【人生の先輩が語る。私の50代と、これからの50代へ】中尾ミエさんインタビュー!完成を目指さず常に目標を

迷い、とまどい、体や気分の不調……揺れる年代をどう乗り越えたらいい? 大人の人生を自分らしく謳歌する先輩たちが、今、振り返って思うこととは。今回は歌手・俳優の中尾ミエさんにインタビュー。

山は下りなきゃ登れない。次はもっと高く、と自分を信じて

歌手、俳優・中尾ミエさん
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ダンスや水泳で体を鍛え、70代でアクロバットに初挑戦!

「50代……まあ、いろいろあるわよね。でも、私の子供くらいの年代じゃない? まだまだ若いわよ」

最近はあまりかけられなくなったこの言葉に心がゆるんでしまうのは、甘えだろうか? しかし、中尾ミエさんは、そんな思いを受け止めるように、おおらかに微笑む。輪郭に柔らかくなじんだグレイヘア。カラーリングをやめたのは、50代のときだった。

「似合うからとかじゃなくて、もうこの状態が自然だから。染めた黒髪って、やっぱり肌の色に対して強すぎるのよ。それに、どこか自分を隠してるっていう意識もあったと思うのね。いつも今ひとつ胸を張れない、というか」

自分は自分、いつでも堂々と──それが、歌手、俳優として60年の芸歴を重ねてきた中尾ミエさんの矜持。78歳の現在までの道のりは、常に新しい挑戦によって開かれてきた。近年、多くの人に衝撃を与えたのが、’19年、’22年に上演されたブロードウェイミュージカル『ピピン』への出演。サーカスの要素を取り入れたこの作品で、73歳にして空中ブランコで宙吊りになりながら歌唱するアクロバティックな演技を披露したのだ。

「公演後の楽屋に、みんな、感動して泣きながら来るのよ。稽古前、懸垂が10回できる体になっておいてといわれたときは『えぇーっ!』と思いましたけど、ダンスは30代くらいから始めていたし、50代からは本格的に水泳を始めてマスターズの大会に出場させてもらったりもした。基礎体力ができていたおかげで、1カ月以上の長い公演をやっても疲れませんでした。だから、体を動かすことだけはやっておいたほうがいいわね。50代はもうギリギリだけど、今始めれば、私のように70歳になっても大丈夫。この調子なら80代もいけるかな?と思ってます」

体の鍛錬だけでなく、50代以降はいくつかの習い事も新たに始めた。その中で現在、中尾さんの日々に張りをもたらしているのが、俳句。

「体が動かなくなったときにできる趣味ももっておきたいと思って始めたんだけど、例えば植物にしても、空模様にしても、自分がいかに身のまわりのことに注意を払っていなかったかということに気づかされましたね。今まで使ってなかった細胞が眠りから覚めたのかも?という感覚ですよ」

思いついたことはなんでもやってみる。「誰でもそうだと思うけど、50代からはちょっと暇になるしね」と中尾さん。確かに、私たちが今いるのは、人生の踊り場なのかもしれない。家庭も仕事も人間関係も、ひと通りの山谷を登って下りてたどりついた現時点。でも、そこからが肝心だと、言葉を続ける。

「誰にだってスランプはあるもの。そんなときこそ勉強や鍛錬をして知恵や体力を蓄えておけば、いつかついた力を試したくなりますよ」

歌手、俳優・中尾ミエさん

「完成してやることがなくなったら、それこそ人生、不幸じゃない? だから、常に目標をつくるんです。それが達成できたら、またその次を」

思いついたことは今すぐ。そして、失敗を恐れずに

「人間、上り調子のいいときばかりなんてありえないし、誰にだってスランプがある。それが人生でしょ? いったんは下りなきゃ、次の山には登れない。その、下りてくるときに自信をなくしたりするんだけど、そのときこそ勉強したり鍛錬したりして、知恵や体力を蓄えればいい。そうすれば、自分にどんな力がついたか試してみたくなるじゃない? 実感できれば次はきっと、前より高い山に登れますよ」

では、どこを目標にするべきか? それを見据えるのに、中尾さんがくれたアドバイスは3つ。ひとつは……。

「とにかく早く始めること! 50代だと、まだまだ余裕があるから『そのうちね』なんて思ってるでしょうけど、私たちくらいになると、もう一年一年が本当に貴重なんですから。老婆心でいいますけど、これと思ったことは早く始めたほうがいいです。『いつか』ってときはこないんだから」

2つ目は、「失敗を恐れないこと」。中途半端につけた大人のプライドは、逆に、仇(あだ)になるのだとか

「知らないこと、初めてのことに挑戦するんだから、失敗しないわけがないでしょ? それに人間、失敗したり、恥をかいたりすることが、一番の勉強になるんですよ。体だって、鍛えれば当然、筋肉痛になる。でも、それを積み重ねて乗り越えることで、本物の筋力がつくんですから」

そして3つ目は、「何事も完成しないものだと悟ること」。それはおそらく、人生も……そういうと、「完成なんかしたら、つまんないじゃん!」と、大笑いと力強い声が返ってきた。

「だって、完成してもう何もやることないと思ったら、逆につらいよ? 生きてるかぎり、今までと違う可能性を求めていないと。よく、亡くなった人のことを『志半ばで残念だったでしょう』というけど、完成してもう何もないってほうが不幸だと思う。だから私、常に目標をつくってますよ。で、それを達成したら次を。常にそこに向かっていないと、私だって自信がなくなっちゃう。自分なんか必要ないのかなって」

完成しない人生を、力強く歩む、その姿が“私”そのもの。そしてもうひとつ、中尾さんが教えてくれたのは、孤独の中に心を閉じないことだった。「今の目標は、毎朝公園に集まって一緒に運動する近所の仲間たちを教育することね。私より年長の人もいるけど、身長が伸びたとか、筋肉がついて胸が大きくなったとか、体って、動かしていれば、いくつになっても進化するのよ! そんなかたたちが元気に私のコンサートに来てくれたりするんだから、現役でいる意義もまだまだあるのかなって……。継続は力なり。これからも、みんなで努力していきますよ」

歌手、俳優・中尾ミエさん

歌手、俳優・中尾ミエさん

なかお みえ●’46年、福岡県生まれ。’62年のデビュー曲『可愛いベイビー』が大ヒット。伊東ゆかり、園まりと結成したスパーク3人娘で歌手活動するほか、俳優として数々の作品に出演。近年はバラエティでも人気を博している。著書に『76歳。今日も良日 年をとるほど楽しくなる70代の心得帖』(アスコム)など。
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