──キム・ジェミョン”という役柄について話していただけますか?
「私が演じた知能犯捜査班長のキムは、史上最悪の詐欺師を捕まえる真っただ中にいます。彼はエリート警察官ですが、それは一つの側面にしかすぎません。彼を生身の人間だと感じるのは少し難しいかもしれませんね。これまで“これこそが最も演じるのが難しいキャラクターだ”と何度か思ったことはありますが、今回の役柄こそ、その最たるものだと思います。個人的に彼は描写しづらいキャラクターであり、通常の自分の声ではない声色で演じてみたいと思いました」
──悪のカリスマや天才ハッカーと比べると、正義のヒーローは少し演じにくいのではないかと思いました。
「私が今まで演じたことのなかったタイプであり、挑戦する価値のある役でした。ですが、撮影が始まると、思っていたよりタフな挑戦だったことに気づきました。私は常に、彼のすべてのポテンシャルを引き出せてはいないのではないか、と感じました。彼が怒ったり、喜んだりしないのは、ただ感情表現がうまくできないだけ、内向的で用心深い人間なのです。セリフを口にすることすらチャレンジでした。しかし、感情面について、私がキムの人格を理解できなかったことは一度もありません。几帳面に見えるように演じてみたかったと同時に、脚本に描かれているよりも少しだけ、演技に感情を込めたかった」
──先ほど、“彼のすべてのポテンシャルを引き出せてはいないのではないか”とおっしゃいましたが、刑事役が初めてと思えないほど銃の持ち方も、立ち振る舞いも素晴らしかったです。何か準備はされたんですか?
「体を鍛えなければならないので、たくさん食べて、運動をしました。アクション監督からはボクサーの動きも見せたいと言われて。その監督はボクシング経験者なので何か月か一緒にスパーリングをしました。あとは、ステップを踏めるようになるために縄跳びをしたり、ひたすらサンドバッグを叩いたり。ボクシングは体力の消耗が激しいんですね。多くのメニューが3分やっては休んで、また3分やって…の繰り返しですが、その3分のうち、たった1分やっただけでも、かなりきつかったです」
──実際の刑事に習ったりはしてないんですか?
「特に何も。シナリオとキャラクターを見てやった、という感じです。それに韓国の男性は(兵役があるので)みんな銃の持ち方はうまいですよ。そういえば、共演した女優のオム・ジウォン先輩に“知能捜査班について聞きに行くけど、どうする?”と言われたんですけど、僕は“姉さんだけ行ってきてください”と言ったことがあります(笑)」
──誘われたのに行かなかったんですか!?
「はい(笑)。その必要はないかなと思って。実際の知能捜査班はほとんど銃を使わないし、外に出ることもなかなかないんです。今回、僕らが演じたチームは、この捜査のために集められた特別なケース。それでもパソコンばかりを操作しているのですが」
──連日、引きこもり捜査をしているとは思えないほど、アクションシーンは素晴らしかったです。
「ありがとうございます。でも、本当はもっとよく撮れていたシーンがあったんですよ。でも、本編には入っていなくて…(苦笑)」
本作には多くの見どころがあるが、その一つに名優三人の演技バトルがある。『G.I.ジョー』などハリウッド作品でも活躍するイ・ビョンホン演じる極悪非道な“悪のマスター”に、『華麗なるリベンジ』のカン・ドンウォン扮する“正義のマスター”、そして、『チング 永遠の絆』のキム・ウビン演じる“ハッカーのマスター”。三人の“マスター”たちは、互いに壮絶な頭脳戦を仕掛けていく。その手に汗握る展開に、観ているものは息つく暇もない。
──本編での三人の関係は張り詰めた緊張で成立していましたが、現場の雰囲気はどうでしたか?
「現場では、ずっと冗談が飛び交っていました。ビョンホンさんと僕、ウビンくんの年齢差はかなりありますが、常に楽しかったです。フィリピンロケのため、ひと月ほど滞在していたのですが、(比較的年齢の近い)僕とウビンくんは運動をしながら、よく遊んでいましたね。ビョンホンさんとは時々一緒に食事をし、ご馳走してくれました」
──年上の先輩俳優もたくさん出演されてましたが、緊張しませんでしたか?
