【パリクリエイターたちのインテリア】50代が参考にしたい「こだわりの住まい」を披露

クリエイターたちにとって、住まいはいわば作品であり、想像力を培う場所でもある。パリ左岸の3人の女性デザイナーたちの家をたずねて、クリエイションとライフスタイルの本質を探った。

Marie-Hélène de Taillac(マリーエレーヌ・ドゥ・タイヤック)

あふれる色彩と北欧タッチが調和を奏でるアパルトマン

大きな窓が並ぶアパルトマンでは、優しく楽しい色合いとしっとりとした北欧モダニズムが相まって、穏やかな旋律が流れる。窓際とソファを彩るヨーゼフ・フランクの生地が、異なる世界の仲介に。

あふれる色彩と北欧タッチが調和を奏でるアパルトマン

カーテンに加えてリビングの色彩の幅を広げるのは、ジャイプールの友人、ティエリー・ジュルノによるカーペットと、フランスのアーティスト、セバスチャン・グージュによる、まるでアメシストのような窓辺に置いた吹きガラスのランプ。暖炉の上の一連の絵はドイツの画家、ピーター・ドレアーの作。スタンドランプも、ヨーゼフ・フランク

時代、スタイル、曲線と直線。ここではさまざまなテイストが共存する

時代、スタイル、曲線と直線。ここではさまざまなテイストが共存する

テーブルクロスはベネチアで購入し、カーペットはインドでオーダー。現代アートの写真はロマン・シニェによる作品、スタンドランプはスウェディッシュ・グレースと呼ばれるスウェーデンのアールデコ(1940年ごろ)、と時代や国籍もさまざま。「スヴェンスクトテン」のファブリックは、本国サイト(https://www.svenskttenn.com/jp/en/)で日本からのオーダーも可能

スウェーデンのカーテンで、ふたりの好みをシェアして

マリーエレーヌ・ドゥ・タイヤックが息子のエドモン、そしてアート・コンサルタントを生業とするパートナーのヴァンサン・リステリッチとともに暮らすのは、パリ左岸の200㎡のアパルトマンだ。キャンディカラーのファインジュエリーに象徴されるように、彼女のシグネチャーはあふれる色彩。でもここでは、スウェーデン人の母をもつヴァンサンとのインテリアづくりで、北欧のモダニズムの家具やオブジェと色を共存させる、新たなハーモニーを見つけたそうだ。彼女はこう語る。

「彼が蒐集するアートを生かすために、壁は白。遊び心はファブリックで取り入れたの」。自然を描いたモチーフが庭の景色とも呼応するから、とカーテンとソファに選んだ生地は、家具デザイナー、ヨーゼフ・フランク作。彼がスウェーデンのインテリアメーカー「スヴェンスクトテン」のために20世紀半ばにデザインした、同店の定番だ。「カラフルなうえにスウェーデン製だから、この生地は私たちふたりの最大公約数。パリには代理店がないから一緒にストックホルムまで出向き、50メートル以上も注文したのよ」

また、ダイニングルームの椅子の張り替えに選んだベルベットの生地にも、ふたりの好みが反映されている。「ラべンダーは彼が最も好きな色だし、私がよく使う石、カルセドニーも思わせる」。椅子はジオ・ポンティのデザインで、オリジナルは違う色。「彼はコレクターだから本来のデザイン重視だけど、私は自由に変えてしまう。そのほうが自分のものになるでしょう?」と、彼女は笑った。

スウェーデンのカーテンで、ふたりの好みをシェアして

ミッドセンチュリーのオーク材のキャビネットはデンマークのデザイナー、ハンス・J・ウェグナーによるもの。上に載せたキャンドルスタンドは、北欧のアンティーク。手前のテーブルにはマリーエレーヌが’19年に出版した本『Gold And Gems』を広げて。

ドゥ・タイヤック家の家宝である18世紀のコンソールテーブルの上には、祖父の友人だったイタリアの画家、マリオ・キャヴァリエーリによる1920年の油彩と色鮮やかな花を

ドゥ・タイヤック家の家宝である18世紀のコンソールテーブルの上には、祖父の友人だったイタリアの画家、マリオ・キャヴァリエーリによる1920年の油彩と色鮮やかな花を

