『シャーロック・ホームズ』×「シャトー・マルゴー」/ 名探偵もノックアウトされた最高級ワイン! 「彗星のヴィンテージ」を“推理”する 【シネマに乾杯!vol.7】
ワインを知ると映画はもっと楽しい!エクラでもおなじみのワイン&フードジャーナリストの安齋喜美子が、映画の中に登場するワインやシャンパーニュを楽しく解説!第7回目は、映画『シャーロック・ホームズ』をご紹介!
このシャーロック・ホームズ(ロバート・ダウニー Jr.)、かなり“やんちゃ”。でも、とてもチャーミングなのだ。優れた洞察力と推理力を持ち、ボクシングはプロ級、武道の心得もあり、科学実験が趣味という原作のキャラクターはそのままに、“ボヘミアン”なホームズとして描かれている。ワトソン君(ジュード・ロウ)は助手というよりも頼りになる“バディ”で、ホームズに反発しながらも協力する姿が魅力的。ミステリーとアクションが満載で、素直に「楽しい」と思える映画だ。
舞台背景は1890年、まだ黒魔術が信じられていた時代のこと。ホームズは、秘密結社の長で黒魔術を操るブラックウッド卿の儀式の生贄にされそうな女性を救うため、現場へと向かう。ワトソンとロンドン警視庁のレストレード警部がホームズの後を追い、無事女性は救出、ブラックウッド卿も逮捕されるが、これが事件の幕開けだった。
その後、過去に5人の女性を儀式の生贄として殺害したブラックウッド卿に対し、死刑が執行されたのだが、なんと、彼は“予言通り”墓場から蘇り、ある計画を進めていく。その頃、ホームズの前に突然現れたのがアイリーン・アドラーという女泥棒だ。ホームズが過去に2回負けたことのある相手なのだが、妖艶な美女で、かつてホームズが愛した女性でもあった。未だに忘れられず、机の上に写真を飾っておくほどで、ワトソンには「唯一愛した女は犯罪者。君はマゾか」と揶揄される。
実は、アイリーンがホームズの前に現れたのには理由があった。「リオドン」という男を探して欲しいというのだ。彼女の雇い主は一体誰なのか、ホームズは彼女の後をつけ、それがかなりの危険人物であることを知る。その後、このブラックウッド卿の復活とリオドンの失踪は、意外なところで交錯していく。なんと、ブラックウッド卿が埋葬されていた棺の中に入っていたのはリオドンの遺体だったのだ。ホームズとワトソンは、この壮大で危険な事件に挑んでいく。
リオドンが遺体で見つかったことで、ホームズはアイリーンにその結果を知らせに行く。場所は“ふたりの思い出”のグランド・ホテル。このシーンで登場するのが「シャトー・マルゴー」だ。バスタオルを纏っただけのなまめかしい姿のアイリーンに「これなら開けられる?」とワインボトルを渡され、ホームズはこう答える。
「マルゴーの1858年。大彗星の年だ。彗星の年のワインはヴィンテージ……」。すかさずアイリーンが彼に訊ねる。「依頼の進展は?」。
すると、「いいワインだ。まさに“出口なし”だよ」とホームズ。そして、リオドンが遺体で見つかったこと、彼女の依頼主が危険な人物であることを告げ、「次に消されるのは君だ」と警告、逃走か自首を勧めたのだ。だが、アイリーンは「私は危険知らずよ。一緒に逃げて」と、ホームズの言葉など意に介さない。ホームズは、みずからコルクを抜いてワインをグラスに注ぎ、一気に飲むのだが、直後に前後不覚に陥ってしまう。なんと、ワインには睡眠薬が仕込まれていたのだ。意識が遠のくホームズに、アイリーンはこう言葉をかける。「彗星のお味は?」――。
「マルゴーの1858年。大彗星の年だ。彗星の年のワインはヴィンテージ……」。すかさずアイリーンが彼に訊ねる。「依頼の進展は?」。
すると、「いいワインだ。まさに“出口なし”だよ」とホームズ。そして、リオドンが遺体で見つかったこと、彼女の依頼主が危険な人物であることを告げ、「次に消されるのは君だ」と警告、逃走か自首を勧めたのだ。だが、アイリーンは「私は危険知らずよ。一緒に逃げて」と、ホームズの言葉など意に介さない。ホームズは、みずからコルクを抜いてワインをグラスに注ぎ、一気に飲むのだが、直後に前後不覚に陥ってしまう。なんと、ワインには睡眠薬が仕込まれていたのだ。意識が遠のくホームズに、アイリーンはこう言葉をかける。「彗星のお味は?」――。
