【原田知世さんインタビュー】 大切なものは、いつだって足元にある――続けてきた「歌」が教えてくれたこと

原田知世さんが「冬」をテーマに制作したミニ・アルバム『カリン』。幅広い世代のアーティストたちとのコラボレーションで生まれた楽曲は、大人世代にひときわ懐かしく、温かな感触をもたらす。彼女が歌に込めるもの、そして、その歌声と佇まいの変わらぬ透明感の秘密に迫る。

年齢を重ねた今、「こうしなきゃ」はもういらない

原田知世

――11月27日発売の『カリン』は、冬がテーマの6曲を収録した、2年ぶり22枚目のミニ・アルバム。11月生まれの原田さんにとって、やはり冬は好きな季節ですか?

原田知世さん(以下、原田) 昔から好きです。特に、自分の誕生日からクリスマスまでがいちばん……街も華やいでいますし、自分の生まれた時期というのは、きっと自然にエネルギーが湧くんでしょうね。ですから、「冬」というテーマはすごく楽しみで。曲を作っていただくアーティストの方々にお伝えしたのは、基本的には冬というテーマのみで、あとは自由に発想していただきました。

――先行配信された『カトレア』の作詞・作曲を手掛けた川谷絵音さん(「Indigo la End」「ゲスの極み乙女」など)は、原田さんへの曲提供は2曲目になります。

原田 前回のアルバム(’22年3月リリース『fruitful days』)に提供してくださった『ヴァイオレット』は高音域の曲でしたが、今回はあえて低めのトーンに。歌詞にも川谷さんらしい遊びがあって、聴いた方はきっと「え、今何て言ったの?」と驚かれるんじゃないでしょうか(笑)。前回と今回、2曲とも違うタイプの曲ですが、心の中には情熱が溢れていても表面上はすごく静かに……川谷さんの曲を私が歌うなら、そんなふうがいいのかなと思いました。

――今回、初参加されたアーティストのおひとりは、シンガーソングライターの藤原さくらさん。『朝に』は、日常の気づきの一瞬を捉えた美しいナンバーです。

原田 とても詩的で、素敵な歌詞ですよね。彼女が選ぶ言葉は、どこか自分が書くときのそれと近いような気がして……あまりいろいろと考えなくても、自然にメロディーに委ねて歌うことができました。川谷さんやさくらさんなど、少し世代の離れたアーティストとコラボレーションするのは、今の私にとってすごくいいことだなと感じています。皆さんの作風に共通するのは、どこか懐かしさを感じるということ。歌詞やメロディーの中に、私もリアルタイムでは聴いていなかった60年代の日本のアーティストたちの、エヴァーグリーンなエッセンスが滲み出ているようでした。

原田知世

――歌詞の中には、大人の実感のこもった部分も。『インディゴブルー』の〈いつでもあなた自分のことより/私の幸せ祈ってくれた〉※1、『ひねもすLOVE』の〈パーフェクトな人生はないの/宝物は足元にある/遠くまで旅をして気づけたの〉※2という一節などには、心を掴まれました。

原田 『インディゴ〜』は自分にとってのふるさとを感じながら、『ひねもす〜』は歌いながら私自身も「本当にそうだ」と、救われるような気がしていました(笑)。心の大事な場所にある記憶、そうしたものをわかっている人のための歌だなと。子どもの頃にはわかりませんでしたが、大人になればなるほど、そういう切なさがしみてきますよね。

※1 
「インディゴブルー」 作詞:高橋久美子 作曲:伊藤ゴロー

※2  「ひねもすLOVE」作詞:高橋久美子 作曲:伊藤ゴロー

――俳優と並行しての音楽活動は来年で43年。最初に歌い始めた頃、これほど長く歌うことを予感されていましたか?

原田 いえ、まったく……でも人生は、出会いやタイミングによって変わっていくものなんでしょうね。ここ10年以上、レコーディングもライブもほぼ同じメンバーで行っていますが、毎作違うものにチャレンジして鮮度を保ちながら信頼感がどんどん増している環境には、すごく安心感があって。俳優として現場へ行くときも、ありのままの自分で自信を持って行けるのは、音楽活動を続けていたからだろうなと思います。

原田知世

――俳優としての佇まいにも通じますが、自分らしくありながら、はじめて歌ったときのような透明感を保てるのはなぜでしょう? 

原田 「自分らしさって何だろう?」と、いつも思っているんです。実は、いまだに分からなくて。でも、それでいいのかな、とも……誰かが「あなたのいいところはここ」と思ってくれたらうれしいけれど、それを意識しすぎると、逆に動けなくなってしまいますよね。ですから、そのときどきに起こることをキャッチしつつ、任せるところは人に任せる。年齢を重ねれば重ねるほど「こうしなきゃ」はなし、自由でいいやって。

――12月17日には恵比寿The Garden Hallで開催されるクリスマスイベント「L’ULTIMO BACIO Anno 24」に参加し、アルバムリリース記念のスペシャルライブを開催されます。

原田 ライブには長く応援していただいている方も、俳優としての作品を観て関心を持ってくださった若いお客さまもいらっしゃいます。皆さんがライブのついでにイルミネーションを眺めたり、おいしいものを食べに行ったりしながら、つながっていく……そんなふうに、誰かの人生の傍に私の音楽があるのだとしたら、それはとても幸せなことだと思います。

今度のライブでは、しばらく歌っていなかった昔の歌も歌ってみようと思っていて、過去の音源を聞き返したりもしています。そうしていると、昔はダメだなぁと思っていた部分が、「あれ? 意外といいな」と思ったりもするんですよね。逆に「これはよかった!」と思っていたものが、案外、そうでもなかったりして、自分の記憶ってけっこう怪しいものなんだなと(笑)。

――今振り返るから、気づくこともあると。

原田 そうですね。ですから、嫌だった、ダメだったと思っていたことでも、時が経ってから再確認してみると「大丈夫だった!」となるのかもしれないから……。〈宝物は足元にある〉というように、自分のよさをあらためて見つけることも大事だなと。それに気づかせてくれるのが、私にとっては歌なのだと思います。

【原田知世さんインタビュー】 大切なものは、いつだって足元にある――続けてきた「歌」が教えてくれたこと_1_4
はらだ ともよ●’67年、長崎県生まれ。’82年、ドラマ『セーラー服と機関銃』で女優デビュー。同年、主題歌『悲しいくらいほんとの話』で歌手としてもデビューする。以降、コンスタントに出演、リリースを重ね、’22年には活動40周年を迎えた。最近の出演作にドラマ『あなたの番です』『スナック キズツキ』など。’25年3月には、最新出演映画『35年目のラブレター』が公開される。

ミニ・アルバム『カリン』

【原田知世さんインタビュー】 大切なものは、いつだって足元にある――続けてきた「歌」が教えてくれたこと_1_5

雲の切れ間の青空と澄んだ空気を感じながら、どこまでも歩いていく――極上の季節を映した珠玉の6曲を収録。伊藤ゴローの総合プロデュースのもと、川谷絵音、藤原さくら、soraya(壷阪健登+石川紅奈)のフレッシュな才能、高野寛、高橋久美子らベテラン勢との充実のコラボレーションが実現。ジャケットは人気イラストレーター・塩川いづみによる描き下ろし。初回限定版(スリーヴケース仕様+ミニフォトブック付)¥3,520・通常盤¥2,860(ともに税込、11月27日発売)Verve/Universal Music
▼12月17日のライブ情報はこちらから
https://www.red-hot.ne.jp/bacio/live/241217/

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