リビングルームでのマリーエレーヌ。イギリスの現代アート作家、ポール・パックの油彩画に見るピンクは、彼女が大好きな色だ。ベージュのソファはパレ・ロワイヤルの近くにある行きつけのアンティーク・ギャラリー「エリック・フィリップ」で買い求めた

リビングルームでのマリーエレーヌ。イギリスの現代アート作家、ポール・パックの油彩画に見るピンクは、彼女が大好きな色だ。ベージュのソファはパレ・ロワイヤルの近くにある行きつけのアンティーク・ギャラリー「エリック・フィリップ」で買い求めた

気分を上げてくれるのは、ブルーのミッドセンチュリー家具

ブルーが印象的な“メディアルーム”。

ブルーが印象的な“メディアルーム”。壁にかけた写真はヴァンサンのコレクションより、現代アート作家のパトリック・トザニの作。3人がけのソファはイタリアのトビア・スカルパによる’60年代の「バスチアノ・ソファ」。花のような照明はオリヴィエ・ムルグ

彫金装飾が見事な19世紀のものからアールデコ様式の数点までティーポット、そしてトレイも含め、シルバーウエアはすべてドゥ・タイヤック家に代々伝わる宝物。

彫金装飾が見事な19世紀のものからアールデコ様式の数点までティーポット、そしてトレイも含め、シルバーウエアはすべてドゥ・タイヤック家に代々伝わる宝物。

自作の一点もののオブジェ、オクタゴン・ボードゲーム。ロッククリスタルのボードにピンククォーツ、グリーンアガット、アメシスト、カルセドニーなど

自作の一点もののオブジェ、オクタゴン・ボードゲーム。ロッククリスタルのボードにピンククォーツ、グリーンアガット、アメシスト、カルセドニーなど

ミッドセンチュリー色の濃いキッチン。

ミッドセンチュリー色の濃いキッチン。窓ぎわのピエール・ポランの「ABCDソファ」とヴィンテージのテーブルと椅子は、いずれももともとマリーエレーヌが持っていたもの。壁にかけた絵はヴァンサンのコレクションから、スイスの画家ユルグ・クレイエンビュールによる作品

リビングとダイニングの廊下をはさんで反対側には、色を統一したスペースがある。マリーエレーヌが“メディアルーム”と呼ぶ、映画を見たり本を読んだりする部屋とキッチンだ。中庭に面したこの2部屋には日があまり入らないものの、サファイアのごとく鮮やかなブルーが気分を上げてくれる。

メディアルームでグラフィック感を主張するのは、ジャイプールから運んだカーペット。1年の分3の1を過ごすインドでは、あらゆるものをパーソナライズして注文できるのがおもしろい、と彼女はいう。さらにモダンデザインの巨匠、ピエール・ポランによる椅子に合わせ、ソファの生地とウィリー・リッツォによる鏡のテーブルの表面も、ブルーで統一。いずれもミッドセンチュリーのものだ。

キッチンではトメットと呼ばれる素朴なタイルの床に、ピエール・ポランの「ABCDソファ」、クリニャンクールののみの市で見つけたテーブル&椅子などのヴィンテージの家具が、絶妙なコントラストを成している。

ジェムストーンの色や輝きが心地よいエネルギーで満たしてくれる

ジェムストーンの色や輝きが心地よいエネルギーで満たしてくれる

壁の絵は現代アート作家、ダミアン・キャバンヌによるもの。ベッドの右のテーブルランプは活躍中のアーティスト、トマ・ルミュ。サイドテーブルはマリーエレーヌごひいきの’70〜’80年代のデザイナー、デヴィッド・ヒックス作

寝室のディテール。

寝室のディテール。暖炉の上、壁の作品は川俣正。オブジェは北欧アンティーク。左から2番目の青と白の絵は、リビングのピンクと白の油彩と同じくポール・パック作。クリスタルの象はインドのお守り、ガネーシュ。

一連の真鍮のボウルと動物のオブジェは北欧のアンティーク。いずれもふたりの行きつけギャラリー、エリック・フィリップで。ボウルの中にはマリーエレーヌによるカラフルなジュエリーが

一連の真鍮のボウルと動物のオブジェは北欧のアンティーク。いずれもふたりの行きつけギャラリー、エリック・フィリップで。ボウルの中にはマリーエレーヌによるカラフルなジュエリーが

