さいとう みなこ●文芸評論家。編集者を経て’94年『妊娠小説』でデビュー。その後、新聞や雑誌での文芸評論や書評などを執筆。『中古典のすすめ』『忖度しません』『挑発する少女小説』『出世と恋愛』ほか著書多数。最新刊は『あなたの代わりに読みました』(朝日新聞出版)。
文芸評論家・斎藤美奈子さんおすすめ!今読みたい話題の本3選
今話題の本を文芸評論家・斎藤美奈子さんがご紹介。今回は、食う者と食われる者の心理を描いた異色の恐竜小説『恐竜時代が終わらない』ほか計3冊をピックアップ。
50代の男が語りだす“恐竜の話”に思わず夢中に
恐竜を描いた小説で有名なのは、コナン・ドイル『失われた世界』やクライトン『ジュラシック・パーク』である。どちらも古生物学者を主人公にしたSF小説で映画も大ヒットした。
山野辺太郎『恐竜時代が終わらない』はこれらとはちょっと違ったタイプの恐竜小説だ。
語り手の「わたし」こと岡島謙吾は50歳。埼玉県所沢市のスーパーの鮮魚売り場で働いている。ある日、彼のもとに「世界オーラルヒストリー学会」なる団体の日本支部長から一通の手紙が舞い込む。
〈恐竜時代の出来事のお話をぜひ聞かせていただきたい〉。
旧石器時代の遺跡などが残る飯能市で育ち考古学に憧れたこともあったものの、学問とは無縁の人生を送ってきた謙吾。彼はしかし、父から子へと伝えられてきた「恐竜時代の話」を幼いころに失踪した父から受け継いでいた。
依頼に応えることにした彼は、講演会で語りはじめた。それは地球上に人類が登場するはるか以前、1億5千万年前の、草食恐竜ブラキオサウルスと肉食恐竜アロサウルスとの交友の物語だった。
ブラキオサウルスの少年であるエミリオはある日、水場でアロサウルスの少年ガビノと知り合った。
〈けっしてまずくはないのだけれども、とびきりおいしいわけじゃない〉シダの葉を毎日毎日食べ続け、〈空しさを脱するためには、これまでとおんなじ毎日を過ごしていたんじゃ駄目だ〉と考えていたエミリオ。一方、同年代らしき少年のガビノは、まだ狩りの経験はないものの、どうやら刺激的な日々を送っているらしく、〈俺たちのエサときたら、逃げたり隠れたり、おまけにしっぽを振りまわして反撃してきたりで、捕まえるのにひと苦労だよ。食事するのも命がけなんだ〉なんてことを興奮ぎみに語るのだ。
捕食関係にある草食恐竜と肉食恐竜に、本来共生は不可能だ。事実エミリオの母は〈気をつけなくちゃ駄目よ。この弱肉強食の世界で生きていくには、弱い者は群れ集まっていなくちゃいけないの〉と息子をたしなめるが……。
単なる寓話というなかれ。別々の文化を生きるふたり(2頭)は人間社会を先取りした存在ともいえるのだ。実際、謙吾はいう。〈父の語る恐竜たちは人間と同じぐらい、いや、人間以上に人間的だった気がします。(略)父の遺してくれた話を夜道のランタンのようにかざして、現実の自分の無力さをやり過ごしながら、どうにかわたしは育っていきました〉。
山野辺太郎のデビュー作は、壮大な地理的スケールで読む人を呆然とさせる作品だった。そして今度は気が遠くなりそうな時間を一瞬で跳び越える。ありえない事実を見てきたように語る話術は一級品。ぜひ騙されていただきたい。
『恐竜時代が 終わらない』
山野辺太郎
書肆侃侃房 ¥1,870
スーパーに勤務する平凡な男が語る、父との思い出と、父から受け継いだ恐竜の物語。草食恐竜のエミリオはいつか鳥になって空を飛びたいという夢をもっていたが、肉食恐竜のガビノと出会い、やがて彼に食われてガビノの一部になれるならそれでもいいと思いはじめる。食う者と食われる者の心理を描いた異色の中編。人間である語り手と恐竜の少年が渾然一体となった末に迎えた結末は、ちょっとせつなくほろ苦い。
あわせて読みたい!
『いつか深い穴に落ちるまで』
山野辺太郎
河出書房新社 ¥1,430
戦後すぐに立ち上がった壮大なプロジェクト。それは日本と地球の裏側のブラジルを1本のトンネルでつなぐ計画だった。運輸省の官僚の発案を受け継いだ建設会社の鈴木は調査を開始。温泉を掘る技術で秘密の土木工事が進むが。選考委員を驚愕させた’18年の文藝賞受賞作。
『もしも恐竜と話せたら』
じゅえき太郎/絵 ペズル/文
阿部浩志/監修
プレジデント社 ¥1,540
「恐竜の物語を書く小説家になりたい」という夢を抱いた6年生の少年が、20種類の恐竜と直接会話をしながら彼らの生態を学んでいく形式の児童書。ちなみにブラキオサウルスは全長約26mの大型草食恐竜。アロサウルスは全長約12m、ジュラ紀後期で最強とされる肉食恐竜だ。
文芸評論家・斎藤美奈子
さいとう みなこ●文芸評論家。編集者を経て’94年『妊娠小説』でデビュー。その後、新聞や雑誌での文芸評論や書評などを執筆。『中古典のすすめ』『忖度しません』『挑発する少女小説』『出世と恋愛』ほか著書多数。最新刊は『あなたの代わりに読みました』(朝日新聞出版)。
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