50代の私たちがこの先、社会に残せるものは何?「次の世代のためにできること」を考える

思えばずっと、懸命に生きてきた。仕事や恋愛、家族のこと。自分やそのまわりのことで精一杯の毎日を過ごしてきた。人生後半戦に入りつつある今、ちょっとだけ見える景色が違ってきた。そんな人も多いのでは?次に続く人たち、社会のために、できることがある。そんな一歩を踏み出している人たちに話を聞いた。

「次の世代のために何をしたい」という気持ち

仕事や子育てで精一杯だった30〜40代を経たからこそ、エクラ世代になって芽生えてくる「次の世代のために何かしたい」という気持ち。エクラ 華組&Jマダムのメンバーに、どんなことに関心があるのか、何をしてみたいかを聞いてみたところ、さまざまな声が集まった。

自然環境

自然環境

先日ジュエリーを購入するときに、サステイナブルな会社から購入しました。ものすごく小さくても世の中の意識が変わってくれるといいなと思っています。(とも子さん)

太陽光発電のパネルと蓄電池を設置し、車もEVに乗り替えました。また、家庭から出るゴミを減らすため、生ゴミを発酵させ、庭の畑の肥料として使っています。また、「プロギング」という、走りながらゴミを拾うフィットネスに参加しています。(藍さん)

「何かを買うときに省エネのものや作る際にCO2排出が少ないものなどを選んでいく」ことを意識しています。(TOSHIMIさん)

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子供のこと

次世代のためにというとオーバーですが、近所の小中学生の下校時間に買い物に行ったり、玄関先の掃除をしたりするようにしています。外に出ている人が少ない地域は変質者の出没情報が多いと聞きます。こじつけ的かもしれないけど、治安が悪いと子育てしにくい→少子化にもつながるのではないかと感じています。(N.さん)

娘が小学生のころ、読み聞かせのボランティアをしていました。今後は地元の図書館で活動できたらと考えています。できれば在留外国人の子供たちへの日本語の絵本の読み聞かせなどができたらと思っています。(トモミさん)

以前より里親にとても興味をもっています。小学生の娘と主人にはその思いを夢として、何度か投げかけていますが、そう簡単なことではないのでまだOKは出ていません。でも、家族が納得してくれたときには、まず数日だけでも里親ができればと思います。とてもむずかしい問題ですが、里親というものがもっと身近にあたりまえに浸透する世の中になればよいなと思っています。(エクラ 華組・綾部佳世さん)

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働き方のこと

上司の世代は、「残業すること」「徹夜で仕事をすること」「休みの日も仕事をすること」が美徳、人事考課が上がる……とされていた世代です。私は、後進のためになるということを念頭に置き、定時退社を遵守! 時間内に業務を進めることができるよう、自分自身のマネージメントを心がけています。(miyaさん)

私自身が、がんサバイバー、キャリアコンサルタントということもあり、がんサバイバーやケアギバーが安心して働ける場をつくりたいと思い、フラワーアレンジメント販売事業を始めました。再就職や復職に自信がない人は、まずここで短時間でも働いてもらいたいと思っています。私がこのような活動をしていることで、サバイバーの心の支えになりたいですし、治療と仕事の両立を考えてくれる経営者様が増えたらうれしいです。(キャリゆかさん)

働き方

地域社会

私の子供が生まれながらの心疾患があり、専門医療センターに入院を繰り返していました。付き添いを数カ月単位で24時間していましたが、自分の食事やシャワーもままならない、ひと息つける時間がもてないことや、長期入院で、母子ともにストレスがありました。私の子育てが落ち着いたら、いつか、病院ボランティアとして、お母さんに寄り添うかかわりをもちたいなと思います。子供のケアももちろんですが、それを支えるお母さん、家族のケアももっと注目されるべきだと思っています。(S.Kさん)

関心があるのは就学前の子供がいる在日外国人世帯へのサポートです。わが家は娘が2〜3歳のころ、2年ほど海外で過ごしたことがあり、現地の幼稚園にお試し入園しました。言葉など関係なく楽しめるお子さんもいらっしゃるようですが、娘にはかなりの負担でした。日本の学校に入学する前に、少しでも負担を減らせるように、就学前の子供とその家庭をサポートする活動が気になっています。(Michikoさん)

