<eclat1月号付録は山本容子カレンダー>山本容子×波多野睦美対談「絵と言葉と音楽で愉しむ『プラテーロとわたし』」
長く親交を結ぶ、銅版画家の山本容子さんとメゾソプラノ歌手の波多野睦美さん。そんなお二人が、'19年10月10日に発売した2つの『プラテーロとわたし』においてユニークなコラボレーションを実現。波多野さんによる28篇の訳詩と、山本さんの絵が一つになった「詩画集」の魅力について、たっぷり語っていただきました。
カレンダー付録つき1月号は11月30日~発売中
エクラの付録で毎年大好評の山本容子さんの銅版画カレンダー。今年は詩や物語といった文学の世界を月替わりで楽しめる。ぜひ、気に入った作品をお手元に。
山本容子(右) Yoko Yamamoto
銅版画家。京都市立芸術大学西洋画専攻科修了。都会的で洒脱な線描と色彩の作品を手がけ、幅広いジャンルで活躍する。今回の詩画集刊行記念展を丸善 岡山シンフォニービル店で開催(’20年1/29~2/10)。3月にはジュンク堂書店 福岡店と丸善 名古屋本店にも巡回。
波多野睦美(左) Mutsumi Hatano
メゾソプラノ歌手。英国・トリニティ音楽大学声楽専攻科修了、シェイクスピア時代のリュートソングでデビュー。古楽から現代までレパートリーを広げ、国内外で多くのコンサート、音楽祭に出演。12/17には山野楽器銀座本店で大萩さんとのミニコンサート&サイン会を予定。
それは詩の朗読とギターのための音楽から始まった
’19年10月に発売となった、2つの『プラテーロとわたし』。山本さんが初めてカンバス刷りの銅版画に挑み、CDのアートワークと詩画集として結実した最新作。20世紀スペインのノーベル賞詩人、フアン・ラモン・ヒメネスの作品をめぐるユニークなコラボレーションについておふたりにお話をうかがった。
この秋、世に出た2つの『プラテーロとわたし』。詩画集(理論社刊)は、波多野睦美さんによる28篇の訳詩と山本容子さんの絵のコラボレーション。CDは波多野睦美さんと大萩康司さんによるテデスコ作品の全曲集(MARCO CREATORS)で、パッケージやライナーノーツに山本さんの絵が使われている。’20年4/28には、ハクジュホール(東京・代々木)で3人が出演する原画投影のコンサートを開催予定。
山本 『プラテーロとわたし』は、20代のヒメネスがマドリッドで心を病みかけ、癒しを求めて戻った故郷のアンダルシアでつくった散文詩。ロバのプラテーロと詩人が過ごした年月を描くこの詩と私が出会ったのは、波多野さんとギターの大萩康司さんの’16年のコンサートでした。
波多野 原詩138篇から28篇を選び、イタリアのカステルヌオーヴォ= テデスコが朗読とギターのために作曲した作品の全曲演奏会でした。これは、ギターをなさるかたがたしかご存じないくらいマイナーな曲なんです。
山本 どうして取り組もうと?
波多野 大萩さんからコンサートでの抜粋演奏を提案されたのですが、この曲とほかに歌う歌曲との折り合いがつかないかなと思って。「誰もやっていないなら、全部やろうよ!」と逆提案してしまったんです(笑)。
山本 私は歌い手としての波多野さんを追いかけてきたから、「もう歌うだろう」「もう歌うだろう」って聞いていました。歌のメロディが入る個所ですごくホッとして(笑)。
『プラテーロとわたし』の楽譜。「呼びかけるとロバのプラテーロがそれに反応する、そんな様子も表現されています」と山本さん。インティメイトで表情豊か、ギターほど朗読向きの楽器もないと思える
波多野 95%しゃべってましたね。この作品は朗読にざっと伴奏がつけてあるのではなく、詩と音楽がぴったりと寄り添っているんです。いざ着手すると、詩の邦訳は多いけれど、この音楽に合わせたものはなくって。自分で訳すしかないととりかかったら、「いったいいつ終わるの?」という苦しみの連続でした。
山本 語順からして違うものね。
波多野 音の数が収まりきらないから、言葉を削って削って。ふだんご一緒する句会の経験がなかったら、きっと耐えられませんでした。その後、全曲収録CDを大萩さんのセルフレーベルで出すことになり、アートワークをぜひ容子さんにお願いしたいということになったんです。
山本 ’18年の春でしたね。せっかくなら私はすべての詩を絵にしたいと思って、それなら本にもしよう、ということになった。波多野さんの挑戦が結んでくれたご縁なんです。
波多野 この夏にアトリエにうかがったとき、絵のできあがりにとても感動して、4年前の私に「すばらしいご褒美が待ってるよ!」といってあげたくなりました。
詩のリアルな世界につながる、カンバスならではの質感
山本 でも、私も苦労したのよ。この詩はとてもリアルでしょう? ロバのプラテーロはちゃんといて、やがて死んでしまうし、ヒメネスの病も癒えていくから、ファンタジーではない。私らしい絵にする以前に、彼らのリアルな存在を画面に“刻印”したい、と強く思ったのね。
メロディで歌われる“詩中詩”も登場する『ロンサール』。版のシルエットによる木の下で、ロバのプラテーロと詩人が睦まじげ。
波多野 アトリエで驚いたのは、プラテーロの毛に手を入れられそうなくらい、触覚を刺激されたこと。あれはカンバス刷りだからですか?
山本 わかってもらえてうれしい! 目は手以上に触れるんです。不定形の版を使ってできたシルエットやカンバス生地の質感。目がとらえる実体感、リアルさが突破口だったの。
天に向かって咲く『道端の花』。入り組んだ版の上部は、花の脇を歩む動物たちの足の存在を伝える
不定形の版を使ってカンバスに刷る、初の試み
『春』の刷り上がりの瞬間。この場に立ち会った波多野さんも大いに感動
ジェッソというアクリル絵の具を平滑に塗ったカンバス。ぐっと押されて沈んだ面が、紙とは異なる表情を生む
作品を手彩色で仕上げる山本さん
今回はパステルも使ってより柔らかな印象をつくり上げた
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