『ボヘミアン・ラプソディ』×「 モエ・エ・シャンドン モエ アンペリアル」/本物の“チャンピオン”にふさわしい、高貴なる精神のシャンパーニュ【シネマに乾杯!vol.6】

ワインを知ると映画はもっと楽しい!エクラでもおなじみのワイン&フードジャーナリストの安齋喜美子が、映画の中に登場するワインやシャンパーニュを楽しく解説!第6回目は、映画『ボヘミアン・ラプソディ』をご紹介!
ボヘミアン・ラプソディ
フィルムの中にいたのは、確かに「クイーン」だった。フレディ・マーキュリー、ブライアン・メイ、ロジャー・テイラー、ジョン・ディーコン。俳優たちが演じているとは思えないほどリアルに、彼らは輝いていた。「キラー・クイーン」、「ボヘミアン・ラプソディ」、「ウィー・ウィル・ロック・ユー」などのヒット曲が全編を通じて流れ、'70年代のヒップな空気感を醸し出していた。エクラ世代であれば、少女時代にクイーンに熱狂し、懐かしい思い出に浸った人も多いのではないだろうか。
主人公はボーカルのフレディ・マーキュリー。オペラ歌手のような音域の広さと派手な衣裳でステージを動き回る独特のパフォーマンスで、全世界を熱狂させた。クイーンのファンであれば、彼のルーツがインドで、ゲイであったこと、一時グループから離れてソロ活動をしていたこと、エイズに感染していたことも知っているに違いない。だが、メンバーとの固い絆やフレディの栄光の影にあった苦悩は、詳しくは知られていない。ブライアンとロジャーの協力のもとに製作されたというこの作品は、伝記映画でありつつも、ロックスターとして生きた青年の青春物語でもある。
フレディの苦悩のひとつは、自らの出自だった。出生名の「ファルーク・バルサラ」から「フレディ・マーキュリー」へ。”音楽を居場所”とし、パフォーマーとしての人生を新たに生きようとした。いや、もしかしたら、その根底にあったのは、厳格な父の期待に添えない自分自身への負い目だったのかもしれない。父が常に口にする「善き思い、善き言葉、善き行い」を実現できず、家庭を持たなかった自分への。彼は自身がゲイであることを自覚し、婚約者であったメアリーと別れる。クイーンから離れた時、ブライアンはフレディに「俺たちは家族だ」と語るが、彼は聞く耳を持たなかった。自ら背負い込んでしまった孤独ゆえに。
ボヘミアン・ラプソディ
ソロ活動を始めてから、フレディの迷走は加速する。ドラッグ、夜ごとの乱痴気騒ぎ……。生活はすさみ、音楽もまた荒廃していく。この時期、アフリカの子どもたちを飢餓から救うためのチャリティ・イベント「ライブ・エイド」(1985年)出演のオファーがクイーンの元へ来るのだが、当時の取り巻きはこの話をフレディの耳に入れなかった。この危機を救ったのが生涯の友となったメアリーだ。彼女の真摯な言葉によって、彼はクイーンという”母船”に戻る決意をし、メンバーもまた、彼を受け容れる。なぜなら、”クイーンは家族”だから。
だが、この頃、すでにフレディはエイズに罹患していた。ライブ・エイドを1週間後に控えたある日、バンドの練習の後でフレディがメンバーに自らの病を伝えるシーンが印象的だ。ブライアン、ロジャー、ジョンの3人は、ただ静かにフレディを抱きしめる。そして、フレディはこう語るのだ。「俺が生まれた理由、それはパフォーマーだ。皆に望むものを与える。最高の天国を」と。するとロジャーが言う。「お前は伝説だ」。フレディはこう答える。「その通りさ。俺たち全員がね」――。
ボヘミアン・ラプソディ
ライブの朝、フレディは後にパートナーとなったジム・ハットンとともに、両親を訪ねた。父は、ありのままの息子を受け容れ、ライブ会場へ向かうフレディにこう語る。「善き思い、善き言葉、善き行いだ」。その言葉にフレディはこう答えるのだ。「父さんの教えと同じ」と。
ライブ・エイド当日のワゴン車でのシーンに登場するシャンパーニュが「モエ・エ・シャンドン モエ アンペリアル」だ。ワインクーラーで冷やされていることから、ライブ後の乾杯用であることは想像できるが、興味深いのは「キラー・クイーン」の歌詞にある銘柄であること。この曲はグループ結成2年目に発表されたから、元々彼らは「モエ・エ・シャンドン」を愛飲していたのもしれない。だが、実は、モエ・エ・シャンドン社の歴史を紐解くと、ある史実が浮かび上がり、それが、フレディの生き方とどこか重なるように思えるのだ。
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「モエ・エ・シャンドン」は”成功とエレガンスの象徴”と称される、世界一有名なシャンパーニュだ。1743年の創設以来、皇帝ナポレオンを始め、ヨーロッパの王侯貴族や多くのハリウッドスターに愛されてきた。今もシャンパーニュ地方全体を牽引し、尊敬を集めている。その理由は、”ノーブレス・オブリージュ(高貴なる者の義務)”の精神が根底にあるから。