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※エクラ 華組、Jマダムにアンケート

「次の世代のためにできること」スペシャルインタビュー

坂東眞理子さん「誰かの幸せを願う気持ちは人として成熟した証しです」

坂東眞理子さん「誰かの幸せを願う気持ちは人として成熟した証しです」

人や社会に貢献できたとき、自分自身が救われる

仕事をこなし、子供を育て、家庭を回して、繰り返す日常の中で、不意にわき上がる「誰かのために」という思い。40代、50代での、こうした“貢献への芽生え”について、昭和女子大学総長の坂東眞理子さんは、「ごく自然なこと」と話す。

「私自身を振り返ってもそうですが、若いころは仕事もプライベートも、自分のことで精一杯。でも、それでいいのです。年齢と経験を重ね、苦しさや痛みを知ったからこそ、ふっと余裕ができたとき『何かしたい』『助けたい』という思いがわき上がるのでしょう。つまり、自分や家族以外の幸せを願う心は、成熟の証しでもあるのです」

年を重ねてなお、自分の利益や発展だけに重きを置く人生は、どこかむなしくなるのかもしれない。人のため、社会のために貢献できたとき、ほかでもない自分自身が救われ、大きな喜びを得られると、坂東さんはいう。

「かつてアメリカの心理学者・マズローは、人間の欲求は5段階あり、一番幸せを感じるのは、自己実現を果たしたときと唱えました。しかし近年の心理学では、自己実現以上に幸せを感じ、満足をもたらすのは、他者から感謝されたときとする説が有力です。やっぱり人は、誰かの役に立てることがなによりうれしいのです。自信をなくしてどん底にいるときでも、人や社会を少しでも支えることができたなら、『私も捨てたもんじゃない』と自分を見限らないでしょう。人とのかかわりの中で自己効力感を得る。これは自己実現より、人間としての根っこを太く強くしてくれる大切なことではないでしょうか」

与援力、求援力、受援力がつながりを取り戻すカギ

多様性が浸透し、一人ひとりの力が重視される「個の時代」になった。小さなつまずきが盛大に叩かれ、さまざまな場面で自己責任論が強調される風潮も続いている。

「すべて完璧にできて、困り事がないのならいいけれど、そんな人はいません。得意、不得意があり、調子の波だってある。すべての人が日々デコボコなんです。欠点の多い人類は本来、支え合い、助け合って生き延びてきました。それなのに今は、個を尊重するとうたい、なんでも個人の問題に帰結させて突き放すことも多い。孤立する人が増え、どんどん寂しい社会になっていると感じます」

孤立を減らし、希薄になりつつある人と人のつながりを取り戻すカギとなるものは何か。坂東さんいわく、それは「与援力」。困っている人や身近な社会問題を見すごさず、〝ちょっと〟手助けする力をさす。

「根本的に救済しようとしなくていいのです。時間やお金、知識や情報、人脈など、もっているものを少しさしだすイメージですね。自分にできることなんて何もないと謙遜するかたがいますが、エクラ世代の女性がこれまで仕事や家庭で培ってきた力は、ほかの人から見たら特別だったりする。役立てられる場面は多いはずです」

そして子供や若い世代に対しては「時に、おせっかいを焼くことも大人の役割」と、力をこめる。

「『大丈夫?』『困っていたらいってね』そんな声かけひとつが救いになることは、実際多いと思います。例えば昨今、社会問題となっている闇バイト。知らず知らずのうちに犯罪に加担してしまう若者のまわりに、相談できる大人がひとりでもいたら……。そう思わずにいられません」

与援力と対(つい)をなすのが、「求援力と受援力」。文字どおり、必要なときに助けを求めて、助けを受ける力のことだが、与援力よりこちらのほうが、身につけるのはむずかしいかもしれない。

私たち日本人には「人に迷惑をかけてはいけない」という意識が刷り込まれているからだ。年々、「迷惑を悪」とする傾向が強まり、助けを求めにくくなっている、と坂東さんは指摘する。「もちろん傍若無人にふるまうのはもってのほかですが、誰もが人に迷惑をかけ、助けられて生きていることを、改めて皆が認識するべきです。精一杯やって力が及ばないときは助けを求め、さしだされたものを感謝して受け取る。

もし自分が助けを求められたら、できるかぎりの力を提供する。こうした助け、助けられの関係を身近なところから構築し、ぜひ子供たちにも教えていってほしいです。このつながりこそ、人生の質を高めてくれるものだと私は思います」

