作家・角田光代さんが熱く語る!「開高健」の魅力&おすすめ作品

直木賞作家の角田光代さんにとって、作家・開高健は特別な存在だ。「幽霊でもいいから一度会ってみたい」と語るほど魅了され、作家としても大きな影響を受けたという開高作品の魅力とは?
●かくた みつよ
’67年、神奈川県生まれ。23歳のとき『幸福な遊戯』で作家デビュー。代表作に、直木賞を受賞した『対岸の彼女』、映画化されベストセラーとなった『八日目の蟬』『紙の月』など。世界50 カ国を旅し、『いつも旅のなか』をはじめ旅行エッセーも多い。
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読むたびに打ちのめされる。食らうパンチはいつも一緒です

「実は私も、28歳でベトナムに旅行する直前、当時付き合っていた恋人から『輝ける闇』を押しつけられるまで、開高健のことをまったく知りませんでした」 

『輝ける闇』は開高の代表作。すでに芥川賞作家だったにもかかわらず、自ら望んで朝日新聞社の臨時海外特派員となり、ベトナム戦争に従軍した体験から生まれたルポルタージュ小説だ。

「ハノイに着いてすぐ風邪で外出できなくなり、しかたなく読みはじめたんですが、一瞬でその小説世界にまるごともっていかれました。戦争を起こさざるをえない人間の本質を知りたくてしょうがなかった開高は、己の肉体全部を使ってつかんだものを、何ひとつ漏らさず書きとめている。文体も独特で、さながら豪華絢爛なフランス料理のフルコース。言葉自身が繁殖し氾濫していくかのようで、喚起されるイメージの濃度が半端じゃない。
特にしびれたのが、〈徹底的に正真正銘のものに向けて私は体をたてたい〉という言葉。それを読んで私も自分なりの体のたて方を考え、決めたんです。『安易な言葉や構成に逃げない。楽なほうではなく、よりむずかしいほうを選ぼう』と。今も読み返すたび打ちのめされる。食らうパンチはいつも一緒です(笑)。ただエクラ世代が初めて読むなら、短編やエッセーのほうが入りやすいかな」
『輝ける闇』の文庫本
▲ベトナム旅行中に「むさぼり読んだ」という、『輝ける闇』の文庫本。ハノイの公園で現地の男性が描いてくれた似顔絵をはさんだまま、24年が過ぎた今も大切にしている。新潮文庫 ¥590

角田さんがおすすめの開高作品

まず下の4冊で肩慣らしをしてから、『輝ける闇』などヘビー級の長編にチャレンジするのがおすすめだそう。「今流行っている小説の対極にあって一見読みづらいけれど、自身の体験から考えに考えぬいて紡ぎ出した言葉だから、ごまかしや嘘がいっさいない。今は、社会も気候もこれからどうなるかわからない不穏な時代。さらに私もそうですが、更年期の女性は漠然と不安になることが多いですよね。そんなときこそ、硬質でまっすぐ芯の通った開高文学に触れてほしい。信じられる確かなものをひとつ、心の中にもつことができて強くなれますから」

1.ワインの味や香りが伝わってくる鳥肌モノの描写力

『ロマネ・コンティ・ 一九三五年』

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ちょっと肩の力が抜けた晩年の短編集。’35年産の超高級ワインと若いワインを飲み比べる表題作など6編を収録。川端康成文学賞を受賞した「玉、砕ける」は「小説として完璧。これが文学だと圧倒されました」。文春文庫 ¥550

2.食を切り口に人の営みのすべてを見せてくれる

『最後の晩餐』

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極上の食事からどん底での食欲、人肉食、さらに排泄までを膨大な知識と体験をもとに描きつくした随筆集。食にまつわる「人の営みの壮絶」と「何事もとことんやらなきゃ気がすまない開高の姿勢」に驚愕! 光文社文庫 ¥700

3.世界43カ国を旅した作家ならでは! 蘊蓄&名言の宝庫

『地球はグラスのふちを回る』

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世界中で飲んだ酒、食、釣り、そして旅の魅力をユーモラスにつづったエッセー集。「〈驚く心、見る目を持ちなさい。少年の心で、大人の財布で歩きなさい〉など、覚えておきたくなるフレーズがいっぱいです」。新潮文庫 ¥590

4.戦時下の少年時代、働きながら学んだ青春時代を活写

『青い月曜日』

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極貧の中で旺盛に学び、遊び、働き、葛藤した少年期と青年期をいきいきと描く自伝的小説。「初めて付き合った年上の女性が妊娠。21歳で父になり大学在学中に結婚する。人生から逃げないきまじめさにも感動」。集英社文庫 ¥860

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