寝室の窓ぎわに配した王冠型スツールはマリーエレーヌのふるい友人、トム・ディクソンのデザイン。

寝室の窓ぎわに配した王冠型スツールはマリーエレーヌのふるい友人、トム・ディクソンのデザイン。その上に載せた、よく見ると顔が浮かび上がる絵はレバノンの画家、マルワン作。壁の絵はスコーリ・アコスタ。いずれも彼女所有のアート
 

庭側に戻ると、東端には、アートにあふれた寝室。カシミヤのカバーが覆うベッドの頭上に掲げた絵に見る服の色と、サイドテーブルの赤が呼応する。ともあれ、ここでキラキラとした色を発するのは、テーブルのボールに収まった自作のジュエリーたちだ。彼女がよく口にするように、ジェムストーンはポジティブなパワーの発信源。

「どの部屋も好きだけど、寝室では特にいいエネルギーを感じるの」。マリーエレーヌはこう締めくくった。
庭側、ダイニングの手前はマリーエレーヌの息子、エドモンの部屋。大きなソファベッドは彼女がもともと持っていた、デヴィッド・ヒックスのデザイン。壁には彼の友人の若手アーティスト、エマ・ソーシックによる絵を飾って

庭側、ダイニングの手前はマリーエレーヌの息子、エドモンの部屋。大きなソファベッドは彼女がもともと持っていた、デヴィッド・ヒックスのデザイン。壁には彼の友人の若手アーティスト、エマ・ソーシックによる絵を飾って

Marie-Hélène de Taillac(マリーエレーヌ・ドゥ・タイヤック)

Marie-Hélène de Taillac(マリーエレーヌ・ドゥ・タイヤック)

マリーエレーヌ ドゥ タイヤック デザイナー。父の仕事の関係で幼少期を中東とパリで過ごす。17歳でロンドンに渡りモード界でさまざまな経験を積む。その後旅先のインド・ジャイプールでジェムストーンに魅了され、移住。’96年に自身の名を冠したジュエリーのブランドをスタート。
Marie-Hélène de Taillac
Marie-Hélène de Taillac

Marie-Hélène de Taillac(マリーエレーヌ ドゥ タイヤック)
8, rue de Tournon 75006 Paris
11時〜19時
休日、月
tel 01 44 27 07 07. M Odéon
https://mariehelenedetaillac.com

2004年にパリにオープンした「マリーエレーヌ ドゥ タイヤック」の旗艦店は、ポップなディスプレーを配したショーウインドウで、すぐにそれとわかる。ウインドウ越しに見えるのは、トレードマークの薄いブルーの壁に赤のロゴ、同じく赤のソファーと、天井から吊るされたシルバーのボールランプ。イギリスのプロダクトデザイナー、トム・ディクソンによる内装だ。ここに揃うのは、ピュアなデザインによりジェムストーンの本来の色と輝きを昇華させたジュエリーの一連。“石を自由にする”という彼女のコンセプトは、すべてのピースに生きている。

Julie de Libran(ジュリー・ドゥ・リブラン)

“インダストリアル・シック”を楽しむ家

元出版社の倉庫というインダストリアルな構造を生かした家は、まるでニューヨークのロフト。ファッションデザイナーとしてのキャリアと、母から受け継いだインテリアのセンスを生かして構想した家の各所には、数々のヴィンテージと家宝、そして現代アートが共存する。

“インダストリアル・シック”を楽しむ家

リビングルームの主役は、ジュリーのアイデアにもとづいて友人の家具デザイナー、シャルル・ザナが彼女のためにデザインした、その名も「ジュリー」ソファ。窓に向けて座るのは夏、暖炉に向けては冬仕様。モスグリーンのベルベットは、彼女自身がピエール・フレイで選んだ

グリーンは、快適な暮らしに欠かせない。庭の景色も、インテリアの一部に

グリーンは、快適な暮らしに欠かせない。庭の景色も、インテリアの一部に

リビングルームにて、テラスに通じる窓の前でのジュリー。ジャケットとスカートは自身のコレクションより。右手のリビングとオフィスコーナーの仕切りにもなっている棚は、のみの市で見つけたデンマークのヴィンテージ。

