「クリュッグ」、その美しき味の秘密とは?【飲むんだったらイケてるワイン/WEB特別篇】

シャンパーニュの最高峰として、日本でも多くの人々に愛される「クリュッグ」。実は、そこには6代目当主オリヴィエ・クリュッグ氏の“青春の秘話”があった。日本をこよなく愛するオリヴィエ氏に素敵な思い出話を聞いた。
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“憧れシャンパーニュ”の筆頭といえば、やはり「クリュッグ」。メゾンのフラッグシップ「クリュッグ グランド・キュヴェ」の芳醇で優美な味わいは、一度飲んだら忘れられないほど、長い余韻を残す。
創業は1843年、初代ヨーゼフ・クリュッグの「天候に左右されない、安定した味わいのシャンパーニュを毎年造りたい」という熱い思いから誕生したメゾンだった。ヨーロッパではすでに老舗として高い名声を誇り、ココ・シャネルやマリア・カラス、アーネスト・ヘミングウェイといった稀代の異才たちにもこよなく愛された。英国・エリザベス女王の母であるエリザベス王太后(映画『英国王のスピーチ』のジョージ6世王妃)に至っては、「クイーン・マザー、病室でクリュッグ!」と新聞にスクープされるなど、数えきれないほどの逸話を持つ。
 だが、実は、30年ほど前、日本において「クリュッグ」は、まったく無名の存在だったのだ。それが、現在のようにトップ・オブ・トップのシャンパーニュとして認識されるようになった裏には、6代目当主オリヴィエ・クリュッグ氏のたゆまぬ努力があった。
 
 「1991年から2年間、私は日本に住んでいました。大学を卒業し、『クリュッグ』に入社してすぐ、父である5代目のアンリから日本への赴任を告げられました。その頃から、父は、日本は将来的にメゾンにとって大切な国になると予測していたのです。当時、私は日本のことなど何ひとつ知りませんでしたから、不安を抱えての来日でした」。
 だが、日本で過ごすうち、オリヴィエ氏は日本が大好きになっていった。日本文化や日本料理が気に入ったのはもちろんだが、礼節を重んじ、互いに尊重し合う日本人の姿に感銘を受けたという。友人も増え、日本での生活を満喫していたが、なんといっても悩みは「クリュッグが売れないこと」だった。
「上級者にしか受けないシャンパーニュとして、まったく理解されませんでした。そこで、私は、『クリュッグ グランド・キュヴェ』を手に、レストランを一軒一軒回ったのです。また、ソムリエとともにセミナーを開いて、実際に『クリュッグ』を体験してもらいました。結果、ようやく多くの方に知っていただけるようになったのです」。そして現在では、「クリュッグ」と聞けばシャンパーニュファンなら目を輝かせるほどの存在感を放っている。
「日本は、いわば私の”青春の地”で、日本のマーケットは私が育てた子どものようなもの。だから、毎年”パトロール”に来なくてはいけないと思っています(笑)」。
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メゾンはランス市内に位置。醸造所もここにあるが、現在、ブドウのフレッシュ感をより大切にするために、畑の近くに醸造所を造ることを計画中。
“シャンパーニュの帝王”と評され、老舗の風格を湛える「クリュッグ」だが、オリヴィエ氏は、「実は、“伝統”と評される味は、メゾンの革新的な試みの結果なのです」という。
「創設者のヨーゼフが夢見た”どんな天候にも左右されないシャンパーニュ”は、当時としては画期的なものでした。寒冷なシャンパーニュ地方では、毎年ブドウの熟度が違います。当然、ヴィンテージによって出来、不出来がある。ヨーゼフは、その味のばらつきをなくそうとブレンドの研究を重ね、”マルチ・ヴィンテージ”という発想で、『クリュッグ グランド・キュヴェ』を生み出しました。それだけではありません。1991年に私が日本に送り出されたことも、5代目のアンリとレミの兄弟が『クリュッグ ロゼ』を誕生させたことも、メゾンが試みた“革新”だったのです。この精神がメゾンの根幹を成しているのです」。
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「クリュッグ」の象徴ともいえるのが、この小樽。今でも樽発酵を行うメゾンの代表格。専任の樽職人もいるほど、樽は大切なもの。
 オリヴィエ氏自身も、メゾンを継承して以来、多くの革新にチャレンジしてきた。たとえば「クリュッグ アプリ」。これはボトルの裏ラベルに印字されている6桁の“クリュッグiD”をクリュッグ アプリに入力すると、ブレンドされているヴィンテージやデゴルジュマン(澱引き)時期など、ボトルの情報が即座にわかるというもの。また、「クリュッグ」とのミュージックペアリングが楽しめるアプリを開発するなど、現代的なシャンパーニュの楽しみ方を提案している。
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「クリュッグアプリ」はオリヴィエ氏が先陣を切って開発。音楽とのペアリングが楽しい。
なにより最大のニュースは、今年1月、最高醸造責任者として、メゾン初の女性醸造家が誕生したことだろう。シャンパーニュ地方においても、グラン・メゾンの醸造責任者として女性が指名を受けるのは、まだ珍しい。このことは、現地でも大きな話題となった。
 「これで『クリュッグ』は、“攻め”のメゾンだということがお判りいただけましたでしょうか(笑)。伝統は大切です。先人たちが作り上げてきたものは大切に受け継がなくてはならない。でも、それだけで満足することなく、つねに時代を見つめて挑戦し続けることが、“変わらず、変わっていくこと”に繋がると、私は思うのです」。
 
