名桜はどれも長い歴史と物語があり、それらをきちっと調べてみると桜を見る楽しみはさらに増すという。「桜が咲く場所のいわく因縁やその桜を愛でてきた人の心とかは、代は変わっても引き継いどる。それが京都の桜の魅力やろな。そやから京都に来たら、この土地に育てられた枝垂れ桜や里桜、山桜を見にいったらええ。染井吉野? あれは接ぎ木で育ったもんで一種のクローン。みんな同じ顔して、東京で見ても京都で見てもみんな同じ顔。自然というものが感じられへん」。
そして、大事なのはどんな環境の中で見るか。「夜露が残って初々しい素顔の桜、昇りかけの日の光を受ける朝8時ごろまでの桜が一番美しいなあ。昼間は疲れとるし、夜はきついライトアップでびっくりしとる。桜も人間と同じで若さや色気を通り越し、年齢を重ねた姥桜(うばざくら)は特にええ。少しずつ枝や幹を枯らしながら大きくなり、色香が出てくる。そうなったら本物や」。また、咲いたときだけでなく、好きな桜を決め、毎年眺め見続けてほしいと。「咲いたときは一年の成果みたいなもん。春になったから桜、ではなく、愛情をもって自然に溶け込む気持ちで見てほしい。人間がじゃまになったらあかん」と。一生に一度の桜といわず、一生かけて桜を愛でる佐野さんの心に習いたい。