中庭の手前、玄関を兼ねた通路に設けた洗面台。天井のランプはニューヨークの、元映画セットデザインをしていたデザイナー・デュオ、ローマン&ウィリアムスの作。

中庭の手前、玄関を兼ねた通路に設けた洗面台。天井のランプはニューヨークの、元映画セットデザインをしていたデザイナー・デュオ、ローマン&ウィリアムスの作。

洗面台の手前、壁にグリーンのタイルを張りめぐらした通路には、植物やガーデニング・ツールを陳列。

洗面台の手前、壁にグリーンのタイルを張りめぐらした通路には、植物やガーデニング・ツールを陳列。

食器には人一倍こだわる。

食器には人一倍こだわる。左上のティーポットと食器は、ドゥ・リブラン家のお宝。右手2点のシルバーウエアは、ポメラートのヴィンテージ。同ブランドでは今はテーブルウエアは出していないが、ミラノに住んでいたころはよくヴィンテージ・ハントをしていたのでイタリアのレアなアイテムもいくつか持っているそう。テーブルリネンは刺繡入りを特注している

グリーンのタイルとレンガの壁、木の家具がインダストリアルな構造にマッチ

グリーンのタイルとレンガの壁、木の家具がインダストリアルな構造にマッチ

庭に面したキッチン。奥の壁のレンガは工事中に発見し、修復した。木のテーブルはのみの市、椅子はジャン・プルーヴェ。マイケル・アナスタシアデスによるアーチ型のランプが躍動感を添える

米西海岸の光からアルプスの山小屋まで、着想源は幅広く

「この家以前のインテリアは、常にクラシック。インダストリアルな構造を選び、コンテンポラリーなタッチを加えたのは、初めての冒険だったの。今ではとても気に入っているわ。まわりには緑が多いし」。ジュリー・ドゥ・リブランはこう語りだした。

3フロアにわたる家は、自身のブランドのショーやプレゼンテーションを催す際にはバックステージにもなる多目的スペースの地下、広大なリビングとキッチンが占める地上階、そして寝室とウォークインクロゼット、バスルーム、息子の部屋がある上階から成る。典型的なパリのアパルトマンとはかなり違った様相だ。夫の祖父がディレクターを務めていた大手出版社「ラルース」の元倉庫を買い取って、1年半におよぶ改装工事を終えてここに一家が落ち着いたのは、6年前のことだった。「天井にあった梁をとってもらって天井を高くすると同時に、メタルの構造をむき出しに。既存の壁を削ったら出てきたレンガの壁は、修復して」、とジュリー。技術面では当然建築家を雇ったものの、全体の構想は彼女と夫でアイデアを持ち寄った。デコレーターの叔父と母をもつ彼女には、天性のインテリアのセンスがあったのだろう。

またカリフォルニア育ちだからか、光を求めて自然光を最大限に取り入れるため、外に面した壁は一面窓に。暖炉はよく遊びにいっていた曽祖父のアルプスの山小屋が着想源。自身の思い出が新しい家のつくりに反映された。

グリーンは、快適な暮らしに欠かせない。庭の景色も、インテリアの一部に

2匹の愛犬が寝そべるのは、家に通じる緑にあふれた中庭。まるでスカルプチャーのようなコロンとした形の石の椅子は、パリ2区のギャラリー・デプレ・ブレエレで。正面奥がリビング、左手がキッチン、蔦が生い茂る壁の上階が寝室

ベッドルームは、壁をセージグリーンでペイント。

ベッドルームは、壁をセージグリーンでペイント。緑が生い茂る外観とリンクさせ、無機質な白壁よりもぬくもりを大切にした。ベッド頭上のサークル状の作品は、羽根を使うことで知られるアーティスト、ケイト・マグワイアによる。右手の壁にはアートフェアで見つけたディスプレイ・ボード。コッパー色のメタルが光を反射して、部屋をさらに明るく見せてくれる。

バスルームと寝室のブラインド状の仕切りは、のみの市で見つけた床板を使って特注した

バスルームと寝室のブラインド状の仕切りは、のみの市で見つけた床板を使って特注した

ブラインド式の、バスルームとの仕切り板を回転させ、オープンにしたところ。バスタブは表面をシルバーでペイント。

ブラインド式の、バスルームとの仕切り板を回転させ、オープンにしたところ。バスタブは表面をシルバーでペイント。

寝室の棚

寝室の棚には、写真や本、アンティークのオブジェなどを、思うがままにディスプレイ。上段右の写真は、シルヴィー・ランクルノーが撮影した子供のころのジュリー。のちに有名になったカメラマンだが、母の友人だったことからよく家族を撮ってくれていたとか

