井川遥さんインタビュー「自分とちょっと似ている〝太い〟女性を演じました」

ファッションページで本誌ではお馴染みの井川遥さんが、話題の映画でヒロインを務める。すっぴんに束ね髪、ぶっきらぼうな口調で、孤独な女性を演じている。テーマは50代の恋。切なくて哀しくて、じわじわと染みこむ物語。演じながらどこか、自分と似ているところもあったようで……。
井川遥 インタビュー
今まで見たことのない井川遥、かもしれない。話題の映画『平場の月』で、井川遥さんはヒロイン・須藤葉子を演じている。

「誰にも頼らず、本心を見せず、ひとりで生きて行く覚悟を決めている女性です。けれど愛に枯渇して埋められない寂しさ、孤独感を身にまとっている厚い殻があるので、感情を表に出さない。でも心は動いている。そんな須藤を演じる難しさはありました。」

 主人公は、堺雅人さん演じる50歳の中年男性・青砥健将。妻子と別れて地元に戻り、印刷会社で働いている。体の不調を感じ、検査に訪れた病院で偶然出会ったのが、売店で働く須藤葉子。中学生時代にフラれた、初恋の相手だった。青砥の記憶にある須藤は、〝太い〟女性。芯の通った、ゆるがない、動じない何かを持っている、ということ。

「本作の土井裕泰監督とお話した際、「井川さんには須藤のような”太い〟部分があると前作ご一緒して感じました」とおっしゃって。私自身は末っ子で兄弟を見て育ってきたせいか、周りから見るとしっかりしているように見えるらしいですが、全くそんなことはない(笑)。実際は人に甘えるということが昔から苦手なんです。臆病なところがあるし、人見知りしがちですし、ちょっと慎重ですし、ひとりでいるのも嫌いじゃない。でもその反面、人を笑わせたり人に喜んでもらうのが好きな一面もあるんです」
須藤は、青砥と関わるうちに、ゆっくりと溶けていく。50歳、元同級生同士の恋は、実直で誠実で、そしてどこか、微笑ましい。

「若い頃だったら、自分を大きく見せようとしたりありますけど、50代ともなると自分をよくわかっているので、逆に、こんな私ですけど、僕ですけど、どうですか? という感じで。過去があるのはお互いもちろん承知の上で、とりつくろわず、ありのままの自分を見せて、それで惹かれ合えたら、それで十分というか。その中で幸せを共有できる相手だとしたら、素敵なことだと思います」

しかしそうやって始まった恋は、思いがけない方向に転がっていく。青砥の焦りも、須藤の決断も理解できるからこそ、もどかしく、そして切ない。リアルな設定なので、共感できるポイントがいっぱい。だから観たあとで、自分だったらどうするだろう? と、何度も自問自答してしまう、後を引く作品だ。
井川遥 インタビュー
「私自身も年齢を重ねる中で自身の身体の変化を感じることが多々ありますし、子ども達は思春期になり、親も高齢になっていきますし、次から次に、いろんなことがあります。自分の意思だけではコントロール出来ない目まぐるしい日々を全力で乗り切っている、という感覚があります。」

それでもこの美しさ、エレガントな佇まい。いったいどうやって維持しているのか、というと。

「睡眠の大事さがよくわかるようになりました。慌ただしい日々の中、仕事も母親業も一段落の深夜みんなが寝静まったあとに、自分ひとりでやりたいことがありすぎて、以前はついつい寝る時間を削りがちだったんですが、ちゃんと寝ないと回復しないというのを最近実感しています。寝つきはいいんです、だいたいいつも、気絶する(笑)」

あとは小さな、積み重ね。

「旬のもの、鮮度の良いものを選んでシンプルに食べることが多いですね。美味しくバランス良くを意識していて、決めごとをあまり作らずに好きなものを食べてその分運動をするようにしています。体を冷やさないように、ショウガやニンニク、ネギとかたくさん使って、鶏肉や牛肉の煮込み料理を作って、コラーゲンやタンパク質を確保します。
 血行が滞っている感覚が嫌いなので、一年通して湯船には必ず、浸かりますね。湯船の中で膝を曲げて、脚を左右に動かしてぶらぶらさせると、脚の疲れが取れます。
ジムにも通っていますが、自宅にもヨガマットからテニスボール、ソフトボールにリングにチューブ、運動器具があれこれいっぱい(笑)」

これからの女優業にも、意欲的だ。

「20代半ばからこの仕事を始めましたが、30代は子育てに比重をおいて、その時間の制限の中でできる役をやらせていただいていました。役柄も献身的な役や耐え忍ぶような役が割と多かった。これからは様々な挑戦をしてみたいです。ちょっとハチャメチャな役も演じてみたい、ですね」

そういえば、と、井川さん。

「プライベートで自由になる時間も、前より増えてきました。
共に育児を頑張ってきた友人は掛けがえのない存在です。子育ての話、健康の話、映画の話、推しのアーティストの話…本当に話題が尽きなくて、泣いたり笑ったり。それぞれの生活に共通している部分が多いから会えたら嬉しいですし、元気になります」

なんだかとても、楽しそう。まだどこかに、見たことのない井川遥が、隠れているのかもしれない。

『平場の月』

朝倉かすみ原作、大人の男女の心の機微を繊細に描いた話題作『平場の月』(光文社文庫)を土井裕泰監督が映画化。堺雅人・井川遥共演で30年越しの男女の恋愛や心模様を描く。共演に中村ゆり・大森南朋・塩見三省・成田陵ほか。11月14日(金)公開

公式サイト

井川 遥

井川 遥

いがわ はるか●1976年生まれ、東京都出身。俳優として数々のドラマや映画で活躍。プライベートでは2児の母。この秋は「見はらし世代』『アフター・ザ・クエイク』にも出演している。
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