栄養を届けるために使われるべき糖が、血液中にどんどんたまってしまいます。これが『高血糖』の正体。まさに、‟ホルモンの暴走”が起きている状態です。血糖値を下げる働きのインスリンよりも、血糖値が上げる働きのグルカゴンが勝ってしまうと、‟糖新生”が引き起こされ、血液中にどんどんと糖がたまってしまうのです」
インスリン(血糖値を下げる)の働きが悪くなって‟インスリン抵抗性”に陥ると、グルカゴン(血糖値を上げる)が暴走。すると、糖が十分に足りているにもかかわらず、体内でどんどん糖が作られる「新糖生」という働きが起こり、血中に余分な糖がたまってしまいます。これが‟高血糖”の状態。
一方、急上昇した血糖値を元に戻そうと、血糖値の急降下が起こると、私たちの体は「このまま血糖値が下がっては生命に危険が及ぶ!」と、再び‟糖新生”のスイッチがオンになってしまうのです。
グルカゴンの暴走を食い止めて、血糖値スパイクを予防・改善するためにも、日ごろの食生活を振り返ってみましょう。まずは‟糖質の重ね食い”の習慣を改めるのが第一歩です。
イラスト/内藤しなこ 取材・文/大石久恵