リビングの一角にあるオフィスコーナー。

リビングの一角にあるオフィスコーナー。ここでもオリジナルのレンガやメタルの構造が顕わに。机と椅子はともにオークションで手に入れた、ピエール・ジャンヌレの作品。鏡は家族から受け継いだ。トルソーには、彼女のコレクションから定番チュニックが

サステイナブルな視点からも、家具はヴィンテージ優先で

ヘリテージとモダンさの両方を大切にするジュリーの住まいでは、新旧のアートや家具が混在する。有名・無名にかかわらず好きなアート作品が見つかると追求し、アーティストと友人になることも多いとか。羽根を使ったオブジェで知られるケイト・マグワイアがその例だ。リビングにはウーゴ・ロンディノーネのスカルプチャーやウィリー・リッツォのランプなど市場価値の高いピースもあれば、マルセル・デュシャン賞をとったばかりの若手のデザイナーの椅子も。またクリエイティブな家系なだけに、彼女は親戚にもアーティストを数える。南仏にアトリエを構えるいとこ、オーレリアン・レノーによる動物を主題としたデッサンやオブジェもここでは数多く飾られている。

室内に飾る写真ではモノクロを好み、リビングの壁を覆うモジュラー式の棚には、主にフランスの女優のポートレートを。一方でモダニズム建築が好きだから、ル・コルビュジエによるインドのチャンディガールの建築の写真は宝物だ。

またヴィンテージ家具を取り入れるのはデザインの嗜好はもちろん、サステイナビリティへの意識から。自身のブランドも、オーダーメイドのシャツで知られる「シャルベ」やイタリアの生地メーカーから、コットンやカシミヤの残り生地を買い取っての少数生産を基本としているとか。

「新しいものを買うよりも、古くていいものに価値を見出せば、環境保護につながると思うの」。こう語るジュリーの一見折衷主義に見えるインテリアには、実は明確なコンセプトがあった。

 Julie de Libran(ジュリー・ドゥ・リブラン)

Julie de Libran(ジュリー・ドゥ・リブラン)

デザイナー。南仏生まれでカリフォルニア育ち。ミラノでファッションを学び、プラダ、ルイ・ヴィトンのデザインチームで経験を積む。’14年より5年間、ソニア・リキエルのアーティスティック・ディレクターに。’19年に自身の名を冠したブランドをスタート。
Julie de Libran
Julie de Libran

Julie De Libran(ジュリー・ドゥ・リブラン)
3, rue de Lyunes 75006 Paris
11時〜19時
休日 月、土はアポイントメント制
byappointment@juliedelibran.com
tel 06 79 76 26 07 M Saint Germain Des Prés
https://www.juliedelibran.com

サンジェルマンデプレにあり、地下にはアトリエも備えた「ジュリー・ドゥ・リブラン」の小さなブティックは、隠れ家的な雰囲気。オーダーメイドのシャツで知られる老舗、シャルヴェのコットンやイタリアの生地メーカーのカシミアなど、余剰生地で仕立てたシャツドレスやチュニックをはじめとするプレタポルテは、シリアル番号入りのリミテッドエディション。ベーシックなブレザーやプリントシルクやシークインのドレスも定番だ。友人のクロゼットをのぞいたかのような店内では、アンティークの家具にジュエリーやヘアアクセサリーも並ぶ。

Ahlem Manai-Platt(アーレム・マナイ=プラット)

素朴さとぬくもりを感じるモノトーンのミニマル・インテリア

壁のペンキのニュアンスから引き出しのノブの素材まで、細部にこだわるアーレムのアパルトマンは、オープンスペースと大きな窓、そしてナチュラルトーンが特徴だ。またおもしろい逸話をもつ写真やオブジェの数々は、クリーンなデザインにぬくもりを添える。

素朴さとぬくもりを感じるモノトーンのミニマル・インテリア

キッチンで花を生けるアーレム。キッチンの素材は大理石と木に絞り、生活感のある物をほとんど見せないつくり

癒しのカラー、灰緑色のソファがリビングルームの主役

癒しのカラー、灰緑色のソファがリビングルームの主役

グレートーンでまとめたリビングルーム。大型ソファは、ピエール=オーギュスタン・ローズ。“癒される色”を求め、グレーとグリーンの中間色を選んだ。暖炉の上の写真は日本の作家を多く扱うパリのギャラリー、カメラ・オプスキュアで見つけた山本昌男の作品