40代、50代の女性が培ってきたものは誰かを救う力を十分にもっています

お世話になった人に感謝して、“恩送り”を心がける

坂東さんには、毎朝欠かさない日課がある。通勤途中に神社に寄って、お参りをするのだ。記憶を掘り起こすように、これまでお世話になったたくさんの人たちを思い出し、心の中で感謝を伝えているという。

「きっと皆さんもそうではないかと思いますが、多くの人に支えられて今があるのに、ふだんはそれを忘れているんです。それでいて、自分がしてあげたことはしっかり覚えていたりする。人間って本当に勝手ね(笑)。たまには、お世話になった人のことを思い出してみてください。自分がいかに恵まれていたか、幸運だったか、身にしみて感じることができ、励まされます。身近な人には、まめに直接感謝を伝えることを心がけてください。その人のパワーになりますから」

坂東さんが折に触れて思い出すのは、ハーバード大学に留学していた30代のころ、現地で出会った女性、メアリーさんのこと。70代だったという彼女は、休日に坂東さんを車であちこちへ連れ出して気晴らしさせてくれたり、英語で書いたレポートをチェックしてくれたり、いろいろなかたちでこまやかに応援してくれたのだそう。

「メアリーはいつも『好きでやっているの。お礼はいらないわ』といって、私を気にかけてくれました。そして別れぎわ、『あなたも将来、自分ができることを、必要としている人のためにやってあげてほしい』と。この言葉は私の中に刻まれています」

ささやかな利他を重ねて希望をもてる社会へ

誰かのために行動することで、自分が励まされる。そして善意に支えられた経験は、喜びをもたらして次の善意へ連鎖していく──。そんな幸せの循環が見えてくる。貢献や利他について、坂東さんはこんなことも話す。

「誰かのためにという心は、『自分を犠牲にして人につくす』ととらえられることも多いですが、それができるのは、マザー・テレサや宗教家のような一部の特別な人だけ。私たち凡人は、そこまでできません。もし、子育てや介護などでも、与えるばかりで苦しい現実があるとしたら、それは『こうしなければ』という思い込み、つまりエゴかもしれません。状況を俯瞰してみてほしい。自分と相手が互いに幸せになる道が見えてくる気がします」

突き詰めれば、利他は、自分中心の視点から離れることなのかもしれない。そこから他者の気持ちや境遇に心を寄せることが、貢献の一歩になる。

「できる範囲でいいのです。余裕がなければ、知恵や力を蓄える時期と考えてもいい。そしてしかるべきタイミングがきたら、私を助けてくれたメアリーのように『好きだからやっているのよ』と軽やかに行動できたら理想ですね。ひとりのマザー・テレサより、ささやかな利他を実践する100人がいたほうが、希望がもてる社会になっていくのではないかしら」

利他とは、自分を犠牲にすることではなく、他者とともに幸せになること

利他とは、自分を犠牲にすることではなく、他者とともに幸せになること
昭和女子大学総長 坂東眞理子さん

昭和女子大学総長 坂東眞理子さん

ばんどう まりこ●’46年、富山県生まれ。東京大学を卒業後、総理府(現内閣府)に入省し、内閣広報室参事官などを歴任。女性の社会進出や男女共同参画の推進に貢献した。大ベストセラーとなった『女性の品格』をはじめ、大切にしたい人生のヒントがつまった『与える人』(三笠書房)など著書多数。

始めています、「次の世代のためにできること」

田辺三千代さん、食を彩るサステイナブルな“紙の器”を発案

社会がもっとよくなるために――。意志をもって、あるいは運命に導かれるように、自分ができることと真摯に向き合っている人に話を聞いた。

「世界は変えられなくても、できることを地道にやるだけ」

美しいプロダクトに未来への祈りをこめて

美しいプロダクトに未来への祈りをこめて

「食卓に映える新しい製品を」。アパレルのプレスだった田辺三千代さんが、思いがけないオファーから、紙の器「WASARA」をプロデュースしたのは約20年前のこと。手になじむなめらかなフォルムと手びねりの陶器を思わせる質感。従来の紙皿にはない洗練されたデザインは、当時から画期的だった。「仕事柄、パーティに立ち会う機会が多く、そこで使われるチープな紙皿やレンタルの重い食器に、違和感をもっていました。料理を引き立て、持つ人の所作まで美しく見せること。そして、料理に合わせて器を選び、季節や自然を尊ぶ、日本ならではの感性を宿す紙の器があったらと考えたのです」