このシーンでわかるのがホームズのワインに対する造詣の深さだ。彼が語った“彗星のビンテージ”とは1811年の大彗星年のこと。この年のワインは、その出来がかなりよかったことから、ワインの世界では「大彗星のヴィンテージ」と呼ばれているのだ。ホームズが飲んだ1858年はドナティ彗星が見られた年のワインであったから、もしかしたら、「このヴィンテージも素晴らしいに違いない」と言葉を続けたかったのかもしれない。だが、気になるのは、なぜアイリーンが「シャトー・マルゴー」を選んだのかということ。ワインに睡眠薬を盛るのなら、ほどほどのワインで済むはず。だが、ホームズは過去に愛した相手でもある。「眠らせるなら最高級のワインで」と思ったとしても不思議ではない。
「シャトー・マルゴー」は“5大シャトー”として名高いが、これはボルドー・メドック地区において第一級であることを意味する。1855年のパリ万博の折、ナポレオン三世の命のもとに格付けされたのだ。つまり、映画に登場する「シャトー・マルゴー1858」は、格付けされた年から3年後に誕生したワインで、もともと評判のよかったシャトーの名声が、さらに高くなった頃のものと推測できる。しかも、ワインは32年間もの長きにわたって熟成されていたのだから、どれほど香りが芳しく、甘美な味であったろう。おそらくはこの時代でさえ、マルゴーの1858年はかなり高価であったはず。こんな素晴らしいワインに睡眠薬を仕込むなどもってのほか……と言いたいところだが、最高級ワインを選ぶところにアイリーンの女心を感じてしまう。もっとも、こんな甘い推理は、ホームズに一笑に付されそうだが、あながち間違ってはいないようにも思えるのだ。
映画は、ハラハラ、ドキドキの連続で見応え十分。ブラックウッド卿の狙いは黒魔術を装った化学兵器による国家の掌握で、一方、アイリーンの雇い主であり、のちにホームズの宿敵となるモリアーティ教授が狙ったのは、その化学兵器を作る機械だった。その謎や思惑が絡み合い、一時も目が離せなくなる。ガイ・リッチー監督の画面をプレイバックさせる手法も、映像がスタイリッシュで時系列がわかりやすい。ワインに睡眠薬が入れられたことも、さりげなく理解できる。
最後にもうひとつ、推理してみよう。ホームズは、過去にアイリーンに2回負けているのだ。密室のホテルで会うとなれば、彼ほどの洞察力に優れた人間なら、簡単にワインを口にするだろうか? だが、「シャトー・マルゴー」は、“大切な人と飲みたいワイン”の筆頭でもある。もしかしたらホームズは、彼女ともう一度甘い時を過ごしたかったのかもしれない。今でも彼女の写真を飾っているくらいなのだから。あるいは、純粋に32年熟成のマルゴーに惹かれたか――。名探偵をもノックアウトしてしまう、「シャトー・マルゴー」のパワー、恐るべし!
「シャーロック・ホームズ」
■U-NEXTにて配信中
「シャトー・マルゴー」
フランス・ボルドー。カベルネ・ソーヴィニヨンを主体に、メルロ、カベルネ・フラン、プティ・ヴィルドをブレンド。カシスやブラックベリー、カカオ、ローズティーなどアロマティックで複雑な香り。芳醇な果実味となめらかなタンニン。味わいは限りなくエレガントで、フレッシュさも併せ持つ。甘やかな余韻が長く続く。現行ヴィンテージは2017年(ボトル写真は2010年)。
750ml \121,000(税込)
■「シャトー・マルゴー」のお問い合わせ先/エノテカ 0120-81-3634(フリーダイヤル)
750ml \121,000(税込)
■「シャトー・マルゴー」のお問い合わせ先/エノテカ 0120-81-3634(フリーダイヤル)
取材・文/安齋喜美子
ワイン&フードジャーナリスト。女性誌を中心に多くの媒体で執筆。ふだんごはんからスイーツ、星つきレストランまで幅広くカバーする。映画が大好きで、登場するワインは必ずチェック。最近は海外の醸造家とオンラインでワインテイスティングの日々を過ごす。シャンパーニュ騎士団シュヴァリエ。
ワイン&フードジャーナリスト。女性誌を中心に多くの媒体で執筆。ふだんごはんからスイーツ、星つきレストランまで幅広くカバーする。映画が大好きで、登場するワインは必ずチェック。最近は海外の醸造家とオンラインでワインテイスティングの日々を過ごす。シャンパーニュ騎士団シュヴァリエ。
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