“自然体”の演技派俳優チェ・ウシクの吸引力がスゴイ!【見ればキレイになる⁉韓流ドラマナビvol.41】
エクラの美容記事でもおなじみのライター・山崎敦子がお届けする韓流ドラマナビ。今回は、「パラサイト 半地下の家族」でソン・ガンホの息子役を演じ、今や人気の演技派俳優チェ・ウシクをフューチャー。唯一無二の、その不思議な魅力に、出演作を通して迫ります!
衝撃のラストまで一気見必至のサスペンス「殺人者のパラドックス」
木製の角材とふにゃふにゃのゴムの棒。どっちが強い?と聞かれたら、なんとなく木製の角材と答えてしまいそうじゃありません? 確かに叩かれたら角材の方が痛そうにも思えますが、ゴムの弾力を目一杯使えば一見柔らかそうに見えるゴム棒だって角材に負けないダメージを与えられるかもしれないし、首を絞めれば人だって殺せちゃうかもしれないし、ポキッと簡単に折れてしまう角材と違って、折っても引っ張ってもそうそう壊れそうにないし……。
あの「パラサイト」で一躍有名に。放っておけない不思議な吸引力!
ということで、チェ・ウシクです。目から鼻に抜けるようなイケメン、というよりはどこにでもいそうなお顔立ち(個人的見解です)。ではありますが、あの一重まぶたに収められたつぶらな瞳のせいなのか、ぷっくりおちょぼ口のせいなのか、ありきたりのイケメンよりもむしろ放っておけない気がしてならない不思議な吸引力。
かのアカデミー作品賞を受賞した「パラサイト 半地下の家族」でソン・ガンホの息子役を演じて以来、すっかりワールドワイドな人気俳優となったウシクですが、一見すると気弱な小動物としか思えない、ふんにゃりゴム棒のようなやわな感じがあるのに、その内には本人も知らない得体の知れない魔物が棲んでいて、何かあるとバンといつもの平凡な顔が破裂してその正体を顕にするんじゃないか……的な、途轍もない危うさがあるとでもいいましょうか。
ポン・ジュノ監督によれば、「パラサイト〜」のあのお役は、ウシクの当て書きだったそうで、そういえば、映画の冒頭で能天気な金持ちボンボンのパク・ソジュンが、こいつなら絶対に安全そうと、自分が下心持ってる女子高校生の家庭教師の代わりをウシクに頼んで渡米するシーンがあったけど、バカだなあソジュン、実は誰よりも危険なのがウシクなのになあ……と、きっと誰もが思ったのではないでしょうか。案の定、女子高校生はウシクにまんまと……。恐るべしウシク。悪いこと出来なさそうな普通の体をして何やるかわかんないぞ的な。しかも、そんな時でさえ漂うそこはかとない可哀想オーラ。
いい人役も悪い人役も、“いつも自然体”というチェ・ウシクの凄み
家族と共に移住していたカナダで演出の勉強をしていたところ、友人から韓国では一重まぶたのスターが多いと勧められてオーディションを受けに渡韓したのがデビューのきっかけ。その後、鳴かず飛ばず同じような役ばかりやっていたようですが、’14年の映画「巨人」で頭角を表し(本人的にはこの映画で上手くいかなければ俳優を引退するつもりだったらしい。by 韓国のトークショー番組「ユ・クイズ ON THE BLOCK」)、ポン・ジュノに見出されるなどして、一躍トップスター俳優となった今に至るという感じ。
私的には’21年の「その年、私たちは」(「梨泰院クラス」出演の女優キム・ダミとの共演作)で、イラストレーターとして成功しているのにも関わらず、いたいけ感ヒシヒシ伝わるウシクに癒されまくっておりましたが、で、その後遅ればせながら‘18年の話題の映画「The Witch 魔女」を視聴。同じキム・ダミとの共演作なのに、180度を5回転ぐらいしたような冷徹殺人マシーンというキャラクターで、このあまりの違いにむしろ爽快感さえ覚えるほど。しかも、全く違うキャラなのに、どこか無条件に惹かれてしまう同じムードが流れてくるんですよね、彼。そして、凄いのは、いい人やってても悪い人やってても、どちらも生まれた時からそのキャラです的になじんじゃうといいましょうか。なんか、いつも自然体。
