印象を語り出す「香り」について【大人美が目覚めるとき vol.23】

かれこれ1年半以上にわたって創っていた絵本『ピンクのカラス』がようやく完成しました。グラフィックアーティストやアートディレクター、セットデザイナー、そして、印刷会社やギャラリーのかたがた……。ふだんは、ビューティやファッションに携わっているかたがたと接することが多い私ですが、絵本創りというプロジェクトを通して、想像もしていなかった出会いがあったり、経験したことのない濃密な時間が過ごせたり。改めて振り返ると、それまでよりもぐっと、世界が広がった気がしています。

プロジェクトをスタートさせて、どれくらいがたったころでしょうか？ 頻繁にチームで集まり、幾度となく話し合いを重ねて、まるで家族のようと思いはじめたころ、チームのひとりにこういわれました。「千登世さんの匂い、ずっと気になっていたんですよね」。うれしいことに私の匂いが「好み」だと彼女。職業柄、新しい香りに触れる機会に恵まれる私は、今日はこれ、今日はこれと洋服やメイク、気分で使い分けることも多いのですが、そのプロジェクトが始まってからというもの、不思議なことに、そして無意識のうちに「自分自身でいられる」たったひとつの香りを選んでいて、それがチームには私の香りと記憶されていたようなのです。そしてもうひと言。「ああ、千登世さんって、こういう人なんだって、香りでわかっていた気がする」。これ以上のほめ言葉はない、と思いました。香りと自身が溶け合って、どちらが主張するでもなく、ワンセットとして記憶されていることも、服ともメイクとも空間とも存在が一体化するように、香りという目に見えないものが相手に届いていることも。20代のころ、漠然と憧れていた「大人」には、その人だけの香りがあったなあ……、ふとそう思い、自分だけのひとつが「定まる」幸せに包まれたのです。

重ねてきた経験から「好き」や「似合う」、「ときめく」や「落ち着く」がクリアに見えてくる大人だからこそ、香り選びもきっとクリア。タイムレスでエターナルなものとの出会いが待っている気がするのです。そして、その香りは不思議と、パートナーとも、服やメイクとも、暮らす空間とも溶け込むものに違いありません。今こそ、あなただけの香りを。あなたという存在を静かに語りだす、たったひとつを。

誰もが知る「これとわかる香り」から、自分だけがたどりついた「存在に溶け込む香り」へ。世の中のムードが大きく変わった今、もう一度求めたいのは、モードが生む香り。それぞれのフィロソフィーを軸に構築されたクリエイションは、本能にまっすぐ届いて、存在を高みへと導く。パートナーとシェアできるフレグランス、空間にも漂わせたいフレグランス、服のイメージとシンクロするフレグランス……、大人が選びたいのは、自分という存在に溶け込む香り。

ITEM LIST

〈左から〉ディオールファッションを象徴する“ニュールック”をコンセプトに生まれた香り。アルデヒドのフレッシュな香り立ちからフランキンセンスが独創的に香り、アンバーのハートノートへ。ファッションとのシナジーで大人のセンシュアリティが漂う。メゾン・クリスチャン・ディオール ニュー ルック 250㎖ ￥55,880／パルファン・クリスチャン・ディオール　イタリア南部のプーリア、さわやかに日射しが注ぐ午後、緑あふれる菜園で過ごすひとときを再現したシトラスウッディ。レプリカ　オードトワレ　フロム　ザ　ガーデン 100㎖￥23,540／メゾン マルジェラ フレグランス　「雨上がりに漂う、心地よい自然の香り。植物や土から立ちのぼる芳しさが感じられる、フレッシュでムスクのような気配」が表現されたメンズフレグランスは、女性にきりりとしたムードを纏わせる。H24　エルブ　ヴィーヴ オードパルファム100㎖ ￥19,580／エルメスジャポン