富岡佳子が会いたかった人をゲストに招いてスペシャル対談。今回のゲストは、箱根駅伝の常勝チーム、青山学院大学陸上部の寮母・原美穂さん。原晋(すすむ)監督とともに学生たちを支え続けてきた、その秘訣は?
寮生活を通して、学生たちはどんなふうに変わるのか
富岡 初めまして。箱根駅伝は毎年家族で楽しく拝見していて、あの青山学院大学陸上部の原晋監督のことはメディアではよく存じあげています。今回はこのような機会をいただけてとても楽しみにしていました。
原 え、光栄です(笑)。
富岡 もう20年も陸上選手の学生たちをすぐそばで見守ってこられたんですよね? 私にも大学院生の娘がいて、昨年から親元を離れて暮らしていまして。子供たち世代とどんなふうに接して、どんなふうに支えてきたのか、とても興味があるんです。私たちが若かった時代とは、環境がまったく違いますよね?
原 そうですね、私が寮母を始めた20年前と今を比べても、全然、違います。
富岡 スマホの登場が大きいのかな。
原 20年前はまだ、携帯を持たない学生もいたんです。何をするにも、図書館に行って調べるのがあたりまえの時代で。でも今は、検索すればなんでも教えてくれますから、なんでも知っている。いえ、わかったつもりになれる(笑)。
富岡 うちの娘も、YouTubeを見て情報収集をすることがあります。
原 でも頭でっかちの知識があっても、実際には何もできなかったりして。
富岡 コミュニケーションのとり方も、ずいぶん変わったのでは?
原 もう、すぐにLINEですね。うちの寮は大体40人が生活しているんですけど、みんなに伝えるべきことを寮長にいうと、「わかりました。じゃあグループLINEしておきますね、ぴぴぴぴっ」って。でもそれではちゃんと伝わらないんです。受け取ったほうは意味を理解していなかったり、読み流して忘れたり。
富岡 あー、わかる気がします。
原 そこで寮長は痛感するわけです、ああ、それだけじゃ人は動いてくれない。人を動かすのは大変なんだって。伝えたことを理解させて、やらせるのが、どれだけむずかしいことか。それを大学時代に感じられるかどうか、その子にとってすごく大事な経験。だからうちの寮ではみんなに交代で、寮長とか学年長とか、いろんな役職をもたせるようにしています。寮には親元から来る子がほとんどなんですが、先日も「うちの子、本当に何もしない子だったのに、率先して仲間の荷物を運び出しているのを見てびっくりしました」とおっしゃるお母さんがいらして。家では服を脱ぎ捨てていたけど、寮では公共の場に私物を置いてはいけないというルールがあるのできちんと片づけできるようになったり、周囲に気を使ったりする中で変化するんでしょうね。
富岡 すごい、人生に役立つ経験ですね。過保護に育ってしまうと、そんなことにも気づけない。それに今の子って、極端に失敗を恐れませんか?
原 そうなんです! ナイーブだし、他人から自分がどう見られているかを、極端に気にしますね。だから自分の写真をイケメン寄りに加工したりして(笑)。しかも打たれ弱い! 若いうちになにかしら失敗する経験は、貴重なんです。失敗して謝ったり、理不尽なことがあったら怒ったり。そういうことを何も経験しないまま社会に出て、そのままオジサンになっちゃったら、人生損だと思うんですよ。
「世の中に出てから役に立つことを、寮でいっぱい、学んでいるんですね!」――富岡佳子
富岡 生活態度が改善されると、競技成績もよくなるものですか?
原 はい。特に陸上競技というのは、センスだけに左右されない、努力が報われるスポーツだと思うんです。自分ひとりでできるので、その子の向き合い方しだいで、タイムは1秒2秒刻みで変わってきます。駅伝競技はチーム戦なので、ある程度、選手として過ごしてもあまり結果が出ない子には、マネージャーになってもらって、箱根駅伝で勝つためのサポートをしてもらう。先程の寮長の話と同じで、その子の人生にはとてもいいと私は思っています。
富岡 マネジメントする力というのは社会に出ても大切ですものね。
原 ひとりで生きていける力を早くに身につけられますし。マネージャーになると、この選手はここでさぼっているから走れないんだなと、頭の回路が変わってくるんです。以前、マネージャーになった子から「僕、今の気持ちで選手だったら、もっと走れたと思います」といわれたこともありました。
富岡 物事を俯瞰できるようになって、自分を内省できるんですね。美穂さんから学生たちに注意したり、アドバイスもするんですか?
原 基本的には何か問題が起こっても、私たちがどうこうするより学生たちに任せて、自主的に立ち直るのを待ったほうがいいと思うんです。
富岡 じっと見守るんですね。
原 でもそれが個人的な問題だったら、タイミングを見て、直接話します。
富岡 そのタイミングというのは?
原 「俺ってセンスがあるから、すぐ走れるわ」みたいに慢心しているときは、何をいっても、うるさがられるだけです。何か失敗して、ダメージのあるときに、「こうしたほうがよかったよね」って諭すと、納得してくれることが多い。
富岡 ちょっと傷ついているときに?
原 わりと私は、傷口に塩を塗るタイプ(笑)。でもいうべきことはいわないと、と思うので。もちろんその子の性格を見極めたうえでのことですけど。
富岡 いうべきことは相手のために、いってあげるのですね。
原 人見知りな子でも何度か話すうちに表情がどんどん解けてくるんです。そういうのがけっこう楽しいですね。
「若いうちに失敗する経験をしないままオジサンになったら、人生損だと思うんですよ」――原 美穂
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