駅の名所案内に駅は含むのか問題。

遠足 お菓子 バナナ

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小学校で遠足が近づくと必ず出てくる、「先生! バナナはおやつに入りますか?」という質問。まあ、普通は含みませんね。”お弁当に添えられる1本程度”と理解する限りにおいては。そしてこの手の質問をするのは、だいたいお調子者の男子と相場が決まっております。

そんな遠い記憶がふと蘇ったのは、中央本線の駅の名所案内が気になってしまったから。しかも連続3駅です。下の写真を続けてどうぞ。

名所案内 穴山駅

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名所案内 日野春駅

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名所案内 長坂駅

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駅の名所案内に駅は入るのか? これは思いもよらなかった問題です。しかし、穴山、日野春、長坂では現に入ってしまっているわけで、その理由を考えてみましょう。

(1)スペースが余るので入れた。
名所案内板のサイズはおおむね統一規格だと思われます。項目が少なければ余白が目立つ。その淋しさに耐えられないのは人情というもの。

(2)どこかの先例に従った。
他に入れている駅があった、というパターン。この場合は完全に無意識の産物ということに。

(3)実際に名所である。
車で来てまで見事な景色や駅舎の風情を楽しむという姨捨駅(信越本線)や嘉例川駅(肥薩線)といった例もなくはありません。

(4)名所にしたいという願望がある。
案内に釣られてローカル駅で下車すると、次の列車までの間、「名所要素はいったいどこに?」と探すしかない。何たる旅人トラップ。
 
日野春駅

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日野春駅

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日野春駅

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日野春駅

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改築などで手を入れつつも、開業当初からの駅舎が残る日野春駅。ホームより低い位置にあり、控えめに佇む。
日野春の駅舎と跨線橋は穴山寄りに位置する。長坂方向には八ヶ岳、穴山方向には条件がよければ富士山が見える。
駅周辺は視界をさえぎるものがなく、法面もないので空が広く開放的。その景色には懐かしい雰囲気が漂う。
線路に沿うようにそびえる南アルプスのパノラマ。ホームで眺める分には、架線はさほど気にならない。
実際に降りてしまった私は、(4)のいわば"途中下車ホイホイ"にかかってしまったのかもしれません。改めて検証していきますと、日野春駅は(3)と見なしてよいでしょう。昔ながらの駅舎に、中央線沿線でも指折りの眺望。ここは普通列車が特急の通過待ちをする駅でもあり、春の日など、線路と平行にそびえる南アルプスの山容を眺め、雲雀の声を聴きながらホームでのんびり過ごすのは、ローカル線の旅の醍醐味。八ヶ岳、富士山も見ることができます。
 
長坂駅

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長坂駅

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穴山駅

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穴山駅

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穴山駅

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長坂駅下りホームからの眺め。西側は駐車場兼空き地で、東側の上りホームからはすぐ法面。そこに桜が植わっているので、春は風情あり。
駅舎の隣には丸政の経営によるそば店が。その間から跨線橋を渡って、駐車場のほうへ降りられる。清春芸術村の最寄り駅だが、名所案内には記載なし。
穴山駅の島式ホームに日野春方から普通列車が到着。奥は八ヶ岳。列車が下ってきていることが写真でもわかるほどの傾斜地。
山小屋風にデザインされた穴山駅の駅舎は、スイッチバック駅時代のホームの位置に立つ(旧駅舎よりはやや線路より)。ホームまでは屋根のない通路でつなぐ。
いかにも機密施設っぽい感じにグッとくる、「鉄道用超電導フライホイール蓄電システム実証設備」。
その西隣の長坂駅は、甲斐駒ヶ岳が迫って見えるけれど、八ヶ岳はちょうど隠れてしまう位置にあり、周辺環境を含めて絶景とはいいがたい。駅から少し小淵沢寄りの車窓の方が楽しめる印象です。駅舎外に出てみますと、この規模で駅そば屋さんがある点は素晴らしい。しかし、それとて”名所”とは言えますまい。

穴山駅はホームから八ヶ岳が見えるものの、やはり名所感には乏しい。改札を出て振り返ると、駅舎の屋根と甲斐駒ヶ岳の稜線がシンクロしているようですが。強いて挙げるなら、「超電導フライホイール蓄電システム」の実証設備でしょうか。急勾配区間ゆえ、駅のそばに鉄道車両のブレーキ時の余剰電力を貯めて再供給するシステムが稼働しています。「山里に何やら秘密基地」的ギャップは味わえるにせよ、これとて敷地外。
長坂駅

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穴山駅

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日野春駅

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長坂駅の小淵沢方、分岐点、引き上げ線を遠望。複線のスイッチバックでしかも「巻き込み型」は極めてレアな存在だった。
穴山駅の日野春方。こちらも分岐点、引き上げ線の名残を今に留める。駅近くの穴山さくら公園に沿った道は、スイッチバック駅時代の引き上げ線の跡。
日野春駅に残るSL給水塔。下部は煉瓦積み。SLは石炭以上に水の消費が激しく、ターミナル駅や機関区以外でも水の補給が必要だった。
そういえば、どの駅も名所と主張するわりには、「標高〇〇メートル」の記載のみです。ものすごく穿って読み解きますと、これは、急勾配を制した喜びの表現なのではないでしょうか。穴山駅と長坂駅は、70年代の初めまでは立派なスイッチバック駅でした(かつてのホームは駅舎と同じ高さ)。二駅の間の日野春駅には給水塔の遺構があり、電車の乗客に今も湧いてくる「はるばる来たなあ」という感慨は、ここで水を補給した往年の蒸気機関車も味わったに違いないのです。

では、案内板の内容はいつごろ書かれたのか? 穴山駅の「徒歩4時間」という健脚前提の記述、古び具合からして掲出は70年代~80年代前半でしょう(※日野春駅の撮影分は近年新造されたもの)。記載内容はさらに古い案内板から引き継いだ可能性も考えられます。ただ、スイッチバックが人気となり、駅自らがそれを広く主張するという図式(たとえば今の出雲坂根駅)がそれほど昔からあったとも思えないので、謎は残ります。もう少し推理するための材料を集めたいところ。

"駅が名所"の中央東線の三連星。同じような駅が、まだ日本のどこかで日の目を見るのを待っているかもしれません。あなたも「名所案内鉄」、始めてみませんか?
(編集B)

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