そして、オリヴィエ氏は微笑みながら『エクラ』最新号を手に取り、「美しい雑誌ですね」と言って、こんなメッセージを寄せてくれた。
 「『エクラ』読者の方々は、シャンパーニュファンが多いと聞きました。もし、『クリュッグ』を飲む機会がありましたら、こんな風に飲んでみてください。まずは、フルートグラスではなく、少し大ぶりのグラスで。香りの立ち方が違います。でも、大切なのはここから。ひと口『クリュッグ』を飲む。そして、一瞬目を閉じるのです。口の中で『クリュッグ』が奏でる音楽を聴いてください。二口目。今度は音楽と一緒にペアリングを。リッチでふくよかな余韻が楽しめます。素直に、自分の感覚を大切に、楽しんでいただきたいのです」。


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    「クリュッグ グランド・キュヴェ 168エディション」 フラッグシップ「クリュッグ グランド・キュヴェ」168回目のブレンド。11年間の異なる年の198種類のキュヴェ(一番搾りのワイン)をブレンド。ピノ・ノワール52%、シャルドネ35%、ムニエ13%をブレンド。ドライフルーツやジンジャーブレッドの香り。アロマティックで芳醇な味わい。750ml \30,600

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    「クリュッグ 2006」 特別な年のテロワールを表現したのが「クリュッグ」のヴィンテージ。2006年は、乾季や豪雨に見舞われながらも、ブドウの成熟期には美しい太陽が戻るなど“奔放で寛容な年”だったという。豊かな果実味と上品な酸味が共存。ピノ・ノワール45%、シャルドネ35%、ムニエ20%をブレンド。アーモンドやペストリー、タルトタタンを思わせる香り。750ml \31,800

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オリヴィエ・クリュッグ氏 「クリュッグ」6代目当主。1990年に来日、2年間輸入会社に勤務し、地道に「クリュッグ」の普及に努める。日本料理にも造詣が深く、特にお気に入りのマリアージュは天ぷらと。「揚げたてで熱々の天ぷらと冷えたクリュッグの温度差、サクッとした食感とシャンパーニュのクリスピーな香りの組み合わせが最高です」。今年は、初来日から記念すべき30周年。家族全員で日本を訪れた。
問い合わせ=MHD モエ ヘネシー ディアジオ株式会社 TEL:03-5217-9736
取材・文/安齋喜美子
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