枯渇が懸念される木材パルプは使わず、余剰資源である竹とサトウキビの搾りカスを有効活用した。土に埋めれば、90日以内に生分解される。洗うための水と洗剤も必要としない。

「私が子供のころは、あるものをむだなく使い、始末よく暮らすことがあたりまえでした。その後の高度成長期に、利便性の追求と大量生産の波が押し寄せ、環境破壊がすすんでいった。でももう、立ち返るときだと。自分が生きている間だけでなく、その先まで思いをめぐらせれば、環境への配慮は必然です。そうした製品が、今後のスタンダードになるという確信もありました」

先見どおり、スタイリッシュでエコな紙皿は、世界の食のシーンを彩る定番に。そしてWASARAをきっかけに今度は、広島に届けられる千羽鶴の再生紙を活用してほしいという依頼が舞い込んだ。田辺さんは、「世界中の祈りがこめられている。へたなものはつくれない」と熟考を重ね、’30年代にヨーロッパで使われていた円形の扇を偶然見かけてひらめき、「FANO」を考案。平和への願いを昇華させたプロダクトとして、現在ではアーティストやブランドとのコラボも広く展開している。「いつのまにか、リサイクルの人になっていますが(笑)、人生はめぐりあわせ。運命だったのかもしれません。環境配慮や平和祈念はごく当然のことで、それを押し出すのではなく、ものとしての見映えを大事にする。それが、長年ファッション業界に身を置いた自分が携わる意義であり、コンセプトを多くの人に届ける最善策ではないかと」

一方で、争いが終わらない世界情勢には憂いを隠さない。

「平和の意味が重くなりすぎた今の状況が本当に悲しい。コンポスタブルな植物素材や折り鶴の再生紙が世界を変えるわけではないけれど、何もしない選択肢は私にはありません。できることを続けていくしかないと思っています」

縁あって、30年ほど前から山梨県の河口湖エリアに通い、住まいも構えた田辺さん。山や湖のそばで生活して深めた思いがある。

「散歩をして美しい富士山や木々の芽吹きを眺めているだけで、身も心も満たされます。人間は自然の一部。人も動物も植物も、最後は土にかえり、そこから新しい命が育まれる。それが自然の摂理だと、感じ入る毎日です」

デザイナーの緒方慎一郎さんとつくり上げたWASARA。成形する金型に細かな凹凸をつけ、手作りのような風合いが生まれる。流麗なフォルムは手の曲線に添うように設計

デザイナーの緒方慎一郎さんとつくり上げたWASARA。成形する金型に細かな凹凸をつけ、手作りのような風合いが生まれる。流麗なフォルムは手の曲線に添うように設計

(左)ニューヨークの「スターバックス リザーブエンパイア・ステート・ビルディング」限定のデザイン(右)被爆から70年の2015年、広島の式典で配布されたFANO。
「WASARA」「FANO」プロデューサー 田辺三千代さん

「WASARA」「FANO」プロデューサー 田辺三千代さん

たなべ みちよ●’53年、静岡県生まれ。TAKEO KIKUCHIのチーフプレスやJUNのPR室顧問を務め、山梨県・西湖の「CAFÉ M」や表参道のカフェ「montoak」の立ち上げにも携わる。現在はリサイクルやサステイナブルをテーマにしたプロダクトを企画、制作。昨年11月、WASARAの新シリーズ「casanet」をローンチ。

「+IPPO PROJECT」ファッションのもつポジティブな力を社会問題につなげる

一歩踏み出して、よかった。楽しみながら長く続けたい

一歩踏み出して、よかった。楽しみながら長く続けたい

子どもたちを支える活動からもらった多くの気づき

スタイリストの井伊百合子さん、フリーランスPRの枝比呂子さん、編集者の渡部かおりさんが’21年に立ち上げた+IPPO PROJECT。児童虐待、コロナ禍での貧困や教育環境の悪化など、切実な報道に触れるたび、できることはないか考えていたという3人が手をとり、定期的にドネーションバザーを開催している。

