続・沖縄の美しいもの、特別展『琉球』。
ひとつ前の記事に続いて、再び沖縄のトピックを。東京国立博物館平成館で沖縄復帰50周年記念特別展『琉球』(~6/26)が開催中です。会期前半、5/29までの展示品で気になったものをピンポイントでご紹介いたしましょう。
"寅年"の2022年にちなんで虎モチーフの三作品、まずは軸もの二点から。一見して、同じお手本があることが伺えます。琉球絵画は一般的に中国画の影響が色濃いですが、これらの『虎図』が中国っぽいかと言われると、さてどうか。むしろ朝鮮画のような雰囲気が漂います。太眉のような顔の白、そして足先もこれまた靴下状にすべて白。そのせいか重々しさがなく、妙に愛らしい。どこの誰の創作なのか、背中に続く丸い点々もユニークです。
比べてみますと、右の虎のほうが雄々しく、風格を感じさせます。しかし、不思議な魅力があるのは左の無款の方。短く精妙な毛描きのおかげで、虎さんはまるで散髪したてのようにクリクリ。その毛のリアルさがところどころ波打つ体の輪郭を強調していて、妙に生っぽく映ります。機械的に反復される唇みたいな柄も独特。描いている本人の「虎の見た目はこうなんだ」という強い確信が伝わってきます。
朝鮮から琉球に虎の毛皮が贈られることはあったようですが、いずれの作品も、毛皮を具に観察したというものではないでしょう。虎の現物は不在、主に中国・朝鮮の絵画に学びつつ想像力で補って描くという図式は、かつての日本と同じですね。
比べてみますと、右の虎のほうが雄々しく、風格を感じさせます。しかし、不思議な魅力があるのは左の無款の方。短く精妙な毛描きのおかげで、虎さんはまるで散髪したてのようにクリクリ。その毛のリアルさがところどころ波打つ体の輪郭を強調していて、妙に生っぽく映ります。機械的に反復される唇みたいな柄も独特。描いている本人の「虎の見た目はこうなんだ」という強い確信が伝わってきます。
朝鮮から琉球に虎の毛皮が贈られることはあったようですが、いずれの作品も、毛皮を具に観察したというものではないでしょう。虎の現物は不在、主に中国・朝鮮の絵画に学びつつ想像力で補って描くという図式は、かつての日本と同じですね。
お次は『朱漆竹虎連珠沈金螺鈿座屏』。編んだビーズで表された虎は、ファミコンのグラフィックを思わせる斬新さ。実に手の込んだ技法ながら、絶妙に地に足のついていない虎の描写が、唯一無二の味わいを生んでいます。琉球のビーズ細工は、儀礼や贈答用に作られた「御玉貫(うたまぬち)」(写真2枚目、錫製の瓶子を編んだビーズで覆ったもの)でもかなり希少とされ、大ぶりの玉製座屏に至っては、知られている限りでは本作だけ。琉球漆器のコレクションが素晴らしい浦添市美術館にあって、知る人ぞ知る名宝と言えましょう。
三作それぞれにかわいい虎を表現していますが、単にかわいいだけではありません。共通しているのは、コントラストを大事にしていること。軸の方は、精緻な虎に対して粗放な背景が好対照。泉川寛道の筆致は実に達者なものです。座屏もまた、ほんわかしたビーズ部分に対して、枠や足については繊細な沈金と螺鈿でびっしりと埋めていて、朱と黒の面のバランスもセンスがいい。"ゆるい"、"大らか"一辺倒なのではなく、ゆるさの魅力を理解しつつ、意識的に使い分けているところがキモなのではないでしょうか。
三作それぞれにかわいい虎を表現していますが、単にかわいいだけではありません。共通しているのは、コントラストを大事にしていること。軸の方は、精緻な虎に対して粗放な背景が好対照。泉川寛道の筆致は実に達者なものです。座屏もまた、ほんわかしたビーズ部分に対して、枠や足については繊細な沈金と螺鈿でびっしりと埋めていて、朱と黒の面のバランスもセンスがいい。"ゆるい"、"大らか"一辺倒なのではなく、ゆるさの魅力を理解しつつ、意識的に使い分けているところがキモなのではないでしょうか。
