お別れはモーツァルトの調べ。

風信香 東寺 曼荼羅 下敷き

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風信香 東寺 織部 線香 お香

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京都・東寺のお土産の定番といえば、「曼荼羅下敷き」と「風信香」。両部大経を視覚化した神聖な曼荼羅の上で字を書いていいのか?と後ろめたくなる方は、実用と鑑賞用の2セット買い求めれば問題なし。何てったってオフィシャルグッズですもの、どんどん使いましょう。

「風信香」は松栄堂製で、白檀っぽい甘い香りがします。空海が最澄に宛てた尺牘からその名が取られており、パッケージの「風信」は『風信帖』から、「香」は『忽披帖』からと、空海真蹟の集字でデザインが成立している点もポイント高し。

この「風信香」を焚く器を長年うすらぼんやり探しておりまして、先ごろこれはというものを迎えることができました。

条件は以下の4点。

(1)磁器より陶器。
(2)立ち上がりがある。
(3)線香が少し出るほどの高さ。
(4)入れ替えがしやすい。

足つきの香炉ではやや大袈裟で、蕎麦猪口などの食器の見立ては何となく無駄遣い。となれば選択肢は陶片、湯呑や火入、筒向なんかの欠けたもの……。しかし念じこそすれ、そうそう都合よく見つかりません。

そしてようやく出合ったのが、扇形の青織部。出来損ないゆえ窯場で捨てられ、土中のうちに肌がずいぶんと傷んでいます。誰も買わない哀れな売れ残りでしたが、欠け方がダイナミックで、しかも線香の出し入れにはうってつけ。かつて恵果の空海に曰く「我先より汝の来るを知り相待つこと久し」とはこのことかと、喜んで持ち帰り洗ってみますと、たちどころに強い土臭がもわもわと……。

夜な夜な煮ること8日ほどで、お友達になりました。
 
モーツァルト クラリネット協奏曲 フランス ブリュッヘン

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さて、突然ながらこの「編集B」のコーナー、担当者の異動につき、今回をもちまして終了となります。「内容が雑誌にそぐわない」「何だかよくわからない」という大多数のお声に対し、「やりっぱなしのシリーズの続きを待ってたけど」などという方がいらっしゃればありがたいことです。

セルフ供養みたいなお線香に欠けた器でお別れも何ですので、モーツァルトの『クラリネット協奏曲』のCDを添えて、円満な締めくくりに。こちら、ごくごく個人的に“来迎”をイメージする曲なのでありまして、平安なお別れにふさわしいように思っております。曲調はほどよく明るく、ほどよく甘く感傷的。

第1楽章は二十五菩薩と阿弥陀さまが楽しげに月夜の雲間からいらっしゃるイメージ。華やかかつ優しく響くイントロです。

第2楽章は現世とのお別れの心模様。『ロミオとジュリエット』に「さよなら、さようなら。別れはかくも甘く切ないもの、夜が明けるまでだってさよならを言っていたいほど」というようなセリフがありましたが、走馬灯の中ではすべてが甘く物悲しく、という印象。

第3楽章は観音菩薩の蓮台にのって、軽快にいざ出発。ときどき雲間より、また到着間際にも下界を振り返るのですけれど、最後はめでたく極楽往生、となりまする。

エリック・ホープリッチのバセットクラリネット、フランス・ブリュッヘン指揮、18世紀オーケストラによる録音をおすすめして、一区切りといたします。
(編集B)
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