「私たちは子育て中ということもあって、子どもたちの未来を支えたい気持ちが一致していました。個人的には、ファッションと社会貢献をどうつなげるか、模索もしていて。いかに行動に移すかを大切にしました」と渡部さんは振り返る。3人の生業(なりわい)であるファッションを軸にバザーを開くことは、早々に決まった。そして、教育のボトムアップにつながるような寄付先を探して出会ったのが、社会的養護のアフターケアに取り組む「ゆずりは」だった。「ゆずりは」の所長、高橋亜美さんによると、虐待や貧困などで親元を離れて児童養護施設で育った子どもたちは、原則として18歳で退所する。だが親や家族の後ろ盾がなく、暴力などのトラウマも抱えた子たちが、自分だけの力で生きていくのはむずかしいのが現状という。「ゆずりは」は、そうした生きづらさを背負わされた人たちを、年齢問わず受け入れ、家探しや病院の付き添い、生活保護の申請などの伴走サポートをしている。井伊さんがいう。「『ゆずりは』に連絡をしたら、亜美さんがすぐ会いにきてくださって。活動の姿勢や思いを聞いて共感しかありませんでした。古着の寄付はあるものの、自分で選んだものを着る喜びを大切にしているとうかがい、現金で寄付をする重要性を知りました」

ファッション関係者を中心に洋服や雑貨を募り、これまで開いたバザーは8回。回を重ねるごとに賛同者も来場者も増え、運営費を除いた、およそ560万円を「ゆずりは」に寄付した。“子ども時代が困難だった人たちのために”踏み出した活動だが、ふたを開けてみれば収穫ばかりだったという。

「多くの人とつながれて、さまざまな状況にいる人たちに目を向けてもらうきっかけになれたり、得るものが本当に多かった。それに不思議なことに、どの洋服も一番似合う人が買ってくれるんです。一度、役目を終えた洋服が蘇る瞬間に立ち会えるのは、私たちにとってすごく幸せなこと」(枝さん)

「自分の力だけで立つことが自立だと思ってきましたが、『ゆずりは』の皆さんの活動を通じて、頼れる人や場所にたどりつく力をもつこと、その術(すべ)をいくつももち、互いに支え合えることこそ、自立につながるのではないかと気づかせてもらいました」(井伊さん)

高橋さんの要望をもとに、クライアントのきものメーカーと協力して、成人式や卒業式を迎えた相談者にきものや袴を着てもらって撮影する取り組みも行っている。着付けをするのは、「いつか施設の子たちのハレの日をお手伝いできたら」と、プロジェクトを始める前から資格をとっていた枝さんだ。「振袖を着た子たちの、キラキラした顔が忘れられない。思い出すだけで、とても温かな気持ちになります」

「亜美さん自身、ファッションが大好きで、装いがもたらす力を信じているかたなんです」と話すのは渡部さん。「ファッションと福祉は一見距離があるけれど、だからこそ多様な人を巻き込んで大きな力になりえる。活動を通してそれを知って、自分自身の救いにもなりました」。

「ゆずりは」

「ゆずりは」では、支援の網からこぼれ落ちた人も含めて相談を受け付ける。緊急度の高いSOSに対応できるシェルターを備えた施設「ながれる」が今春、開所予定。自立を迫るのではなく、社会とのつながりや安心を育むために新しい福祉のかたちに挑戦する。
https://www.acyuzuriha.com/

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左から、編集者の渡部かおりさん、ファッションやジュエリーのPRを手がける「RORO」の枝比呂子さん、アフターケア相談所「ゆずりは」所長の高橋亜美さん、スタイリストの井伊百合子さん。「+IPPO PROJECTの皆さんは、子ども時代が困難だった人にとってのベストを一緒に考え、楽しみながら動いてくれる、心強いパートナーです」(高橋さん)。

「NPO法人」を立ち上げるってどういうこと?