現在では琉球漆器の真価を知る人は決して多くありませんが、江戸時代の日本人はその質と独特の情趣に一目置いていました。三つ葉葵の紋が入った作品などは、日本からの発注で作られたのでしょう。地を覆う螺鈿の手間のかけ方は尋常ではありません。
また、江戸時代初期の畿内の茶人たちも、優れた琉球漆器を"唐物"に匹敵するアイテムとして評価をしていたようです。『遠州蔵帳』に記録が残り、小堀遠州が所蔵したとされる大徳寺・孤篷庵の『黄天目』には『朱漆雲龍箔絵天目台』が附属。黄と朱の組み合わせがとても新鮮に映ります。他にも(非出品作ながら)、同じ大徳寺の龍光院には『油滴天目』と琉球漆器の『螺鈿唐草文天目台』がセットで伝わっています。こちらは、九州・琉球との交易で財を成した堺の豪商・天王寺屋(津田宗及の家筋)ゆかりの品。
一方、茶の湯は琉球にも伝わっていたらしく、17世紀から現地で茶陶が焼かれていました。写真を撮りそこねましたが、備前の造形と土色、黄胡麻を意識した『鉄釉灰釉流掛双耳水指』にはビックリです。
自明のことながら、琉球も日本と同じく、"島国"としての歴史を歩んできました。近隣の国家の文化に学び、その異文化を受容しながら自国の文化を育てていったという大筋では、琉球も日本も変わりません。中国、朝鮮、日本、東南アジアなど、さまざまなエッセンスが絡み合い溶け合ったところに、琉球の文化の魅力があります。
15~16世紀の朝鮮王朝時代の地図には、本州と同じくらいの距離感で、沖縄本島がかなり巨大かつ詳細に載っていました。「海は隔てるものではなく繋げるもの」と実感させてくれるのも、"万国津梁"の琉球ならでは。琉球が大国の文化から何を選びどう消化したかというような目線で鑑賞していくのも楽しいかと思います。
展示数が多いので、2時間程度の滞在をみてお出かけください。
(編集B)
また、江戸時代初期の畿内の茶人たちも、優れた琉球漆器を"唐物"に匹敵するアイテムとして評価をしていたようです。『遠州蔵帳』に記録が残り、小堀遠州が所蔵したとされる大徳寺・孤篷庵の『黄天目』には『朱漆雲龍箔絵天目台』が附属。黄と朱の組み合わせがとても新鮮に映ります。他にも(非出品作ながら)、同じ大徳寺の龍光院には『油滴天目』と琉球漆器の『螺鈿唐草文天目台』がセットで伝わっています。こちらは、九州・琉球との交易で財を成した堺の豪商・天王寺屋(津田宗及の家筋)ゆかりの品。
一方、茶の湯は琉球にも伝わっていたらしく、17世紀から現地で茶陶が焼かれていました。写真を撮りそこねましたが、備前の造形と土色、黄胡麻を意識した『鉄釉灰釉流掛双耳水指』にはビックリです。
自明のことながら、琉球も日本と同じく、"島国"としての歴史を歩んできました。近隣の国家の文化に学び、その異文化を受容しながら自国の文化を育てていったという大筋では、琉球も日本も変わりません。中国、朝鮮、日本、東南アジアなど、さまざまなエッセンスが絡み合い溶け合ったところに、琉球の文化の魅力があります。
15~16世紀の朝鮮王朝時代の地図には、本州と同じくらいの距離感で、沖縄本島がかなり巨大かつ詳細に載っていました。「海は隔てるものではなく繋げるもの」と実感させてくれるのも、"万国津梁"の琉球ならでは。琉球が大国の文化から何を選びどう消化したかというような目線で鑑賞していくのも楽しいかと思います。
展示数が多いので、2時間程度の滞在をみてお出かけください。
(編集B)
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