坂本龍一さんの想いを感じて。50代にふさわしい、プレミアムな映画館へ【ウェブエクラ編集長シオヤの「あら、素敵☆ 手帖」#19】

東京・新宿にオープンした「東急歌舞伎町タワー」が話題です。中でも9階・10階にある「109シネマズプレミアム新宿」は、坂本龍一氏が音響を監修し、音はもちろん、シートもラウンジも、すべてがプレミアムな映画館なのだそう。現在「Ryuichi Sakamoto Premium Collection」を開催中と聞き、早速行ってみました。
ウェブエクラ編集長 シオヤ

ウェブエクラ編集長 シオヤ

50代女性のための雑誌&ウェブメディア「エクラ」のウェブ担当編集長。155cmのアラフィー。ビューティ・小柄担当多め。鈍感肌。盛ってます。
4月のはじめ、桜が咲き誇っていた頃、シオヤは心が塞ぐ日々を送っておりました。音楽家・坂本龍一氏の訃報を知ったからです。教授(と、呼ばせていただきます)は、子どもの頃からのシオヤのアイドル。先だってデヴィッド・ボウイについて書きましたが、同じく大きな影響を受け、音楽のみならず社会に目を向け続けた教授の活動を、ずっと追ってまいりました。全てにおいてセンスのよい、偉大すぎる憧れの大人であり続けた、教授のいない世界を生きるのがこの先、怖い。と、親戚縁者でもないのにその喪失感は自分でも驚くほど大きく、ひたすら暗い気持ちで4月を過ごしていたわけです。
坂本龍一氏が音響を監修したプレミアムな映画館「109シネマズプレミアム新宿」
長く病魔と闘っていた教授が音響を監修していた映画館がオープンする、と聞いたのは訃報を知って間もなく。なんでも音響はもちろん、スクリーンに椅子に、すべてがプレミアムな映画館とのこと。その「109シネマズプレミアム新宿」で、「Ryuichi Sakamoto Premium Collection」として教授に縁のある映画が上映されると聞けば、足を運ばぬ理由はありません。教授自身が出演し、映画音楽も作曲した大好きな『戦場のメリークリスマス』の上映回を目がけて行ってみました。
坂本龍一氏が音響を監修したプレミアムな映画館「109シネマズプレミアム新宿」のラウンジ
「東急歌舞伎町タワー」の9階と10階にあるこの映画館、全席プレミアムシートでシアター1~8まで、すべてのシアターにハイスペックな音響設備が備わっているそう。シアター6は、3面ワイドビューシアター(スクリーンX)だそうで、こちらもぜひ体験してみたいです。
そして特筆すべきは、このラウンジ。静かで広々、リュクスなチェアが置かれたラウンジは、まるでホテルのようなしつらえ。ここはぜひ、上映スタート時間より早く訪れて、このラウンジでゆったりとした時間を過ごすべきですね。ちなみにラウンジに流れる静かな音楽も、教授がこの映画館のために作曲したのだそう。他にも上映前に流れる曲など「ここでしか聞けない」教授の音楽が、私たちを迎えてくれます。
坂本龍一氏が音響を監修したプレミアムな映画館「109シネマズプレミアム新宿」のバーラウンジ
ラウンジには、バーも。メニューには、シャンパーニュにジャパニーズウイスキー、クラフトビール……など大人も満足のラインナップ。トリュフのフレンチフライや種類が選べるホットドッグも、プレミアムな感じです。ちなみにポップコーンとノンアルコールドリンクは、チケット代に含まれており、おかわりも自由。シオヤはキャラメルと塩のポップコーンをハーフ&ハーフでいただきましたが、音にこだわりのある映画館だけに、上映中ポリポリするのが若干憚られました(笑)。
109シネマズプレミアム新宿の「クラスS」専用ラウンジ『OVERTURE』の看板
109シネマズプレミアム新宿のクラスAシート
シートはクラスS(6500円)とクラスA(4500円)の2タイプあり、今回は、このクラスAにしました。前後左右ともに広々としていて、荷物や傘を置くスペースもあります。座席がスライドでき、深々ゆったりと座れるのが本当にうれしいです。両袖が少し高くなっていて、映画に没頭できる感じもいいですね。ちなみに「クラスS」には、専用のラウンジ『OVERTURE』もあります。この「109シネマズプレミアム」、意外にも(そこまで高層階ではないのに)窓から新宿の夜景がとてもキレイに見えるので、景色を楽しみながら過ごす時間はまた格別かと。