社会活動でよく耳にするのがNPOという単語。「Non-Profit Organization」の略称で、日本語では「非営利組織」という意味。NPO法人の設立方法や、実際の運営について紹介する。

教えてくれたかた
東京ボランティア・市民活動センター 相談担当専門員 森 玲子さん

東京ボランティア・市民活動センター 相談担当専門員 森 玲子さん

民間の非営利団体は、法人格がなくてもNPO

「社会貢献を行うなら、NPO法人を立ち上げるべき?」と迷う人は少なくないだろう。都道府県や市町村にある社会福祉協議会などでは、「ボランティアセンター」や「市民活動センター」を設置しており、情報提供や相談を行っている。東京都社会福祉協議会が運営する「東京ボランティア・市民活動センター(TVAC)」の相談担当専門員・森玲子さんに、NPO法人設立にまつわるポイントを聞いた。

TVACは、ボランティアや市民活動の推進や支援を行っています。私の印象ですが、東日本大震災以降、誰かのために何かをしたいという機運が高まってきました。ここにも『人や社会に役立つことをしたい』と幅広い世代の人が相談に来られます」(森さん)

民間で非営利組織であれば、法人格がなくてもNPOである。例えば、地域のボランティアグループや有志の集まりは「任意団体」として、2人から名乗りを上げることができる。

NPO法人は、特定非営利活動促進法に基づいた法人格のこと。NPO法に基づく20分野の活動(複数選択可、別表)で、要件を満たせば認証されます。法人名義での契約や資産の保有が可能になりますが、決算書や事業報告書の提出などの義務が生じるほか、役員・社員名簿なども公開されます」

設立手続きには定款や設立趣旨書、事業計画書、活動予算書などの提出書類の準備が必要で、認証までに数カ月かかる。書類に不備があればさらに時間を要し、不認証の可能性もある。

NPO法人をつくる前に、まずは活動してみることをおすすめします。任意団体でもイベントの開催、会費や寄付金集め、民間助成金の受け取りなど、いろんなことができます。実際にやってみることで意義や課題などが見えてきますし、ともに活動する仲間も増やせます。法人化したほうがメリットがあると思えるようになったときこそが、法人化のタイミング。すでに活動をしているほうが設立趣旨書や事業計画書などの必要書類を作りやすいはずです」

NPO活動には、社会を変えていく力がある

NPO法人になると、社会に対して開かれたものになるため、限られたメンバーだけでの意思決定ができなくなる。一方、社会的信頼度が高まって行政や企業との協働がしやすくなるというメリットも大きい。

また、最近はNPO法人の寿命は約10年ともいわれる。資金調達が難航して持ち出しが増える、メンバーの負担増による疲弊などといった理由による活動休止は少なくないという。

「非営利団体で利益追求が目的ではありませんが、運営資金は必要なので、寄付や助成金以外にお金を確保する方法を考える必要があります。また、活動を長く継続するために、自分以外の誰かが続けられるような体制を確立しておくことも重要です。NPO活動には、制度やサービスが対象としていないものを発見し、やがて社会を変えていく力があります。いつからでも、誰でも始められるものなので、気になることや、やってみたいことがあれば、ぜひ行動に移してみてほしいのです」

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NPO法人と認定NPO法人、一般社団法人、それぞれの違いは?

認証を経て法人格を取得した団体がNPO法人。さらに基準を満たして認定を受けると、寄付者が税制上の優遇措置を受けられる認定NPO法人になる。一般社団法人も非営利の法人格(非営利型、普通型がある)。活動内容は自由で、定款認証・登記だけで設立することができる。

NPO法・20分野の活動

1 保健、医療又は福祉の増進を図る活動
2 社会教育の推進を図る活動
3 まちづくりの推進を図る活動
4 観光の振興を図る活動
5 農山漁村又は中山間地域の振興を図る活動
6 学術、文化、芸術又はスポーツの振興を図る活動
7 環境の保全を図る活動
8 災害救援活動
9 地域安全活動
10 人権の擁護又は平和の推進を図る活動
11 国際協力の活動
12 男女共同参画社会の形成の促進を図る活動
13 子どもの健全育成を図る活動
14 情報化社会の発展を図る活動
15 科学技術の振興を図る活動
16 経済活動の活性化を図る活動
17 職業能力の開発又は雇用機会の拡充を支援する活動
18 消費者の保護を図る活動
19 前各号に掲げる活動を行う団体の運営又は活動に関する連絡、助言又は援助の活動
20 前各号に掲げる活動に準ずる活動として都道府県又は指定都市の条例で定める活動

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「東京ボランティア・市民活動センター(TVAC)」は、東京エリアを中心に、ボランティアや市民活動の推進・支援を行っている。個人や団体の相談に応じ(要予約)、年2回「NPO法人設立ガイダンス」(webサイトより申し込み)も実施

