加藤シゲアキさんが語る「旅を書くこと」とは?

アイドルとして俳優として活躍中のNEWS・加藤シゲアキさんのもうひとつの顔は作家。今回“旅”をテーマにした初エッセイ集を刊行した加藤さんに「旅を書くこと」について熱く語っていただきました。

タレント・小説家 加藤シゲアキ

’87年生まれ。青山学院大卒。’03年、NEWSのメンバーとしてデビュー。個人ではドラマ『ゼロ 一獲千金ゲーム』(NTV)、「金田一耕助」シリーズ(CX)などに出演。作家としては『ピンクとグレー』など5冊の小説を発表。

書くこと―。それは、最も興味ある「人が作るもの」。

’12年の作家デビュー以来、5冊の小説を世に出した加藤シゲアキさんだが、エッセイ集は広義の旅がテーマの新刊『できることならスティードで』が初めて。文芸誌での連載も初めてで「緊張した」というが、スリランカやキューバでの思索、芸妓らしき女性たちのプロ意識、祖父や恩師の死についてなど、内容は多彩。加藤さんの内面の深化が伝わると同時に、彼を成長させているのは「感じたことを活字にしたい」という飽くなき欲求なのかもと思えてくる。

「友だちに『シゲと一緒だとガイドはいらない』といわれるほど、僕は旅に出る前に“すごく調べる派”。『地球の歩き方』は読みものとしてもおもしろいのでじっくり読みますが、知識があると現地でより想像できたり、感情が高まったりしますね。例えばスリランカで世界遺産のシーギリヤロックを見たときは、それを造った王の悲惨な運命に思いをめぐらせましたが、何も知らずに見たら“でっかい岩だな”で終わったと思う(笑)。最近は頭の中で風景を描写していたりするので、結局文章のことを考えているんだなと感じています」

「旅ですばらしい光景を目にすると、頭の中でそれを描写している自分に気づく」

好奇心が書くときの説得力や行動力につながっている
フィルムカメラ
基本的に自然遺産より文化遺産のほうに惹かれやすいという加藤さん。スリランカ行きのきっかけも、インフィニティプールを発明したといわれるコロンボ出身の建築家ジェフリー・バワの作品に興味をもったからだった。

「キューバで目をひいたのも、街並みや古いアメ車といった人工物でしたね。たぶん僕は人が作るもの――どんな思いでそれを作ったかに興味があるのだと思う。考えてみれば10代の初めはデザインや美術に興味があって、そこからファッションや音楽につながっていった。今の僕にとってとても大事な“書く”という行為も、その延長線上にある気がして。僕がたどりつくべき場所はここだったんだなというのが、30歳を過ぎた今の僕の実感です」

仕事柄国内外のいろいろな場所へ行く加藤さんだが、旅と移動の違いは“心に余裕があるかないか”だという。

「ドラマの撮影など、目の前にこなさなければならない課題があるときは移動ですね。いつもフィルムカメラ(上)を持ち歩いていて、このエッセイ集のカバー写真も僕が撮ったものですが、移動のときはあまり出番がない。逆に距離的には動いていなくても、“旅”は可能だと思う。例えば今回ブラジル発祥のポン・デ・ケイジョを作った話を書きましたが、自分で材料まで探したことで自宅でも“旅”を感じられた。僕は“カレーが好きだから毎日カレーでもいい”というタイプではなく、いろんなものを食べてみたいタイプ。海外に行ったときも、たとえハズレの可能性が大でも知らない味を試そうとします(笑)。自分の枠外のことを体験しないと書くときにリアルさを出せないし、読者を引っぱれない――、そう思って行動している気がするし、好奇心がどこかに飛躍したい気持ちにつながっている気もします」

「好奇心が強くなければリアルに描けないと思っている」

自分のためだけに書いたジャニー喜多川氏との思い出
15編のエッセイの間に3つの掌編小説がはさまれ、読後にタイトルの意味がわかるという構成からもこだわりが感じられる初エッセイ集。それを締めくくる「浄土」は、ジャニー喜多川氏との思い出や葬儀で感じたことを率直につづった一編だ。氏からかけられた言葉、亡き祖父との共通点など、加藤さんの脳裏をよぎるさまざまな情景は、読む人の心に静かにしみてきて……。

「あの文章は誰かに向けてというより、個人的な記録として残しておきたかった。僕を芸能界という世界に生み落としてくれた人に対して何を思い、どう書くか。芸で返すじゃないけれど、そういう気持ちもありましたね。照れくささもあったけれど、他者の目を無視して自分で自分のために書く。ある意味赤裸々なエッセイですが、貴重な経験ができたと思っています」

『できることならスティードで』

『できることならスティードで』加藤シゲアキ
加藤シゲアキ
朝日新聞出版 ¥1,300

トップアイドルとして活動しながら精力的に執筆を続ける著者初のエッセイ集。自身の肉体を見つめながらガウディの建築物やインディアンにまで思いを馳せた「肉体」、祖父の死を描いて日本文藝家協会編『ベストエッセイ2018』に選ばれた「岡山」、グラミー賞授賞式を通してジェンダー問題について考えた「ニューヨーク」など15編を収録。

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