作家 酒井順子さん「“負け犬”から20年、結婚の意味合いも薄らいで」【パートナーとの新しい形、私はこう考える】

パートナーと暮らして15年の作家 酒井順子さん。結婚はしていないけれど、不自由は特に感じないという酒井さんが考えるパートナーとのあり方とは? 多様な選択肢の中から自分で生き方を選ぶためのヒントを伺った。

パートナーと暮らして15年。結婚はしていないけれど、不自由は特に感じない。

「事実婚」といういい方がすでに時代遅れなのかも

'03年、酒井順子さんが執筆し、世をにぎわせた『負け犬の遠吠え』。30代以上・未婚・子供のいない女性をあえて「負け犬」と呼びつつ、女性の自立に対する問いかけとエールを送る作品だ。年末の流行語大賞でトップ10に選ばれるほど、“負け犬”という言葉が話題になった。

あれから約20年。酒井さん自身、または酒井さんを取り巻く周囲には何か変化があったのだろうか?
「戸籍上でいえば、あの当時と変わらず私は独身です。あの作品を書いたあとにパートナーを得ましたが、結婚することなく、世にいう事実婚という形式のまま続いています。周囲はというと、20代で結婚・出産をすませた人たちの中には、別居中という人も多いですね。すでに夫婦仲は冷めてしまったけれどさまざまな理由から離婚はせずに。『負け犬の遠吠え』を出版した当時は、結婚した人・未婚の人とあえてカテゴリーを分けてそれぞれの生き方を描きましたが、今となると、なんだかみんなそんなに変わらないのがおもしろい(笑)。でも、孫ができると、みんな途端に忙しくなるので、子供がいなかった人といる人の人生は変わってくるのかもしれません。今はその手前の人が多いので、話が共有できますね」
作家 酒井順子さんの写真

「この先、違う人が現れる可能性も考えておいたほうがいいのかも。絶対はないですから」

とはいえ、既婚者も未婚者も関係なく、お互い共有できる部分が以前よりも増えていると感じるという。50代にもなるとたいていのことは自分でできる。日常生活でパートナーがいなくても成り立つことがほとんどだ。
「でも、この年齢になると子供の結婚だの、親戚の葬儀だの冠婚葬祭事が増える。こういったことは意外と面倒で、パートナーとの関係にも影響しますからね……」

酒井さん自身、30代で父を、40代で母を亡くし、5年前にお兄さまを亡くされた。酒井家の中で酒井さんがひとり残った形に。酒井さん自身、結婚はしていないがパートナーがいることは大きな支えになったという。
「私はひとりが苦手なタイプでもあるので、やはりいてくれてよかったと思いましたね。人は誰しも寂しいと感じることはあるわけですから、そういったときに助けあうことができる関係性があることは大事だと思います。うちの場合は、結婚していませんが、あの家にあやしい人がいる、と周囲に思われてしまっても面倒なので、近所のかたにはたまたま会ったときなどに『うちの男』と紹介しています。近所のおばさまから、“うちの男”っていいわね、なんていわれたりしています(笑)」

とはいえ、自分とパートナーの形態を「事実婚」と称されることが、どうもしっくりこないような酒井さん。確かに、この言葉の背景には「さまざな事情があって結婚できない/結婚しないけれど、結婚しているも同然」という意味合いが含まれる。でも、酒井さんは今の世の中、パートナーとのあり方は従来の意味を超え、もっと多様になっているのでは、と投げかける。
「事実婚の定義はあいまいで、実際にはいろんな形式の人がいると思うんです。将来的に結婚を視野に入れていない人もいるし、ルームメイト的な感覚で暮らしている人もいる。これは事実婚にかぎったことではなく。別居でも同居でも、結婚を視野に入れていてもいなくても、多様な暮らし方が増えている。結婚のあり方も、あいまいなグラデーションがあっていい時代になっていくのかも」
作家 酒井順子さん「“負け犬”から20年、結婚の意味合いも薄らいで」

多様さが受け入れられれば社会も変わるはず

確かに、人の価値観は想像よりも早く変わる。ちょっと前まで「別居」といえば、暗くネガティブなイメージがあったが、夫と別々に暮らしていると聞くと、「うらやましい」「やってみたい」と感じる人も増えている。「事実婚」も、都市部ではよくあることになりつつある。助成や手続きなど今は追いついていない制度もあるが、多様なあり方が増えれば、不便さも変化していくはずだ。
「今がちょうど過渡期なのかもしれませんね。でも、こうして40~50代の女性誌で、多様なパートナーとのあり方を考える特集があるということも、時代が動いている証拠。一生ひとりと思っていたのに結婚する人もいれば、離別や死別のあと、今のパートナーとは別の人が現れる人もいるかもしれない。周囲を見ても、ひとりでいいといっていた人が50代になって結婚したり、といったこともあります。人生に絶対なんてないのですから」

「より“自分”をもっていないといけない時代に。さまざまなあり方がグラデーションでいいと思います」

作家 酒井順子さんインタビュー「多様さが受け入れられれば社会も変わるはず」
結婚の古い価値観に縛られていたら、こんな意外な出会いやできごとは生まれない。
「最終的に暮らす相手が異性であるという概念自体も古いのかもしれません。別に、友だちだっていいし、気が合う仲間と、という選択もあるかもしれない。もちろん、ケンカもするし、うっとうしいけど今の夫がいいというものも含めて、多様な選択肢があっていいのだと思います。でも、多様な選択肢の中から自分で生き方を選ぶためには、経済的、精神的に自立していることが重要。そうでないと、そもそも選択肢が限られてしまいますよね。パートナーとの関係性に満足している人でも、何があるかわからない未来のために、自立を手放してほしくはありません」
作家 酒井順子さん

作家 酒井順子さん

’66年、東京都生まれ。冷静で鋭い観察眼と独自の考察力で、思わずうなずいてしまう共感性が高いエッセーを多数執筆。’04年『負け犬の遠吠え』で婦人公論文芸賞、講談社エッセイ賞を受賞。ほかに『子の無い人生』『駄目な世代』『ガラスの50代』『家族終了』など。新刊に『うまれることば、しぬことば』(集英社)がある。
『うまれることば、しぬことば』

『うまれることば、しぬことば』

陰キャ、映え、生きづらさ、わかりみ……。あの言葉と言い方はなぜ生まれ、なぜ消えていったのか、独自の視点で斬る日本語論。婚活に始まった“活動ブーム”の功罪を語る章では酒井さんの結婚観も。集英社 ¥1,650

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