【富岡佳子×森下洋子 スペシャル対談2】やめたいと思ったことはない。情熱が後押しした森下洋子さんのバレエ人生

来年、舞踊歴70周年を迎える森下洋子さん。日本バレエ界を牽引してきた森下さんに、同じく長年モデルとして活躍してきた富岡佳子さんは“現役”の先輩として憧れを抱いていたという。ようやくかなった対面でふたりは何を話すのか?

「小さいころから誰よりも不器用で、何をするにも時間がかかったからこそ、続けることの大切さを感じています」森下洋子

森下洋子
Profile
もりした ようこ●’48年、広島市生まれ。松山バレエ団の理事長、団長、プリマバレリーナ。3歳からバレエを始め、12歳でバレエを学ぶために単身で上京。’71年、松山バレエ団に入団し、’74年、ヴァルナ国際バレエコンクールで日本人初の金メダルを獲得する。’85年にローレンス・オリビエ賞、’12年に高松宮殿下記念世界文化賞など多数の受賞歴をもつ。’97年には文化功労者に選出。夫は松山バレエ団総代表、清水哲太郎さん、義母は松山バレエ団創立者で名誉芸術監督の松山樹子さん。

バレエ以外何もいらない。そう思える自分は本当に幸せ

富岡 毎日お稽古されているそうですが、日々のルーティンってどんな感じですか。

森下 朝は大体7時半ごろに起床。お風呂に入って筋肉を温めてから、1時間かけてストレッチや腹筋、背筋をします。朝食は普通にとり、午前中はクラスレッスン、そして夕方まで団員と一緒に作品のリハーサル。体が重くなってしまうのでお昼ごはんはとらず、チョコレートをちょっと食べるくらい。レッスン後は帰宅して夕食をとり、寝るという生活です。

富岡 お休みはあるんですか?

森下 オフは週に1回くらいあるんですけど、外出があまり好きじゃないこともあり、一日家にいて体のケアにあてることが多いです。ストレッチに腹筋と背筋、それからマッサージをして……。夜は夜でまたマッサージ。

富岡 「何もしないぞ」っていう日がないということですよね。

森下 そうね、次の日のための準備ですね。気分転換はするけれど、踊りのことはいつも頭のどこかにある。バレエがすべてなんです。

富岡 逆にシンプルですね。

森下 やっぱり好きだから。私にとっては生きていること自体がバレエで、特別な何かなわけじゃないんですね。そういうものに偶然3歳のときに出会えた私は、つくづく幸せな人間だなと思います。

「モデルをやめたいと思ったとき、“やめてもいいんじゃない”との夫の言葉で、限界までやろうと決意しました」富岡佳子

富岡 小学生でひとりで広島から上京してレッスンを受け、中学生で師匠の家に住み込むというのも、好きなものに対する情熱がないとできない。最近、若い人に本当に好きなものがある人は少ないんじゃないかって思うことが多くて、“好き”という気持ちは人生を左右するほど大事なことだな、と改めて思いますね。それは忍耐力にもつながりますよね。

森下 本当にそうね。好きだから、まず「続けたい」というのがあって、「有名になりたい」とかじゃなかった。よく「いろんなものを犠牲にして」といわれますけど、これが一番やりたいんだからほかのものは別にどうでも(笑)。

富岡 ふとよぎることはないですか、「もういいや」みたいな。

森下 ないの、一度もやめたいと思ったことは。

富岡 私は30代半ばに、モデルをやめたいって思ったことがあったんですね。娘の受験や仕事の切り替え時期などが重なったりして、なんだかいっぱいいっぱいになっちゃって。でもいざ夫に「自分の意思でやめるんだったら、もういいんじゃない?」っていわれたら、やっぱりやめられない自分がいて(笑)。冷静になったら「じゃあ、もうちょっとやめたくなるまでやるか!」って。

森下 いろんなことが重なっちゃったのね。私は子供がいないけど、お子さんがいるとそれは大変ですよね。

富岡 今はテレビや雑誌で活躍するママがたくさんいますけど、私たちの世代はまだママが働く時代ではなかったので、そういう雑誌もなくて、モデルをやめていく人が少なくなかったんです。

森下 その中で続けていらしたから。

富岡 今はこの姿を読者の皆さんにお見せして、何かを感じてくださったらいいなっていうスタンスになれて、やめたいとは思わなくなりました。

エクラ2020年12月号には富岡佳子さんと森下洋子さんのスペシャル対談を掲載。ぜひ手に取ってみてください。

【INFORMATION】
松山バレエ団 ’20年Xmas 公演『くるみ割り人形』

松山バレエ団では初演から39年目を迎える『くるみ割り人形』を森下洋子を中心に全幕公演。11/14、15 東京文化会館、11/28 さいたま市文化センター、12/6 府中の森芸術劇場、12/13 世田谷区民会館、12/19 神奈川県民ホールにて開催予定。詳しくは松山バレエ団ホームページを。チケットの申し込みは、☎03・3408・7939、またはticket@matsuyama-ballet.comへ。

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