モネが愛した庭と家を訪ねて、ジヴェルニーへ【この秋モネにひたる】

現在、国立西洋美術館にて開催中のクロード・モネの大回顧展『モネ 睡蓮のとき』。今回はモネが晩年を過ごしたジヴェルニーの家と庭にフォーカス。解説は担当学芸員の国立西洋美術館 研究員・山枡あおい氏。

モネが愛した庭 ジヴェルニー

パリから車で約1時間30分のところに位置するジヴェルニー。セーヌ川とその支流のエプト川が合流する自然豊かなこの地とモネが出会ったのは、1883年の早春のこと。乗っていた汽車が偶然停車したという。同年5月には移り住み、夢の庭を築いて終(つい)の住処(すみか)とした。

モネの取り組みを象徴する「水の庭」の太鼓橋と藤棚

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《藤》 1919〜1920年ごろ 100×300cm マルモッタン・モネ美術館、パリ Ⓒ musée Marmottan Monet
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撮影/Megumi Saito

日本風の太鼓橋は、池に架けられた4本の橋のうちの1本。同じ構図で多くの連作が描かれた。連作はモネが最初に取り組んだ手法。大装飾画(Grande Décoration)もモネが作った新しい言葉だ。壁画のように空間を装飾する巨大なカンヴァスに描くために、広大なアトリエを新設した。

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《日本の橋》 1918年 100×200cm マルモッタン・モネ美術館、パリ Ⓒ musée Marmottan Monet

一軒の古い農家の借家住まいから始まった夢の家と庭

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撮影/Megumi Saito

野菜や果樹を観賞用の花に植え替えた「花の庭」とモネの家。もとは「ル・プレソワール(りんご絞り機)」と呼ばれていた古い農家で、灰色だったよろい戸をモネが緑に塗り替えた。

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撮影/Megumi Saito

ダイニングルームには、浮世絵が壁一面に飾られている。

フランスで一番おいしい食事ができる家

ジヴェルニーに移住する前の約5年間、モネの人生は激動していた。1877年、大パトロンだったエルネスト・オシュデが破産し、エルネストとその妻アリス、彼らの6人の子供がモネの家で同居することに。翌年、モネの妻カミーユが次男ミシェルを出産し、翌年に死去。その2年後、エルネストを除くアリスと子供たち、モネと2人の子供とでポワシーへ転居した(モネとアリスは、のちに再婚)。


そんな5年間を経て、1883年に10人でジヴェルニーへ。モネはすぐさま庭づくりに没頭した。1893年には隣接する土地を入手し、ライフワークとなった「水の庭」の造成を開始。睡蓮が浮かぶ池の周辺には、竹やシャクナゲ、日本のりんご、桜も植えられた。

「モネは歌川広重などの浮世絵から着想した日本風の橋を造り、その風景を連作で描いています。さらにこの橋のそばに設けた藤棚を、幅3mという大画面に描きました。これは当初、睡蓮の装飾画の上部を飾るフリーズ(帯状装飾)として構想されていたものです」

この庭を維持するためにモネは莫大な費用をかけている。数人の庭師を通年で雇い、睡蓮のためだけに暖房完備の温室を建てた。庭に隣接する道を通る車が上げる土ぼこりが睡蓮の葉を汚すのを嫌い、費用を負担してまで道を舗装した。

一方で、モネは大いなる美食家でもあり、この家で多くの客をもてなした。友人や美術商たちは「フランス一おいしい昼食」への招待を待ちわびた。食後のコーヒーを飲み終えて、自慢の庭を散策するのがお決まりのコースだったという。

お話をうかがったかた

●山枡あおいさん

国立西洋美術館 研究員

’94年生まれ。国立西洋美術館 研究員。専門はフランス近代美術史。慶應義塾大学大学院前期博士課程修了後、’21年より現職。
 

クロード・モネ《Claude Monet》

クロード・モネ《Claude Monet》

1840年パリに生まれ、少年時代をノルマンディー地方ル・アーヴルで過ごす。1859年パリで絵を学びはじめる。1874年サロンから離れ独自の展覧会を開催し《印象、日の出》を出展、印象派の名の由来となる。1883年ジヴェルニーに移り、1926年に86歳で永眠するまで住み続けた。

Ⓒ musée Marmottan Monet

【information】

『モネ 睡蓮のとき』 国立西洋美術館【東京・上野公園】~’25年2月11日

〜’25年2月11日(火曜・祝日) 9:30〜17:30

(金・土曜は21:00まで。入館は閉館の30分前まで) 

㊡月曜(11/4、’25年1/13、2/10〜11は開館。11/5、12/28〜1/1、14は閉館)
観覧料/当日一般¥2,300ほか

東京都台東区上野公園7の7 ☎050・5541・8600(ハローダイヤル)

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