リノベーションで、キッチンからリビングまでを、広々としたオープンスペースに

リノベーションで、キッチンからリビングまでを、広々としたオープンスペースに

完璧なアシンメトリーのダイニング・コーナー。暖炉の上右手に置いたのは、ティム・オールによる2つの体が抱き合う形の彫刻。結婚記念日に夫に贈ったもの。椅子はデンマークのヘイ、テーブルはスウェーデンのムードで

リビングでは、目線を極力下に保つようアレンジした。

リビングでは、目線を極力下に保つようアレンジした。だから背が高いのは壁側に配した観葉植物とランプのみ。ソファから肘かけ椅子とスツール、コーヒーテーブル、天井と暖炉の上の照明器具やつぼ、そして観葉植物を収めた鉢まで、丸い形が至るところにリピートされて小気味よいリズム感を演出している

ダイニングテーブルでは、息子エリオと夫ボー用のゲームもディスプレイの役割を果たす。

ダイニングテーブルでは、息子エリオと夫ボー用のゲームもディスプレイの役割を果たす。ウィーンで数代続くプロダクトデザイナー、カール・オーボックによるチェスは、レザーのボードにスチールの駒。バルコニーで摘んだフレッシュ・ハーブティーを添えて。

朝食や軽食は、このキッチンの一角が定位置。

朝食や軽食は、このキッチンの一角が定位置。もっと小さかったのを改装で大きくした窓からはエッフェル塔が見えるので、カーテンはつけずに。

花は豪華でカラフルなものより、野花が好み。

花は豪華でカラフルなものより、野花が好み。花瓶もスウェーデンで。アクネ ストゥディオズの仕事で頻繁にストックホルムに行っていたからか、北欧のミニマルなコンテンポラリー・デザインにも目がない。

ルールのひとつは、家具類を極力低い位置でまとめること

ゆったりとした空気が流れる、アーレム・マナイ=プラットのアパルトマン。7歳の息子がいるとは思えないほどミニマルで整然とした165㎡は、長いバルコニーつきだ。キッチンからダイニング、リビングまでがひと続きのオープンスペースは、大改装の賜物。

「まだロサンゼルスに住んでいた3年前、一家でパリに移ろうとなって。コロナ禍にハウスハンターを雇って見つかった物件は、構造と彩光が気に入って、実際には見ないで決めたのよ」。彼女は感慨深げにこう回想する。写真に見る“物件”のもとの姿はいくつかの部屋に古びた家具がひしめき、今のインテリアとは似ても似つかない。彼女自身は元マーチャンダイザー、アメリカ人の夫は広告フィルムの監督という職業柄か、彼らには完成図を予測しつつ、自身のこだわりでいろいろな要素をまとめていく才能があったのだ。

「テイストは、もって生まれるもの。私が4、5歳で母親にせがんだのは、カメラと腕時計、そしてメガネだった」。こんな逸話は、マスキュリンでクオリティ重視の彼女のセンスを象徴する。シンプルながらインパクトのあるフレームで、クラフツマンシップを大切にする「アーレム」アイウエアのデザインにも共通するものがあるだろう。一方、夫とシェアする好みのひとつは、視線の位置だ。

「重心重視、つまり目に入るものは低い位置にあったほうが落ち着く、という考え方。長い間私の概念をうまく表現できなかったけれど、最近やっとこの言葉に落ち着いたの」と、アーレム。

過剰な装飾を排除した、クリーンでマスキュリンな空間

過剰な装飾を排除した、クリーンでマスキュリンな空間

リビングの奥にあるオフィスの棚は、ロサンゼルス・ヴェニスビーチの「アーレム」1号店にもともとあって買い取った、北欧のヴィンテージ。おみやげから小さなつぼのコレクションまで、パーソナルなオブジェを雑多に置いても統一感が。もともと外商のためだったレザーのトランクはフランスの老舗「ギシャール」で特注し、今ではアイウエアのサンプル収納に使用。