「怖いとか、緊張するとか、そう思わせる方は誰一人いませんでしたよ。“キムママ”役のチン・ギョンさんとは初めての共演でしたが、優しくしていただきましたし。僕個人の感想ですが…韓国の映画界には先輩後輩の枠があまりありません。試写会でしょっちゅう会いますし、お互いの現場へ遊びに行ったりもしますしね。試写会が終わると“最近どうしてる? 元気にしてる?”なんてことを言ったりしながら、年上、年下関係なく、みんな友達のような付き合いなんです。本当にいい職場ですよ」
──環境がよい反面、“演じる”という作業は、自己と向き合ったりする苦労の多い仕事だと思うのですが。
「“自己と向き合う”という表現が適しているかはわからないのですが。僕の考える“俳優”という職業は、他の人の痛みを、演技を通して表現したり、慰めたりするものと思っています。だからこそ己を知るということも大切ですし、他の人のことを知るのもまた大事になってきます。他者を知ることは、常に社会的イシューや政治的問題についても勉強しなければいけないということですよね。それはある意味、時代の痛み、苦しみを代弁すること。お笑い芸人さんや歌手の方たちといった大衆芸術が数多く存在しますが、その中でも、俳優というのは、みなさんに親しみやすさ、そして癒しを届けなければいけないと思っています」
──それでは、ドンウォンさんへの癒しは、一体誰が届けるんですか?
「はははっ!!(くしゃりと笑いながら) 自分なりに楽しんだりして、しっかり整えていますよ。僕、こう見えてメンタルが強いんです(笑)。とにかく、先ほど話した気持ちは、日が経つにつれ深まっていますね。できるだけ大勢の人と交流をしなければ、そしてそれについて知らなければと、常に。使命感と言ってもいいぐらい。己を知っているだけでは、他者と共感もできないですし、今はできるだけ多くの人と交流をして勉強をしているところです」
──俳優という仕事。現在は映画で活躍されていますが、その魅力はなんだと思いますか?
「映画は表現の限界がないところです。表現の限界値というものがわからないくらい、主題、テーマを様々な方法で伝えることができるから。もちろん、商業的なニュアンスは持っていますが、依然として純粋な芸術的な部分を持ち合わせていると思います。たとえば人間愛を表現するとき、いつも周りの方たちとよく話すのは“映画人たちは、作業へ純粋に没頭している人が多い”ということです。自分が“これをやりたい”という意思も明確ですし、“これを投げかけたい”というメッセージをしっかり持っています。俳優だけでなく、映画に関わるスタッフの皆さん全員が強い使命感を持っている、というのが魅力的だと思います。」
──俳優という意味では、舞台というフィールドもありますが。
「舞台も、より純粋な気持ちで表現できると思います。しかし、何かを伝えようと思ったら、テレビや映画と比べて、一度に大勢の人へ見せることが難しいですよね。そういった観点からみたら映画は、テレビと舞台のちょうど中間くらいにあると思うので、何か伝えたいメッセージがあれば、舞台よりはより多くの方に投げかけることができると思います。依然として商業性を持ち合わせてはいるけれど、純粋な芸術とも言える…って、純粋な芸術という言い方はおかしいのかな(笑)。少なくとも僕には、そう思えるんです」
──映画以外の作品、たとえばドラマには出ないのですか?
「そんなことはないですよ。テレビドラマの現場環境もだいぶ変わったと、各方面から聞いていますし。8時間ドラマのような長いシリーズものにも興味があります。でも今は映画のスケジュールだけで、いっぱいいっぱいです」
──来年は、韓国で映画3本(『1987』、『ゴールデンスランバー』『人狼JIN-ROH』)が予定されているんですよね。
「実は、それ以外に現在交渉中の作品が4本あるんです。今年も忙しかったんですけど、来年は俳優人生で一番忙しくなるかもしれないですね(笑)。一年に4作品なんて撮ったことがありませんから。でも、全部うまく撮れたらいいですね…全ての作品が成功をすることを、心から願っています」