それを物語るひとつが、第二次世界大戦下における当時の社長ロベール=ジャン・ド・ヴォギュエ伯爵のエピソードだ。彼は、経済人として地域のリーダーであった一方、レジスタンス活動の協力者でもあった。ドイツとの国境に位置するシャンパーニュ地方は侵攻されるのも早かったが、なにより、ドイツ軍が目的としたのはシャンパーニュの大量の供出だった。1943年当時、モエ・エ・シャンドン社はすでにひどい略奪を受け、建物もいくつか焼かれていたが、ド・ヴォギュエ伯爵は多くのメゾンがあるエペルネの街を守るべく、ドイツ軍との交渉役を務めていた。
ところが、ある日、彼は交渉のさなかに突如手錠をかけられ、収監されてしまった。レジスタンス幇助の罪に問われたのだ。その後、彼は軍事法廷においての死刑の宣告を受けた。彼はナチスの収容所で生き延び、1945年の終戦後にシャンパーニュに帰郷したが、誰なのかがわからないほどやつれていたという。その後、彼はメゾンを立て直し、エペルネの街の復興に尽力した。全ては、人々の生活を守るために。このド・ヴォギュエ伯爵の逸話は、フレディの父の「善き思い、善き言葉、善き行い」という言葉に重なる。クイーンが参加したライブ・エイドの目的も子どもたちの命を守るためのもの。どちらも、高貴なる精神のなせる業だ。
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ラストシーンで、フレディは「ウィー・アー・ザ・チャンピオンズ」を歌う。人生の終わりを予感しながらも、希望に満ちた力強い声で。あの歌は、おそらくは自分たちへの、聴衆への、愛する者たちへの賛歌。そして、すべての人々への。“チャンピオン(成功者)”とは、どんな人間を指すのだろう? 自分の夢を叶えた者、高い地位や財産を得た者……。確かに、その通りだ。だが、そこに他者のために力を尽くす心がなければ、本物のチャンピオンとは言えないだろう。ド・ヴォギュエ伯爵も、フレディも、そしてクイーンのメンバーも本物のチャンピオンだった。だからこそ、この映画に登場するのは”成功とエレガンスの象徴”「モエ・エ・シャンドン」で”正解”なのだ。
フレディ・マ―キューリーは、映画の中で確かに生きていた。彼のメッセージは、今も世界のどこかで流れているクイーンの曲を通じて、誰かに届けられている。
(参考資料/『シャンパン歴史物語 その栄光と受難』ドン&ペディ・クラドストラップ(白水社))
ボヘミアン・ラプソディ
© 2020 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC.

「ボヘミアン・ラプソディ」

ブルーレイ発売中 / デジタル配信中
発売/ウォルト・ディズニー・ジャパン
モエ エ シャンドン モエ アンペリアル

「モエ・エ・シャンドン モエ アンペリアル」

ピノ・ノワール 30~40%、ムニエ 30~40%、シャルドネ 20~30%。グレープフルーツや洋梨、白い花の香り。フレッシュで清らかな酸味。果実味と酸味のバランスが絶妙で、アペリティフから魚介のマリネ、パスタなどオールマイティ。黒ブドウ比率が高く、味わいにもコクがあるため、寿司や天ぷらはもちろん、すき焼きまでカバー。750ml ¥6,500(ギフトボックス付き ¥6,700)
■「モエ・エ・シャンドン モエ アンペリアル」のお問い合わせ先/MHD モエ ヘネシー ディアジオ 
取材・文/安齋喜美子
ワイン&フードジャーナリスト。女性誌を中心に多くの媒体で執筆。ふだんごはんからスイーツ、星つきレストランまで幅広くカバーする。映画が大好きで、登場するワインは必ずチェック。最近は海外の醸造家とオンラインでワインテイスティングの日々を過ごす。シャンパーニュ騎士団シュヴァリエ。

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