書斎の一角の暖炉まわりは、愛にあふれたディスプレイコーナー。

書斎の一角の暖炉まわりは、愛にあふれたディスプレイコーナー。ギターは夫への、吹きガラスの花瓶は夫からのプレゼント

オフィスにもくつろげる一角を、とヴィンテージのイームズ・ラウンジチェアを。

オフィスにもくつろげる一角を、とヴィンテージのイームズ・ラウンジチェアを。壁の絵はイギリスのアーティスト、リチャード・グナンによる油彩画

ともに細長いコンソール・テーブルとベンチのバランス感が見事な玄関。

ともに細長いコンソール・テーブルとベンチのバランス感が見事な玄関。ウォールランプはニューヨークの照明専門店、アパラタスで。手の形のオブジェは20年ほど前にポンピドゥーセンター前広場の露店で買った若いアーティストの作品だが、最近日本で立ち寄ったブティックで同じものを見てびっくり。名前をリサーチ中だとか。

改装したばかりのバスルーム。

改装したばかりのバスルーム。床材に選んだのは、日本製の細かいモザイクタイル。壁にはタデラックと呼ばれるアラブ式スチームバス専用の塗料を使い、ニュアンスを出した。組み込み型の棚には、野口寛斉作の陶器を。

仕事は、デッサンと色選びから始まる

仕事は、デッサンと色選びから始まる。写真は「アーレム」のアイウエアと、常に参考にしている日本の配色辞典。

ベッドルーム。

ベッドルーム。日本好きの彼女は“畳に布団”に倣って目線を下に保つため、高さ50cmに満たない低いベッドを選んだ。目を休めるため、部屋全体も極力ムダを削ぎ落としてシンプルに

直線と曲線のバランス感、ブラン・ショーと呼ばれる微妙にイレギュラーでニュアンスのある白壁のペイント、前述した視線の位置、とアーレムの住まいは隅々までこだわった、完璧な空間だ。色調は白と黒、グレーのモノトーンに、木のライトブラウン。とはいえストイックな印象は与えずむしろ温かみがにじみ出るのは、陶器の素朴さや植物によるアクセントのおかげだろう。

また、木枠の額に収めたモノクロの写真の数々も、雰囲気づくりに一役買っている。小さなころから写真を撮るのが好きで、通信社マグナムのカメラマンたちへの憧れから写真を学んだ彼女。数年間はフォトリポーターを務めただけあって、好みは日常の瞬間をとらえた静けさと力強さが共存する写真だ。例えば玄関のテーブルに置いた、マリアンヌ・クロティス撮影の一点。「ロサンゼルスのローカル・カメラマンである彼女は今では90歳になるけれど、毎朝ヴェニスビーチの風景をカメラに収めていたの。ある日話す機会があり、マットな和紙に印刷するようアドバイスしたところ、写真に深みが出た、とお礼にくれたのがこの写真」と、彼女は逸話を披露してくれた。

この例に並び、室内を飾るアートには、出会いを語るものも多い。ダイニングの暖炉を飾るガラスとコンクリートのオブジェはアートフェアで見つけ、その場で出会った作家ハリー・モーガンとは、のちには友人になったとか。また、家の至るところには夫婦間のお互いへの贈り物が並ぶ。アーレムの住まいでは、人との触れ合いを意味するものたちが、ぬくもりを添えるのだ。

Ahlem Manai-Platt(アーレム・マナイ=プラット)

Ahlem Manai-Platt(アーレム・マナイ=プラット)

アイウエアデザイナー。写真を学び、新聞のカメラマンを務める。その後ファッションに転向し、アクネ ストゥディオズ、ミュウミュウでマーチャンダイザーを。結婚を機にロサンゼルスに移り住み、’14年にアイウエアのブランド「アーレム」をスタート。現在はパリ在住。
Ahlem
Ahlem

Ahlem(アーレム)
9, rue du Dragon 75006 Paris 11時〜19時
tel 01 58 90 11 12 M Saint Germain Des Prés
https://www.ahlemeyewear.com

アーレム・マナイ・プラットによるアイウエアのブランド「アーレム」は、バウハウスのデザインに言及されるピュアかつグラフィカルなフォルムが特徴。昨年夏に、ロサンゼルス、サンフランシスコ、ニューヨークに続く、ヨーロッパでははじめての旗艦店がパリにオープンした。北欧スタイルを好む彼女らしく、起用した内装チームはストックホルムのSpecific Generic。ガラス、コンクリート、くるみの木、プラスター、メタルから成る小さなブティックは、1927年のイサム・ノグチのデッサンParis Abstractionが着想源。

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