モデストな、さかもと。

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桐箱と塗箱が合わせてみっつ。ただそれだけの絵ですが、これは信頼できる絵描きさんだ、という感じがします。

練馬区立美術館で開催中の、『没後50年 坂本繁二郎展』。柔らかなパステルカラーを使い、全体に薄塗りで、実に穏やかな油絵。この独立独歩のスタイルは戦前にすでに現れていて、戦後、静物画を描く頻度が高まります。モチーフは箱、柿、りんごのほか、能面、謡本、辞書、錐、植木鉢、石ころなど。描くきっかけはシンプルなほうがよく、絵になるかならないかよくわからないところから絵にする過程を楽しんでいるみたい。

二枚目の『鋏』は東京での文化勲章受章式に出席して八女に戻った際、歓迎してくれた洋裁学校の生徒たちへの返礼として、後年、描かれたものだそう。実際のところはわかりませんが、仮にこの絵が校長室に飾られていたとしたら、ときどき入室を願い出て、休み時間にほのぼのと見惚れる学生さんがひとりくらいはいたんじゃないか……。そういう愛され方が似つかわしい作風です。

作風とともにグッと来るのが、「と も か さ」と控えめに入るサイン。画面に対してのこの小ささはルドンのサインにも似ていますが、坂本さんの場合は少しぴりりとしたところがあります。多くを語らず、仕事に嘘がなく着実にこなしているところが好ましく、絵からは"modest"のいい意味をあるだけ全部集めたような印象を受けます。

文化勲章受章後に色紙などをたくさん求められたため、「もうそっとしておいてください」と版画を作って渡していたというのもいい話。国立館できちんと評価されて然るべき画家だと思いますが、天国のご本人は「まあどうでもよいことです」とおっしゃるかもしれません。

充実の回顧展は、9/16までです。
(編集B ※内覧会で撮影)
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