多様化する家族を映し出す「家族のかたち」について考える小説7

家族関係の変化を痛感せざるを得ないアラフィー世代。悩みは人それぞれでも、“考えさせられながら読む”小説にはそのヒントが! 血がつながらない親子、毒親、友人とのシェアハウスなど、現代ならではの家族像を小説に映し出した作品をご紹介。

多様化する家族を映し出す「家族のかたち」

多様化する家族を映し出す「家族のかたち」について考える小説7_1_1

相手の過去まで愛せるか?

『ある男』

平野啓一郎 文藝春秋 ¥1,600

弁護士の城戸は、かつて離婚調停の代理人を引き受けた里枝から奇妙な話を聞く。彼女の再婚相手で子供までもうけた大祐が死後別人と判明、つまり何者かがなりすましていたというのだ。事情を調べはじめた城戸は、謎の男の過去と彼の切実な願望を知ることになり……。ネット上で別人格になることが可能な今、「偽りの上に築いた信頼や愛は本物といえるのか」と問うているよう。

夫や姑への疑問が彼女を変えた?

『Red』

島本理生 中公文庫 ¥780

2歳の娘がいる塔子は、友人の結婚式でかつて付き合っていたバイト先の社長と再会。迷いながらも逢瀬を重ねたのは、濃厚な快楽の世界に引き込まれたからだった。非難されそうな塔子の行動だが、背後にはさまざまな家族の問題が。マザコンぎみの夫とのセックスレス、二世帯住宅の息苦しさ、親切と紙一重の姑の干渉……。最後に塔子が決めた家族のあり方に、共感する人は多いのでは。

産む葛藤と産めない葛藤

『朝が来る』

辻村深月 文春文庫 ¥700

長い不妊治療に終止符を打ち、生まれたばかりの男の子を養子として迎え入れた栗原清和・佐都子。朝斗と名づけたその子は幼稚園に行くまでに育ち、平穏な日々が続くかと思われたが、それを一変させたのは「朝斗を返してほしい」という実母からの電話だった。サスペンスタッチの作品だが、不妊治療や養子縁組について、さらにはそれらの当事者の心情についても考えさせられる内容。

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静かに胸を打つ本屋大賞受賞作

『そして、バトンは渡された』

瀬尾まいこ 文藝春秋 ¥1,600

17歳の森宮優子の前の苗字は泉ヶ原。その前は田中でその前は水戸。4回も変わったのは血のつながらない親の間をリレーされたからだが、周囲の期待(!?)に反して、優子は申し訳ないくらい不幸ではなかった。実親も血のつながらない親も手探りで“親がすべきこと”を考え、優子との関係を築いていく。大人になった彼女が登場するラストには、なぜリレーされたかの答えも。

異国暮らしで家族に転機が

『Masato』

岩城けい 集英社文庫 ¥500

真人は父親の転勤のため、家族4人でオーストラリアへ。小6だが小5に編入し、最初は英語で苦労するが、徐々に友だちが増えていく。しかしサッカーチームの夏合宿に参加するほどなじんだころには日本語があやしくなり、それを母親が嫌がったことから親子に葛藤が。少年の成長が母親との断絶を生むというジレンマがつらい。家族の決断が幸せにつながることを祈りたくなる!

身の危険はなかったけれど

『謎の毒親』

姫野カオルコ 新潮文庫 ¥670

ある人物への相談というかたちで、謎だらけだった両親を振り返る光世の物語。運動会で一等賞をとったのに父からは「くだらない」といわれ、母からは意味不明の言葉でどなられたこと。3人で出かけたレストランで置き去りにされたこと。オムニバス映画といっただけで土下座させられたこと。理解不能な親への対処法が示されるわけではないが、誰かに語ることの効用が感じられてほっとする。

ゆるさが楽しい現代版『細雪』

『あの家に暮らす四人の女』

三浦しをん 中公文庫 ¥680

東京・杉並の古ぼけた洋館で暮らすのは70歳近いのにお嬢さま気質の鶴代、ひとり娘で引きこもりぎみの刺繡作家・佐知(37)、その友人で保険会社のOL・雪乃(37)、雪乃の後輩・多恵美(27)。多恵美の元彼のストーカー騒ぎなどがありつつ楽しく暮らす4人を見守るのは、謎の老人・山田だった。役割分担などが現実的で、気の合う友人たちとこんな暮らしをしてみたくなる!

本
  • 作家・江國香織さんが描く「家族」の試練と成長とは

    作家・江國香織さんが描く「家族」の試練と成長とは

    家族関係の変化を痛感せざるを得ないアラフィー世代。悩みは人それぞれでも、“考えさせられながら読む”小説にはそのヒントが! 新刊で家族をめぐる物語を描いた江國さんに、小説に宿る「家族とは何なのか」についてを伺いました。

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