エクラ 華組の山口りえさん「子供たち、お母さん、そして、音楽家たちのための活動を」

エクラ 華組  山口りえさん

エクラ 華組  山口りえさん

シンガーソングトランぺッタ-、NPO法人音育プレママパーティ代表理事、応用心理士。広島市出身、幼少期からピアノ、歌、トランペットなどを始める。音楽大学卒業、中学高等学校教員免許取得。0歳からのコンサート「音育ランド」をプロデュースしつつ、自身が中心メンバーとして演奏する「ラッキフル楽団」で活動中。

音楽のもつ力を確信し、子供たちへの恩返しを決意

エクラ 華組の山口りえさんは、39歳の妊娠中にNPO法人を立ち上げた。 もともと子供好きで、40代以降の人生では、音楽で子供や社会に恩返しをしたいという気持ちが募ったからだ。

「30代でアフリカのブルキナファソに行き、エイズキャリアの親子が住む施設や児童養護施設で音楽教育の支援をしました。子供の目がキラキラ輝き、音楽のもつ力や音楽教育への手応えを感じたんです。自分で活動するなら会場を借りるときのことなどを考え、社会的信用度が高いNPO法人を立ち上げようと考えました」(山口さん)

音楽やモデル活動などを行ってきた山口さんにとって、書類の作成などの事務仕事は初めて。いろいろな人に教えてもらい、苦労して書類を準備。しかし、何度も突き返されたという。

「認証されたのは出産後で、1年半かかりました。今も補助金の申請などで書類を作りますが、いまだに苦手で、戻されることもよくあります(笑)」

活動のスタートは、児童館での演奏。児童館に子供を連れていったときに、「演奏したい」と申し出た。小さな活動を積み重ね、やがて企業や行政の協力を得て、0歳からのコンサート「音育ランド」を実施するまでに。子供が騒いでもOKという、プロの演奏家による親子参加型コンサートだ。

「子供に生の音楽に触れてほしい、子育てで大変なお母さんに音楽を楽しんでほしい、というのはもちろん、結婚や子育てで演奏できなくなった音大出身の女性演奏家の活動の場も提供したいんです。私たちが演奏しているのを子供たちがニコニコしながら聞いているのを見ているだけで、私がエネルギーをチャージしてもらえます」

NPO法人設立の翌年に東日本大震災、’16年に熊本地震が発生。福島の避難所や熊本の幼稚園で活動を行った。「NPO法人なので利益は出せませんが、演奏家の報酬や交通費、楽器の運搬など、活動にお金がかかります。でも、無料か安価な参加費でコンサートを開催したいので、補助金の申請は必須。活動資金集めは大変ですし、事業報告書などの作成も苦労しています。でも、NPO法人になったことで社会的信用度が高まり、行政や企業と協業しやすいのは大きなメリットです」

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生きがいをもって行動に移してほしい

活動の継続は決して楽ではないが、山口さんの原動力は何なのだろうか? 「子供たちのために何かをしたい、恩返しをしたいという気持ちがパワーになっています。私自身を売るためだったらここまでできないし、まわりの人も協力してくれなかったはず。家族の理解や協力にも感謝しています」

山口さんは、ママ友やエクラの活動で知り合った読者ブロガーのJマダムたちにも声をかけ、興味をもってくれた人には活動に加わってもらっている。「子育てが一段落して、生きがいをもてずにいる人が意外と多いんです。特に専業主婦歴が長いと自己評価が低くなりがちなようですが、子育てで得た経験や、もともと好きだったことや、やりたかったことはあるはず。人生は長いですし、生きがいをもって行動に移してほしい。私もそう思っています」

4月からはひとり息子が高校進学に伴って寮に入るという山口さん。

「みんなが使える木製の楽器開発を進めて、作詞作曲を再開して後世に残す童謡も作りたい。日本でも経済格差が大きくなっているので、誰もが平等に音楽を楽しめる無料コンサートも実施していく予定です。今年はますますいろいろな活動に力を入れます!」

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写真/ご本人提供

10年以上継続しているのが、0歳からのコンサート「音育ランド」。全国30カ所で開催し、2万人以上が参加。クラシックから童謡まで多彩な音楽を演奏し、子供の目の前で楽器を奏でることも。演奏を聞いて涙を流す母親もいるという

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