109シネマズプレミアム新宿で上映中の戦場のメリークリスマス
「戦メリ」の上映は、シアター8。1983年公開・大島渚監督最大のヒット作なので、ご覧になった方も多いと思いますが……。映画の舞台は、第二次世界大戦中のジャワの日本軍捕虜収容所。所長のヨノイ大尉(坂本龍一)、ハラ軍曹(ビートたけし)の前に、一人のイギリス軍の捕虜(デヴィッド・ボウイ)が現れるところから話は始まります。公開当時は、3人ともまだ30代。超人気のスーパースターたちの夢の競演に、シオヤをはじめ多くの若い女子たちが熱狂したものです……。そして何より、音楽です。YMOで超多忙なスケジュールの中、教授は出演だけでなくサウンドトラックを手掛け、映画タイトルでもある名曲『Merry Christmas Mr.Lawrence』が生まれました。時々誤解されている方がいますが、デヴィッド・ボウイが「Mr.ローレンス」なわけではありません。
109シネマズプレミアム新宿のラウンジ
もう何度目か分からない『戦メリ』鑑賞を終えて、ラウンジでひと息つきました。映画の余韻を感じつつワンクッション置きたいときに、この落ち着いたラウンジはとてもいいですね。

このシアター8は、デジタル上映全盛の今どき珍しい、「35ミリフィルム映写機がある映画館」だそうで、この日の『戦メリ』も、2年前から公開されている「4K修復版」ではなく、35ミリフィルムでの上映でした。そのため、正直なところ画質の劣化を感じますし、音もチリチリとしたノイズが入ります。思わず「うわ!懐かしい、この感じ……」と昭和の昔に思いを馳せてしまいました。ただ音響の良さは、それをかなりカバーしていると思います。古い名作を、最高の環境で観ることができる。とてもありがたく、贅沢な場所を作ってくれたなあと思います。

なぜ今、フィルム上映なのか? この映写機導入は、教授の提案だったそうです。
新宿高校に通っていた60年代後半、新宿で浴びるように映画を見、貪欲に文化を吸収した教授は、そのころの体験が自分を根本的に変えたと語っています。そのフィルム映画の文化を継承するシアターを最先端の施設につくる――その願いは叶えられましたが、それを見ることなく教授は去ってしまわれました。おそらく映画愛にあふれる多くの方が、このシアター完成に携わられたことと思いますが、それを思うと胸が熱くなります。
109シネマズプレミアム新宿のおしゃれなスーベニアショップ
坂本龍一のマスキングテープ
さて、館内には映画チケットがなくても立ち寄れる、おしゃれなスーベニアショップもありました。上映作品のグッズのほかに、教授のCDやDVD、書籍がずらり。見るとシオヤが買い損ねていた「坂本龍一 マスキングテープ」があるではないですか! 教授の最新アルバム『12』のマステです。迷わずゲット。
思えば新宿は、本当にたくさんの映画館があった街でした。この映画館の全身である「新宿ミラノ座」や、「シネマスクエアとうきゅう」でアート映画を見たのも良き思い出です。中高生だった80年代、まだまだ猥雑な雰囲気だった歌舞伎町に映画を見に行くのはかなりドキドキしたものですが、60年代に新宿高校に通っていた教授が、新宿の文化を継承する最先端の施設をデザインしてくれたのは、私たちへのギフトのように思えます。

「Ryuichi Sakamoto Premium Collection」は5/18まで。12月に配信された、教授最後のライブ「Ryuichi Sakamoto: Playing the Piano 2022 +」も見に行きたいのですが……なんだか号泣してしまいそうです。また当初の予定作に加え「ラストエンペラー 劇場公開版 4Kレストア」も追加されたとのこと。戦メリに続き、教授が出演(こちらも大尉役)に加え音楽を担当し、日本人初のアカデミー賞作曲賞受賞の、あの麗しい作品を最高の環境で観られるなんて……! 長生きはするものです。また歌舞伎町へ足を運びたいと思います。
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