そして、今回フューチャーするドラマ「殺人者のパラドックス」です。そんなウシクの特性を余すことなく映し出しているとでも申しましょうか。名作「私の解放日誌」で日本中のアジュマの心を鷲掴みにしたソン・ソックとの共演ということで私も含めて配信前から大騒ぎしていた韓ドラファンも多かったのですが、今回ばかりはウシクに軍配上がったりか、なあんて思っているわけです。もちろん、あくまでも私の個人的見解。
ウシクが演じるのは、どこにでもいそうな平凡な大学生イ・タン。韓国のいわゆる普通の三流大学に通い、これといって夢もなく、勉強する意欲もなく、奮起してジムの入会金払っても、懸垂器具を買ってもどちらも3日坊主。暇があれば惰性でゲームして、コンビニバイトでお小遣い稼ぎして、流されるままに生きている……そんな男子。何十年も前に学生を終わらせている私ではありますが、なんか身につまされるようなリアル感。でもって、家庭もごく普通というか、留学させるほどのお金はないけれど「ワーキングホリデーぐらいは行ってもいいよ、パパの定年後は年金でつつましく暮らせばいいから」ぐらいの経済レベルなんですね。ほら、なんとなく身につまされちゃうんです、この設定。
で、ウシク扮するタンは「僕の人生にはスペクタクルな要素が足りない気がする」なんて能天気に言っていたりするわけです。安心してください。間もなくスペクタクルな要素満々になりますから。
観る者を大いに揺さぶる。偶然だった殺人は、ひょっとすると必然だったのか?
ということで、ある日の夜、タンはコンビニバイトの帰り道、偶発的にも人を殺してしまうんですね。もちろん、本人の意図するところは全くなく。タンとしては思いもよらないスペクタクルな出来事だったわけではありますが、スペクタクルは望んでいたけれど、こんなスペクタクルじゃないよとばかり、普通にその恐怖に怯えるわけです。被害者の幻影やら、殺人者として塀の中で生きなければいけないこれからの自分の人生やらに。ところが、なぜか捕まらない。そうこうしているうちに、行きがかり上、殺人を繰り返してしまうハメになるタン。なのに、やっぱり捕まらない。彼がやったという証拠が偶然にもことごとく消え去ってしまっているというか。しかも、後になってわかるのは、彼が殺した人たちが全て、連続殺人犯だったり、婦女暴行の常連だったり、殺しても飽き足らないほどの極悪犯罪者だったということ。え〜。ということは、偶然だった殺人は、ひょっとすると必然だったのか? 彼は、悪を悪で制する救世主なのか?
広辞苑によれば、パラドックスとは「逆説=外見上、同時に真でありかつ偽である命題」のことなのだそう。つまり、殺人者は悪であるという定説と、それが同時に正義にもなりうるという逆説と。タンの存在は、彼の周囲に登場する全ての人物を、そして、視聴者までも大いに揺さぶってくるわけです。
でもって、何一つ証拠が残らないタンですが、唯一、最初からタンに目をつけている刑事がいるのですね。それこそがソン・ソック演じるチャン・ナンガム。いつも真実を追い続ける執念の男かつ、ヤケに勘が鋭い彼は、風船ガムを膨らましつつ、タンを執拗に追いかける。その一方で、彼には植物人間になってしまった元刑事の父がいるのですが、父をそうしてしまった犯人は未だに捕まっておらず、密かに憎悪にも似た思いでその犯罪者をも追っているのです。
ドラマは、そんなナンガムとタンを中心に、タンを世直しの救世主と信じるオタクなハッカー、断罪という殺戮に取り憑かれている元刑事が主要キャラとして登場。平凡だったタンは悪を悪で制するダークヒーローになるのか。ナンガムはタンを、父を植物人間にした犯人を、捕まえられるのか。登場人物たちの交錯するそれぞれの正義と悪のパラドックス。一つだけ言えるのは、単純な悪を悪で制するダークヒーローの痛快が描かれているのではないということ。スピーディな展開、洒落たシーン転換、計算し尽くされた美術やスタイリング、ヘアメイクなど、完璧とも思える演出センスも相まって、その衝撃のラストまで、一気に魅せられます。ふにゃふにゃのゴム棒は、結局弱いのか強いのか。いや、強い、弱いとはそもそもどういうことなのか。それもあわせて見届けてくださいませ。
■Netflixシリーズ「殺人者のパラドックス」独占配信中
こちらも見逃せない! チェ・ウシクの魅力を堪能できる傑作選!
