『輝ける闇』は開高の代表作。すでに芥川賞作家だったにもかかわらず、自ら望んで朝日新聞社の臨時海外特派員となり、ベトナム戦争に従軍した体験から生まれたルポルタージュ小説だ。
「ハノイに着いてすぐ風邪で外出できなくなり、しかたなく読みはじめたんですが、一瞬でその小説世界にまるごともっていかれました。戦争を起こさざるをえない人間の本質を知りたくてしょうがなかった開高は、己の肉体全部を使ってつかんだものを、何ひとつ漏らさず書きとめている。文体も独特で、さながら豪華絢爛なフランス料理のフルコース。言葉自身が繁殖し氾濫していくかのようで、喚起されるイメージの濃度が半端じゃない。
特にしびれたのが、〈徹底的に正真正銘のものに向けて私は体をたてたい〉という言葉。それを読んで私も自分なりの体のたて方を考え、決めたんです。『安易な言葉や構成に逃げない。楽なほうではなく、よりむずかしいほうを選ぼう』と。今も読み返すたび打ちのめされる。食らうパンチはいつも一緒です(笑)。ただエクラ世代が初めて読むなら、短編やエッセーのほうが入りやすいかな」