ドラマ「その年、私たちは」
学年1位女子と学年ビリ男子がいつも一緒に行動したらどうなる?というドキュメンタリー番組に出演した高校同級生の女子と男子。当然、二人は考えることも行動も正反対。番組映像では笑っちゃうほど反発し合う二人が映し出されるわけですが、なぜかそのまま付き合うことになっちゃうという。なのに、それから5年後、女子から突然の別れ宣言。で、そのまた5年後、2度と会いたくないと思っていた二人が仕事で再会、しかも再び二人のドキュメンタリー番組が作られることになり……という展開の青春ラブストーリーです。
ちょっぴりやんちゃな天使のウシクを味わうならこちら。とにかくいたいけ。とにかく可愛い。とにかく、観ているだけできゅーんと心が癒される。
ウシクが演じるのはもちろん、学年ビリ男子。別に目指していたわけじゃないけれど、好きな建物と木を描いていたら、いつの間にかイラストレーターとして成功してしまったという野心や欲とは無縁の優しく明るい男子なのだけど、心の内ではいつもどこかに不安を抱えていて、夜は睡眠薬がないと眠れない。一方、学年1位だった女子を演じるのは、ご存じ「梨泰院クラス」のキム・ダミ。あんなに成績優秀だったのに今では大企業でも有名会社でもない普通の小さな個人会社の会社員。企画チーム長としてクールにバリバリ仕事をこなしてはいるものの、こちらも心のなかには何やら人に言えない憂鬱を抱えている様子。
物語は、再燃しそうでなかなか燃え上がらない二人のラブをコミカルに描きながらも、それぞれが抱える内に秘めた心の痛みに少しずつ少しずつ繊細にフォーカスしていき、そこが通常のラブコメと違ってより大人が魅せられるポイントといいましょうか。二人はなぜ別れることになったのか。いや、それ以前に、なぜ二人は学年トップとビリでありながら、惹かれあったのか。そして、再会した二人は今、何を思うのか。高校時代のドキュメンタリー映像の弾けるようなみずみずしさと、心の内をさらけ出せない大人のもどかしさと優しさと。いたいけなウシクから目が離せないアジュンマとしては、彼の温かな幸せを願うばかりです。お願いしますよ、キム・ダミさま。
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映画「The Witch 魔女」
こちらもキム・ダミとの共演作。「その年、〜」とは一転、悪魔なウシクにゾクゾクしたい人はぜひ、チェックを。といっても主役はあくまでもキム・ダミで、彼女がまだ事務所にも所属していなかった大学生時代に受けた1500倍ものオーディションを勝ち抜いて手にした初の主演作。韓国ノワールの騎手、パク・フンジョン監督(映画「新しき世界」)が手がけたこともあり、韓国では300万人を優に超える観客数を動員したヒット作となり、日本でもかなり注目されていた作品です。
ダミが演じるのは高校生のジャユン。ある特殊な研究施設で育てられたのですが、8歳の時に施設を脱走。その時に記憶をなくしたまま、酪農家の夫婦に引き取られたという経緯が。平凡な幸せに包まれながら暮らしてきたジャユンですが、娘のように育ててくれた養母が認知症に。その治療費などを稼ぐため、ジャユンはスター発掘のオーディション番組に出演し、特技として手品を披露するのだけれど、それをきっかけに謎の輩に追われるようになるのですね。で、その追う一人として登場するのがウシク。実は、彼もまた、ジャユンが脱走した施設で育った青年。当然、その施設にはとんでもない秘密があるわけでして。
ということで、パク・フンジョン監督の演出だけに、そのバイオレンスすぎるサイキックなアクションが圧巻。一見、普通の女子という体で登場していたダミといい、途中から出場のウシクといい、いやあ強いのなんのって。何度も死んだ?と思えるほどの凄まじい攻撃と、あなたたち不死身か?と思える驚くべきタフさ。私なんぞ、その戦っている二人になんか言い知れない色香すら感じてしまったほどなのですが(ちなみに二人のラブものではありません)。「その年〜」のほんわかな二人もいいけれど、死闘を展開する血みどろの二人もナップジアナ(悪くない)なんてね。2つの作品の180度違う二人のキャラを見比べながら楽しむというのもナップジアナですよ、イヤ、ホント。
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山崎敦子
旅行記事に人物インタビュー、ドラマ紹介、実用記事から、着物ライターとさまざまな分野を渡り歩き、今では美容の記事を書くことも多くなったさすらいのライター。襲いかかるエイジングと闘いながら、ウキウキすること、楽しいことを追い求め続ける日々を送る。
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